田中裕子の『赤ちゃんに贈る絵本ガイドブック 0才から3才のために』
 『赤ちゃんに贈る絵本ガイドブック』は、1995年に初版を発行しました。
ブックサービスでこの本を購入する
 今でこそ、「ブックスタート」という名前で自治体が主体となって、
赤ちゃんに絵本を手渡す試みが、各地でさかんに行われていますが、
この『赤ちゃんに贈る絵本ガイドブック』(通称:赤い本)が発売された当初は、
赤ちゃんのためのブックリストは少なく、
いろいろなところで使っていただいたものです。
 その後、類似本はたくさん出版され、またインターネットの普及で
さまざまなブックリストが氾濫する状況となりましたが、
赤ちゃんのために本を選ぶ、ということについて、
田中裕子の考えたことを、あらためてみなさんに紹介したいと思います。
 少しずつになりますが、こちらにアップしていきますので、
なにかの参考にしていただければ幸いです。

はじめに

 子どもの本屋をはじめてもう何年もたちました。その頃小さかったわが子達も、もう成人し、手垢のついた大小の子どもの本だけが本棚の奥からにこっといたずらっぽく笑いかけてきます。やがて数年後にこれらの本は、わたしの子どもの子ども達の歓声とともに、ペタペタといじり廻され、舐められ、めくられて、再びにぎやかに本棚の中で動くことになるでしょう。「おばあちゃん、ご本よんで!」「もういっぺんよんで!」とせがんでくる光景を思い浮かべるだけでも年令をとることも満更ではない、ぬくぬくとした幸せな心地に今からなってきたりするものです。
この小冊子は、はじめて親になったお父さん、お母さんが、どうしたらもう少しゆったりした心を保ちながら、幸せな親と子の日々を過ごせるかを、短くまとめたものです。
 本当は、もっと言いたいこと、いろいろの方々の実践や研究のご紹介や、引用も散りばめたかったのですが、若い方々のために、このくらいの量に押さえたことで、2人より5人、5人より15人の人に読んでもらえることを願い、基本的なはじめの一歩にとどめました。関心のある方は、また次のステップに立ってくださるでしょうし、また新たな問いかけも視野も広がっていくことでしょう。小さなわが子にどういう風に、どんな本を選びたいか、育児の第一歩のご両親のために、また、やみくもに、大人の好みで本を買い求められる(失礼ですが、めちゃくちゃな)親やおじいちゃま、おばあちゃまのために、役にたち、喜んでいただければ言うことはありません。どうぞゆっくり頁をめくってみてください。
3才前後からの子どもの本のガイドブックはいくつか、既にでているので、あえて省略し、ほとんど無いに等しい、0才から3才前後までの絵本の手引きに終始しました。

目次

絵本以前に育む親と子どもの日々

赤ちゃんとあそびましょう
わらべうた こもりうた 童謡をお母さんの声で
赤ちゃんにどんな顔をしていますか?
赤ちゃんの本を選ぶのはむずかしい
あわてて絵本を買わないこと!
はじめてのほんの選び方
いつごろから どんなふうに
大きさと重さ
絵ははっきり、明るく、ていねいに描かれ、温かいものを
一頁、または見開き二頁に一つの絵を
色彩感覚を養いましょう
2才前後の絵本
絵本の読み方
文字なし絵本
美しい日本語を
お父さん、お母さんの作るお話や手作り絵本 紙芝居
絵本が好きになったお父さん お母さん
本を選ぶとき こんなことも
お父さんの出番待ち
1冊の絵本の読まれ方
小さなコミュニケーションからはじまります

