松下幸之助の「商いの心」

衆知を生かす心構え

平成19年11月

人の和ということがよくいわれます。私はこの人の和は、非常に大事なことだと思います。衆知を集めるということも、人の和があってはじめて可能ですし、また生きてくるのだという感じがするのです。
 人の和が醸成され、衆知が生かされていくという好ましい姿を生む一つの基盤として、上意が下達しているかどうか、下意が上達しているかどうかという事柄があると思います。社長の考えていることが少しも下に通じない、そういう会社は、概してうまくいっていないようです。また逆に、下意が全然上達していない会社は、さらによくないと思います。
 ですから、たとえば課長であれば、自分の考えなり方針が課の人々にどのように浸透しているかを知る必要があります。そして、自分の考えていることで課の人たちが非としている点があるとすれば、なぜ非としているのかということについて話しあっていく必要があると思うのです。
 そういうことを社長と幹部のあいだで、幹部と中堅幹部のあいだで、また課長と課員とのあいだで、絶えずくり返しお互いに行う努力をしていくことが大切です。それができる会社では衆知が集まり、衆知が生きてきます。
 逆にそういうことをしない会社、つまり、命令一つ出せばすみずみまで行き渡ると考えている会社は、実際には上意は全体に行き渡っていないことが多いようです。それで、社長の思いと違った行動が随所に起こってきます。
 もっと大事な問題は、下意上達です。つまり、一般の従業員の考えが社長の考慮に響いているか、くみ取られているかということです。
 下意が上達するためには、責任者の立場に立つ人が、部下の考えていることを引き出すという態度をとらなければいけません。課長に何でも言える、部長に何でも言える、何らはばかることがない、そういった空気が課内に、部内に、また会社全体に醸成されてくることが肝要なのです。
 もちろん、これは非常にむずかしいことです。それだけに、容易な努力、容易な理解だけではできないでしょう。よほどそれに真剣に取り組まなければできないのではないかと思います。
 そのように取り組んで、幸いよろしきを得たならば、その会社は真に衆知による全員経営が可能になってくるでしょう。そしてそこから、製造でいえばよい製品、販売でいえばお得意さんが非常に喜んでくださる販売が生まれ、より好ましい会社の発展も生み出されてくると思うのです。

(『商売心得帖』より)

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