松下幸之助の「商いの心」

  経営幹部に贈る「経営のコツ」B

衆知を生かす心構え

平成20年 9月

 商売を成功させるためには、説得力をもつことが非常に大事だと思います。
 かりにお店にお客様がみえて、「君のところの品物は高いな。よその店では一割五分引いて売っているじゃないか。君のところは一割しか引かないのはけしからん」と言われたときにどうするかということです。一割五分も引いたならば、お店が成り立たない。成り立たないことはやってはならないわけで、だから、ただ「それはできません」と言ったのでは、お客様は別のお店へ行ってしまいます。
 ですから、何としても、その人を説得しなくてはならないと思います。「この値段は店を維持していくための最低の値段であって、これ以上引けば自分の方は赤字になる、いわば血が流れるのです。だからこの値段で買ってください。そのかわりサービスその他は完全にいたします」そういう意味のことを自分の持ち味で、上手に説得できるかどうかということです。
 宗教でも、説得力のある宗教は発展すると思うのです。もちろん、そこに立派な教義というものがなくてはならないでしょうが、どんなにいい教えをもっていても、説得力をもたない宗教は衰微してしまうと思います。
 お互いの商売でも同じこと、というより、それ以上に説得力をもつことが大事だと思うのです。自分が扱っている商品は使っていただければ必ずお役に立つ良品であり、その値段はいわゆる適正価格であるというものであったならば、そういう一つの自信に立った説得をしなければならないと思います。「これは決して高くないのです。この値段を切っては、自分は商売を続けていけないし、あなたに対してサービスもできなくなってしまいます。よその安いのは、安すぎるのです」ということを自分にふさわしい持ち味で説得したならば、私は十人のうちの九人までは共鳴してくれると思うのです。それが世間というものではないでしょうか。
 ですから、かりに、そういう説得ができない、お客様を共鳴させることができない、というのであれば、やや厳しい見方をすると、これは商売に適格性を欠いているともいえましょう。それでは、自分も困るし、人にも迷惑をかける結果になりかねません。
 今日は、そういう厳しいところまで自分をみつめる時期に来ているのではないかと思うのです。

(『経営心得帖』より)

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