酪農体験ツアー

牛の乳搾りをしている私の写真


11月1日(金)

北海道は摩周湖YH(ユースホステル)の酪農体験ツアーに参加した。

関西空港−帯広空港の飛行機、帯広空港−帯広駅のバス、帯広駅−釧路駅の鉄道と長い移動だった。途中、ツアーの他メンバーを探していたのだが、釧路行きの列車で隣の指定席に座った人がそうだった。意外と人数が少ないナと思ったのが最初の印象だった。

釧路では、摩周湖YHのバスが迎えにきており、全メンバーが揃った。ツアーのメンバーは、東京から7名、大阪から2名(1名が私)、名古屋から2名の合計11人(男性3名、女性8名)。皆、一人一人バラバラで申し込んだらしい。

釧路湿原でバスから降りた。小雨の中、見えるか見えないかの湿原を凝視していた。川の向こう岸に、角のあるエゾシカ(オス)が目撃できた。

夕方、摩周湖YHへ到着た。北海道は日が暮れるのが早いので、周りは真っ暗になっていた。晩、酪農体験の受け入れ農家の方々との自己紹介などを行った。

11月2日(土)

北海道は日が昇るのが早い。朝、目が覚めると、自分のいるYHの周りの景色が見えた。牧場だけがあった。昨夜は、暗くて何も見えなかったはずである。

午前中は講義。
一時限目、女性の新規就農者の話。
彼女は、農家の休日などに牛の世話をするヘルパーという仕事に、六年間就いていた。日課は、朝三時半起き、子供の朝食と弁当作り、五時までに農家に行くことだった。一年前、夢が叶って、人から引き継いだ牧場で自ら酪農を始めた。かなりの苦労をしているだろうが、彼女は、夢を実現するためのやる気いっぱいで、つらいと思ったとはなかったと言う。夢を持つ人は強い。

二時限目、牛の一生についての話。
牛は人間の食べられない草を食べ、牛乳と牛肉を生産する。
母親約650kgから40〜50kgの子牛が生まれる。10〜20分後には、自力で立ち、母乳を飲む。牛は生まれたときは免疫がなく、乳から得ている。(人間は母親の体内で胎盤より免疫を得ている。)平均寿命は7歳。
物心の付く前の幼いうちに、角を切る。
胃は四つあり、第1胃は、約200リットル(ドラム缶一本分で、体の左側にある。ちなみに、赤ちゃんは右側)になる。餌の消化は、第1胃->口(約40〜60回噛む)->第2胃->第3胃->第4胃となっている。
人工授精は、乳の多く出る牛の種牛の精子を、冷凍保存したものを使う。直腸より腕を突っ込み、子宮内へ精子を注入する。牛は一頭ずつ血統書付きで、父母、祖父母が分かるようになっている。妊娠期間は283日。分娩後四日目〜10ヶ月間乳が出る。

三時限目は、酪農の現状についての話。
輸入物は農薬漬けになっているということを強調していた。

酪農を始める予算は、

  牛     50万円 * 50頭 = 2500万円
  トラクター 1台当たり      = 800万円
  土地    50ha
などなど、
まともに揃えるとなると、数億円。最低でも、5000万円〜8000万円の費用がかかる。

乳の価格は75円/kgであるらしい。一頭から約40kg/日搾れ、牛50頭いたとすると、1ヶ月で、
 75*40*50*30=4,500,000円
の売り上げになると計算できる。

昼、摩周湖へ行った。霧はなかった。霧が多いのは夏だけらしい。私が勝手に抱いていた霧の摩周湖のイメージが崩れた。

午後は、農家へ行き、酪農実習。
ツアーのメンバーが二人ずつに別れて、それぞれ別の農家へ行き実習を行った。
農家は一人一人が社長であると言われるように、それぞれで、経営方法が工夫されている。よって、牛の飼い方(環境、餌など)も農家ごとに異なるが、私の体験した農家について記述する。

トラクター試乗

トラクターの写真ランボルギーニ製トラクター(90馬力)に試乗した。ギアが5速*4段*前後進(2)もあった。

 