質問に答えて(Q1〜Q16)
お父さん お母さんにお勧めしたい本
赤ちゃんから3才前後のために選んだ本
あとがき

装丁・カット 土田義春

絵本以前に育む親と子どもの日々

赤ちゃんとあそびましょう

 生まれたての、触れるのも怖いような赤ちゃんも、二ヶ月たち、三ヶ月たつ頃には、目を開けている時間が多くなっていき、ふしぎそうに、じっと身の廻りの人や物を見つめるようになります。じっと見ているけれど、見ているものを通り抜けるようなもやもやとした表情をしていますね。本当にこっちを見ているのかしらと少し心配しながら、名前を呼んで抱き上げているうちに一日毎にその目の焦点が、次第に、ああ、こういう風に定まってくるのだなあと納得させられるのが四ヶ月前後でしょうか。この頃になると体重は生まれたときの二倍になり、手や足を活発に動かし、顔を近づけると顔中をほころばせ、口元をさまざまに動かして、声を立てて笑います。この無心の、喜びを全身にみなぎらせる時期の赤ちゃんを見ているだけで、もう何もかも放りだして一日中赤ちゃんの傍にいたいと思ってしまいます。
 赤ちゃんが一番喜ぶのは、いつも顔を近づけ、笑いかけ、ことばをかけてくれ、抱き上げてくれるお母さん、お父さん、おじいちゃんやおばあちゃんや兄姉でしょう。こんなにも喜んで、小さい体の全身で、アアァー、ウクンウクンと声を発する、その可愛らしさに、私たち大人は身も心も洗われていき、何とも言えぬやさしい表情で向き合っていることにあなたも気づかれるでしょう。大人として明け暮れる日々のもろもろのことが吹き飛び、生まれたての、すべて私たち大人に身を委ねているこのいたいけな赤ちゃんによって、私たちは、もう一度、新たに生きる喜びをかみしめています。むしろ、目の前の赤ちゃんに、大きなありがとうを心の中で、言いたくなるほどです。
 何故、このような当たり前のことに、こだわるかと言うと、この一番はじまりの、声をかけてもらうことに、身体中で喜びを表す時期からの、赤ちゃんとの生活が、その後の親と子の一番大切なはじまりの時だと思うからです。どんなに世の中が合理的になろうと進歩しようと、また、家族構成がいろいろであろうと、親に育ててもらえない環境の赤ちゃんだろうと、赤ちゃんに心からのやさしい笑顔、温かいよびかけを、してあげられるだけこの時期にかけてあげて欲しいのです。ここで、十分に大人が赤ちゃんを大事にできたら、その後、ずっと続く、子どもと大人の関係にもっとも大切な幸福感、信頼心、生きる喜びが赤ちゃんの心の中に育まれるに違いありません。


わらべうた、こもりうた、童謡をお母さんの声で

 ありのままの気持で、赤ちゃんにことばをかけている風景は何とほほえましいことでしょう。「○○ちゃん、おめめがさめたのー」というだけのよびかけでも、「○○ちゃん、○○ちゃん、おめめがさめたのねー」と節回しや声の大きさを変えるだけでも、赤ちゃんはうれしそうに笑ってくれます。くり返してもらうこと、節をつけてもらうこと、楽しそうに赤ちゃんの顔を見ながらあやしてもらうことがうれしいのです。これに手や足や身体も動かしてあげると、本当に体中で喜んでくれます。こうした語りかけの楽しさの中に、日本で唄いつがれたわらべ唄や子守唄、童謡などリズムのよい、わかりやすい曲をくり返し、くり返し唄ってあげるとなお一層喜びがふくらんでいきます。耳を通してリズムを覚えてしまい、身体も動かすようになったりして予想以上に、楽しさが親子の間に広がっていきます。大人の生活の中で、気分がイライラしたり、沈んだりした時なども、逆に、声を出して自分のために唄ってみたりしてはいかがでしょう。

赤ちゃんにどんな顔をしていますか?

 心が満たされない赤ちゃんの場合はどうでしょうか? 泣いたり、ぐずったりしても、抱き締めたり、あやしてあげないばかりか、こわ張ったこわい顔をして自分の都合や気持ちを優先していると、だれも見ていない居住空間の中で、徐々に赤ちゃんにもわかっていきます。喜怒哀楽や感情の育たぬ赤ちゃんが育っていくのです。やがて、ことばが少ない、思い切り遊べないなど、生きていくことが喜べない人間になるのではないかと、その子の将来が心配です。テレビ任せにしている場合もそうです。そしてこういう赤ちゃん、こういうい子どもに、ある日、ある時、急に絵本を見せはじめ、読んであげても、本当の意味での本の楽しさ、読んでもらう喜びが体得されていないのに、それがわからず熱心に本を与えているケースというのが、意外に多いのではないでしょうか。表面からは見分けにくく、わかりにくいですが。
 現代のように祖父母と離れ、一世代で暮らしたり、マンションなどに暮らしていると、余計に人工的な中での暮らしが、人々に、温かい気持ちを失わせていくのが目に見えるようです。個人主義が発達してくると、自分中心の生き方、物の見方が、人以外の生きもの、自然へのおののき、畏敬などを忘れ、知らず知らず、今、目の前にいる赤ちゃんは、私たちの赤ちゃん、私の赤ちゃんといった、せばめられた小さな存在にしてしまう危険性もでてきます。表情がかたく、母親の美しさが十分花開かぬまま、母親だけが力んだり、オロオロするのではなく、父親も共に失敗し合いながら、周囲の祖父母、隣近所、友人たちに見ていってもらえるように、常に一人よがりでなく、謙虚に、フレッシュに生きることです。他人の言うことが素直にきけない未熟な親にならないように、できるだけ自分の姿をふり返っていきましょう。

