文鳥問題.

《止まり木

 止まり木について特にこだわりはありませんでしたが、先天的なガニ股の文鳥や脚の曲がった老病鳥が、少し止まり木での移動が不自由そうな様子を見て、いろいろ考えはじめました。【2004年9月】


形状

 鳥カゴを買うと、直径1.2cm程度の木製の止まり木が付属品となっていることが多い。その材質は、軽くて木目の鮮やかな杉材であることが多いように思われる。個人的には別にそれで良いと思っているが、爪が伸びやすい原因は止まり木にもあるのではないかと、少し疑いを持っていた。
 昔ながらの飼育書には、右のような文鳥が止まり木に止まったのを横から見たかのような図を掲げ
(一番長い中指を無視しているようだ。右の図はほぼ原寸大)、直径2cmのような太い止まり木を使用した状態では、「爪が早く伸びる」と説明していることがある。しかし、これはおかしい。おそらく、より太い止まり木に引っかかって止まるために、爪が伸びるものと考えているのだろうが、爪というものは状況に応じて伸びるのが早くなったり遅くなったりするものではない。栄養状態の影響も受けるだろうが、基本的には必要があろうと無かろうと伸び、また「ネールアートを楽しみたいので、明日までに伸びろ!」と念じたところで、ニョキニョキ伸びたりはしない。
 野生の状態であれば、指先を保護したり物にしがみつくのに重要な役割を果たす爪は、行動することで木や地面などとの摩擦で擦り切れ、伸びすぎるなどということはほとんど起きない。つまり、爪が伸びるのことそのものは、自然でも飼育下でも同じだが
(当然個体差がある)飼育下では爪を削るような摩擦が少ないので、あの多くの人が苦痛に感じる爪切りが必要となってしまうのが本当のところだろう。

 そもそも上の図のように、文鳥が止まり木をしっかりと握るのなら、1.2cmでも2cmでも爪が止まり木と接触し摩擦が起きるはずだ。そうなると、いく分は爪を削り取って、飼い主の爪切り作業を軽減してくれるだろう。ところが残念な事に、文鳥が止まり木をギュッと握ることは少ないのが現実で、0.8cm程度に細くなれば握って落ちないようにするかもしれないが、1.2cmの普通の止まり木程度の太さとなると、ちょこんと上に乗って握力を使うということをしなくなる。その様子を大雑把に図示すれば、右図の右側のように爪が止まり木から離れている状態と言うことになる。
 これでは摩擦は起きず、爪は伸び放題でも不思議は無いだろう。爪の伸びるのを防止するためとして、止まり木に巻く粗目のついた厚紙が売られているが、右側のような止まり方をする文鳥では、その粗目と爪が摩擦しそうにないので、あまり効果を期待出来ないかもしれない。ギュッと握るインコ類向きの製品なのだろう。

 文鳥の止まり木について、太さに変化があったり曲がっているようなものを推奨する飼育書もある。ようするに自然木の利用で、その理由は「脚を鍛える」としされているようだが、これは爪伸び防止にも役立つように思う。なぜなら、形状が複雑であればそれだけ、移動によって爪との摩擦(爪とぎ)は起こるはずなのだ。
 もちろん、この「脚を鍛える」という論点で見れば、細い止まり木の方が、しがみつくことによって握力を使い効果的だから、枝の太いところから細いところへの移動のようなことが出来れば、太い部分で爪は削れ、細い部分で運動にはなり、適度な凸凹が足裏に刺激となって血行を良くするかも知れず、実に素晴らしいと言う結論となる。もし大きな空間で文鳥を飼育するのなら是非自然木の利用を薦めたいところだ。
 しかし、ここで問題としているのは、大きな禽舎とは比べものにならない家庭内のカゴの中だ。せいぜい40cmの幅の中で、太いところから細いところまであるような枝が容易に見つかるだろうか?見つかったとしても、取り替えが必要な時に似たものを用意できるだろうか?何しろ文鳥のことだから、曲がり方が違っただけでも神経質に騒ぐかもしれないもだ。また、湾曲した止まり木を上段に設置した時、箱巣など使用できるだろうか
(普通は止まり木の上に乗せる)?さらに、曲がった自然木を下段の止まり木に使用して、エサや水が飲みやすい状態になるだろうか?もし「脚を鍛える」事ばかりにこだわり、直径0.8cmを下回るような細い部分のみの枝を止まり木に使用した場合、いったい文鳥はどこでくつろぐのであろうか?
 ようするに、カゴという狭い空間で自然木を止まり木にするのなら、出来るだけ直線的で適度に節などの突起があり細すぎないものを選ぶ以外ないのではないかと思う。

