松下幸之助の「商いの心」

  経営幹部に贈る「経営のコツ」A

衆知を生かす心構え

平成20年 7月

 私どもが日々商売を営む過程で、正しい儲け、いわゆる適正利潤を得るということは、非常に大事なことだと思います。適正利潤を確保してこそ、お店をさらに発展させて、より多くの人のお役に立つ商売をすることができるのですし、またその儲けたお金の大半を税金として国家に納めることによって、社会全体の繁栄に寄与することもできるのです。その意味では、適正な利潤をあげるということは、これは国民としての一つの尊い義務でもあり、責任でもあるといえましょう。
 したがって、お互い商売にあたる者としては、常に“適正利潤をあげることは尊い義務であり、それはとりもなおさず社会人としての職責を果たすことでもあるのだ”という信念を堅持しつつ、日々励んでいかなければならないと思います。
 もちろん、商売を進めていくについては、よりよい品をできるだけ安くご需要家に供給し喜んでいただくということが基本です。したがって日々の活動においては、絶えず創意工夫を重ね、日に新たなよりよい商品、より効果的な商売の方策を生み出して、万全のサービスをしていかねばなりません。
 しかしそれと同時に、この適正な儲けを得るということの大切さを忘れてはならないと思うのです。さもないと乱売などのいわゆる過当競争が起こって、自他ともの貧困、混乱を招くことになりましょう。
 ただお互いに、自分たちが適正利潤を大切にするばかりでなく、その考え方をお得意先なり世間の人々にも十分納得していただかねばなりません。お互いがどんなに適正利潤を重視しても、それを人々が認めてくださらなければ、どうしようもありません。だから、その大切さを機会あるごとに訴えていくことが大事です。
 お互いが誠実に、熱意をこめて根気よく理解していただくよう努力を続けていくならば、この考えは必ず人々に受け入れていただけると思います。というのは、適正利潤は大切なものというこの考えこそ、お店はもちろん社会全体の繁栄を生み出す基礎だと思うからです。
 そういう説得に成功することが、真に世と人のためになるほんとうの商売を可能にする一つの要諦ではないでしょうか。

(『経営心得帖』より)

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