文鳥問題.

《一日の栄養と日光浴》

 多くの動物にとって日光浴は大切です。文鳥にも日光浴をさせたいところですが、いざ外に出せば、ヘビ、カラス、猫、その他もろもろ危険はいっぱいです。スズメなどの野鳥がやってきて、文鳥のエサのおこぼれをついばむような微笑ましい場面も、人によっては野鳥から感染症がうつる危険を連想させるかもしれません(個人的には少し過敏だと思っている)。難しい時代になったものです。「お日様の恵みはありがたい」と日向ぼっこを楽しみたいところですが、人間に強い紫外線による皮膚癌や白内障が急増しているのも現実で、人間の子どもの日光浴など絶対禁止と言われるようになっています。一体どうしたら良いのか、そこが悩みの種なのです。【2004年6月】


 栄養摂取量の試算と検討     ビタミンDの摂取と日光浴 


栄養摂取量の試算と検討

 ペレットや食べ物の問題を指摘してから月日が流れた。その間ペレットのみで長期飼育した場合(何しろそうしろと一部の『専門家』が言っていたから)の問題が、アメリカでは出てきているようだ。保存料問題、タンパクやビタミンの過剰による内臓疾患やその他の健康問題などなど。すでに一時のペレット礼賛ムードは消え、ペレット単独ではなく、いろいろな食べ物との組み合わせが必要ということに変わっているという話も聞くが、本当だろうか?
 
しかし、中・大型インコの飼い主たちは、脂肪分の多い種実ばかり食べさせるのも危険なので、多少問題があってもペレットを使用しないわけにはいかない面もある。一方脂肪分の少ない穀物食の文鳥を飼育する者にとっては、しょせん対岸の火事で、問題がありそうなら止めれば良いだけのような気がする。

 うわさで云々しても仕方がない(文鳥で使用されている人は、海外の動向、内容成分の変化などに注意されたほうが良いと思う。まだ新しい食べ物なので、現在進行形で中身も使用法も評価も日々変わっていくものなのだ)。インコの死活問題は、中・大型インコ系の飼い主たちが一所懸命考えてくれれば良いことだ。では、なぜまたペレットの話かと言えば、文鳥というのはそもそもどのくらいの栄養素を一日で食べるのか計算してみたくなり、せっかくなのでペレットと比較してみようと思ったのだ。
 そこで
ペレットの内容成分を今一度確認しようと、久しぶりに製造元各社のホームページを閲覧した。すると、ハリソン社のものはビタミンAの数値が半減したようで(経緯は知らない)ラウディブッシュ社代理店のほうは数字が変わらず(というより更新がない)、本社のホームページには栄養成分表が見当たらない状態であった。ズプリーム社ケイティー社には、もともと詳細な成分表がないようなので比較出来なかった。
 「エネルギーとタンパク質などの数値は○○、ミネラルやビタミンも適量添加しています」では、ヨーロッパや日本の栄養補助剤と変わらない。ペレットはそれだけ与えておけばOKという夢の『完全食』とする宣伝文句も結構だが、一体何がどれだけ入っているかもわからずに、不自然な添加物だけを与えるのは不安ではなかろうか。インコ系の飼い主の苦衷を思わずにはいられないところだが、『補助食』を必要とするたんなる『主食』として位置づけ直す方向に進んできているのだとすれば、それはそれで良いのかもしれない。以前、「
副食を与えるので多様な栄養を大量に添加する必要はない。より栄養面は簡略にし形状などは自然に近いものにすることが望まれる」といったペレットの未来展望をしたが、そちらの方向に進んでいるように考えられないでもない。ただ文鳥の飼い主の場合、この利用法をわざわざする理由が一体どこにあるのか、以前に比べてさらに疑問は大きくなるばかりではある。

