文鳥問題. |
《換羽と産卵》
梅雨期は文鳥の換羽の季節、ところで換羽=カンウは良いとして、「トヤ」などと読むのだろう。前々から疑問だったので、この際『広辞苑』で調べたら、「とや『鳥屋』A(その間、鳥屋籠りするからという)鷹の羽毛が夏の末に抜けかわること。」とあった。
羽のはえかわる時期には、体力を消耗させないためか、鳥小屋である『鳥屋』(トヤ)に鷹狩に使う鷹を安静にしていたので、『鳥屋』(トヤ)が羽のはえかわりを指す言葉になったというわけだ。とすれば、おそらく、この鷹の換羽に用いていた「トヤ」が小鳥の換羽を指す言葉として当てはめられたものだろう。
※ 勝手な仮説ですので、真相をご存知の方はご教示ください。
以上は小話。梅雨には我が家の文鳥も換羽期間に入るものが多い。しかし、そのはえかわり方はそれぞれ違う。見るも哀れ、生まれもつかないハゲ状態になるもの、外見上あまり目立たずにはえかわっていくもの、ほとんどはえかわらないように見えるものまでいるし、同じ個体でも年によって違う。
そして問題はハゲハゲになることである。その抜け方たるやあまりに劇的で、私も1997年ヘイスケがこの状態に陥った時は、病気ではないかと疑ってしまったほどだ。実際、某ホームページのアンケート調査の中にも「ハゲ」て動物病院に連れていかれている方もいる。それほど飼い主がビックリする劇的な変化なのである。
しかし結論的に言ってしまえば、ほとんどの場合は健康上の障害とはならず、一ヶ月程度で新しい美しい羽毛にはえ変わる。徐々に抜け替わろうと、一気に抜け替わろうと、結果は同じで心配要らないことがほとんどなのだ。もしも羽が抜け落ちているのに、トゲ状の新しい羽毛(筆毛・羽鞘)が見られないようなら、何らかの病気かもしれないが、それ以外では大騒ぎするまでもない。わりに普通に起こる現象と考えて良いものと思う。
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1995年秋生まれのヘイスケ氏は1996年春にヒナ毛から換羽。 1997年6月ハゲハゲの状態になる。…写真@ 1998年は目立たない換羽だったが、1999年になるとククチバシの根元がハゲ、 4月までにハゲ部分が拡大、目の上も少しハゲてしまう。・・・写真A 8月にいたって換羽が始まり、ハゲ部分からも新羽毛が生えてくる。・・・写真B |
では、なぜ、一気に抜け替わる年とそうでない年があるのか。その理由は断定できないが、すぐさまホルモン異常などと難しく考えたり、健康問題とする必要はないと思う。栄養が足りているから、一気にはえ変わるなどという離れ業が出来るのだという考え方も成り立つ。考えてみれば、ムキ餌くらいしか与えなかった十数年間には、我が家で驚くほどに一気に進む換羽は起こらなかったと思う。栄養不足では新陳代謝など不可能だし、丸はげ状態で衰弱死した例を聞いたことは今のところない。
従って、ハゲハゲになっても、まず心配は要らないと私は思うが、念のため病院に行って獣医さんの診察を受けるのを否定するつもりは全くない。むしろ、近くに小鳥の専門病院があって(こうした環境自体かなり恵まれたものだと思うが)、そこにに行く習慣が身についている(私は身についていないだけ)のであれば、とりあえず病院に連れていくのが、転ばぬ先の杖、最善の方法かもしれない。
問題なのは、診察したお医者さんが、「普通に起こっていることなので、少し様子を見ましょう」と言ってくれるかどうかだと思う。別に健康上問題がなかった実例があふれているのに、何だかんだととってつけたような理屈をつけて、薬を処方したりするようでは過剰医療となってしまう。
放っておいても問題ないはずなのに、獣医さんに見せたらとりあえず薬をくれたので与える。これでは、頻繁に起きている一気の換羽を、単純に異常視してしまうことになり兼ねない。
患者の飼い主も心配かもしれないが、とりあえずなどと言うあいまいさで、薬を要求するようなことがあってはならないと思う。「とりあえず薬をもらう」という態度は「とりあえず薬を出す」という医者側の無責任を引き出しかねない。
これでは、ちょっとした風邪に抗生物質を出す無責任な医者を、むしろ有り難がっている日本人的傾向と重なり合ってしまう。患者の方も安易に薬を求める態度は厳に慎むことこそが、医者側に慎重な診察を促す事につながるような気がする。
薬など飲まないで済めば、それに越したことはない。医者側も患者側もその点に十分留意して、日本人の薬漬け医療同様の状態に、自分の文鳥を追いやらないようにしなければならないと思うのだ。
と、小言を言った後で、小言を言われる側に回る。
HP『JapaneseRiceBird』によると、生殖腺刺激ホルモン(黄体形成ホルモン)が大量に分泌されると繁殖行動をとるが、繁殖期が過ぎそのホルモンが減少すると、今度は甲状腺ホルモン(チロキシン)の分泌量が増加し換羽が始まっていく、のだそうだ。
