文鳥問題. |
《海外事情?−合衆国の文鳥飼育−》
私は鳥カゴで手乗りの文鳥を飼う者だが、この文鳥飼育法をとる限り、基本的には外国から学ぶ点はゼロである、とこの際断言してしまう。なぜなら、そのような飼い方が一般的な国は世界中で日本だけなのである。
以前頂いたメールに「日本のフィンチサイトは子供が作ったようなモン」なので「英語の勉強をして、米国のHPなどをみていただくしかないですね」(恐ろしい事にカッコ内は原文のままだったりする)というのがあった。なぜ、英語が苦手なのがわかってしまったのかや、発言主の表現の非社会性はともかく、この場合フィンチ=文鳥なので、文鳥飼育者にとっての宝の山はアルファベットの彼方に眠っていると思えば、気もそぞろとなったものだ。
もっともメールを頂いた時点で、すでにアメリカ合衆国では文鳥飼育が低調であるという認識があり、具体的にYahoo!USAで検索しても、ほとんど文鳥を取り上げたHPが見当たらないのだけは知っていた。しかし、苦手どころか英語など見たくもないのが本音なので、一つ一つのHPの内容を検討することはしていなかったのである。そこで、本当に「米国のHP」を知っていてメールされるのなら、2、3具体的に紹介するのが、無知な者への情け、むしろ常識的な礼儀ではないかと不満を抱きつつも、折に触れて「java」「sparrow」「finch」「ricebird」などの言葉をYahoo!USAで検索してみたのであった。
そしてその結論が冒頭の言葉になる。もしかしたら、日本人にありがちな盲目的な外国偏重からくる思い込みで、いい加減なことを言って寄越しただけだったのかもしれない。空想は自分の頭の中だけにしておいてもらいたかった気もするが、それは今更言っても仕方がない。
例えば、単純に「javasparrow」で検索すると12件ヒットするが(2001年1月現在)、文鳥のHPとして意味のあるのは、日本のもの(かの偉大なる『Japanese
Riice Bird』だったりする)と台湾のもの(英語ではないので内容不明、しかし2羽の白文鳥との生活を紹介したページがある程度のもののようだ)、英語のものとしてはハワイの野生文鳥の指摘をしているページくらいなもので、あっけに取られるくらいのお粗末さである。
さらに、空想ではなくネットサーフィンをしてみると、そもそも、アメリカ合衆国では1970年代から文鳥は輸入禁止動物で、さらに手乗りの習慣がないために、ごくごく一部の小鳥を飼うのが好きな人(半ば繁殖家)が禽舎で他の小鳥同様の扱いで飼っているのが見出せるだけなのである(ただしごく簡単にしかまわっていないので、もし詳しいサイトをご存知の方はお教え下さい。…出来れば訳文付きで…)。
※なお、アメリカでの文鳥の呼び名は「Rice Bird」「Rice Munia」「Paddy Bird」「Java Finch」などと一定しない。関心が少ないので統一する必要も感じず適当に呼称しているようである。
それでも、さすがアメリカ合衆国ともなれば不毛ではない。例えば『WWW.ZEBRAFINCH.COM』と言う立派なサイトがあった。それは、長年ルイジアナ州で小鳥の繁殖をされているLandryさんがフィンチ類の種の説明や、飼い方、雌雄の区別を紹介し、さらに販売までされているサイトだ(ちなみにゼブラフィンチ=キンカチョウである)。しかし、文鳥飼育に関する簡単な著述の内容には、特別新鮮味はない。配合粒エサをやって、禽舎で集団飼いして、繁殖させている。これは方法的に、日本の繁殖家と何の変わりもないのである。値段は日本並かやや高め(つがいで80ドル前後)。稀少なので安くはないが、需要がないから高くなりすぎることもない程度の感想しか持てない。
1996年『BirdTalk Magazine』所載というJane Yantzさんの「Java
Rice Finch」の飼育に関する文章も見つけた。それは合衆国での文鳥飼育の実態がかいま見える内容だが、やはりまったく普通である。念のため、一つ一つ内容を拾いつつ、感想を加えてみるが、面倒な人は読むまでもないと思う。(短文だが勝手に全てを転載したり全訳するわけにもいかないなので、興味のある方は、原文をご自分でお確かめ頂きたい)。
