"Old American Songs"

原編曲:Aaron Copland


指揮:鎌田英紀(学生指揮者)

ピアノ:藤田雅



・Single Gifts
 (謙虚である喜び)

・Ching-a-ring Chaw
 (チンガ・リンガ・チョウ)

・Long Time Ago
 (遠い昔)

・I Bought Me a Cat
 (ねこを買ったよ)

・At the river
 (川のほとりで)

・Zion's Walls
 (シオンの城壁)




−コープランドとアメリカ−

 編曲者アーロン・コープランドは、20世紀のアメリカ作曲界の元老的存在であると言われている。彼は1900年、ニューヨーク州ブルックリンにて、ユダヤ系ロシア移民の息子として生まれた。家族は音楽に対しそれほど興味を示していなかったが、彼は14歳で本格的にピアノを習い始め、17歳でゴールドマークに理論を学び、1921年の夏からは、フランス・パリに留学し、そこでナディア・ブーランジェ女史に師事した。
 彼が他の多くの19世紀末のアメリカ作曲家と異なるのは、彼はヨーロッパにありながら、常にアメリカという国の存在を意識していた点にある。ジャズの要素を取り入れた不協和音の多い曲を書いていたが、世に認められてすぐに、一般大衆と現代の作曲家との間に大きな隔たりができてしまっていたことに疑問を抱き、「アメリカ的な」作品を作ることを志した。長い間の試行錯誤の結果、アメリカで生まれ育った民謡(彼は民謡の研究家としても忘れることができない)を取り入れて、作品をより簡素化、一般化することで、その目的を達せようとした。1936年に発表されたメキシコの通俗的な旋律による管弦楽曲「エル・サロン・メヒコ」が好評を得、その後、いずれもバレエのために書かれた「ビリー・ザ・キッド」、「ロデオ」、「アパラチアの春」(ピュリツァー賞受賞)、「愛ある土地」等によって、コープランドのスタイルが確立されたといえる。1950年頃から再び、純音楽作品に、さらに12音音楽にも手を染めるなど、その作風は曲折していき、その後、極端な寡作となったが、その一方で、文筆、教育活動など幅広い活躍をするようになった。
 このようにコープランドが様々な音楽の中をさまよったその姿は、まさにアメリカという国の文化形成を象徴しているといえ、また、その文化形成に1つの権威を与えたこともあり、存命中より高い尊敬を集めた。1990年他界。
 "Old American Songs"は、コープランド自身が、アメリカ国会図書館、ブラウン大学ハリス・コレクションなどに所蔵されている古い楽譜を調査したもののうち、19世紀のアメリカ古謡の旋律を編曲したもので、1950年に中声独唱とピアノのために「第1集(5曲)」が発表された。これが好評を博し、さらに1952年に「第2集(5曲)」が作られた。作曲者自身による室内オーケストラ伴奏版が作られたほか、曲の親しみやすさから、多くの編曲者の手によって、様々な形で編曲がなされている。


−曲目解説−

1.謙虚である喜び(第1集第4曲)

 シェーカー教徒の人気が高い賛美歌。この曲は<ダンスの神>としても知られ、≪アパラチアの春≫の中でも使われ、有名になった。 

2.チンガ・リング・チョウ(第2集第5曲)

 1833年に発表された吟遊詩人の歌で、ミンストレル・ショー(白人が黒人に扮して歌い踊ったショー)の挿入歌である。内容は分かりやすい宗教の入門歌であり、曲中繰り返される「チンガリング」という歌詞は小さなベルの擬音であると言われている。

3.遠い昔(第1集第3曲)

 無名の吟遊詩人の作品、歌詞はジョージ・ポープ・モリス(1802-64)により1837年に書き換えられ、曲も英国の作曲家、歌手のチャールズ・エドワード・ホーン(1786-1849)により手が加えられている。

4.ねこを買ったよ(第1集第5曲)

 子供の言葉遊びの歌で「ナンセンス・ソング」に分類される。オクラホマ州の歌であると言われ、1節ごとに詩の行数が増えていくものである。

5.川のほとりで(第2集第4曲)

 人気の高い賛美歌。レヴ・ロバート・ロウリー(1826-99)が1865年に書いた歌詞と曲による。宗教曲の中のヒット。コープランド以外の編曲者による編曲も多い。

6.シオンの城壁(第2集第2曲)

 作曲家であり、歌集の編集者でもあった、ジョン・G・マッカレー(1821-86)の信仰回復運動のテーマソングの1つ。コープランドは≪愛ある土地≫の中でも使っている。「シオン」(英語発音は「ザイオン」)とは、エルサレム南西部にあった要塞のことで、やがてエルサレムそのものの別称として使われるようになり、後には天国、神の家の意味でも使われている。


−第121回定期演奏会プログラムより−



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