ホノオノウミ

それが、運命だとしても。
私たちは。
それを享受しなくてはいけないのでしょうか??




運命とは・・・。




世界のすべての未来は、すでに決まっている。




グランの歴史の顛末はこうだ。

一人の男が生まれた。
そのものは、一人で世界を支配するのに十分な力をもっていた。
しかし、それを恐れたものが、彼を幽閉した。
生まれたばかりの赤子を、牢屋に。
しかし、その赤子は、死なない。
死ねないのだ。



「赤子を牢屋に??」



赤子といっても、
生まれたときから、すでに彼は完全体だったのだよ。
君から見ると、一種の怪物かと思うが・・・ね。
おかしいのは、その人々の気質かもしれない。
これが、最初ではないのだ。
過去も、同じようなことで、一つの世界を滅ぼしたことになる・・・。



「星から来たということは、そういうことだったんですね」



運命とは・・・一つの星に一つとは限らない。
滅びる運命とは別に、救う運命もあるのだ。
運命とは、細い路地のように・・・入り組んでいるものだと思うといいのかもしれない。

私たちが歴史を変えたのではない。
これは、運命だったのだ。




「運命を」

「変える」



それもまた・・・運命なのだろうか??


序章終わり



1


砂漠には、幻の都があるということは。
どの世界でも、伝説として残っているだろう。
砂漠のオアシスが幻覚であるかのように、都もまた幻かもしれない。
しかし、グラン大陸には、その幻の都が実在すると信じている。

空飛ぶ船。
アサシナ王国を跨いで走るその船は。
砂漠の向こうからきたのだという。
その砂漠は、炎の海、とよばれている。


毎日、夢をみていた。
知らない男。そして、自分自身。

・・・あれから、自分は、変わってしまったようだ。
前の、穏やかな自分。変化を求めなかった自分。
しかし、あれは、死んでしまった。
いまいるのは、黒い野望を持つ、正統な、最後の、ニクラの民の一人として。
この世界を本当の流れに持っていくために、「後継者」から選ばれ、「破滅記」によって導かれている自分。

怖くはなかった。恐れるものは無かった。逆に、心は静かであった。



2


グランの人々が炎の海と呼んでいるこの砂漠は・・・旧世界大戦の破壊によって作られた。
昔は、緑地が広がっていたのだろう。
ニクラの豊かな大地から・・・突如として現れるこの砂漠は、違和感を感じた。
天使の死骸があちこちに在った。
天を仰ぐように、天使の手とおぼしき部分は、空に向かっていた。

「運命を、ありのままに受けよ」

そう言っているように思えた。

運命とは、なんだろうか??
ニクラ人として生まれたのも・・・力を持つものとして目覚めたのも・・・。
今こうしている自分も・・・運命だというのだろうか。
では・・・クレアとのことも・・・運命??



『あなたは・・・どうしたいの??』

『何故、永遠の空間を享受しないの??』



「・・・俺は・・・」



『私たちは、永遠なの・・・死んでも決して消えることの無い・・・』



クレアを殺したのは、自分だった。
黒童子に襲われた自分を。

助けたのは・・・クレアだったのに??

本当にクレアが自分を救おうとしたのならば
あの時、庇って貰わなかったほうが・・・そのほうが、よかった・・・のに。

本当の自分に目覚めた今も。
まだ、ニクラの出来事は覚えていた。
前の自分は自分ではない。
それは過去のある男の人生として、心に深く残っていただけある。

今の自分は、力の結晶である。
前のケインは、体に本来あるべき魂であったが。
自分は、ニクラ人がそもそもあるといわれている力のもとである。
その力が、ケインを乗っ取ったといっていい。

しかし、不思議なのは・・・。
乗っ取った者もまた・・・体の一部であった・・・ということだ。



そんな事を考えて・・・



気がつくと・・・彼女がいた。



白い肌。
透き通った体。
髪は風に舞い・・・。
空を見上げている。



わかっていた。
これは幻である、と。
ニクラとしての力が作った・・・心のゆがみの結晶。



たぶん、この人と・・・一緒になっていただろう。
でも・・・それは・・・本当には・・・違くて・・・。



今、ここにいる自分こそ、本当の運命。



クレアと一緒になるという自分は、運命でなかった。
だから、今、自分はここにいる。



それとも・・・クレアという人を拒否した、それが運命に逆らったことなのか??



ニクラのときの日々は・・・遠い記憶の思い出だった。
いや、思い出とは違うかもしれない。
まるで、違う自分・・・前世のような。
もう、理解することができない・・・考えをもつ・・・赤の他人で・・・。



「・・・っ」

違う。


もう、何も迷うことはないし・・・不安に思うこともない。
これから、あの御方の手足となって動くだけのこと。
そして、それが終われば・・・開放される。
すべては新しい新時代のためにすぎない・・・。



・・・運命とは??



自分がこうなったのも、運命だったというのか??



3


炎が燃える。
大地が割れる。
人々は祈り、神の光臨を願う。


神は現れた。


・・・しかし、それは、グランの・・・神ではなかった。



これがグランの歴史の顛末だ。
君は、どうする??


「僕は・・・」


もうすでに、グランの星の運命は、決まっていた。
星の動きは破滅を予感し、
あと20年で滅びるだろう。



すでに、運命が決まっている星、グラン。



「僕の世界では、星の運命などありません。運命とは、自分で作るもの・・・変えていくものでしょう・・・??」


・・・。
ならば・・・。
君に、運命を、託そう。
だが、この星の運命を変えることは、可能だろうか??
グランの星は・・・運命を変えることのできない・・・そういう定めをもつ星。
・・・いや。
君ならできると信じてみよう。

・・・。


そう語りかける声を聞きながら。


彼は、一つの砂漠を見ていた。
砂漠は、燃えていた・・・。
砂が燃える。
炎の一つ一つが見える。


まるで、海みたいだ。


炎は、まるで人々の運命を表しているかのごとく。
あるものは勢いよく燃え、あるものは小さく。
消えるものもあれば、新たに誕生するものもある。


僕は・・・。
あの一つ一つの炎を。
救うことができるのだろうか。




fin

2005/07/10 up