◆Caution! bloody marry! ブラッディー・マリー、気をつけろ! 〜警戒心をかもしだす、ガイドブック〜 銃社会のアメリカ、といっても「ロスアンゼルス」ときけば大概の都会ではあるのだから「それなりの安全」が敷き詰められたエリアだと思っていた。ところがいざ『地球の歩き方』をめくってみると、用心につぐ用心 、注意喚起のオンパレード!紙面のいたるところに警戒心をかもしだす文面が散らばっている。 いくつか、その内容を抜粋すると――「空港から市街地までを走るMetro Railでは、昼間は問題ないが、夜間の利用は避けたい。」/「ナイトスポットに行く際には必ず複数人で行動をすること。」/「ひとつ路地が変われば治安が悪くなるので注意。危険なエリアの見分け方としては、ちゃんとした身なりの女性がいなくなる、窓に鉄格子がついている等。」 ――いったいどんな所なんだ! はからずしも 想像は膨らみ、「今回ほど海外保険の かけがいのある旅もないなぁ。」――と、妙な損得勘定をはたらかせ、松竹梅でいうところの"松保険"をガッツリ申し込んで、成田出発の日を迎えたのだった。 ◆Is it graceful to rent a car?! レンタカーは奥ゆかしい? さて、いっとう用心深くなってしまった私は、飛行石をつっつく ムスカのように 現地では時折り慎重な行動をとるようになっていた。そのケアフリーな行動(注:ルー語)のひとつとして、今回の旅の目的の1つだった、 レンタカーを借りに行くときの出来事がある。ダウンタウンのリトル・トーキョー(china townの日本版のようなモノ)の近くに「サクラレンタカー」という日本人スタッフのお店があるのだが、どうも店頭の様子がヘンだ。 ガラスの貼り紙には「ホームヘルパー、やります。」と書いてあるトナリに「今週のロト6 当選番号!」が掲示されていたりして、多角経営にもほどがあるといった体裁なのである。 「レンタル屋がツブれたのかも?」と思いつつも、英語でそのディテールを伝える術もない私は、《 日本語対応可能 》という広告の文句を信じ、toll free(料金不要)へと電話をかける事にした。つかった公衆電話の位置は店舗から距離にして わずか0.1マイル(約160m)。……とんでもないチキンであるのだが、とにもかくにも 25centコインを投入口に飲み込ませ、ダイヤルをプッシュするのだった。
トゥルルル・トゥルルル ・ "カチャッ"――「Hello!」 (ガッデム!!!……英語か!こんちくしょう!)という思いを、(アメリカにきて なに言ってんだ)という冷静なつっこみで ぐっとおさえ、「はい、えー。……Can you speak Japanese?」 おそるおそる きいてみると 「――ああ、どうもドーモ、こんにちは。」という流暢な日本語が返ってきた。 よもや客が離脱寸前だったとは知る由もないスタッフさんは、続けて丁寧な説明をしてくれた。 レンタルにクレジットカードが必要なこと。国際免許がなくてもアメリカで車に乗れること等々(免許の"翻訳"をスタッフが代行をしてくれれば国際免許証の携行は必要ないらしい)。結局、レンタカーの事務所は 「多角経営オフィス」のヒトツ奥の部屋にあったのでした。……ほっ。 契約を済ませ、初の左ハンドルを運転してみる。日本の車とはウィンカーとワイパーの位置も逆なので、交差点を曲がるときには 何度かMAXワイパーをお見舞いするハメになった。 こんな感じで波乱の門出ではあったのだけど、いざ車に乗り込むとロスの移動はとっても快適!アメリカは高速道路(Free Way)の利便性が ヒジョーにたかく、片道5車線ほどのダイナミック・ロードに、toll gateをくぐらずして 無料で乗り込むことができる。「電車・バスを使うよりも、移動時間が半分程度で済む」というガイドブックのレポートは実際そのとおりで、"回り道をしないですむ"ことと 、"乗り継ぎの待ち時間がない"という ことだけで、こんなにも時間の短縮+行動エリアの拡充ができるのか!と唸るほどだった。 おかげで、ダウンタウンから大きく外れたカリフォルニア・ディズニーを訪れ、サンタモニカ 〜 ベニスなどの西海岸をドライブする事もできた。徒歩では得られないような多くの景色に遭遇することができ、車を借りたのは大成功!となった。
さて、車のレンタルのほかに もう1つ。旅の最終日に、妙に慎重になってしまうシチュエーションがあった。Hollywoodの老舗ジャズクラブ、Catalina Bar &Grill に行く時のことだ。 ロスで昼間に行動をするにあたっても、前述のような警告をするぐらいなので、「ナイトスポットに行く!!」なんていった日には、当然 『地球の歩き方』は 「歩きまわらないで」と言ってくる。