まず文鳥を従順で頑丈で初心者むきのフィンチであると紹介し、原種の色彩を説明、さらに性別は外見ではわからず、オスのさえずりで判断する旨を書いている。これは日本の飼育書一般と何の変わりもない。 続いてエサの話で、白プロソ(おそらくキビ)とカナリアシードを含んだ配合エサを用い、ライ麦、小麦、麻の実、米、燕麦を好む旨が書かれ、自分は燕麦を別途与えているとしている。私は小麦や麻の実(「hemp」)を文鳥はあまり食べないと思っており、その脂肪含有量からいって、麻の実は異質だと思っているが、日本の市販の配合エサにもこれらを含むものがあるから、驚く程でもない。ところで日本人は、五穀といい、雑穀食を文化的に長く持っていたから、アワ、キビ、と明確に区分するが、欧米ではどちらも「millet」となるように(ここでは「large millet」としてある)、慨して雑穀に対する認識は低いのではなかろうか。 その後、オオバコなどの野草の利用や、発芽種子について触れ、タンパク源となる副食として、ヒナ用のエサやペレット状の人工餌やゆで玉子、ミールワームの利用を指摘し、なかでも生き餌でもあるミールワームを推奨している。ヒナ用のエサ(「nestling foods」)とはパウダーフードのことであろうか。ペレットは小鳥用の完全食としているので、『ラウディブッシュ』のメンテナンスタイプのようなものと考えて良いかもしれない。こうしたものを副食として利用するのは、面白いと思うが、はたして文鳥たちの嗜好性として適当かは経験上疑問である。私も副食として良いと思ったのだが、全然見向きもされなかったのだ。またゆで玉子も実際はあまり文鳥は好まない印象がある。従って、筆者がミールワームを利用する事に落着いているのが、理解出来そうな気がする。ところで、日本的に考えると、「ヒナ用のエサ」とはアワ玉だが、欧米ではこの飼料は一般化しにくいかもしれない。何しろ彼らには玉子を生で食するという発想がない。おそらく、生卵をまぶした粒エサとイモ虫のどちらを選ぶかとなったら、イモ虫を選ぶような気さえする。このあたりは文化的なギャップであろう。 青菜としてはほうれん草を挙げ、さらにえんどう豆(「green beans」)の与え方に言及する。日本のほうれん草と違い、西洋種はあくがないので文鳥も好むだろうが、やはり小松菜には及ばないかもしれない。えんどう豆の方は、さやの両端を切り落とし、止まり木に括り付けると文鳥は一所懸命両端からつつくとあるようだが、理解不能である。日本ではそうした利用法は聞いた事がない。どうせなら、発芽させて『トウミョウ』とした方が良いのではなかろうか。利用出来る野菜が少ないことを推測させる。 カトルボーン、ボレー粉、鉱物飼料(「mineral mixture」=塩土?)、細かいグリット(砂粒)を与えることと、毎日水浴びをさせることに触れている。 次に、住居は30インチ以上の鳥カゴが必要とし、禽舎(鳥小屋)で飼うことを推奨している。30インチとは約76cmである。一体何羽飼うことを想定しているのか言及がないが、日本的な感覚では、かなり大きな鳥カゴといえる。しかし手乗りではない以上、毎日室内で遊ばせるようなことは出来ないので、運動不足とならないためには広いにこしたことはなく、当然禽舎の方が良いという結論に達するのは当然の帰結である。 目隠しになるので禽舎へ植物を植える話しがあって、夜間は巣箱で眠るのを好むとして、セキセイインコ用の巣箱を用いる場合が多いが、筆者は自分で作った箱を使っているとしている。日本のように文鳥用の巣箱が市販されているのとは異なり、マイナーなものを飼育する苦労がうかがえる。 巣材として、干草、ヤシの毛、ティッシュペーパーの切れ、羽をあげている。ヤシの毛は日本で市販されている巣草と同じようなものだろうから、それだけで十分の気がするが、あまり一般的ではないのかもしれない。ティッシュペーパーは、水分を吸ってしまうので、本来巣材としては避けるべきであろう。 育雛の期間には、ヒナ用の餌を含んだものや、ゆで玉子、水に浸した種子、発芽種子、青菜、生き餌を親鳥に与えるように説き、ヒナが大きくなってきた段階にペレットを与えると、それを完食するという自己の例に即して書いている。日本的に「アワ玉を与える」といった明快さはなく、いろいろあるものを利用しつつ暗中模索している印象を受ける。 その後は、雑居飼いや行動しぐさの話があり、飼育の前提としての許可の必要性の確認で終わっている。雑居や行動については取りあげる程のものではないと思うので、省略し、許可については後述する。 |
