松下幸之助の「商いの心」

  若き社員に贈る「プロを目指す生き方」A

衆知を生かす心構え

平成20年 8月

 僕はこの会社で一番たくさんの月給をもらっている。まあ、それがいくらか、ということはここでは言わないが、かりに100万円なら100万円としよう。その場合、僕が100万円の仕事をしていたのでは会社になんらプラスしない。少なくとも常識ではというか僕の考えでは、僕が1000万円の仕事をしなくてはこの会社は立っていかないだろうと思う。あるいは1億円、2億円の仕事をしなくてはならないだろう。そういうことを自問自答しつつ、僕は自分なりに一生けんめい努力しているわけだ。
 もし1万円の月給をもらっている人が1万円の仕事しかしなかったら会社には何も残らない。そうなれば会社は国に税金を納められないし、日本の国も立っていけないということになる。
 みなさんについてもそれはいえることである。みなさんの月給がかりに10万円であれば、はたして今月の自分の働きはどれくらいであったかということを自分に問うてみる。「今月は仕事の段取りも非常にうまくいったし、部下にもじゅうぶんにやってもらった。まあ100万円だな」という人もあろうし、「どうもやり方がまずくて成果があがらなかった。失敗もあったりして15万円ぐらいの仕事しかできなかった」という人もあるかも知れない。
 どの程度が妥当であり、望ましいかということは一概にはいえないと思うけれども、まあ常識的に考えて、10万円の人であれば少なくとも30万円の働きをしなくてはならないだろうし、願わくば100万円やってほしい。
 そういうふうに自分の働きを評価し、自問自答してみて、その上に立って自分の働きを高め、さらに新しい境地をひらいていってもらいたい。これはみなさん自身だけでなく、部下の人にもそういうことをしてもらい、それが全部の社員に及んでいけばそこに非常に力強いものが生まれてくると思う。

(『その心意気やよし』より)

バックナンバー