文鳥問題.

《産卵の是非》 

 個人的には夫婦単位でカゴで飼っているし、放鳥の時間には集団で飛びまわって好き勝手させているので、メスが産卵をするのは自然の摂理、止めようがないと開き直っています。しかし、メスの文鳥を一羽で飼っている方で、ある日突然産卵されて驚き、悩まれる方は非常に多く、同趣旨の御相談のメールを頂く事もたびたびです。その度にこみ入った話を繰り返すのもさすがに疲れるので、今までも産卵については所々で触れてはいましたが、この問題について私の考え方をまとめておきます。


−問題篇−

 なぜ独身のメス文鳥が、それも一羽しか文鳥がいない環境で、卵を産んでしまうのでしょう?答えは簡単、ようは想像妊娠をしてしまうわけです。そして、手乗りではない文鳥のメスではこの想像妊娠は聞いた事がないので、想像の相手は飼い主と思われます。手乗りのメス文鳥は飼い主を自分の背の君(夫)とみなして、その卵を産んでしまうわけです(この場合飼い主側の人間としての性別は関係ない)
 例えばメス文鳥を手のひらに入れて背中をなでたりすると、てっきり交尾と勘違いしてしまうのです。さらに、指に止まるだけでもその気になってしまう場合もあるようです。

 HP『Japanese Ricebird』は、この一羽飼育のメスによる産卵を、文鳥が飼い主のことを慕っている現れだとするような身勝手な考え方に警鐘を鳴らし、卵は「命のしずく」なので、無意味な産卵は避けるべきだと強くメッセージを発しています。
 確かに産卵は大きく体力を消耗させますし、文鳥の場合は産卵障害が起こしやすく、時として生命の危険さえ伴うので、意味のない産卵は喜ぶべきことではありません。無駄な産卵のために愛する文鳥が死んでしまって、平気でいられる飼い主がいるでしょうか?

 当然、常識のある飼い主なら産卵を防止しようと考えます。そしてその防止策としては大よそ3つの方法が実行されているようです(特に明記しませんが、情報もとは諸種のホームページ上の経験談です。皆さん苦労しているわけです)

T 産卵場所となるものを取り除く。
 つぼ巣や箱巣などカゴには入れないのは当たり前で、底に新聞紙などを敷いていると、それを適当に加工して巣に見たてたりするので、底網をしたり、めくれないように気をつけなくてはいけないそうです。さらに文鳥を放鳥して遊ばせる際に産卵してしまうので、巣を連想させるような隙間(カーテンなど)はなくさなければいけないとも言います(ただ、放鳥時に産卵すると言うのは、すでにお腹に卵がある状態なのですから、そうなったら巣の代用物があろうとなかろうと産んでしまうと私は思います)
U スキンシップは控える。

 ちょっとした事を交尾行動と思いこむので、指で戯れたりせず、腕や肩に乗せる程度にとどめるのだそうです。
V 食事は粗食にする。

 
脂肪やタンパク質の多い食事は発情を促すので与えないわけです。

 いずれも理にかなっているので効果はあるはずですが、手乗り文鳥との付き合いの中で、これらを守るだけでもかなり大変だと思います。しかもこの注意事項を守っていても、完全に産卵を防止出来るわけでありません。

 そもそも、より客観的な観点からこうした防止策を見ると、それらが産卵を絶対に避けようとする行動としては正しくとも、寒期の(普通産卵は秋から春)手乗り文鳥の飼育方法としては問題があると思われます。
 まず寝床がないのでは防寒になりません。また、寒ければ寒いほど生存のためには熱量が多く必要となりますから、この時期の粗食は元来適切とは言えません。またスキンシップをしていた文鳥に対し、突然それを控えるのが、文鳥自身にも飼い主自身にとっても、良いことかは極めて難しく微妙な話です。
 もしかしたら、スキンシップ出来ないのなら、
メスは手乗りにはむいていないと言う議論が出てきてしまうかもしれません。ところが、文鳥は大きくならないとオスかメスか分かりませんから、メスと分かったとたんに突き放すことになりかねません。しかし、それは普通の飼い主に出来ることではないでしょう。

