大町博物館巡り
岳都大町は別名「博物館の町」とも呼ばれている。テーマも豊富で、山岳から酒あるいは温泉などユニークな資料を提供してくれる博物館が目白押しである。JR大糸線信濃大町駅を拠点として数多くの博物館が点在しており、雨で山行が中止になった時や、あるいは子供連れの家族旅行のスケジュールに組み入れても、たっぷり1日遊ぶことが出来る。







大町山岳博物館


住所:大町市大町8056−1 地図
TEL:0261-22-0211 FAX:0261-21-2133
営業時間:AM9:00〜PM5:00(入館はPM4:30受付まで)
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し翌日休館)
年末年始、7〜8月無休
利用料金:小・中学生200円 高校生300円 大人400円
駐車場:50台(無料)








アルプス黎明期に活躍した山内、門田製作によるピッケルの名品がずらりと並ぶ





古き時代の山小屋で酒を飲むオヤジの様子
長野側の黒部立山アルペンルートの登山基地になる、JR大糸線「信濃大町」に程近い、丘の上に建つ、日本初の山岳をテーマにした博物館である。3階建ての博物館は、各階毎にテーマを分けて資料を展示しており、日本の山岳界の歴史は、全て1階に集約されている。北アルプスを中心とした山と人との関わりを「北アルプスの山小屋」、「北アルプスの登山史」「登山の道具」、「ピッケル」、「エベレスト周辺の地形模型」、「日本人の海外登山」、「遭難」という7つのコーナーに分けて、その当時使用された山道具と共に紹介しており、その装備を見るだけで興味が尽きない。特にマッターホルン、グランドジョラスといったヨーロッパアルプスの垂壁を完登した、かつての名クライマー達の装備は、登山用具が発達した現在では考えられないほど簡素な作りで、思わず「よくぞ、この装備で北壁を・・・」と感嘆せずにはいられない。土に汚れたアタックザックには、当時の苦闘が染み込んでいるようにさえ見える。

また「遭難」のコーナーには、「風雪のビバーク」で知られる、た松涛明の遺品と直筆の遺書を書いた手帳が、そして井上靖の「氷壁」の原題になった前穂高東壁ナイロンザイル遭難の実際の装備等が展示され、見る者の胸を打つ。北アルプス初の二重遭難のつぶれたヘルメットなどを目の辺りにすると、「山では絶対に事故を起こしてはいけない」と改めて心に誓いたくなる。

山のコーナーの隣室には、山と芸術をテーマに、、中村清太郎、足立源一郎、不破章、山川勇一郎といった日本を代表する山岳画家の作品が展示されており、落ち着いた雰囲気の中で、各作家の個性的な色使いを堪能することが出来る。

2階は、山岳と自然をテーマに、北アルプスを中心に、山岳に住む生き物達の生態を、剥製と共に紹介しており、その種別の多さに驚かされる。特に天然記念物であり、北アルプスにおいても、最も馴染みの深い動物であるニホンカモシカとライチョウについては、その特徴や山での生活をジオラマやパレットなどを使って詳しく紹介してくれる。

3階は、ガラス張りの展望室になっており、晴れていれば、裾野に安曇野平野を広げた北アルプスの峰々を真正面に眺める事が出来る。室内には北アルプスの立体模型もあり、展望と見比べながら、自分が越えてきた北アルプスの峰々を振り返ってみるのもまた楽しいものだ。