 一方、栄養価の計算をしていて気がついた。栄養成分表も五訂となって、アワやヒエに「玄」の項目が無くなっているのだ。もともと「可食部」であるはずのない殻まで含めた不思議な数値であったが(食物繊維の値が異常に高くなる)、ようやくその矛盾に気付いたのだろう。それにしても、ビタミンAやDの見方も相変わらずころころ変えてくれるので、単位変換など面倒なことこの上ない。私の本音を言ってしまえば、細かな栄養学など家政学部の内部でいじっていれば良いものだ。昨日危険と断定していた食べ物を今日は賞賛されるような危なっかしい「科学」を基にした情報に、「〜を食べれば健康」などと喜んでいる人種は、とりあえずキャッチセールスに簡単にだまされる体質であることを自覚して気をつけたほうが良い。
 などと愚痴りつつ、電卓をたたくのである。
 ペレットについては簡単だ。100gあたりの栄養成分をもとに、文鳥1羽の1日の摂取量を4gと仮定して、そこに含まれるカロリーと栄養素を算出する。もう少し食べるかもしれないが、あえて少なめに設定してみた。一方、日々に食事量も食べる種類も違うはずの一般飼育での摂取量の算出は困難だ。とりあえず、こちらは多めに設定した摂取量を基に、食品成分データベースを利用し計算し、比較できるように100gあたりにも換算しておいた。とりあえずこれ以上食べることはないという数値にしたつもりだ。現実の普通の摂取量の5割増しくらいかと思う。さらに比較の対象として、ニワトリの100gあたりの栄養摂取必要量をあげ(奥村純一『家禽学』)、またヒナ用のエサの参考として、むきアワのみとアワ玉(卵黄量は高めの推定値)を試算した。
 細かな計算内容も付記したので、興味のある暇な方に検討と確認をして頂くとして、結果は下の表のような数値となった。
しかし、このような数値をただ羅列されても困ると思うので、二、三、個人的に気になる数値に色をつけ、それに基づいて考察することにする。

 

@カロリー

Aタンパク

B脂肪

Cカルシウム

Dビタミン

EビタミンD

1】 ラウディブッシュ
     (メンテナンス)

含有量 343 kcal 11.0 % 7.0 % 0.4 % 787 IU 80 IU
摂取量

13.7kcal

0.4 g

0.3 g

16 mg

31.5 IU

3.2 IU

【2】 ラウディブッシュ
     (ローファット)

含有量 314 kcal 12.0 % 3.0 % 0.4 % 825 IU 80 IU
摂取量

12.6kcal

0.5 g

0.1 g

16 mg

33 IU

3.2 IU

【3】 ラウディブッシュ
  (オリジナルフォーミュラ)

含有量 355 kcal 20.5 % 3.5 % 1.2 % 1930 IU 430 IU
摂取量

14.2kcal

0.8 g

0.1 g

48 mg

77.2 IU

17.2 IU

【4】 ハリソン
 (アダルトライフタイムファイン)

含有量 - 14.0 % 6.0 % 0.6 % 400 IU 107.5 IU
摂取量

 

0.6 g

0.2 g

24 mg

16 IU

4.3 IU

【5】 ニワトリ
    (育成期幼雛)

含有量 290 kcal 19.0 % - 0.8 % 270 IU 200 IU
             

【6】 ニワトリ
    (産卵期)

含有量 280 kcal 15.5 % - 3.4 % 400 IU 500 IU
             

【7】 ニワトリ
    (ブロイラー)

含有量 310 kcal 21.0 % - 0.9 % 270 IU 200 IU
             

【8】文鳥成鳥の経験値

含有量 254.6kcal 6.7 % 2.7 % 1.3% 469 IU 5.4 IU
摂取量

19kcal

0.5 g

0.2 g

95 mg

34.2 IU

0.4 IU

【9】文鳥幼鳥の経験値

含有量 134.4kcal 10 % 4.7 % 5.3 % 284 IU 21 IU
摂取量

25.6kcal

1.0 g

0.5 g

504 mg

54 IU

4.0 IU

【10】むきアワのみ8g

摂取量

29.1kcal

0.9 g

0.2 g

1.1 mg

0

0

【11】アワ玉(むきアワ7.5g卵黄0.5g)