餌やり
時間になると、牛が牛舎の前に集まってくる。餌の用意ができた後。扉を開けると牛が牛舎に駆け込んでくる。
餌は、デンプンかす、配合飼料1、配合飼料2、トウモロコシ、サイレージ(草)を与える。

搾乳
牛の足で蹴られるのを防ぐため(蹴られると大けがをする)、足を上げられないように牛の後足の付け根を鉄の輪で縛る。四つある乳頭を塗れ雑巾で拭く。その後、殺菌した布で拭く。そして、搾乳機(ミルカー)を取り付ける。乳頭の刺激により、泌乳ホルモンであるオキシトシンが発生し、これが乳を出すのを促す働きをする。これは、30秒〜1分で最大になり、4〜5分続くので、この間に搾乳を始め終わらせる。
手で搾るには、親指を折り曲げて、人差し指から小指へと徐々に結んでいく。ピューと乳が飛び出してくる。一度、この飛び出してきた新鮮そのものの乳を口に受けて飲んでみた。一度に口に入る量が少ないので味はよく分からなかったが、生暖かかった。
搾乳が終わると、首に付けたチェーンを外すと、牛は牛舎の外に出ていく。
子牛はミルクを与えると、ガツガツ飲んでいた。

夜、地元の青年達と、ミニバレーをした。バスケットボール大の柔らかいボールのバレーである。ボールを打っても、手は、全く痛くなく、気軽に楽しめるスポーツだった。北海道では流行っているらしい。

11月3日(日)

午前中は講義。
一時限目は、新規就農者についての話。
新規に酪農を始めるには初期投資が多く必要であるが、北海道農業開発公社や弟子屈町では、色々と応援してくれる。公社から、牧場を五年間リースして始め、この後、買い取るということができる。また、中古農業機械、乳用牛などもそこから購入できる。弟子屈町条例では、このリース料、固定資産税、借金の利子などの一部の補助、その他の資金の補助などが受けられる制度がある。
この他、弟子屈町では、牧場実習も受け入れており、約三ヶ月以上の期間で、農家に泊まり込みで酪農が学べる。

二時限目は、酪農家の一日と一年についての話。
乳搾りは一日二回(朝5:00、夕方)。この他に、餌やり、牛舎の掃除などがある。昼間は、特に定まった仕事がないのでのんびり過ごせる。ただ、生き物相手なので、一日も休むことはできない。休みが必要なときは、代わりの人に依頼する。たまにする仕事には、牛の運動、人工授精、分娩、治療(病気やけが)、除角(角を切る)、削蹄(爪を切る)、機械整備などがある。夏には二回ほど牧草の収穫をし、一年分の餌を保存しておく。

午後は、牧場実習。

牛舎の中の写真昨日、疑問が残った。牛舎の扉を開けたとき牛が駆け込んできたのだが、後ろから誰かが追っているのか、牛が自分で入ってくるのか? 今日は、それを確かめるべく、牛舎の外を覗いてみた。時間になると、牛が、自然と牛舎の扉の前に集合していた。そして扉を開けると駆け込んできた。まず、首輪を鎖で繋ぐ。牛は餌を食べている。そして、搾乳する。作業が終わり牛の鎖を外してやると、牛は牛舎の外へ駆け出した。牛は意外にかしこかった。

夜、バター作り、ヨーグルトの仕込み、牛乳豆腐作り。
バターは牛乳を遠心分離器でかき回すと、脂肪が分離してこれがバターになる。円柱形のビンなどを思いっきり振れば、20〜30分でできる。ただし、市販の牛乳を使う場合には、脂肪が固まらないように加工されているので、牛乳に動物性生クリームを7:3の割合で加える必要がある。このバターの水分を切り、塩で味を調整すればできあがる。

牛乳豆腐は、牛乳(出産直後の濃いもの)を鍋に入れて加熱すると、蛋白質が固まってできる。固まり方が弱いときは、お酢などの酸性のものが必要である。そのまま食べてもおいしいが、一般には醤油を漬けて食べる。

ヨーグルトは、市販の牛乳に、ヨーグルト(乳酸菌)を混ぜて、一夜、約40度に保っておくと、乳酸発酵してできあがる。温度を一定に保つヨーグルトメーカなる電気製品が売られている。

