松下幸之助の「商いの心」

  経営幹部に贈る「経営のコツ」D

衆知を生かす心構え

平成21年 1月

お互いが、自分の子供の躾とか教育をしていく場合に大切なことはいろいろありましょうが、その一つは、何らかの自分なりの人生観、世界観というものを持つということではないかと思います。人間の共同生活とはどういうものか、人間としての正しいあり方はどうあるべきかといったことについて、その良否に差はあっても、一つの考えを持っていなくてはならないと思うのです。
 そういうものがあれば、そこから信念が生まれてきます。そしてそれが、知らず知らずのうちにその人の言動のなかにあらわれ、子供を好ましい方向に教え導く結果になると思います。そういうものを持たずして、いくら口先で子供にあれこれいっても、十分な躾や教育はできにくいのではないでしょうか。
 それと同じことが、会社や商店にもいえると思うのです。ほんとうに好ましい人材の育成をはかろうと思えば、やはりその会社、商店なり、経営者自身にしっかりした社会観、事業観、人生観といったものがなくてはならないと思います。そういうものがあれば、それに基づいた、その会社なり商店なりの使命感が生まれてくるでしょう。
 そうなれば、従業員に対しても、「この会社はこういう使命感を持っている。この使命を達成していくところに、会社の存在の意義もあるのだ。だから皆さんは、この使命を十分理解して、その達成のために大いに努力してもらいたい」ということがいえると思うのです。そういうことを聞けば、従業員の人にも、「なるほど、この会社はこういう使命を持っているのだな。自分が働くのは、その使命達成のためであって、自分の利益だけのためではないのだ。これは大いに頑張ろう」といったものが生まれてきやすいと思います。そうなってくれば、おのずと人は育ってくるのではないでしょうか。
 そういった使命感なくして、ただ何がなしに働いているというだけでは、仕事の知識や経験は時とともにますかもしれませんが、人間としての真に好ましい成長はなかなか得られないような気がするのです。
 昨今、会社商店の経営がいろいろときびしい情勢に直面しているだけに、一層このことが大切ではないかと思います。

(『経営心得帖』より)

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