摂取量

30.9kcal

1.0 g

0.5 g

2.5 mg

11 IU

2.0 IU

フォーミュラーは1日4g食べるものと考えた。5倍に薄めて体重程度と説明書にあるので、1日20gの5分の1 。

☆幼鳥の経験値・・・ヒナが1日にアワ玉を12g、カトルボーン0.5g、ボレー粉1g、煮干0.5g、小松菜5gを食べるものとして計算した。
アワ玉は1gを乾燥卵黄として多く見積もるが、市販のものではこの半分くらいではないかと想像する。精白アワ11g(@40kcal・A1.2g・B0.3g・C1.6mg)+乾燥卵黄 1g(@7.2kcal・A0.3g・B0.6g・C2.8mg・D6.3mcg・E0.1mcg)+カトルボーン0.5g(C0.4g)+ボレー粉1g(C0.4g)+煮干0.5g(@3.3kcal・A0.3g・C11mg・E0.1mcg)+小松菜5g(@0.7kcal・A0.1g・C8.5mg・D26mcg)
=【A1.9g・B0.9g・C0.8g(1g=1000mg)・D108IU
(1IU=0.3mcg)・E8IU(1IU=0.025mcg)】×5.25
※一回の給餌で作る量では上記のとおりですが、実際に食べる量に注意して見ていたら半分程度と言えそうなので、2で割って表の数値を半分に訂正しました(2004年12月)。

成鳥の経験値・・・1日に配合餌を精白ヒエ一種として5g、小松菜2g、ボレー粉0.2g、煮干0.1gと実際食べる量の五割り増し程度に見積もって計算した。細かな計算手順は以下のとおり。
精白ヒエ5g(@18.4kcal・A0.5g・B0.2・C0.4mg)+小松菜2g(@0.3kcal・C3.4mg・D10.4mcg)+ボレー粉0.2g(C0.1g)+煮干0.1g(@0.3kcal・C1mg・E0.01mcg)
=【@19kcal・A0.5g・B0.2g・C0.1g・D35IU
(1IU=0.3mcg)・E0.4IU(1IU=0.025mcg
)】×13.4

【1】や【4】といった標準的なペレットの脂肪比率が高いのは、以前も指摘するところだが、この点は食べる量の問題で1日の摂取量で考えれば、【8】と大きな違いがないと見なせそうだ(精白ヒエなので脂肪価は3.7%とやや低い)。しかし、結局【1】【4】使用時に青菜を併用しても、せいぜい脂肪の摂取量は同量程度(【8】は最大量)なら、結局、文鳥のダイエット食に位置づけるのは困難と見なすしかない。

