日経ヘルスケア

      
診療所・成功マニュアル
2000年10月号

 生命保険をいかに見直しするか?
  浜崎リスクマネジメント研究所 濱崎研治


「生命保険と税金の問題は妻と税理士にまかせてある。」という医師は少なくない。ただ中には無計画に多くの保険を契約するなど、適切とは言いがたい形で生命保険に加入している事例は多くみられる。
 生命保険は一度加入してしまうと生保会社の体力を確認したり、加入内容を抜本的に見直すことは少ないが、定期的に自らが加入している保険の内容を点検することも必要である。
 当研究所では、生命保険の加入の仕方をはじめ、ライフプラン全般に関するコンサルテーションを行っているが、ここでは実際に取り扱った事例を交え、生命保険の見直しの進め方をみてゆく。

不必要な加入が目立つ

 生命保険をチェックする際のポイントの一つが保障額と保険期間である。
生命保険には個人で加入するものと、法人で加入するものとがあるが、医師の場合往々にして個人の生命保険に加入し過ぎる傾向がある。
学生時代に親の勧めで加入し、勤務医時代に付き合いで複数の保険に加入、さらに開業後は医師会や保険医協会を通じて新たに加入・・・これが医師に良く見られる生命保険のパターンである。結果的に10種類以上の生命保険に加入し、毎年の保険料も数百万に達するという医師も珍しくない。
 保険料が高くても、それに見合う十分な保障が得られるのであれば、まだいい。
だが実際には、保険料が高いにもかかわらず、保障の中身に問題がある事例は少なくない。
 関西地方で医療法人立の内科診療所を開業するA医師のケースも、その一例である。
A医師は現在49歳、36歳の時に生命保険会社の営業員の勧めで加入したのを皮切りに、個人契約で6つの保険に加入した。さらに法人設立後 節税対策のために法人契約の保険に幾つか加入した。
保険料は個人契約の分だけでも月額32万円にも達していた。
A医師は当研究所に相談に訪れた時点では、表1のような保険に加入していた。
これを見て判るのは、「定期保険」の保障がかなり手厚いのに対して「終身保険」が不十分な点である。
表1



定期保険とは、死亡保障が終わる期間が定められている保険のことだ。
例えば、60歳までに死亡すれば保険金が支払われるが61歳以降は死亡保障は得られない。

これに対して、終身保険は死亡年齢にかかわらず保険金を得られるというものである。
A医師の年齢と、死亡時の保障の関係を示したものがグラフ1・2である。仮にA医師が65歳で亡くなった場合、定期保険を手厚くしているため保険金は3億円にもなるが、71歳以降で亡くなった場合には、保険金は終身保険の3000万円のみとなってしまい、その差額は大きい。
 A医師の場合、定期保険を厚くし、50歳代で死亡した場合に備える必然性は乏しかった。
開業時の借入の返済はすでに終わっており、また二人の子息はいずれも医大には進学しておらず、多額の教育費が必要になる訳ではなかったからだ。本人に健康上の不安はなく、その上相当の預金もあった。
 そのため、A医師の生命保険の構成を次のように変更することにした。
まず、新たに二つの終身保険に加入し、終身保障を計5000万円とした。
死亡後ではなく生前に保険金の給付を受けられる「リビングニーズ特約」や「三大疾病特約」も付加した。
また定期保険は一部を残すことも考えたが、現時点で預貯金が十分にある事などから、全て解約する事にした。
 新たに加入した二つの保険の保険料は月額 7万8840円と 4万8930円 これに従来から加入していた
終身保険の保険料を加えると、見なおし後の保険料総額は月額約 16万円となった。
結局、それまでに支払っていた保険料の半分にまで減らせたことになる。
 なお、終身保険や定期保険では解約に伴い、それまでの加入期間に応じた返戻金が支払われるが、A医師は計700万円ほどの解約返戻金を得ることが出来た。
グラフ 1


グラフ 2


必要保障額は預貯金などで相違

 A医師の事例で紹介したように、定期保険と終身保険をどのようにバランスをとるかは、

などに応じて決める必要がある。
 一般に、子供が経済的に自立している場合には死亡時の年収の5割程度、 自立していない場合には年収の7割程度が、遺族が1年間に必要する金額の目安となる。
 例えば、本人が60歳で亡くなると仮定すると、死亡時の年収が2000万円で、 子供が経済的に自立している場合、遺族が必要とする金額は毎年1000万円という計算になる。
配偶者である妻の生年が本人と同じであり、女性の平均寿命である83歳で死亡するとした場合、 それまでに必要な額は2億円余り、法人契約分と個人契約分を合わせて、その程度の保障プランを組まなければならなくなる。
 ただし、これは預貯金や売却可能な財産などが全く無いと仮定した場合の金額である。
前述のA医師のように、預貯金が十分にある場合には、保障額をこれより下げることも可能である。

節税効果が薄れた逓増定期保険

 次に、法人契約の生命保険についてみてみる。
法人契約の大きなメリットは節税対策になる点である。理事長が死亡した場合に医療法人が受取人となる旨の定期保険の契約をした場合、その保険料は損金として計上できる。
さらに、生命保険を解約して、解約返戻金を退職金に充てれば、保険料に加えて退職金も損金に算入できる。
にもかかわらず、法人契約をしていない医療法人もすくなからずある。
 また既に法人契約している場合、「逓増定期保険」と呼ばれる保険の扱いに注意が必要である。
 逓増定期保険の損金のメリットは、96年に国税庁が出した税務処理変更通達により薄れてしまった。
それまでは、保険料の 1/2 または全額を損金算入できた。
たが、96年の通達により加入条件によっては、保険料の 1/4 または 1/3 しか損金算入できないことになった。
この変更を知らない医師も少なくないので、確認をして欲しいと思います。
 通達のねらいは、加入期間の長い逓増定期について、損金算入を制限することにある。
従って、保険の加入期間を短くしたり、解約して他の保険に乗り換えることが必要になる。

生命保険会社の支払力の確認を!

 最後に、生命保険会社の見極め方にふれておきたい。
金融機関の経営破綻が相次いだことを受け、「今契約している保険会社は大丈夫か? 
別の保険会社の商品へ乗り換えたほうがいいのではないか?」という質問を受けることが多くなった。
 この問いに対して明確な答えを出すことは難しいが、一つの指標となるのが「ソルベンシーマージン比率」である。これは、生保会社の支払力を示す指標で、経営の健全性を判断する材料になりえる。
一般には、ソルベンシーマージン比率が200%以上有ることが、健全性を担保する一つの要素になると言われている。
 各生命保険会社は、行政当局の指導の下、ソルベンシーマージン比率を算出し公表することが義務づけられており、ホームページで公表している会社もあるので一度確認をしてみることをお勧めしたい。

                      原文のまま