赤ちゃんの本を選ぶのはむずかしい

 若いご両親が、赤ちゃんの泣き声を聞き分けるのがむずかしいのと同じように、沢山の本の中から、今、どの位の内容のものを見せたらよいのか、赤ちゃんの側に立って選ぶことへの不安と戸惑いを持つのは、当然の姿だということをまず素直に認めてください。「大人なのだから赤ん坊の本くらい選べますよ」という、高い所か見下す先入観をまず捨てること、白紙にもどって赤ちゃんとの第一歩のところまで、心も目線も下げてみてください。こだわりを除かないと本だけでなく、赤ちゃんとの本当の生活ははじまらないと思います。離乳食をはじめるのと同じです。果汁を一口、次にすりつぶした野菜、粗みじんの次の食物、そしていろいろな食物へと、品数を増やして健やかな身体の成長を願うのと同じように、赤ちゃんの目や耳を通して、心の中に、その一冊の絵本がどう重ねられて行くか、洋服や靴のサイズを選ぶのと違う楽しさに夢をふくらませて、さあ、はじめてみましょう。
 大きな声援をかけたものの、はてさて今の日本の現状の中では、本当は、とてもむずかしくなっていますけれど。

あわてて絵本を買わないこと!

 今、日本で次々に出版される絵本の量がとても多いこと、本屋さんに置いてある絵本の質や内容が、赤ちゃんや子どものために、ということは二の次で玉石混淆、売れそうな本(即ち、出版社と書店=大人の利益優先)を目立つように並べるやり方がほとんどであったり、絵本のことがよくわからない書店スタッフに任せているため、余計戸惑うのが実状で、若い親の夢ふくらむ思いを満たせる本に出会うことが、本当にむずかしくなっています。次の世代を育むことをなおざりにした、日本の今の世界が映しだされていることにもちょっと目を向けることも大切でしょう。
 あわてて買わないこと! 同じような本が、いくつもいくつも並び、消えていき、また作られています。本の形こそしているけれど、お粗末な、子どものを見くびった他愛のないものが平気で作られているのは、今に限ったことではないとしても、では、お母さん、大事なわが子のために、賢く、惑わされず、ここであせらず、一歩引いてみたらいかがでしょう。赤ちゃんは、朝起きて、夜眠るまで、見たり、試したりすることがいっぱいあるのですから、本が少し位手元になくてもどうということはありません。つまらない本を見せられるより(折角買ったのだからと)、それよりもっと面白いことを自分で見つけているに違いありません。
 全体の傾向として、少人数しか生まなくなったわが子への思いが高まったこととか、本がわが子を賢くするのではないかという期待から、絵本への関心が高まっているのが伝わってきます。日本の社会全体、高学歴になったことも大きいでしょう。おもちゃよりも、本のほうにより関心が高いというのも、少し頭を切り替えてはいかがでしょう。本の形をしているものであればわが子を賢くする、という親の願望があるとしたら、洋服のボタン、空き箱、広告の紙、お鍋の蓋、なんんでもかんでも赤ちゃんにとっては、たしかめたいもの、遊べるおもちゃです。ドイツをはじめとするおもちゃには、ちゃちな絵本など吹き飛んでしまう美しい色調と、工夫された丈夫で楽しいおもちゃが、子どもたちを魅了しています。形、色、手触りなど、何十年たっても部品も変わらず、買い物求められることを学ぶべきでしょう。(おもちゃは、自分の思うままに、一人でも、皆といっしょでも自由にあそべますし)。