 そのように考え、目的に沿った自然木を探したかったが、あいにく裏の空き地のケヤキの大木は、数年前に完膚なきまで剪定されたし(おかげで落葉掃除が簡単になった)、近所に営林署も果樹園もないので、剪定枝を選り取りみどりに選ぶことも出来ない。近所のホームセンターに乾燥処理済の自然木の枝が売られていたが、1mで1000円もする。それほど真っ直ぐでもなく、一本の中でも止まり木になりそうな所と不適な所があるので購入は控えた。
 他のホームセンターの園芸コーナーでは、流木が5本1000円で売られていた。流木は海や湖に流れ出た自然木だから、すでにヤニや生物的毒素は限定的になっているはずで、案外止まり木には向いているかもしれない。ただ形状がいろいろ過ぎたので、通販で流木を扱うところに「出来ればなるべく細くて真っ直ぐなもの」などと、備考欄に希望を書いて注文してみた。
 きっとお店の方が選んで頂いたのだろう、ほぼ希望通りのものが届けられたので、さっそく右の写真のように止まり木に加工した。なお、写真の左端の丸棒は直径2cmで、流木止まり木はそれよりやや細いといった程度のものが多い。
 早速一部で試用してみたが、絶対拒否する
(止まろうとしない)文鳥がいて、また使用について考えざるを得なくなった。そもそも、流木は当然一部が朽ちてボロボロのものがあり、これを恒常的に使用できるものだろうか?傷みも早いとすれば、木の種類も一定しない流木では、同じようなものを用意するのは難しいのではなかろうか?いろいろ考え、せっかく作った流木止まり木だが反故にすることにした。

 変化に富んだ形状は確かに利点が多い。しかし、直線的な丸棒にも利点はたくさんある。一定した品質が望め 、飼育上は使い勝手が良いし、文鳥にしてみれば見慣れた形で安心出来る。角材のように尖がりもなく、自然木のように節くれも無い(危険な節など適当に取り除けば良いだけだが)。つまり、概して安全性は高いと言える。
 結局、我が家では丸棒を選択し、ただ1.2cmより爪とぎ効果が期待でき、より太いものより場所をとらない直径1.5cmくらいの丸棒を止まり木にすることにした。

※なお、市販の止まり木は切断面の中央に縦に溝を切り、カゴの桟をはさむようにして固定設置するが、使用工具(糸鋸・彫刻刀・金やすり)の関係上、切断面をかまぼこ型に切り取り、網の間に設置するような形式で加工することにした。強度面はまだわからないが、この方式だと太さは無関係なので自然木を止まり木にするのも容易だ。長めに切断すれば、左右斜めに渡しても長さが足りなくなる事も無く、外れる心配も少ない。網目より細くすることで、ある程度遊びが出来、着地の際の衝撃を弱める効果もありそうだ。

 

材質

 少し太めの丸棒で止まり木を作ることに決めたが、次にその素材を考えねばならない。
 まず熱伝導性の高い金属は駄目だ。日光に当たれば握れないほど熱くなり、真冬には握れないほど冷たくなったのでは、役に立たないどころか有害となる。
 プラスチックは、素材として見かけるもの
(パイプ状のもの)は明らかにすべりやすいものばかりだった。

