自分のお店を常にきれいにし、お客様が入りやすいよう、また商品が見やすいようにすることは、商売を発展させていくために、非常に大事なことの一つだと思います。ただ、そのように店舗をきれいにするということについては、単にお客様の購買意欲を高めるためということだけではなく、より一段高い理由からも、大いに力を入れる必要があると思います。
その理由とはどういうことかといいますと、自分の店舗は、自分の商売のためのものであると同時に、自分の街の一部を成すものである。だから、自分の店舗のあり方は、その街の美醜にも大きな影響を与えるということなのです。一つの街に好ましい店舗ばかりが並んでいれば、その街は、いきいきと活気に満ちたきれいな街になります。街全体に好ましい環境が生まれます。
したがって私たちは、そうした街を美化するというか、街の品位を高めるという一段高い見地からも、自分の店舗をきれいにしていくことが大事だと思うのです。それは“社会の役に立つ”という商売の真の使命にもとづく一つの尊い義務ともいえましょう。またそれは同時に商売の繁栄にも結びつくものだと思います。
ある街へ行ってみたが、どの店員さんの応接態度も立派であるということになれば、その評判は遠く地方にまで及んで、多くのお客様がはるばる来てくださるということにもなりましょう。パリのシャンゼリゼの通りは、世界の人々のあこがれの的だといわれていますが、遠くパリをもち出さずとも、わが国にもそういうところが数多く生まれるべきではないかと思います。その意味では、どちらの理由からお店をきれいにしても、結果は同じ商売の繁栄に結びつくということにもなりますが、しかし、単に自分の商売のためにするのと、そこから一歩抜け出て街の美化、品位向上のためにするというのとでは、その精神に大きな違いがあります。
(『商売心得帖』より)