![]()
これは私が1回生のころ、山小舎で先輩に聞いた話です。
私が大学時代、所属した某大は長野県のT高原に山小舎を持っております。
ある冬の晩のことです。TVもラジオもない、静かな夜でした。
先輩4人はストーブを囲んで、山の話や女の話など他愛のない馬鹿話を、
酒を飲みながらくり広げておりました。
酒もだいぶ入ったころ、玄関のほうから誰かの声が聞こえるのに
先輩の一人が気が付きました。
「あれ、いま声しなかった?」
「えっ、いや気つかへんかったな」
「飲みすぎちゃうの?」と話が戻りかけた時、再び玄関から
「こんばんは」という声が聞こえました。
「いま聞こえたよな?」
「うん、聞こえた」
今度は4人の先輩たちにも聞こえたようです。
「こんな遅くに誰やろ?」
一人がストーブから離れ、玄関を見に行きました。
しかし玄関には誰もいません。念のため、扉を開けてみましたが
外は雪がしんしんと降り積もるだけで誰もいません。
「誰もいてなかったわ」
「おかしいな、こんばんはって聞こえたけどな」
不思議に思いましたが、酒も入っていたのでそれほど気にせず、
そのまま飲みつづけ、その晩は寝てしまいました。
翌日、いつもと変わりない朝を迎えました。朝飯を食べてまったりしていると、
バス亭近くの宿のおばちゃんが山小舎を訪ねてきました。
「おばちゃん、どーしたん?」
「昨日、K大の山小舎はどこですか、と男の人に聞かれたので道を教えておいたけど、
ちゃんと来たか心配になって・・・」
「いや昨日は誰もこなかったよ」
「そう、たしかにK大学って言っていたんだけどね?」
「来てないですねえ」
「K大じゃなかったのかな〜?」
「とりあえず寒いし、お茶でもどうですか?」
わざわざ来てくれたということで、おばちゃんに山小舎に入ってもらいました。
ストーブのところにおばちゃんを案内し、先輩たちはお茶の準備をするために台所に行きました。
「あっ!」
急におばちゃんの叫び声がしました。
「どうしたの、おばちゃん?」
「この人だよ・・・」
「えっ!?」
「道を教えたのはこの人だよ・・・」
おばちゃんは山小舎の中にある、事故で亡くなった先輩の遺影を指さしたのです。
当時、わが部では山小舎の食堂の窓の上に、過去に亡くなられた先輩達の遺影を
常時飾っていたのです。
「先輩・・・やっぱり昨日来てたんや・・・」
この事件以降、亡くなられた先輩達の遺影はすべて外して管理人室の中にしまい、
毎年夏に行われる慰霊祭にのみ、飾ることになりました。
これ以降このような話はなかったとのことです。
神戸 腹ペコ山男さん
![]()
著作権は、『北アルプスの風』に有ります。無断掲載並びに無断転載はご遠慮下さい。