「20世紀イギリス合唱曲集」

作詩:Helen Waddell

作曲:Gustav Holst
   Vaughan Williams
   Benjamin Britten


指揮:稲垣良吾(学生指揮者)

ピアノ:藤田雅



・Drinking Song
 (酒飲みの歌)
 
(Gustav Holst 作曲)

・How Mighty are the Sabbaths
 (偉大な安息日)
 
(Gustav Holst 作曲)

・Green-Sleeves
 (グリーンスリーブズ)
 
(Vaughan Williams 作曲)

・The Ballad of Little Musgrave and Lady Barnard
 (お小姓マスグレーブと、バーナード夫人の物語)
 
(Benjamin Britten 作曲)




−イギリス音楽史−

 イギリスにおける音楽文化は、6世紀頃グレゴリオ聖歌が教皇グレゴリウスの使節によって広められたことから始まるとされる。10世紀頃からオルガンの普及、ポリフォニーの発展が見られ、15世紀にはフランスの音楽に大きな影響を与えていた。16世紀のテューダー王朝期になるとイギリス国教会が設立されたことにより、イギリスは独自の教会音楽を発展させてゆき、エリザベス女王の統治下では未曾有の「黄金時代」が続いた。その後、フランス・イタリアの影響を受けながらイギリス音楽は性格を変えてゆき、ヘンリー・パーセルの死後は目立った作曲家の現れない沈黙の時期が続いた。18世紀になるとヘンデルがオラトリオ様式の創造に成功し、その影響により各地で大合唱祭が流行するようになったものの、彼の死後イギリス作曲界はまたもや長い沈黙の時代が続くことになる。そのような中、20世紀になってこの長い沈黙を破ったのが、エドワード・エルガー、グスターヴ・ホルスト、レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ、そしてベンジャミン・ブリテンをはじめとする作曲家たちであった。イギリス音楽史において作曲家をきわめて豊かに生み出し、また合唱音楽の発展に大きく貢献したこの時 代はイギリス人の間で「イギリス音楽のルネサンス」と高く評価されている。

グスターヴ・ホルスト
Gustav Holst (1874-1934)

交響組曲『惑星 The Planets』で知られるホルストは、インド哲学に関心を抱き神秘的な作風を持ちながらも、晩年は厳しい簡素な作風に移った。また彼はとりわけ合唱音楽を愛し、合唱団の指揮をしたり数多くの合唱曲や室内オペラを作曲した。さらに、自国の民謡やエリザベス女王期の「黄金時代」の音楽に大変な関心を持っていた点は他の2人とも共通であった。

レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ
Ralph Vaughan Williams (1872-1959)

ヴォーン・ウィリアムズは大器晩成型の作曲家であったが、彼は息を引き取るまで実に幅広いジャンルに手を染めている。民謡に関しては、総数800以上にものぼる数を収集した。彼は晩年難聴に悩まされたが、作曲への情熱、そして他人に対する寛容と親切を忘れなかった。それは悠揚とした彼の作風からうかがうことができる。

ベンジャミン・ブリテン
Benjamin Britten (1913-1976)

20世紀イギリス最大の作曲家。『ピーター・グライムズ Peter Grimes』や『戦争レクイエム War Requiem』をはじめとする多数のオペラや声楽曲の作曲家として有名な彼の作風は、音楽的関心を国内のみならず国外にも広げたために独創的で現代的な音感覚はするものの、和音や旋律もおおかた調性的且つ叙情的で親しみやすく、決して過度に走ることのないという意味では極めてイギリス的な作曲家であるといえる。反軍国主義で良心的理由から従軍を拒否した彼は、詩人オーデンとの出会いにより芸術家の社会的、政治的責任について強く意識するようになり「不正に対する人類の闘い」という主題で数多くの作品を残した。


−曲目解説−

1.Drinking Song

 ホルストの晩年の作品<Six Choruses Op.53>の中の第5曲目。
 オープニングのギターのような伴奏と、"Sobriety"と"emasculate"のさりげなく挿入される言葉が曲全体を支配する世俗的なムードを効果的に演出している。この陽気な曲は、ホルストがユーモラスな主題を扱うことにまれな才能を持ち合わせていたことを示しているといえる。

2.How Mighty are the Sabbaths

 同じく<Six Choruses Op.53>の第2曲目。
曲集"Six Choruses"の中でももっともテキストが長いこの曲は、基調である7/4拍子と連続的な拍子の変化によるテキストのリズムの自然な処理と、ホルストらしい和声の手法や高音部合唱を対位法で絡めることによって神と平和への賛美を大きなスケールで描いている。特にユダヤ人のエルサレムへの帰還に対する強い願望は、非常に瞑想的に描かれ、強い精神性を感じさせる。

3.Green-Sleeves

 もともと古い民謡であるこの曲は、一説ではヘンリー8世が作曲し、エリザベス女王期の「黄金時代」の頃から歌われたといわれる、好きな女性に対する献身の歌である。彼の編曲によるこの曲のもつ優しい音の流れは、彼の誠実な人柄を思わせる。この曲のほかにも彼は弦楽とハープ、フルートのための『グリーンスリーブスの主題による幻想曲』を書いている。

4.The Ballad of Little Musgrave and Lady Barnard

 第二次大戦中、ブリテンは友人のいるドイツの捕虜収容所内でのフェスティバルの計画のためにこの曲を書き上げた。この曲は13世紀の痛烈なラブ・ストーリーを扱うと同時に、現代におけるすさんだ現実をも表現している。シンプルで常にどこか抑制された雰囲気を持ちながらも曲は生き生きとしており、オペラ作曲家としてのブリテンの持ち味がいかんなく発揮された作品といえる。


−第122回定期演奏会プログラムより−



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