お目当てのジャズクラブはHollywoodのメインストリートではないものの、一本南に下った所にある大通り。歩けない距離ではないので、トコトコと出向いていった(ただ、ガイドブックに散々脅かされていたので、人影には超・敏感になっていた)。 建物の前にたどりつくも、「本当に中に人がいるの?」と思わせるほどに、ドアは静かに閉まっている。 よく見ると、ドアには標識が付けられており 「please turn to the parking」との一文があるのだが―― 駐車場にまわる??―― なぜそんな まわりクドいことをさせるのか判らず、ためしに駐車場に向かってみたものの、やはり普通の駐車場があるだけだった。奥のほうに人の気配はあるのだが……。 「さっさと行けよ!」という このシチュエーション。私の状態は「初めてバイオハザードやる人」である。あの「次の画面にすすみたいっ!でもゾンビこわいっっ!!」といった、好奇心とと警戒心のジャンク クラッシュにすっかりアテられてしまった私は、数分間 もんどりうっていたのだが、結局は 「えーい最終日だ、行ってしまえ!」という "ええじゃないか"っぽいハッパをかけて、立体駐車場の中に入りこみ、鉄製の階段をテンテンと下りていったのだった。
するとビルの吹き抜け部分を利用した中庭+カフェテラスのような場所にでてきて、その突き当たりにやっと入り口を見つけることが出来た。これはつまり、裏口のみが開かれているような作りで、なんともフェイントの効いた入場ルートだったのだが、杞憂が作ったバイオハザードはこの瞬間、露と消えて GAME OVER。 ドアをあけ、部屋の中に入ってしまえば、あとはシックで真摯で、活気あふれる世界がまっていた! 客席はディナーショーのテーブルをこじんまりとして配置させた箱庭みたいになっていて、日本のライブハウスでいうと、南青山曼荼羅(マンダラ)みたいな作りの一面も感じられた。ホールサイズ、収容人数はテーブル+着席のスタイルで、150名といったところか。正面をながめると、舞台にかかるDARK BROWNのカーテンや、重ねてセットされた「積み木」みたいなアンプがある。その奔放な配置の組みあわせをみるだけでも、いかにも雰囲気がでていて、もう「クーッッ!!」とカビラ・Jばりに こみ上げてしまうのだった。 ◆Disappeared heavy atmosphere. Gone with heavy groove. 重い雰囲気は、ヘヴィーなグルーヴと共に去りぬ。 MARCUS MILLER in Catalina Bar マーカス・ミラー イン カタリナ バー
マーカス・ミラーはメインとして、ずっとベースをひきならしていた。ビキビキとなる音を、スラップ・ベースで叩きだす(slap:平手うち)。この音色を聞いて、浅草ジンタ の中心人物、ダイナマイト和尚のギラギラとしたウッドベースを思い出した。あれだけの破擦音を出しているのに「もっとビキビキいわせてくれよー!」とPAさんに注文だしてた、あの御方。 (浅草ジンタ:http://www.asakusajinta.com/)。 さて話は演奏にもどって、この夜のステージはJAZZのスローテンポ特有の、ブランデーに浮いたような ゆらゆらしたグルーヴをただよわせていたかと思うと、いきなりビキリ!としたフィンガー・ストリングスで照明のおちたホールを突き破ったりと……アトラクティブなエンターテイメントの連続でした。繰り返されるフレーズのループ数の多さは、堂に入りきっているサマを呈しているかのよう。私たちオーディエンスたちは郷に入ったのだから、あとはもうマーカスのつくりだす音の郷に、ゆったり心地よく 従うだけでよかった。
ショーの中ごろ。ハーモニカとブラスがステージを降り、ドラムとシンセサイザーが残る。マーカスはホーンをとって、客席に下りた。私はステージ降り口の真正面にいたので、一瞬ドキリとしたのも束の間。彼は客がとりまくテーブルの群れへと もぐり込んでいった。 壇上のシンセサイザーは朝焼けのように、青白くて清涼な音をホールに流し込み、ドラムはハイハットを なでるようにかすめて、サササン――と、ささやくような反響をその風景に添えた。マーカスのホーンは暗闇の中に溶けこむよう。もしあの場に重い気分があったとしても、音にくるんで スっと とかしてくれそうだった。 ジャズがアメリカ南部で発祥したルーツのスレッドが、ふわりと頬をかすめる。 終盤に入ると、各楽器のソロ演奏に加え、ペア・セッションとでもいうような、マーカスが指した二人が4拍子を即興で奏でるという場面があった。ショーのフィナーレに向かうにつれ、興奮を増していく空間。わき上がってくる (ジャズ、面白い!ジャズ、カッコイイ!!)という、シンプルこの上ない気持ち。 ―― この感動が、カタリナからの 何よりのプレゼントになった。
終演後、来た時とは逆のルートをたどって正面玄関へとたどりつく。時計を見ると 0時30分を回っていた。車の排気音も静寂の一部になってしまうような、シンとした真夜中の涼しい空気の中。 改めて整然とした無言のビルを見ると、こんなハコの中で歓喜のグルーヴが渦巻いているなんて そとめに見たってわかりっこないと思った。―― 定めし、「今日は飛び込んでよかったなぁ」 と。 高揚をひきずりながらHighland Ave.を北上してHollywood Blvd へと向かう。 Los Angelsの最終日にライブが見れて良かった。 音は、言語を超えやすい気がした。 to be continued |