手乗り文鳥ののカゴ飼育とは基本的に異質で、日本の禽舎飼育と比較しても、何ら進歩性を見出せず、むしろ不器用で洗練されていない様子ばかりが目に付くのではなかろうか。おそらく、日本で配合エサではなくペレットの常用を推奨していたり(栄養食として使用している)、つぼ巣を健康を害するとしたり(つぼ巣がそもそも手に入れ難い環境と思われる)する意見があるのを聞いたら、むしろ不思議に思われるに違いない。
アメリカはそんな感じで、明らかに文鳥飼育は低調。その点、Yantzさんの文章の最後の部分が示唆的である。重要なので引用させていただこう。「Despite their
wonderful qualities as pets, possession of rice birds is
restricted in some states.Before acquiring rice birds, check with
your state fish and game officials to be sure rice birds can be
kept legally in your state.」
辞書なしでは手も足も出ないどころか、普段の私なら考える前に確実に逃げ出すが、仕方がないので参考までに意訳する。「(文鳥には)ペット向きの素晴らしい資質があるのに、文鳥を所有して飼養するには、いくつかの州で制限を受ける。文鳥を入手する前に、州の法律の上で飼いつづける事が出来るかあなたの住む州の魚介類及び鳥獣類を扱う役所に問い合わせる必要がある」・・・ようするに、州によっては輸入禁止どころか飼育の制限すら受けかねないのが、合衆国の現状なのである。つまり、こうした社会的条件のもとで、すでに文鳥飼育の低調は宿命づけられていると言えよう。
ここで、本来しっかり州法など調べなければいけない気もするが、私個人は文鳥を抱えてアメリカに逃亡する事は多分ないと思うので、遠慮させていただく。面倒だから・・・。しかし、例えば『ピイチクニュース』(東京ピイチク会という飼鳥団体の会報、まったく会員ではないが、ご好意で数号送って頂き、また会員の方に内容をご教示頂いた)にカナダ在住の方のコメントがあり、カナダのペットショップで文鳥ばかりか、フィンチ類を見かけることも少なく、手乗り文鳥は皆無とおっしゃっており、さらに1970年代に輸入禁止となり、州法で飼養自体禁止するところもあるらしいとされているから、疑う理由はないと思う。
なぜ合衆国でそのような扱いを受けるようになったのかについては、上記『WWW.ZEBRAFINCH.COM』のLandryさんの見解が示唆的である。とりあえず要約すれば、「1970年代の初めに輸入禁止となる以前は、大量の文鳥が輸入されていて非常に安価に手に入れる事ができた。しかし、輸入文鳥の大部分は野生を捕獲し「Grey」(いわゆる荒鳥)であったので、飼育が難しく評判を落とした。」といったものである。
日本でも、飼育ブームで大量の文鳥が出まわるたびに、各地で野生化したものがあったから、合衆国でも同様の事態が所々で見られ(マイアミあたりで野生化がみられたとLandyさんは指摘されている)、農業被害を恐れる政府が輸入禁止処置をとり、そのために価格は高騰し、もともと大部分が野生捕獲鳥のため飼鳥としての評判が悪かった文鳥(「RiceBird」を「荒くれ者」といったような意味で使っている人がいるようだ)の飼育は、一部の愛好者を除き、簡単に消滅していったものと推測できると思う。
しかし、Landryさんも指摘するように飼育が難しいのは野生のものだったからで、そのようなもので飼鳥としての文鳥を評価するのは全く不当である。