※だいぶ昔の記憶だが、カゴの付属品の止まり木にプラスチック製のものがあり、おそらくすべり止めのため横に溝が切られていたが、この溝にゴミがたまりやすかった。木製の止まり木にも、右のような(かなり使いべりしている)らせん状の溝を切ったものがあり、足裏を刺激して健康に良いと宣伝されていたが(爪とぎ効果を期待して購入した)、汚れやすい点は否めない。

 丸棒の代わりに麻などの太い縄を使用する方法も考えられる。しかし、ゆれるので脚の負担も少ない代わりに、当然安定性は低い。また、これも汚れやすいはずで、さらに繊維が絡まる危険性も考えられる。
 結局、木材が無難なところのようだ。しかし、丸棒に加工されて市販されている木の種類は、目にしたものだけでも何種類もあった。いずれかを選ぶ必要がある。

  木の種類 特徴 価格
〔 〕内は止まり木に加工した場合の1本あたりの費用
ラミン 南洋産の広葉樹。かなり重くて硬いが加工は容易。耐朽性は低い。やや黄色を帯び、木目は不明瞭。

(巨大雑貨店T)
1.5×90cm168円
〔→ 84円〕

  チーク 熱帯産の広葉樹。かなり重くて硬いが加工は容易。油分のため耐朽性に優れ虫害にも強く、特に耐水性が高い。褐色で木目も明瞭。

(巨大雑貨店T
1.5×90cm661円〔→ 330円〕

  樫(カシ) おもに国産の広葉樹。非常に硬く重いため加工は困難。耐朽性は普通。白樫はやや灰色を帯び、斑点状の木目。

(巨大雑貨店T)
1.5×90cm462円〔→ 231円〕

  欅(ケヤキ) 国産の広葉樹。重く硬いため加工がやや困難。耐朽性に優れている。木目が明瞭で美しい。

ホームセンターS
1.6×40cm
560円ほど〔→ 560円〕

桂(カツラ) 国産の広葉樹。やや軽く軟らかいため加工は容易。耐朽性は普通。ややくすんだ色合いで、木目はやや明瞭。

ホームセンターD
1.5×60cm128円〔→ 128円〕

檜(ヒノキ) 国産の針葉樹。軽く軟らかいため加工は容易。独特な香気があり、耐朽性に優れている。白色を帯びた明るい色合いで、木目は真っ直ぐで非常に明瞭。

(巨大雑貨店T)
1.5×90cm283円
〔→ 141円〕

杉(スギ) 国産の針葉樹。軽く軟らかいため加工は容易。耐朽性は普通。黄色みを帯びたものから赤みを帯びたものまで色合いに幅があるが、木目は真っ直ぐで非常に明瞭。

販売なし

 まず工作材の丸棒として、スーパーでも売っているほど一般的なのはラミンだ。いろいろな太さのものが容易に、そして最も安価に手に入り、わりあい硬いので爪とぎの面でも良さそうだ。しかし、文鳥は水浴びが好きな動物なので、この木材の腐りやすい性質が問題となりそうだ。
 チークは乱伐が問題となっている熱帯材のひとつだが、ラミンとは反対に昔から腐りにくいことで知られ、船の甲板に用いられるほど耐水性がけた外れに高い。見た目も褐色で美しく、熱帯材問題とその価格の高さも考えつつ使用を考えたいところだったが、握ると油分のためまとわりつくような感触があり、これを文鳥がどのように感じるかという点で不安が残った
(未購入)

 カシは木刀になるくらい硬いことで知られ、丸棒で販売しているとは思わなかったが、サイズもいくつか並んでいた。確かに実物を握ってみると重たく硬い。家で加工するのは大変かもしれない(未購入)
 ケヤキは乾燥して木材にするのが難しいと聞くので、丸棒に加工され販売されることは無いと思っていたが、短いものが販売されていた。確かに木目は美しいが高価すぎるようだ
(未購入)
 カツラはわりあい一般的な木材で、見た目が地味で格別特徴も無いように思うが、実際に止まり木を作ってみると、加工が非常に容易であった。