 【3】は文鳥のヒナを育てる際のパウダーフードとして、わざわざ日本向けに生産されているとラウディブッシュ社のパンフレット(2000年1月発行)にある「穀類を主食とする全てのヒナ鳥対象のパウダーフード」で、実際使用している人の話も聞くものだが、【9】【10】【11】の摂取量と比較すると、驚くほど低カロリーであることに初めて気がついた。
 単純に言えば、親の食べるものをたくさん食べて大きくなるのがヒナなので、この経験値の2分の1、成鳥の生活維持
(「メンテナンス」)に必要とするカロリーと同程度にしかならない低カロリーは 、かなり不自然な数値といえそうだ(昆虫摂食を考慮すると、自然界ではさらにカロリーの値は上昇する。昆虫のカロリーは、三橋淳『虫を食べる人びと』によれば、ほぼ100gあたり500kcal前後と考えられる。また昆虫はたいてい動物性タンパク質や脂肪に富み、カルシウム・ビタミンD3も含んでいる。普段は穀物が主食のはずのスズメもヒナにはイモムシなどをせっせと運ぶから、文鳥も自然状態での育雛では、大いに昆虫を与えていると考えられる。そうでなければ、【10】のような栄養不足が確実に起きてしまうのだ。昆虫により、成長に必要なタンパク質もカルシウムもビタミンD3も、同時に摂取できるのだから、自然と言うのはうまく出来ている)。吸収が良い食べ物なので、実際には問題はおきにくいのかもしれないが(説明書より食べるのではないかと思うのだが、使用した事がないので実際量がわからない)、この数値のみを見たら、カロリー不足により動きが散漫となり、発育不全などの悪影響が出ないほうが不思議に思われる。
 逆にビタミンDの数値は一般時用のペレットに比較して5倍以上、【9】と比較しても2倍以上、急激な成長が求められるブロイラーと比較しても高い数値だ。しかし、パンフレットに「注意深く加え」ているとあるので、とりあえず信用するしかないのだろうか・・・。個人的には2倍程度なら許容範囲の印象を持つが、パンフレットの次の「御注意」とある一文に今さらながら不安を感じる。
 「
(この製品はカルシウムとビタミンD3の添加量が多いので)一人餌になるのが早い文鳥には初期にはパウダーのみ成長に合わせてメンテナンスタイプまたは粟玉とミックスした時は、理想の状態で育ちますが、成長過程において少し長く給餌する鳥種(オカメインコや中大型鳥)に単独での給餌はひかえてください
 この文章を理解出来る初心者がいたら驚きだが、ようするに、文鳥の場合パウダーフードのみをひとり餌まで続けると、過剰になるかもしれないと言いたいのだろう。このパウダーフードも、細かく検討してみると、文鳥の飼い主には難解にすぎる気がする。 なお、ビタミンDはカルシウムと結びつき骨を形成する重要なビタミンで、紫外線を受けることで体内でもつくられるが、暗い巣の中にいるヒナは、エサから動物性のビタミンD3を供給されるしかない。【10】のようなエサを与えていると、脚弱症を起こすことがあるのは、カルシウムと同時にこのビタミンD3の不足が原因
(くる病)と見なされている。ところがたくさん与えれば良いかというとそうではない。脂溶性のビタミンであるため、多く取りすぎると体内に蓄積し長期にわたって悪影響を及ぼす。
 例えば、体内のカルシウムを必要以上に溶かしてしまい、かえって骨軟化を起こしてしまう。また、同時に多くのカルシウムも摂取すると、必要以上にカルシウムを吸収させて問題を起こす。摂取量の難しいビタミンと言える。

※飼料会社(『NPF』)のアワ玉(蜂蜜なども添加されているらしい)には栄養成分が次のように表記されていた。タンパク質9.1%、脂質3.8%で、エネルギー386.7kcal。(2005・8)

 【4】はビタミンA含有量が他に比べて半分くらいで、以前のように「ペレットのみで他のものは与えない」とすると、適量かどうか何とも悩ましいところだが、最近は青菜も併用とするようにと使用法が変わっているなら、この程度の数値が適当なのかもしれない。週に数回の青菜は必須と言うことである。
 なお、ビタミンAは視覚機能や皮膚組織などにかかわる重要なビタミンだが、これも脂溶性なので多く取りすぎると、さまざまな健康問題を起こす。例えば脱羽毛もその一つだ。さらに肝臓や腎臓に蓄積し、それらの内臓器官にも悪影響を与えるとされる。野菜でカロチン
(専門家は最近カロテンと言い出しているが、そんな表記をどちらでも良い)のかたちで摂取する場合は、ビタミンAの過剰は起こらないので(必要量だけビタミンAに変換される)、栄養剤やペレットでの摂取は少なめにして、おもに青菜で摂取するのが無難なビタミンと言える。人工的に添加する限界値を定めるのは困難であり、良かれと思って他のビタミンA添加剤と併用するのは厳禁だ。
 それにしても、宣伝文句や一部の推奨者に盲従せずに考え出すと、ペレットによる栄養コントロールは、簡単なようで実に難しい