 つまり産卵を防止する行為は弊害も伴うので、嬉々として実践するたぐいのものでもないのは明らかです。産卵障害で生命の危険にさらされるくらいなら、こちらの方がマシだと言うに過ぎないのです。

 ところで、産卵防止の手段として、次のような意見も聞いた事があります。玄関や人の出入りの多い所やテレビの近くにカゴを置き、落着いて産卵出来ないようにすると言うものです。
 しかし、これはさらに弊害があります。TUVが産卵障害を避ける消極的な対処手段なのに対し、これは産卵させないために
積極的にストレス状態にしてしまう方法となっています。しかし、小鳥のストレス障害は、かなり深刻な結果をもたらすケースもあるので、よほどの事情がない限りこれは避けるべきものではないでしょうか(獣医さんが推奨して良い方法とは私には思えない)産卵させないために何でもして良いと言うものではないように、私は思います。

 さて、一般的な手乗りのメスの飼い主が、いろいろ産卵防止に気を使う背景に、産卵させるのは駄目な飼い主で産卵させないのは立派な飼い主、といった一種の強迫観念が一部にあるような気がします。しかし、これはあまりにステレオタイプな勘違いです。
 その誤りはほんの少し考えればわかるはずです。
『つぼ巣などを設置している。十分にスキンシップをしている。十分な栄養を与えている』・・・一体この飼育スタイルのどこを否定できるというのでしょう。オスの文鳥だったら、この飼育をしている人を非難できる人はまずいないはずです。それがたまたまメスになり、卵を産んでしまったからといって、まともな判断能力があれば、その飼い主を責める事など出来るはずがありません。
 産卵という「木」を見て、飼育という「森」を見る事の出来ない軽率な人に、他人をとやかく言う資格などないと思います。第一、そもそも飼育全般は飼い主自身の問題で、飼い主以外に責任が取れる人はいないのです。それぞれの事情もわからずに、断定的にとやかくいうべきではないでしょう。

 そこで、この産卵についても、個々の飼い主が考えなければいけない問題だと思います。

 性別のわからないヒナの段階から育て、我が子同然、親友同然、恋人同然の感覚になった文鳥が、たまたまメスで卵を産んでしまった時・・・、まず事実として認識すべきは次の三点です。@産卵は健全な飼育の結果(過去の問題)A産卵障害は危険(現在の問題)B産卵防止は飼育スタイルの変更を伴う(未来の問題)
 まず、@で飼い主に
(文鳥にも)責任はない、自然の成り行きだという点を確認すべきです。その上で、問題はA、
現在起こっている産卵は生命の危険も伴う行為だという事を認識すること、そしてそれを防止するにはB、現在のスタイルを変更しなければならないという事を、しっかりと考えなければならないでしょう。
 残念ながら、現在と未来は相矛盾してしまいます。現在の方法を続けていたのでは産卵を防止することは出来ないのです。この点は理解して対策を考えなければいけません。

 まずAを重視し、生命の危険を犯すようなことは絶対に避けたければ、弊害に留意しつつ(ある程度目をつぶって)産卵防止策を取る以外に今のところ方策はないようです。しかし、一方でAの産卵障害は必ず起きるというものではないので、@今までの飼育スタイル、文鳥との関係を変えたくないという判断もありえます。別に未来はBに限られているわけではないのです。
 産卵防止という事象にとらわれて、それだけに考えを集中しなければならないわけではありません。
産卵障害の危険に留意して(ある程度覚悟して)基本的に現状を維持するという未来像も当然あってしかるべきなのです。
 どちらも正しい選択で、飼い主が
(文鳥がどう思うかは、結局のところ飼い主の主観)後で後悔せずに納得できれば問題ありません。
「文鳥と遊んであげられないけど、長生きのためには仕方がない」と考えるのか、「産卵は危険だけど、文鳥との生活は楽しいものになっている」と信じるかは、個人の価値観の持っていき方の相違と言えるでしょう。

