『文鳥様と私』Dの感想

 『文鳥様と私』の第5巻を拝読いたしました。

 全体的な感想、良い悪いは別として、あくどさが薄れ、この作品の力強さが低下しているように思われました。
 個人的には、内容うんぬん以前に、時系列があいまいで新たな文鳥の個性描写も少ないものを、単行本として巻数を重ねていく意味を理解しかね、特に今後の展開に興味もないので(自分の家で展開する文鳥たちの現実の方が面白いし忙しい)、愛読者の方々のように、期待や不安で以降を待つ気はなくなりました。

 4巻に引き続いて、1〜3巻にみられた飼い主としての問題行動が減ったような印象を受けますが、この「作中飼い主」氏は獣医さんその他から受けているであろう注意・警告・叱責の類を、断片的にのみ受け取って、思い込みと止むに止まれぬ(と自分では思っている)情念で行動する傾向が濃厚なだけに、結局問題だらけの行動をとっており、作者はそれをまったく無自覚に描写しているような気がします。

 巣立ち後の若鳥にかまれて、「痛いっやめなさいっ!」と振り払ったりすると、「大きくなって人間の手を怖がる文鳥になっちゃうかも」というのは、まったく正しい認識だと私も思いますが、だからと言って、皮膚を噛み千切られ血を吸われても「人間はひたすら耐える」などとするのは、まったく正気の沙汰ではありません。
 振り払われれば、巨大生物の圧倒的な攻撃と文鳥は認識するでしょう。しかし、噛み付いても無反応な物体を、どうして文鳥は食べ物ではないと認識できるでしょうか?これでは、わざわざ人間の皮膚を食べ物と誤解させ、人食い文鳥をつくっているだけと言えます。
 文鳥が噛めば、他に注意を向けさせ、かまないように導くのは当たり前の話です。「痛いよ」とにっこり笑って指でクチバシを摘めば、「ああ、強くかまなくても良いのだなあ」と、文鳥もはじめて学習します。文鳥に限らず、犬なり猫なり人間なり、幼い者同士がじゃれあい小突きあうのは、その反応から、仲間に対する手加減を覚えるためなのです。
 私は、文鳥にかまれて血が出た経験は皆無なので、そのような経験を他の飼い主さんから耳にするたびに、不思議に思っていたのですが、もしかしたら、この「作中飼い主」氏のように、振り払わない=噛ませ続けると不思議な誤解をして、ごく普通の指導を怠った結果なのかもしれません。
 過剰反応で暴力と受け取られてはいけませんが、無反応でもいけないのです。妙な誤解をして思い込み、不必要な苦行をするのは無意味以上に、有害なのです。

 「作中飼い主」氏は、自分の体験から反省し、巣引き禁止として巣を撤去したのはご自由ですが、その後当然予想された、ありとあらゆる場所で産卵されてしまう様子が描かれているのは、どう考えれば良いのでしょう(巣がなければ産卵しないと言ったのは傲慢だったと、わざわざ作中で反省してみせるくらいですから、事前にその可能性が大きい事を、周囲から指摘されていたに違いない)。
 この描写を見て私が心配するのは、抱卵も出来ずに産卵し続ける事になるのではないかといった点です。いったいどのくらいの間隔で産んでしまっているのかわかりませんが、あまり頻繁なら、巣を入れて抱卵させたほうがマシではないかと思います。
 これは、産卵を止められない悩みをもったことのある飼い主なら、「作中飼い主」氏の当惑している様子を笑っているだけでは済まない問題です。また、初心者が「産んでも片付ければいい」などと安易に理解したら、危険極まりないことになります。

 そのように巣引き禁止と言いながら、結局兄妹婚の子供と祖父との超近親婚を許し、「ブロックにあい卵をとりだすことができず」などと理由にならない理由で(相手は25gの生物。マゾ的に日常的にかまれながら、この場合のみかまれるのが嫌だと言うのなら、スプーンでも何でも人間的に道具を使えば良いだけの話)、超近親の子を誕生させてしまっています。これは私に言わせれば、以前にも指摘したように、飼い主として悪夢的な暴挙です。
 まさに奇跡的に健康そうな子に育ったようなので(他の卵は孵化しない?)、この「作中飼い主」氏は、あまり問題に感じていない気配ですが(父親が相手より祖父の方が血縁は遠いなどと言っている・・・)、この「作中飼い主」氏の考え方は、露骨に言って、あまりに無知蒙昧で近視眼的です。問題は起こってしまってからでは遅いのです。
 このようなマンガを読んで、近親交配しても問題ないなどと考える人が増えない事を祈るばかりです。

 以前から気になっていましたが、この巻でも、放鳥中に平気で横になって眠っている「作中飼い主」氏の姿が描写されています。このシーンを笑って見られる飼い主は、よほど精神修養を積んでいるか、もしくは無自覚なだけだと思います。眠っている飼い主の顔などを、文鳥たちが噛み付くわけですが、この状況がどれほど恐ろしいものか、実際に事故を体験しないと理解出来ないのか、私は不思議でなりません。
 これも他人に起きた不幸など自分には関係ない、「私だけは大丈夫」、といった浅はかな感覚のなせる能天気な行動に過ぎません。私は幸いにして、最悪の事故の経験はありませんが、「朝起きたらベッドに・・・」などと言う悲惨な体験談は、実にありふれたものです。マンガにあるからと言って、間違ってもマネをして、事故を起こす人が現れないように願うばかりです。

 以前も指摘しましたが、この作品はいちおう現在進行形で、他人の忠告もそれなりに聞き流した上で、自分で失敗しない限り実行し続けている行動を、初心者が読んでマネをしたら、次の巻では破滅が待っていてもおかしくありません。さらに作品には描かれない悲劇的結果を、初心者自身で体験する事になるかもしれません。
 どのように考えても、初心者に薦めてはいけないマンガだと私は思います。実際の飼育は、面白いで済む問題ではないのです。文鳥の飼い主として初心者であると思うなら、それなりにまともな飼育書の一冊でも読みこなし、数年実際に飼育を経験してから、このマンガを読むのが無難というものでしょう。