 【8】【9】のカルシウムの数値、特に【9】のそれは、他と比べて冗談のように高く、しかも餌づけされるヒナの場合、ペレットなどの人工添加飼料同様に、文鳥自身の選択の余地なく摂取されるので、一見問題が大きいように思われる。実際、ラウディブッシュ社のパンフレットも「カルシウムの与え過ぎは有害」「腎臓障害をおこし」などと断定的な警告を発している。
 しかし、これは先ほども述べたように、ビタミンDの過剰摂取と結びついた場合の話で、カルシウムのみを大量に経口摂取したところで健康問題はまず起きない。ビタミンDがなければカルシウムは腸で吸収されず排泄されるだけだからこそ、ビタミンDが必要なのである。ビタミンDも過剰な場合のみ、高カルシウム血症となり腎不全を引き起こす危険も生じるのだ。つまり問題を起こす主因は、カルシウムよりもビタミンDに存在すると考えたほうが良いだろう。実際人間の場合、安易にビタミンD製剤を服用した者に、高カルシウム血症が起こっているのは良く知られた話である。
 つまり、食べた量が多くとも吸収されなければ意味がないので、この数値でも問題とはならない。それよりも、むしろここでは、ペレットにおけるカルシウム含有量の低さが、一般飼い主には福音となるものと思う。「ウチの子はボレー粉なんて全然食べてくれない」などと悩む人が結構いるものだが、食べなくて良いのだ。ペロリとボレー粉をなめた程度で、ペレットのカルシウム含有量に達してしまうのだから
(食べ物による吸収率の相違はとりあえず無視)

 【8】のビタミンD3摂取量の少なさも際立っている。ビタミンD3は動物性のものなので、穀物食の文鳥には摂取が難しい栄養素なのだ。この点、自然界ではまれに虫を食べる程度で十分と思うが(飼鳥用のミルワームにどの程度期待できるか疑問ではある)普通の飼育状態では給源が見つけにくい。そこで、ペレットなどに添加される意味があると言えよう。一方、ビタミンDは紫外線を浴びることで体内生成されるので、日光浴の重要性を指摘するのも当然と言うことになる。
 日光浴、でなければビタミンD3の摂取。太陽光の弱い北極圏のエスキモーたちが、ビタミンD3を多く含む食品
(海獣の生肉や魚)でバランスを保っているのは有名な話だが、文鳥の場合このビタミンD問題をどのように考えたら良いのか、日光浴問題と関連させてさらに考えたい。


ビタミンDの摂取と日光浴

 日光浴はなぜ重要なのか、もちろん健康に良いからだ。いろいろ効用があるはずだが、科学的に明らかとなっている第一の利点は、太陽光に含まれる紫外線を皮膚に受けることでビタミンDが生成されることだ。
 この紫外線によるビタミンD生成は、多くの動物に共通するもので、まさに「太陽の恵み」だが、特にその重要性は、草食性のカメを飼育する人たちに切実なものとなっている。あの大きな甲羅を維持するにはカルシウムも不可欠で、その吸収のためにはビタミンDは欠かせない。ところが、カメの食べる野菜からは直接ビタミンD3を摂取できないので、栄養補助剤を使用しなければならない。しかしすでに指摘したように、ビタミンDの適量を設定するのは難しく、多すぎると過剰症で逆効果となってしまう。
 野生のカメはどうしているかと言えば、甲羅干しをして日光を受けることで、体内の前駆体を変質させ必要量のビタミンDを得ている。当然、意識の高い飼い主たちは日光浴の有効性に着目し、日光を十分確保しようと考え、それが不十分な場合は人工的な特殊なライトを照射して代用する。実に大変なのである。