はじめてのほんの選び方

いつごろから どんなふうに

 いつごろから絵本をみせたらよいのでしょうか? という質問はとても多いのです。一方、うちの子は○ヶ月ですがもう喜んで見ています。という実際のいろいろの報告が沢山でています。研究者、実践者の間でも、這い這いする前にはじめるよう勧める人がいたり、いろいろですが、お誕生前後から、その赤ちゃんの関心を見ながらぼちぼち様子をみていくのではいかがでしょうか。くり返しますが、本以前にたっぷりと親と赤ちゃん、祖父母と赤ちゃんとの日々を大切に育んでください。  這い、触り、なんでも舐めてみる時期に、本もおさじも、スリッパも、おもちゃも同じものであり、本という特別のものではありません。お父さんやお母さんが頁をめくり、開けてくれた絵を、頁毎に大人しく見てはいないでしょう。頁が変わること、何か色や関心のあるものを見つけた時、それをほかの頁よりも少しだけ長くじっと見ているのが、そもそものはじまりでしょうが、次の瞬間バタンと閉じて、別のものを触っています。わが家の場合、黄色いおもちゃのくまの頁の処へくると、その一頁だけは、次の時も、じっと見ていました。多分、正面向いた顔に関心があったのでしょう。正面を向いた顔の絵は、人の顔でも動物でも特に好きです。このように、普段実際に見て、知っているものを本の中で見つける時、はっきりと喜びの表情と動作をします。実際赤ちゃんが見たり、触った身近なものを、本のなかで見つける。自分が見て、知っているスリッパ、はぶらし、トマト、おかあさんを絵本の中で、確かめることで、物と物の名を自分のものにしていきます。まだ、ことばにはならなくても、耳と目と全身で一つ一つの絵を見分け、物の名を聞き分けているのです。絵本には、こうした再認識できる喜びがあります。そして自分のために読んで見せてくれる大人への信頼と喜びが太らんでいくのです。イヌよ。ワンワンよ。ワンワン、ワンワンと何回も犬の絵を見せてもらって、犬という動物を自分で認識し、イヌということばを獲得していきます。やがて、ニャーニャーどこ? というと、指さしたり、絵をたたいたりできるようになって、実際に見る犬や猫を目で追ったり指さしたりして、本と、実物を確かめて喜びます。物の名を耳で憶え、ことばを身体の中で育んでいきます。ここで、おさじよ。ブーブーよ。と、赤ちゃんに一つ一つわかるように教えてあげなければ、その赤ちゃんは、人間にとって必要なことばを獲得していけないのです。  狼に育てられた少年の例や、耳に障害のある子どもの場合など、ことばを自分のものにしていくことの大切さは測り知れぬものがあります。

大きさと重さ

縦横一頁が15cm前後で、10頁〜12頁位のボードブック(厚紙仕立)を、はじめの一時期おすすめします。それは、絵本もおもちゃもまだ区別がつかず、かじり、舐め、しゃぶり、放りだす時期だけに、丈夫で、安全で、めくりやすく、重くなく、よちよち歩きの赤ちゃんが握りこんだり持ち歩くこともでき、赤ちゃんの目にも描かれた絵の大きさは自然で無理がありません。

絵ははっきり、明るく、ていねいに描かれ、温かいものを

 赤ちゃんの絵本をふくめて、日本の絵本は甘ったるく、可愛く、淡く、抒情的な傾向が強いのですが、ヨーロッパの国々の絵本はどちらかといえば、赤ちゃんの本もふくめて、リアルで、クールという違いがあります。ぼかしたり、にじんだ輪郭のものは、耳の発育に比べて未発達の赤ちゃんの眼には、焦点を合わせにくいものです。反応を見比べてみてください。色の使い方も、淡々しい色使いのものは、赤ちゃん時代を過ぎてからの方がよいでしょう。(大人の好みで、こいういうものが多く選ばれますが、もっと赤ちゃんの今に合った絵本を見つけてください。)

一頁、または見開き二頁に一つの絵を

あかちゃんのずかん 1・2・3
なかえよしを+上野紀子
グランまま社
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 一頁の中に一つのはっきり描かれた絵が、はじめて本に出会う赤ちゃんの眼に無理がなく、焦点を合わせやすいのです。ゆっくり、くり返し、くり返し見せてあげ、声を出して読んであげましょう。どの絵、どの色のものを見ていますか? 温かく、ていねいに絵が描かれていること、色調も明るくて、心地よく、はっきりしていること。それは、これから、育っていく赤ちゃんが、はじめて本に出会うにあたり、一日の始まりのあの初々しい朝のように、心はずませることのできる、楽しく、質の高いものを選ぶことです。
 温かさが感じられるというのは、画家の心が、赤ちゃんをどう大切に考え、どう思って描いたのかが絵の全体から読みとれるかどうか、ということです。この作者からのメッセージが、赤ちゃんとの見えない対話になり、くり返し選んでくる本になるのです。これは、3才過ぎても、ずっと子どもの本に共通したポイントです。絵と同じで文を書く作者からのメッセージも同じことがいえます。