 

−実践篇−

 その上で、産卵を回避したい場合は、愛する文鳥のために心を鬼にしてでも、徹底的に対策を実行すべきです。なぜなら中途半端に粗食状態で産卵などしてしまえば、産卵障害の危険が高まってしまうからです。栄養不足は軟卵などを招き、結果として卵づまり(異常出産)に帰結する可能性が高まってしまいます。
 また余剰のないくらいの低カロリーの食事にしてしまえば、理屈上産卵など出来ないはずですが
(自然界の飢餓的状況をつくりだす)、その加減は非常に難しいので、栄養面でのみ産卵を防止するのは無理かつ危険(栄養失調になってしまっては元も子もない)なので、
複合的な処置が必要となってくるのだと思います。

 そこで具体的な対処法を思いつくまま列挙してみましょう(経験談ではありませんので、詳しくは他のホームページを参考にされると良いでしょう)
 とりあえず産卵場所となる
巣を取り除き、刺激するようなブランコも取り除き、底網を敷くなどして底の新聞紙などには触れないようにし、エサ箱もフタつきの物は産卵場所にしてしまうかもしれないのでやめた方が良いでしょう。エサは発情を促進すアワ玉は厳禁で、お菓子、果実などなどおやつも与えてはいけません。配合エサならあまり重大な違いはないものの、若干栄養価が高いとも言われるカナリアシードを含まない物にしても良いかも知れません。放鳥時の注意は上述の通りで、細心の注意が必要です。産卵期には飼い主は手のひらは握った状態にしていた方が無難かもしれませんし、あまり指で遊ばない方が良さそうです。
 以上のような防止策を実行した場合、つぼ巣もなくある程度粗食なので、冬の寒さにはとりわけ注意が必要となります。ただ暖房を四六時中つけておくと、ホルモンバランスが云々といった別の議論もあるので、とりあえず20Wのヒヨコ電球くらいをつけて、
寒くなり過ぎないように心がけたほうが良いでしょう

 何やら列挙すると物々しいですが、慣れればそれほどの負担ともならないと思います。

 一方、産卵を楽しい文鳥との生活を続ける上での必要悪としてとらえる場合でも、産卵回数は出来る限り減らすべきです。なぜなら、産卵障害の危険は確かなことですから、回数は少ない方が良いに決まっています。
 文鳥は3、4個以上の卵を産むと温め始めますが、普通はその後も産みつづけ、合計5〜7個の卵を産みます
(一腹分と言います)。この際、
すぐに産んだ卵を取り除いてしまうと、また産卵をはじめてしまい、連続して産卵することによって体力を消耗し衰弱してしまいます。そこで出来る限り卵を温め続けさせることが必要となります。
 通常卵は16日ほど温めると孵化しますが、メスが一羽の場合は当然無精卵なので、絶対に孵化はしません。そこで永遠に温めつづけてくれると助かるのですが、3週間を過ぎると飽きてきてしまうのが普通です。
 そこで温めなくなった卵を取り除き、アワ玉やボレー粉や青菜を十分に与えて次の産卵に備えれば、とりあえず産卵の間隔が開くので、文鳥の体力がある程度回復しているものと期待できます
(尻尾を振ったり産卵の兆候が見えなければ、産卵しないに越したことはないので、アワ玉を与える必要はありません)。これにより、少なくとも
一ヶ月に1回未満に産卵を抑制することが可能なわけです。

 卵は腐ってしまいますが、あらかじめ擬卵(人工の偽物、白い文鳥用と青白いカナリヤ用が市販されている。カナリヤ用でも構わない)を用意しておき、産卵したらそれとすりかえると、衛生面での心配もなくなります。

 メスの手乗り文鳥の産卵は多くの人の悩みです。以上のような点も参考にしながら、飼い主自身が納得出来る方法で、対処してもらいたいと思います。


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