 そのようなカメ愛好者たちの苦闘を知れば、文鳥の場合も当然日光浴が必要と言いたくなる。しかし、さて、カメの甲羅干しのようなことを文鳥がするかと考えると、妙な気分になってくる。炎天下で羽を広げて日光浴をするハトなら見たことがある。しかし、肝心の脚を投げ出していただだろうか。ビタミンDは、皮膚が紫外線を浴びることにより合成される。鳥は人間のようにTシャツを脱いで日なたに出るわけにはいかないし、カメのように日光を受けるのに適した甲羅はない。厚い羽毛を太陽光にさらしたところで、どれほど効果があるのだろうか・・・。
 ハトの日光浴は、ビタミンD生成を目的としたものではなく、羽毛の虫干し、もしくは水棲のカメもそうだが、たんに赤外線で暖まるのが目的と考えたほうが自然ではなかろうか。さらに文鳥に近いスズメやカラスはどうだろう。強い日差しの下でたたずむだろうか。むしろ日陰に逃げ込みそうだ。少なくとも、日なたで脚を広げる彼らは見たことがない。第一、か弱いスズメが自然環境でそのようなことをしていたら、命がいくらあっても足りはしない。
 考えてみれば、甲羅のあるカメと同程度に日光浴が必要なはずはないのではなかろうか。特別日光浴をしなくとも、捕食のために動き回っていれば、自然に紫外線を浴びて十分にビタミンDを確保することができるのだろう。この点人間も同様で、普通に通勤通学買い物などで外を歩いているだけで、特に意識的に日光浴をしなくても問題はないとされている。むしろ人間の場合、最近では紫外線による皮膚癌や白内障などの負の面が注目され、なるべく日差しを受けずに、ビタミンDは食物摂取することが薦められているくらいだ
(市橋正光『紫外線Q&A』)

 さて、問題はカゴの鳥である。彼らにどの程度日光浴が必要なのか。とりあえず、一昔前の飼育書がひたすら推奨するほど、血眼のなって日光浴に励む必要はないことだけは確かと言える。なぜなら、それほど紫外線に当たる必要がある動物なら、夏にくらべて紫外線量が半減してしまう冬は、2倍の時間日光浴しなければつり合いが取れないのに、そのような当たり前の事実をまったく無視しているのだから、飼育書の主張はたんなる情緒論でしかないと言えるのだ。むしろ、日光浴の主眼は文鳥にはなく、通気性の悪い木箱である庭籠の殺菌にあったようにも思える。
 そもそも冷静に考えれば、あまり必要でない根拠がたくさん存在する。まず、先ほども触れたように、野生の鳥はビタミンDを目的に日光浴をしない。また、鳥類の骨密度は、はなはだ疎であると言う事実もある。空を飛ばねばならない鳥の骨は軽量構造なので、爬虫類やほ乳類よりも体内のカルシウム量の比率も小さいと考えられるのだ。さらに、カルシウムは骨格形成の他に筋肉の収縮運動にも関与するが、飼鳥は野生の鳥とは比べものにならない程運動量は少ないので、この面でもカルシウムの必要量は少なくなり、ビタミンDの要求量も限定されるはずである。第一、せいぜい【11】程度の栄養で、あまり日の当たらない庭籠の中で、何世代にもわたって産卵育雛までおこなってきたという厳然たる事実は動かしようがない。
 もし不足したとしても、文鳥は動物性の食べ物も食べることが出来る。飼い主も粟玉や煮干などを用意するのは簡単だ。この点、人工的な補助剤を使わなければならない生き物の飼い主よりも、数段恵まれていると言えるだろう。

 春から秋にかけては、紫外線の有害な面も考慮して、日差しの弱い午前中、通勤前の小一時間にでも、東側の開けた窓(網戸ごしでも大差はないだろう)の脇にでも置けば十分なのではなかろうか。さらに煮干などを、ちょいとつまめるようにしておけば、不足を感じれば自分で食べてまかなうものと思う。それが無理なら土日だけ、空気の入れ替えにカゴの側の窓を開ける程度でも、ビタミンDの不足で健康問題になることは少ないものと思われる。なぜなら穀物食の彼らは、せっかく飼い主が用意した煮干など、普段は大して食べはしないのだ(窓際にカゴを置き、あまり窓を開けない我が家の話)
※なお、特に夏は日差しよけの日陰は必須で、紫外線から目を守るメラニン色素が少ない赤い目をしたシナモンやアルビノは、直射日光を極力避けた方が無難だ。リスクを犯してまで、日光に当てる必要はない。
 問題は、寒くて窓を開けることなど出来ない冬だ。せいぜいガラス窓越しの日光浴に期待したいところだが、これは残念なことに、ビタミンDに関してはほとんど効果が期待できない。紫外線の中でもビタミンDの生成に関係するのは紫外線B波(UVB)だが、薄い3mm厚のガラスでもそれを透過出来るB波は、2、3%に過ぎないらしいのだ
(UVAは50%程度透過するという)