内容的にも盛り沢山で、山を趣味にする人は、一度訪れて損はない。

保護及び繁殖を目的にした小さな動物園を併設しており、ここでは生きたカモシカを目にすることができる。


山岳遭難


「風雪のビバーク」松濤明のピッケルと遺書が書かれた手帳


「氷壁」の題材になった前穂東壁ナイロンザイル事件の遺品

前穂高東壁ナイロンザイル事件
1956年1月2日。前穂高岳東壁を登攀していた岩稜会パーティの大学1年生若山五朗が、山頂直下で50センチほどスリップ。その途端、岩に掛っていたザイルが何のショックもなく切断され、若山五朗は墜死する。事故発生時使われていたザイルは、それまで普及していた麻製のザイルより数倍強いとされ、急速に普及し始めていたナイロンザイル。五朗の実兄である石岡繁雄は、5年の歳月を掛け、メーカーとそれに癒着した学者達によって、ナイロンザイルは切れないと結論付けた再現実験のカラクリを解き、ナイロンザイルは角岩に致命的に弱いという真実を社会にさらす。石岡繁雄はその後も、ザイルメーカーや日本山岳会に対して、ナイロンザイルの安全限界を明示させるべく何度も公開質問状を提出し、1975年に国家機関を動かして、登山用ロープの強制力を持った安全基準を公布させた。

風雪のビバーク
東京登歩渓流会のメンバーで、当時、先鋭クライマーとして活躍した松濤明が、1949年厳冬期の槍ヶ岳北鎌尾根において、メンバーの有元克己と壮絶な遭難死を遂げるまでの手記を元にした追悼集。終わることなく吹き続ける風雪の中で、全身創痍、疲労困憊し、極寒の雪洞内で死を覚悟して綴られた松濤の日記は胸が打つ。

   
山と渓谷社「yamakei classics」

 1月6日 フーセツ全身凍ツテ チカラナシ 

 何トカ湯俣迄ト思ウモ 有元ヲ捨テルニシノビズ死ヲ決ス(*1)

 オ母サン アナタノヤサシサニ タダカンシャ 

 ヒトアシ先ニオトウサンノ所ヘ行キマス (略)

 今14時 中々死ネナイ ヨウヤク腰マデ硬直ガキタ

 全身フルエ ソロソロ クルシ ヒグレト共ニ凡テオワラン

 サイゴマデ タタカウモイノチ 友ノソバニ

 ステルモイノチ 共ニイク(略)

 我々ガ死ンデ 死ガイハ水ニトケ ヤガテ海ニ入リ 

 魚ヲ肥ヤシ又人ノ身体ヲ作ル 

 個人ハ 仮ノ姿 グルグル マワル


 (*1)(有元克己はこの時、既に雪洞内で死亡している)