この医学的説明に、私は眼前に展開するの事実をもって完全に賛同してしまう。確かに産卵と換羽の相互関係は明らかなのだ。現に、換羽中のものは産卵を止めるが、産卵を止めない夫婦には換羽が起きていないのだ。
そう、2000年6月、まだ産卵行動は終わらず、昨秋からの累計319個!に達していた。もちろん飼い主側は産んで欲しくないので、春になると巣箱をつぼ巣にかえ、粟玉を与えなかったのだが、何の効果もなかった。とにかく産んだ卵は凝卵にすり替え続けるだけだった。
つぼ巣を入れないなど、絶対産ませないための行動をとらなかった結果、こういうことになったのだが、「産みたいなら産めば」というのが基本的態度で、良く言えば自主性に任せて、万一の事故の時は「納得してるに違いない」と思うことにしている飼い主の思想上、この結果は必然であったかもしれない。
ただ恐ろしくも不思議なことに、これだけ産み続けて産卵障害はゼロ。たまに朝気分悪そうにしていた程度であった。産業繁殖家ならこの偉大なメス文鳥たちに感謝して拝跪すべきだが、素人の一般飼育者は生命の源である卵を回収して悪夢にうなされるだけだったのは情けない限りだ。
しかし、もしすべて孵化させようとしていたら、色々考えても半分の150羽は成長したものと思われる。知り合いに、文鳥の卵を見て「おいしそう」だといったオババがいたが、さすがに食う気にはならないから、捨てるだけ、卵にうずまる夢や、文鳥のヒナがワラワラ出てくる夢にうなされるのも無理からぬことだろう。
もっとも雀の卵は昔から薬とされていたというから、同じスズメ目、遠くもない関係にある文鳥の卵も薬になるかもしれない。試さないでもらいたいけれど・・・。
その産卵の推移は以下のようであった。
10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 計 | |
チビ(三歳) | 4 | 6 | 5 | 5 | 6 | 6、2 | 6 | 5 | 5 | 50 |
ナツ(二歳) | 4 | 6 | 7 | 8 | 7 | 6 | 7 | 5 | 50 | |
クル(二歳) | 5 | 6 | 7 | 8 | 7 | 6 | 6 | 5 | 換羽 | 50 |
ソウ(一歳) | 6 | 6 | 7 | 6 | 4 | 換羽 | − | 30 | ||
フネ(一歳) | 5 | 6 | 7 | 8 | 4 | 4 | 6 | 換羽 | 40 | |
姉妹(二歳) マセ・ハン・ガツ |
7 | 15 | 14 | 8 | 18 | 17 | 10 | 10 | 換羽 | 99 |
大体一ヶ月に一度のペースで産んでいる。産み始めてから大体三週間すると抱卵をやめ、一週間の小休止を置いて、また産み始めるといった行動を繰り返していた。
表を見て気づくのは、産卵ごとに個数が増加する傾向があることで、クルとフネは1個ずつ増加し、クルとナツの場合は8個をピークに次に1個ずつ減少に転じている。
ということは、秋に産卵期を迎え、真冬の一、二月にピークとなり、春に終わって換羽を迎えるというのが文鳥の産卵周期なのだろうか?しかし、これはどうも不自然な気がする。第一本来熱帯の小鳥である文鳥の産卵の最盛期が真冬というのはおかしな話ではなかろうか
?
これがどれだけ一般性のある話だかわからないが、手乗りヒナには夏にお目にかかれないし、実際弥富町の文鳥出荷組合は7、8月は休止しているようだから、同じようなものかもしれない。これは日本の四季のうち最も厳しい夏(日本家屋は冬の寒さに備えた密閉姓を持たず、夏の暑さに備えた開放性を持つのが通例)を基軸に適応した結果なのかもしれない。言いかえれば、換羽が起こらず夏暑くなく、栄養が事足りていれば一年中産卵し続けるものなのかも知れない。
とりあえず集計すると何かわかるかと思ったが、結局、我が家のメスたちがやたら丈夫であること(中でも、クルの丈夫さはけた違いで、産む卵は大きい、個数は多い、産卵しても顔色一つ変えない、三拍子そろっていた)と換羽とリンクするものだということが確認できたくらいであった。
それにしても、このような産卵競争は初めてだ。来シーズンもこうなってしまうのだろうか。夢では大量の卵にもがき、目がさめれば卵づまりの不安に満たされる日々…、正直勘弁してもらいたいのだが…。
産業文鳥繁殖で用いられるのは三歳までで、それ以降は産卵数が減ったり受精率が下がるとして業者に売ってしまうそうで(農文協編『畜産全書』)、昔の記憶をたどると、確かに自然と産卵数は低下していったような気がする。我が家のメスは三歳1、二歳5、一歳2、中核が二歳の今シーズンはまさに絶頂だったのかもしれない。
来シーズン、チビは四歳になる。放っておいても産卵数は減ってくれるものと思いたい。ただ、夫が精力の塊のようなブレイであるだけに不安は多いのだが・・・。