この夜、空が澄んでいた、夜の摩周湖は真っ暗で見えなかったが、こんなに星がたくさんあったのかと不思議なくらい、天の川もはっきりと見えた。

11月4日(月)

朝は、講義。
牛乳の話。
Q:牛乳の殺菌方法は?
A:日本では、ほとんどの牛乳が120〜130度で1〜3秒加熱し、ビンや紙パックに充填する。10度以下での冷蔵保存が必要である。
LL(ロングライフ)牛乳は、135〜150度で1〜4秒加熱し、滅菌処理した紙パックに無菌的に充填したもので、開封しない限り、常温保存が可能である。

Q:牛乳と加工乳の違いは?
A:牛乳は、生乳そのままで添加することは許されていない。(ただし脂肪の平準化と脂肪球の均質化は行ってもよい)
加工乳は、生乳を主原料(70%以上)とし、クリームやバター、脱脂粉乳などの乳製品を調整したもので、高脂肪濃厚型と低脂肪型がある。

Q:乳糖不耐症とは?
A:牛乳を飲むと下痢をする人がいるが、この人には胃に牛乳中の乳糖(ラクトース)を分解する酵素(ラクトーゼ)の働きが弱いためである。温めた牛乳を、毎日ちびりちびり飲む量を増やしていくと、次第に酵素の働きが活発になる。それでも、だめな人は、乳糖が分解されている牛乳、ヨーグルト、チーズなどがよい。

午前中から、酪農実習開始。
牛の種付け屋さんがきていた。上腕までビニルで覆い、牛のお尻から腕を突っ込む人工授精の様子が見られた。

農場の写真

この日は、時間がたっぷりあったので、牛を観察していた。牛の噛む回数を数えると、牛により違うが約40〜60回だった。また、放牧してある牛の方へ行くと、牛も興味を示してほとんど全ての牛が私を見ている。そして、のそのそと近づいてくる。だた、ちょうど手が届かない間合いを取っている。私が後ずさりすると牛は前に出て、私が前に出ると牛は後ろへさがる。中には、もっと近づいてくる牛がいて、手を舐めさせると、ペーパーのようにざらざらした舌で舐めるが、餌でないことが分かるとすぐに舐めるのをやめる。これが子牛だと、いつまでも舐め回されるのだが。牛は前歯の上がなく、噛むのは奥歯で、餌を口に運ぶのは舌を使っているようだった。そのため、舌が長い。

実習の最初は、自分の体の何倍も大きな牛に近づくのが怖かったが、今では、すっかり慣れて、牛の前方から近づくのは怖くなくなった。ただ、牛のふところに入るのは今でも少し怖い。なぜなら、私に指導してくれた農家の人が、昨日の朝、牛に蹴られて骨折したからである。おばあちゃん、早く治して、また、牛の世話をして下さいね。


みんなの写真夜、反省会があった。農家の人がきて、宴会をした。終了証書を受け取った。酪農という普段の私のサラリーマン生活とは違った仕事を体験できたのはよかった。自然の中で、動物と共に暮らす生活は、人間(私)の本来あるべき生き方のような気がして、憧れている。人間にとって最も大事な食を提供し、自然の摂理に従った、地域のコミュニケーションのある生活、なんとすばらしいことか。

 

11月5日(火)

朝、バスで摩周湖YHを発つ。
900(キューマルマル)草原では、この時期、牛は一頭もいなかったが、夏には900ha(1ha=1*100*(10m*10m)=10000m2)の広さの土地に、農家から預かった約2000頭の牛がいたそうだ。
道ばたの畑にいる丹頂鶴を見ながら、釧路湿原に寄って、釧路へ戻った。
昼、釧路駅前の和商市場で、ご飯を買い、その上に市場内を回って好きなもの(ウニ、イクラ、ホタテ、鮭)を載せて作ったオリジナル丼を食べた。
ここで解散。

飛行機の時間まで暇があったので、釧路フィッシャーマンズ・ワーフ(MOO、EGG)を通り、釧路市生涯学習センターのビルに登った。同じ北海道でも、牧場とここ釧路の町とでは全く違った。北海道に住むなら、やっぱり牧場のような自然の中がよいなぁと思った。
釧路駅−釧路空港のバス、釧路空港−関西空港の飛行機で帰った。


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