 ヒノキはスギと並んで国内木材の双璧として知られている(いたるところ植林された結果、花粉症を引き起こしてもいる)。木材にすると匂いでそれとわかるほどだが、その香りの元にもなる成分(カジノールなど)によって、抗菌性が高く、風呂桶の材料としても有名だ。軟らかいので爪とぎ効果の面ではやや薄くなるかもしれないが、木目にあわせて切り取れるので、加工は容易であった。
 なお、スギの丸棒を近所のホームセンターなどでは見当たらなかった
(写真はカゴ付属のスギと思われる止まり木)

 以上実際に見比べて(非常に軽く軟らかいバルサ材などもあったが省く)爪とぎを重視するならラミン、耐朽性などを考えるとヒノキが適材と判断した。
 あとはどちらの要素を重視するかだが、軟らかいというのは爪とぎ効果で劣る可能性はあるものの、着地の際の衝撃をやわらげる面もあり、やはり総合的にはヒノキが勝っているように判断した
(国内産の方が気楽という面もある。ヒノキやスギの丸棒はおそらく間伐材から作られるのだろうから「自然にやさしい」と言えるかもしれない)。止まり木に加工した場合の1本あたりの費用は、ラミンに対して倍ほどかかるが(ラミン丸棒はホームセンターでより安く販売されている)、耐朽性が高いので長持ちすることが期待される。

 そこで我が家では上段の止まり木を、ヒノキの直径1.5cm丸棒で作ったものを標準とすることにし、さっそく全面的に取替えた。下段の止まり木は、エサの容器が置きやすいように、直径1.2cmを使用し、ヒノキ材に順次交換しようと考えている。
 その評価は、ある程度使用経過を見て考えたいところだが、とりあえず取り替えた当初の違和感は無いようだ
(実際の止まった様子は左の写真参照)。今後も注目していきたいと思う。

※以来一年ほど使用したが(汚れが目立つと洗浄交換)、特に爪とぎ効果があるようには感じられない。我が家の場合つぼ巣が常設されているので、効果が表れないのかもしれないが、この点での効果を期待するのなら、一回り大きい丸棒でも良いかもしれない。
 腐食については、中には腐りやすいものがあるが、概ね丈夫で問題ない。
 設置のため止まり木の両端をかまぼこ状に切断したが、折れたり腐ったりはしていない。設置しやすく落ちにくいので、この方法はお勧めだ。(2005・8)

 

 

 その後、国内メーカーでも自然木の止まり木を製造するようになり、我が家ではカワイ社のニームパーチSを上段に使用するようになった。太さは直径1.5〜2.0cmほどで、材質は硬く腐食しにくい。すでに導入から2、3年経つが、爪切りの頻度は激減した。設置金具部分にもろさが出る場合もあるが、これはお勧めである。(2010/11)

以下余禄

 ガニ股で1.2cmではすべり加減だった文鳥には、とりあえず上述のらせん状の溝の入った止まり木にした(流木止まり木を拒否された)。この製品は直径が1.2cmよりもやや太いラミンの丸棒から作られているように見受けられる。

 片脚の曲がった老病鳥にも流木止まり木にしてみたが、湾曲が使いづらさにつながってしまった印象を持ったので(あくまで印象論)。1.5cm丸棒に変えた。止まり木に乗り難くなった時のために、右のようなヒノキ面皮材(円柱の木材から四角柱を切り取る際に4面に生じる半月型の余材)で「止まり板」を作ってみたが、今のところその必要はなさそうだ。

 木材の性質を調べながら、自然木を利用するなら、耐水性が高く弾力もあるとされる栗の木などが適しているような印象を持った。果樹園の剪定(不必要な枝落とし作業)は春になる前に行われるはずなので、その時期に農家の人にお話して分けて頂くと良いかもしれない。

 キハダなど薬効(胃腸薬)のある木にも興味があったが、「毒にも薬にもなる」と言うくらいで、薬は過ぎれば毒になる。薬効成分のアルカロイドの一種ベルべリンは有害ともされる。しかし、文鳥の場合、止まり木をムシャムシャ食べることはあまり無いはずなので、過度に心配することはないものと考える。


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