 つまりビタミンDの摂取にこだわるなら、冬季に補助飼料もやむなし、場合によっては補助灯も・・・と言うことになる。しかし、私はその結論に素直にうなずくことは出来ない。むしろ、成鳥の一般飼育においては、ビタミンDを求めて行動する必要はないと考える。必要摂取量も明確でないにもかかわらず、カメ飼育での必要性並に過大に気にして、人工照明など持ち出すこともないだろう。
 真冬に外を歩いてみれば、少ない太陽光の元、カルシウムやビタミンD3の給源である昆虫の姿もない中で、スズメは立派に生きている。冬に曇天が続く地方で、野鳥が絶滅した話も聞かない。この事実を認識すれば、穀物食の小鳥は、繁殖期以外はそういった栄養素は多く必要としないものと考えるしかないだろう。一羽飼育で産卵をしない場合は、心配しすぎるほうが不思議なくらいかもしれない。
 そもそも、文鳥の繁殖が秋から春であることは、日光浴によるビタミンD生成が、文鳥たちにあまり意味を持っていないことを証明している。
というのも、鳥類はビタミンDが十分でないと繁殖は出来ないとされているからだ。須田立雄ほかの難解な専門書『ビタミンD』によれば、例えば、ウズラの飼料からビタミンDを除くと、すぐに卵殻の劣化が起こるという実験結果があり、鳥類の場合、産卵期にはビタミンDの働きでカルシウムを吸収し骨髄を骨化することで貯蔵、産卵に備えるともされている。ビタミンDが一種のホルモンのように活発に作用することで、鳥類は産卵が可能になるというのだ。実際、スズメなどの野鳥の繁殖期は紫外線量が強く昆虫も活動する春先から初秋に限定されているのを見れば、飼育されている文鳥が、わざわざビタミンDが最も摂取できない時期に繁殖期に入れるのは、これまで人間が経験上用意した飼料(アワ玉)で、ビタミンDの要求量が十二分に満たされていると考える以外にないだろう。
※ビタミンD3の給源を抑制し、外に出しての日光浴はやめ、窓ガラスも厚いものや紫外線を遮蔽するものにすれば、産卵を抑制出来る可能性は高いと言うことになりそうだ。

 伝統的な飼育において繁殖期のアワ玉は必須となるが、それで摂取できる量は【11】にある1日2IU以下に過ぎない。繁殖用のペレットのビタミンD3含有量は100gあたり140IUに増加するが(ラウディブッシュのブリーダータイプ。ただし、ペレットのサイズは文鳥向きとは思えない)、その点【1】でも【2】でさえも1日3.2IUなら、文鳥が繁殖に入るには十分な数値と見なせそうだ(産卵を始めたらカルシウムが不足しないかどうかが問題)
 しかし、産卵を繰り返すと不足してくる危険性は大きい。その際は、やはり夏より半減する日光浴効果に期待するよりも、ビタミンD3の補助食や補助剤を用意するべきだろう
(というより、繁殖中に鳥カゴの移動は厳禁)繁殖は特殊な状況なのだ。

 結局のところ文鳥の飼育において、紫外線量うんぬんはあまり意味のあることではないと結論される。ただそれは日光浴そのものが無意味と言う意味ではない。文鳥にしろ人間にしろ昼行性の動物が、まったく日光にあたらないのは問題である。どちらも、まったく日光にあたらないとホルモンバランスがくずれだすとも言われる。また文鳥の場合、日長の変化で季節周期を感じるからこそ、換羽などが一定時期に始まるようにも思える。しかし、それは有害でもある紫外線を排除して、赤外線や可視光線だけの太陽光で十分な話ではある(千葉喜彦『からだの中の夜と昼』)
 あまりビタミンD生成だとか「科学」にこだわらず、窓越しでも日陰を作りながら日のあたるところにおいて、天気の良い日に少し日向ぼっこもしようかな、程度の感覚で良いもののように思われる。
 


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