日本人と海外登山


ヨーロッパ三大北壁登攀(1965〜1967) 高田光政の装備


ダウラギリT峰(1960)太田徳風 川田哲ニの装登攀備


マッターホルン北壁(1967) 今井通子の登攀装備


上高地の先達 上条嘉門次の山道具



エベレスト登頂(1970)平林克敏の装備


山岳と自然


無数の剥製達が生活様式のまま並ぶ


威嚇するニホンザル リアルで怖い


愛らしいニホンカモシカの親子


北アルプス展望室と付属動物園


展望室から真正面に北アルプスの峰々を望む


興味深気に訪問者を見つめるニホンカモシカ








その他の博物館
 大町エネルギー博物館
水力、火力、太陽熱発電など、エネルギーをテーマにした博物館。難しそうなテーマだが、わかりやすい説明と目で見てわかる実験や体験コーナーなど、子供でも充分楽しめる施設である。プラネタリウムもある。ゴールデンウィークと夏休みに合わせて、全国でも珍しい薪バスを運行させ、信濃大町と博物館の間を往復して子供にも大人気だ。目の前に入浴施設「葛温泉 駒留めの湯」がある。料金:小学生200円 中学生300円 高校生・大人400円、プラネタリウムは200円。営業時間:9:00〜17:00(GWと夏休み期間中は18:00まで)休館日11/11〜4/14火曜日休館(4/15〜11/10無休)電話: 0261-22-7770 プラネタリウム投影時間(10:30 13:30 15:30)
 水と電気の高瀬川テプコ館
エネルギー博物館と同じくエネルギーをテーマにした資料館だが、こちらは水力発電を主に紹介している。日本最大級のロックフェルダム(石を積み上げて造ったダム)である高瀬ダムに向かう高瀬渓谷の途中に建つ。水力発電やダムの仕組みを巨大なジオラマで紹介する他、希望すれば高瀬ダムや揚水発電所の見学も出来る。その他、宇宙誕生、恐竜の生態などを立体映像で上映しており、子供も充分楽しむことが出来る。料金:無料 営業時間:9:30〜16:30 休館日12〜4月月曜日(5〜11月無休)年末年始 電話 0261-23-2152 ダムおよび発電所見学は4月下旬から11月末日まで(要予約)。 公式サイトはこちら 
 塩の道博物館
糸魚川から松本まで日本海の塩を運んだ千国街道、いわゆる「塩の道」の歴史と当時の人々の生活を紹介するという、長野ならではのユニークな博物館。江戸時代に塩問屋を営んだ庄屋の家屋を利用した歴史観溢れる建物の中で、当時の塩の運搬方法や沿線住民の暮らしを学ぶ。テーマは難しそうだが、旅装束を実際に身に纏って自由に記念写真が撮れたり随所に遊び心が散りばめられていて飽きることはない。料金:小中学生200円 高校生・大人400円。営業時間:(5〜10月)8:30〜17:00(11〜4月)9:00〜17:00 休館日(6〜10月)無休(11〜4月)水曜日 電話:TEL 0261-22-4018 公式サイトはこちら
 酒の博物館
長野県内の100を越える酒造所をはじめとして、全国の主要1500銘柄の日本酒を展示している。大雪渓をはじめとする北アルプスの代表的な地酒5種類の試飲が出来、酒好きには堪らない博物館だ。日本全国から集めた郷土玩具1700点を展示した大町郷土玩具博物館を併設している。場所は大町温泉郷の入口、「薬師の湯(温泉博物館)」の目の前。料金:共通券一般700円:各博物館一般400円 小学生以下200円(酒の博物館は無料) 営業:4/25〜10/31は9:00〜19:00 11/1〜4/24は9:00〜17:00 休館日:4/25〜10/31無休 11/1〜4/24木曜日(祝日の場合は翌日)年末年始は除く。電話:TEL 0261-22-1942
 アルプス温泉博物館
大町温泉郷の天然温泉日帰り入浴施設として、黒部アルペンルートを利用する登山客に人気のある「湯けむり屋敷薬師の湯」であるが、実は館内に博物館が設けられているのは案外見落とされ勝ちである。「アルプス温泉博物館」の中に「薬師の湯」があると考えるのが正しいらしい。資料館では温泉の歴史、泉質の種類とその効能などをわかりやすく説明しており、ここで勉強してから温泉に入れば、その有り難味もいっそう湧くというものだ。料金は薬師の湯の入湯料に含まれているので、別途支払う必要はない。料金:小学生300円 大人500円(薬師の湯の料金に含まれる) 営業時間:7/12〜10/31(4:00〜21:00)11/1〜4/24(8:00〜21:00) 無休 電話:TEL 0261-23-0181
 岩魚資料館
幻の渓流魚といわれる岩魚。この魅力的な川魚の孵化から成魚になるまでの過程を、詳しく観察する事ができるのが大町の岩魚資料館だ。広大な庭園内には岩魚の泳ぐ大小の池や水車小屋が点在し、散策路を歩いて自由に見学する事ができる。生きた岩魚をたっぷり鑑賞した後は、趣きのある造りの「岩魚の館ギャラリー」に入ってみよう。繊細な描画で有名な井出波龍画伯の名作を、落ち着いた雰囲気の中で鑑賞できる。料金:無料 開園時間11:00〜16:00 休館日:5〜10月無休 冬期不定休 電話:0261-22-2435
 アルプス搗精工場
アルプス搗精工場は近代的な設備により高品質高純度の酒造米を精米する、日本最大規模の搗精工場である。このを無料で見学できる。日本酒の精米過程がパネルで詳しく説明されており、見学した後に信州の地酒を飲めば、その味わいもまた格別だ。またガラス越しに工場内を見学する事も出来る。順路には長野県内100社の蔵元の地酒が展示され試飲もOK。気に入ればその場で入手することができる。 料金:入館無料 営業時間:10:00〜16:00 休館日:月曜日・年末年始 電話:TEL 0261-22-5251
大町の公式観光ガイドはこちら




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