色彩感覚を養いましょう

 赤ちゃんがはじめて絵本を見て関心を寄せる色は、私が経験した所では、赤・青・黄色が多かったのですが、あなたのところではいかがでしょう。なにに関心があり、どの色のものをじっと見ているか、どの頁になると、声をたてたり、頁をたたいたりするか、見ていくと、とても楽しみなものです。
 省略(デフォルメ)された絵と、具象(リアル)の絵と両方のどちらもよいと思います、実際に見ている犬や猫やお花と同じものを絵の中で見れた方がよいとは思います。ただ赤ちゃんの眼が未だ焦点を合わせにくい発育段階のため、デフォルメされた絵がこの時期に見やすいということはあります。デフォルメの場合は、ぞうやうさぎの特徴が、心地好く、だれが見てもぞうやうさぎに見えて、絵が美しく、力のあるものを選んでください。特にD・ブルーナの動物の絵は、色彩感覚も含めて秀逸ですが、印刷されたもの、選ばれた紙質により本来のD・ブルーナの良さが損なわれているものもでています。
 赤ちゃんの眼が未発達だからといって、やたら、発色効果満点のけばけばしい、落着きのない、いかにも、子どもだましのようなものは、確かにテレビのどきつい画面と同じように、じっと見ているかも知れませんが、見たというのと、本当にその子が見て、身体の中に蔵いこむのとは違うということを、しっかり留意しておいてください。
 近頃、日本の印刷技術が高くなり、光沢のある紙で、絵をいやが応にも鮮やかに見せようとする絵本も目立ちますが、赤ちゃんや子どもの眼には、もう少ししっとりと、いつまでも見あきない、心に残る美しい絵本の仕上がりのものを選びましょう。
 では何がきれいで美しいのか……、大人が子どもの本を選ぶとき、ある人は、W・ディズニーの色合を美しいと思い、ある人は、アニメなどで見慣れた色使いだったり、この美しいとか、きれいということは、とても奥の深い、日本人の文化にまで辿りついていく問題でもありますので、この本のなかで取りあげた本、取りあげなかった本ということで、一つの参考にしてください。
ぼくとわたしの せいかつえほん
つちだよしはる作
グランまま社
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 沢山の若い親に会い共通して言えるのは、自分がかつて親に読んでもらったものを思い出し、わが子にも与えたいという思いでした。ディズニーで育った人はディズニーをぜひと思い、○○が良かったと思っている人は、○○という絵本作家のものを、思いこんでいらっしゃるのですが、少し、視野をせばめられていると思うのです。と同時に、いかに子どもは親が読んでくれた本で育つかという現象をいやというほど感じます。もう一度、広い視野と展望に立って、ご両親でわが子のことを見てほしいと思います。
 私達が目で見る自然の美しさ、四季の彩り、すぐれた文化遺産、日常身にまとう衣服、食卓での料理の盛り合わせ、食器など生活習慣の中で美しいと思うものに赤ちゃんが心を動かされ、豊かな情感を育てていくそのはじまりは、身近な大人たちのあるがままに染まっていくのです。心にいつまでも残る絵本を選んであげましょう。とかく今は、全体にケバケバしく安易な絵本が目立ちます。

