「イタリア古典歌曲集」

作詩:G.B.Guarini 他

作曲:Giolio Caccini
   Glaudio Monteverdi
   Alessandro Scarlatti
   Marco antonio Cesti
   Georg Friedrich Hendel

編曲:北村協一


指揮:西義一

エレクトーン:小林由佳



1.Amarilli
  (アマリッリ、麗しきひと)

2.Lasciatemi morire!
  (私を死なせて)

3.Gia il sole dal Gange
  (陽はすでにガンジス河から)

4.Tu mancavi a tormentarmi
  (苦しめ給うなかれ)

5.Ombra mai fu
  (樹木の陰で)


※特殊文字の表示は不可能なため、実際とは異なる綴りのものが含まれています。



−イタリア古典歌曲−

 イタリア古典歌曲とは、バロック時代(1600〜1750年頃)に、主としてイタリアの作曲家によって、イタリア語の歌詞に作曲された独唱歌のことであり、多くはダ・カーポ・アリアの形式で書かれている。しかし、なかには、ヘンデルやグリックのようにイタリア人でない作曲家の歌もあれば、モーツァルトのようにバロック時代より後に活躍した作曲家の歌も入っている。曲の種類も、「アマリッリ」のように、もともと独唱歌曲として作曲されたものもあるが、オペラのアリアやソロ・カンタータ、マドリガーレなどの中から選ばれたものもあり、むしろ後者のほうが多いくらいである。
 これらの古典歌曲は、それぞれが、その時代の様式に支えられている。だから、自己の勝手な感情で、思い入れたっぷりに歌うことは好ましくない。あくまで清潔に、素朴に旋律を浮かび上がらせる声の訓練と、節度ある表現こそが大切である。それゆえ、同じイタリア歌曲でも、ロマンティックな感情にあふれる「トスティ歌曲」などの方が魅力的に思う人も多いだろう。しかし、古典の持つ様式感が分かりはじめ、その歌曲たちが語りかけてくるのを感じると、そこには<うたのいのち>ともいうべき≪原点≫があることに気づくであろう。だからこそ、イタリア古典歌曲は、今日の私たちにも深い感動を与える魅力を備えているのである。


−曲目解説−

1.アマリッリ、麗しきひと

 作曲者ジュリオ・カッチーニはローマに生まれ、テノール歌手・リュート奏者としてフィレンツェのメディチ家に仕えた。その一方で彼は、ヤコポ・ペーリオと共にオペラの創始者として知られ、モノディ様式の確立に貢献した。また、マドリガーレとアリアによる曲集「新音楽」は、繊細な序文の付された名著として知られている。この曲は、その「新音楽」に含まれたマドリガーレであり、イタリア古典歌曲を代表する名歌である。通奏低音の伴奏を背景に、語の抑揚・情感を生かしながら、アマリッリへの切々たる愛情を素朴に歌うその旋律の美しさは比類ない。

2.私を死なせて

 イタリア古典の作曲家の中でも、クラウディオ・モンテヴェルディは、最も劇的な手法を用いたことで知られている。彼はルネサンス期のポリフォニー様式とバロック時代のモノディ様式とを見事に融合し、マドリガル・オペラ・宗教曲等、広い範囲で活躍した。「私を死なせて」は、オペラ「アリアンナ」の中の哀歌であり、恋人テセウスが身重になった自分を置き去りにして出帆し、遙か沖合に消えてゆくのを見たアリアンナが彼を恨み、苦しみ、死に憧れながら絶唱するアリアである。

3.陽はすでにガンジス河から

 スカルラッティ一家は、17世紀から18世紀にかけて多くの音楽家を出した名門である。この曲の作曲家アレッサンドロ・スカルラッティはイタリアのパレルモの生まれで、長じてオペラで名声をあげ、ナポリ楽派の創始者になった。この曲は、オペラ「愛のまこと」または「ポンペオ」のどちらかのアリアであったと言われている。当時のイタリア人たちは、太陽が昇るとき、憧れをもって東に位置するインドのガンジス河から上ると考えており、この詩の中にも、大きな憧れ・夢・希望が込められている。

4.苦しめ給うなかれ

 作曲家アントニオ・チェスティは、初期イタリア・バロック・オペラの代表的作曲家である。チェスティは、児童合唱を経て、いったんフランシスコ派の修道僧となったが、やがて歌手・オペラ作曲家として活躍し、インスブルックやウィーンの宮廷にも仕えた。彼の作品は流麗な旋律に溢れており、この「苦しめ給うなかれ」にも、純粋な抒情の世界が美しくひろがっている。曲は、典型的なダ・カーポ・アリアの形式で書かれ、adagio・4分の3拍子の中間部は激しく上下に旋律が動き、はっきりとした対照を示している。

5.樹木の陰で

 作曲者ヘンデルはJ.S.バッハと同じ年にドイツに生れ、イタリアで音楽を学んだ。その後ロンドンで成功を収め、不朽の名作オラトリオ≪メサイア≫をはじめ、バッハと共にバロック音楽の最後の頂点を築いたといわれる。さらにヘンデルはバッハが残さなかったオペラの分野でも多くの作品を残している。「樹木の陰で」も、彼のオペラ≪クセルクセス≫の第1幕第1場で、ペルシア王クセルクセスが、1本の樹を眺めながら、その美しさを称えて歌うアリアである。叙情に満ち、ゆったりとした節回しで書かれたこの曲は、大作曲家の悠揚迫らざる音楽の一端を示しているといえる。


−第119回定期演奏会プログラムより−



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