松下幸之助の「商いの心」

  若き社員に贈る「プロを目指す生き方」E

衆知を生かす心構え

平成21年4月

 みずからを高めるというか、教養を高めたり、仕事の能力をより向上させたり、あるいは健康なからだづくりをすることに関連して、ぼくはひとつ社員のみなさんに質問してみたいと思う。それはどんなことかというと、ほかでもない。みなさんが勉強なり運動をするときに「自分がこのように自己の向上に努めるのは、ただ単に自分のためばかりではない。それは社会の一員としての自分の義務でもあるのだ」という意識をもってやっておられるかどうかということである。
 なぜぼくがこのようなことをみなさんに質問したのかというと、そういう義務感というものは、みなさん一人ひとりがつねに持っていなければならない非常に大切なことだと思うからだ。
 われわれお互いが、みずから進んで常識をゆたかにしてゆくとか、あるいは仕事の力をさらに高めてゆくということは、もちろん自分自身のためになることではあるけれども、それは同時に、社会に対する一つの義務でもある。たとえば、われわれの社会で、すべての人びとが一段ずつ進歩したとするならば、社会全体もそれによって一段向上することになる。ところが他の人がみな三段進歩したのに自分は一段も進歩していないということになれば、そのことによって、社会全体の平均の段数は三段あがらないことになる。つまり、自分ひとりのために全体の水準の向上が犠牲になるわけだ。だから自分の教養を高めるとか、自分の技術を向上させるとか、あるいは健康なからだをつくるということは、自分を幸せにし、また自分の社会的地位を高めるということなどのためばかりでなく、社会の一員としての共通の義務だと考えなければならない。そういう義務感というか、社会の一員としての連帯感というものを、みなさん一人ひとりがつねにしっかりと認識して、日々、自己の人格の向上、良識の涵養ということに努めていってほしい。

(『その心意気やよし』より)

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