松下幸之助の「商いの心」

  経営幹部に贈る「経営のコツ」E

衆知を生かす心構え

平成21年3月

仕事を進めていく上で“命これに従う”ということは、一面大切だと思います。上の人の命じたことが、下の人によって適切に実行されてこそ、物事が円滑に運んでいき、仕事の成果もあがるわけで、命じられたことがあまり行われないというようなことでは、経営は成り立ちません。
 しかし、それでは、命これに従うだけでいいかというと決してそうではありません。何でも上から命令されたから、上の人の希望であるからと安易にものを考えるようになると、それはいわゆる事なかれ主義に陥って、硬直化した経営になってしまいます。
 たとえば、経費節減ということで、広告宣伝費はムダに使ってはならないという方針が出された場合、それを直訳して、必要な広告までやめてしまうということでは、売れる商品も売れなくなり、会社の発展も止まってしまいます。そこにやはり、下の人としての自主性にもとづく経営的な判断が必要なわけで、ムダな広告はいっさいなくすが、必要なものは積極的にやっていくということでなくてはならないと思います。
 ですから、かりに部長の人が一つの方針を打ち出した場合に、課長なり主任の人がそれに対して自分の所信を訴える、もしそれが妥当でない場合には「部長、それは間違っていますよ」と言えるだけの自主性と実力、いわば自主経営力というものをもっていることが必要だと思います。そういうものがないと、万一、上の人が誤った場合、全部が誤った方向へ進むということにもなってしまうと思うのです。
 そういうことの大切さは、だれでもよく知っていると思いますが、組織が大きくなり、人数が増えてくると、ついつい命これに従うだけに終わって、事なかれ主義になってしまいがちです。
 ですから、上に立つ人は、下の人にそういう自主経営力を養い高めていくよう要望するとともに、自分自身日ごろから下の人の意見に耳を傾け、下の人の提案が出やすいような雰囲気をつくっていくよう心がけることが大切だと思うのです。

(『経営心得帖』より)

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