二才前後の絵本

 開いているのかいないのか、つかみどころのないところをいったりきたりして、このくり返しを重ねているうちにお父さん、お母さん、勿論おじいちゃま、おばあちゃまなど身近な人たちが、お膝の上で、必ずゆっくりと、自分のために、何か見せてくれるのだなあということが、少しずつ、わかってきます。赤ちゃんがこの時を楽しみにするようになってくれば、長いトンネルの先に明かりが見えたようなものです。赤ちゃんは本が何であるかを身体で憶えはじめたのですから。そのうちに、くり返し見せてもらいたい絵本がでてきます。辛抱強く付き合ってください。文字は、かなり大きく2〜3行位でごくごく短く、わかりやすく、リズミカルにまとめてあるものを、絵を見ながら、ゆっくり読んでいきます。簡単なストーリーのついた頁数の少ない薄い絵本です。
はんしろうがわらった
せなけいこ作
グランまま社
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 この周辺の長い長い、道のりを、急がず、ゆっくりやっていると、一気に、花が開くように、お話の絵本に入っていくのには、本当に感動させられます。聞くことの喜びがもうわかっているのです。驚くほど、一冊の絵本を次々に読んでもらうことを喜ぶようになります。そして、いかに赤ちゃんが、育てられた環境の中で、驚くべき成長をとげていくかに、大人は、はっと胸打たれ、感動しながら、明日に向かって共に歩んでいくのではないでしょうか。本は、大人が楽しく自分といっしょに過ごしてくれる幸せな時間であり、体験なのです。読んでくれる人がいて、いっしょに見てくれる人がいて、本は、はじめて赤ちゃんに手渡されていくのです。本がその家に何冊あろうと、本と赤ちゃんが、本当の出会いをしなければ、本は、ただの紙の束、物、でしかないのです。
 2才前後には、まだ早いかなと思う本まで、一頁一頁、頁の絵をくいいるように見つめながら、読んでもらうことに集中していきます。子どもの集中力のすごさに目を見張り、長い一冊を読み終えた直後、すかさずもう一回読んで! と言われることが何度も出てくることを覚悟していてください。たとえ長くても、子どもが興味をもって最後まで聴いているのは、明らかに、物語性にすぐれ、起承転結がきちんとして、勿論、絵がすばらしいものです。そして読み手の心も、高揚していき、読みにくさがありません。
 子どもが興味を示さない場合もよくあることです。子どもくらい正直なものはないので、本に出会う下地がなかった子、つまらない絵と内容のとき、興味のないテーマ、年齢とその子の成長に合わないものは受けつけません。(但し、子どもが喜んだものが、ベストかというと、これにも、問題がありますが……どぎつい怪獣絵本など)、無理に、沢山のものを与え過ぎたり、詰めこんだり、いろいろな要求をしないで絵本そのものを直に楽しめるように、くれぐれも大人は出過ぎないよう注意しましょう。子どもの側に立って子どもの今をわかってあげられるように。

絵本の読み方

 絵本を読むときだけ、改まった声や口調になる必要はありません。ごく自然に普段の生活での会話と同じように読んであげればよいのです。夫々の家庭らしく、といえばよいでしょう。はじめての絵本もふくめて、子どもがお話を十分に理解できるよう、できるだけゆっくり、無理のない声で、心をこめて読んでください。頁のめくり方も、まだその子がおはなしの絵を見ながら余韻を楽しんでいるのに、次の頁をめくって読みはじめないように。決して急がず、その子どもの気持ちを汲みとりながら進めてみましょう。
 絵だけ一つ書いてあるはじめての絵本も、指で指してあげることも、自然にやってみたらよいと思います。それから、少し複雑な絵本に移っていった時も、文に合わせて、その絵を指してあげるのも、時にはよいでしょう。絵本をかなり読みとれるようになったら、その時は、物語の世界に一人で入り、聴きいっていることを大切にし、親の気持ちを押しつけたり、割りこませないように、気を使って下さい。

文字なし絵本

文字の読めない時期が長くつづくので、絵本は大人から子どもに読んであげるものと思いこんでおられる傾向がほとんどではないでしょうか。3才前後になった子どもが、字のない絵だけの絵本を見ながらおはなしをする、聞いてあげる。…これ、とても大事です。子どもが自分の目で、見たもののおはなしをする…それを受けて大人は大事に聞いてあげる…。絵本の内容にもよりますが、絵を見て、その年齢の子がどう捕らえ、どう想像力を広げようとしているのか、とても興味深いものです。自分のことばで、親しい人に聞いてもらえるのは、子どもにとってとてもうれしいことです。日本は、とりわけ、文字の多い本を買う傾向が強く、それゆえに文字なし絵本が少ないのですが、大切なわりに見落とされています。