また、日本ですら野生化できないでいることを考えると、輸入禁止措置そのものが杞憂のように思われる。まず合衆国東部、中部、北部での文鳥の野生化は絶望的ではなかろうか。何しろ、そういった地域の冬は、無茶苦茶に寒いのだ。熱帯由来の動物が帰化できるはずはないのである。また、文鳥は乾燥に適応した品種ではないので、暖かくとも降雨が十分でない地域では繁殖できないはずで、その点、合衆国西岸の米作地帯などは温暖で主食となる米も大規模に栽培されているが、文鳥の大量繁殖は困難となるに相違ない(収穫期以外には一体何を食べれば良いのだろうか?)。
ようするに、アメリカ合衆国がいかに広くとも、文鳥の定着が可能な自然条件を持つのは、東南部のフロリダ州やハワイ諸島程度でしかないと思うのである(ハワイでの野生化は顕著であるらしく、HPでの指摘もある)。
結局、合衆国政府の輸入禁止は、過剰反応と言えるかもしれない。個人的にはリョコウバトを食べ尽くし、ノスタルジーだけでイエスズメをヨーロッパから持ちこみ、北米大陸本来の生態系を破壊し尽くしておきながら、慌てふためいて「ジャワスズメ」を輸入禁止などしている姿は、滑稽と言わざるを得ないのだが・・・。
Landryさんは、昨年の春くらいには「book devoted exclusively to the Java Sparrow」(文鳥の専門書)を書くつもりでいるといわれている。その後どうされたのだろうか。Landyさんのような、経験も知識も備えた一流の繁殖家の正しい啓蒙の元で、合衆国の文鳥飼育が盛んになることを、極東の(しかし文鳥飼育では先進国の)文鳥愛好者としても願わずにはいられない。
合衆国以外の国での文鳥飼育の実際は良く分からないが、いちおうの私見を提示しておきたい。
ヨーロッパは禽舎での繁殖飼育が、セキセイインコなどで昔から盛んなようだから、その伝統の中で文鳥は余技となっているだけだと思う。イギリス人の飼鳥家の書いた図鑑的飼育本(小学館『飼い鳥』)にセキセイの細かな彩色遺伝説明があったり(文鳥は原種と白のみで、遺伝説明など一切なし)、ドイツ人の小鳥の医学書(『鳥の飼育と疾病』学窓社)の事例はセキセイインコであるのを見ると、そのように判断せざるを得ない。
そして、その飼い方も、彼らお得意の品種改良に集中した、いわば繁殖プロ的な側面が強いのではなかろうか。それはそれで必要なことだとしても、家庭内で手乗り文鳥と親しく遊ぶのとは明らかに異質な文化である。
また、断るまでもないと私は思うのだが、香港、台湾での文鳥は、ペットというより日本向けの輸出生産品の面が強いものと思う。本来アジアでは「鳴鳥」飼育が主流であって、ペットとしての小鳥飼養が一般的ではないのが伝統なのである。とても、科学的にペット動物の飼育を考えるような風土ではない(ただし飼育自体の歴史とアジア的なノウハウの積み重ねは、注目すべきものがあるはず)。台湾のHPに日本的なものが有るが、これは歴史的にも経済的にも日本の影響と考えるべきであろう。
つまり、文鳥の、それも手乗り文鳥の飼育に関して、日本の飼育者は海外などを、直接に参考にしても仕方がない特殊な立場にあると見なさざるを得ない(禽舎飼育にしても、江戸時代からの日本的なノウハウは尊重されるべきだろう)。世界中のどこにも、宝の山は無いのだった。ただ、欧米でのインコ類などについての知見は素晴らしいもののはずなので(ペレット業界のラウディブッシュさんやハリソンさんの鳥=インコという立場からの、科学的で医学的な自社のペレットの宣伝文以外には私は読んでいない。日本のインコ飼育の方のHPに優れたものがあるので、そちらを参考にした方が楽なので、今後も見る気はない)、海外の先進性に注目するのであれば、そうしたものを慎重に文鳥に置き換えて考えていくしかなさそうだ。当然、その際に直訳的な解釈は不適当である。
他に存在しないのであれば、手乗り文鳥は日本の文化といわざるをえない。いちいち欧米の禽舎飼育や大型インコ飼育を無理に真似するよりも、むしろ世界的には特殊な飼育をしていることを前提に、より良い飼育法を日本人自らが考えていった方が良いのではなかろうか?