美しい日本語を

海外生活も多くなった日本人ですが、美しい日本語を赤ちゃんに、聞いてもらいましょう。今、私達が日常普通に聞き、話し、そして読むことばは、父、母、祖父母、曾祖父母からの日本のことばとして、伝えられてきたものです。このことばを美しい、さわやかな母国語として、次なる世代へと伝えて行くこと、これは、ことばだけでなく大切な日本の文化でもあります。汚い、乱暴な、周囲におかまいなく声高にことばを交わしていると、家族というものは、そっくりの口調、音声、リズムになることは、電話に出た親子を間違えるほど聞き分けられない経験でかなりおわかりのことでしょう。乗物、人込みの中で、家族内と公衆の場の区別もできない人達に出会うと、本当に情けなくなります。親や、身近な人の話し方に、そっくり同じになっていく赤ちゃんのことを考えると、この辺で夫婦が、自分自身が、どういうことばを、今、自分がしゃべっているのか、振り返ってみるきっかけにされたらいかがでしょうか。赤ちゃんの耳が、100%の白い吸取紙だということをお忘れなく。

お父さん、お母さんの作るお話や手作り絵本、紙芝居について

絵やおはなしを作ることが好きなお父さん、お母さん、そして保育園の先生がおられます。印刷された、市販のものでないけれど、うちのAちゃんは、今、蟻に興味があるからと、お母さんが思いつくままお話にして、聞かせてあげました。とても喜んだので、それに絵をつけて、画用紙で、絵本を作ってみました……。喜んでくれたので、また、もう一冊と、そんな、素朴な、温かい手作り絵本が作られていくのも楽しいですね。ある時は、親と子でいっしょにとか。たった一冊しかない、そのお家のお宝ではありませんか。紙芝居も、大きさは自由ですし、上のお子さんが、下の弟妹に作ってくれたり、目を見張るようなものも生まれてくるものです。

絵本が好きになったお父さん、お母さん

かつて子どもだった時、絵本を沢山読んでもらった人、そして学生時代、絵本を好きだった人は、割合、楽しそうにわが子と絵本のかかわりに入っていけるようです。とはいっても、自分が楽しんでいた好みのものと、わが子のものとでは、やはり、戸惑ってしまうというのも確かでしょう。そこで、わが子に絵本を選んだり、読む立場になった時、とことん、もう一度、子どもといっしょに絵本の世界にどっぷりつかってみると、思わぬ喜びがあり、やめられなくなってしまいます。親の方が夢中になって、気に入った絵本を大事にしまって、子どもに時々大事に見せるなどというほほえましい光景がでてきても大いによいのです。
絵本は、子どもがはじめて出会うものであり、いろいろのものを感じとり、想像する原点でもありますから、子どもといっしょに同じ原点にもどり、大人である自分をちょっと脇に置いてみることによって、洗われるような瑞々しさやエネルギーが湧いてくるのも子育て期の喜びの一つといえましょう。子どもの視線、子どもの心が読みとれる柔軟性のある、しなやかさを持ちつづけるためにも、絵本を、子どもに読んであげるだけに留めず、いっしょに楽しんではいかがでしょう。お母さんが、生き生きと微笑み、いそいそとしていると、子どもにそのうれしさが伝わり、一冊の絵本は、何と豊かな宝物になるか、はかり知れません。

本を選ぶとき こんなことも

どういう本を選ぶか、という一つの手がかりとして、最終頁にある奥付を見てください。初版 年 月 日 ◎ 刷 年 月 日というように。逆に、子どもが何回も読み返す絵本の奥付を繰ってみて55刷などと印刷されていることから子どもに愛読されてきた歴史に納得したりといった順序でも面白いです。 そして、大事なのは、その時、子どもが、どんな本を見たいかです。2才の子どもでも、もう立派に自分の選びたい本があり、その1冊が、親が選んだものより、ずっと良いものを選んでくることに何度感動したかわかりません。子どもの眼を信じてあげること、折角、一生懸命選んできたものを、頭から否定したり、他の本に代えたりしないことです。(たとえ、歯ぎしりしたくなっても)そのためには、図書館もその一つですし、子どもの本を大切にしている本屋さんを選ぶことも一つのポイントでしょう。親だけでじっくり何冊かの本をまとめて買いに行く日と、子どもも連れて行き、1冊よと約束した上で子どもの選んだ本を買ってあげるなど、子どもの出番を作ってあげることも、大きな喜びとなって、大切に何回も読んでくれるものです。それは、お母さんの好みではなく、自分で気に入って選んだ本だから、隅から隅まで見てくれる筈です。

つづく

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