「山田耕筰作品集」

作詩:北原白秋、三木露風、木下杢太郎

作曲:山田耕筰

編曲:林雄一郎、福永陽一郎


指揮:稲垣良吾(学生指揮者)



・帰ろ帰ろ

・青蛙

・夕やけの歌

・からたちの花

・この道




−山田耕筰−

 山田耕筰の生涯は、日本の洋楽界の黎明期を拓き、明治、大正、昭和と日本の洋楽をリードし続け今日の水準にまで引き上げるという驚異的なものだった。多角的交友と世界的視野に立った広範囲な活動は、洋楽のあらゆる分野にわたり、その鋭い感受性と類いまれなる行動力とによって日本の洋楽と詩や演劇のジャンルとを結び、盛んな創作を続けた。山田耕筰の作品の中で最も代表的分野は芸術的歌曲である。第一次世界大戦後、日本の芸術界を風靡した西洋文化の自由主義的文学活動の中から、北原白秋、三木露風、野口雨情等の新しい叙情詩が生まれてきた。その詩のイマージュを見事な表現力と高い芸術性で歌い上げ歌曲として広く世に問うたのが山田耕筰であった。ここに初めて日本古風の風土的叙情性と西洋音楽が融け合い、美しい花を開かせたのである。
 1886年(明治19年)6月9日、東京に生まれる。病弱で臆病な性格であったが、成績はずば抜けて良かった。幼年時代、義兄ガントレットに西洋音楽の手ほどきをうけた耕作は、関西学院中等部を経て東京音楽学校(現東京芸術大学)卒業。1910年から13年までドイツ留学。日本人初の交響曲「かちどきと平和」やオペラ「堕ちたる天女」(坪内逍遙原作)を制作する。帰国後の1914年(大正3年)、日本最初の交響楽演奏会を開催、その後、カーネギーホールでの自作の管弦楽曲による演奏会や日本歌劇協会の創立など、我が国交響楽運動やオペラ運動の創始者となった。この他、童謡「からたちの花」「この道」や映画音楽の作曲など幅広い音楽活動を続けた。1930年(昭和5年)、耕筰と改名。1936年、レジオンドヌール勲章、1941年、オペラ「夜明け」(黒船)で朝日文化賞、1956年、文化勲章を受賞した。帝国芸術院会員、日本音楽文化協会会長等を務めた。1965年没、79歳。


−日本歌曲とその基本的な演唱・演奏法について−

 山田耕筰の歌曲が特に秀でている理由は、日本語のイントネーションやアクセントがそのままメロディに生かされている点にある。歌曲において日本がヨーロッパ近代音楽を取り入れようとした時の最大の問題が、このヨーロッパの歌曲風のメロディと日本語をどのように結び付けるかであった。当時の日本の言語学でさえ日本語のアクセントの仕組みをまだはっきりとは明らかにしていなかった。その中で耕筰はその鋭い耳によって日本語のアクセントが高低アクセントであるということを感覚的に感じ取ったのである。そしてそのアクセントをメロディと融合させることによって「からたちの花」を初めとした名曲の数々を世に送り出していった。これには、彼がヨーロッパ諸国で多くの言語に接したこと、さらにはドイツからの帰途ロシアにおいてダルゴムィジスキーの『言葉の表現するものをそのまま音で表現する』という主張に接したことが大きな助けになっている。その後昭和24年12月3日には「日本歌曲とその基本的な演唱・演奏法について」という論文を発表し、日本歌曲における彼の私見を細かく綴っている。これは現在読んでも十分通じる内容で、いかに彼の影響が今日まで日本の音楽に 影響しているかを感じ取ることが出来る。


−曲目解説−

帰ろ帰ろ(北原白秋・詩 1925年)

 ドイツからの帰国後歌曲の手法を徐々に拡張していた耕筰は、当時の童謡運動に刺激をうけて童謡も作り出した。それは北原白秋との出会いによって最高潮に達するのだが、そうした時期に生まれた曲の1つがこの有名な「帰ろ帰ろ」である。

青蛙(三木露風・詩 1927年)

 童謡百曲集の第22曲。あの「赤とんぼ」も同年この2人によって作られた。自然主義に裏打ちされた露風の詩に対して、ここでも耕筰は拍節法や表現を上手く切り替えることで青蛙を見事に描写している。

夕やけの歌(木下杢太郎・詩 1923年)

 耕筰は初め杢太郎の戯曲『南蛮寺門前』に曲をつけたが、その幕開けに童子等によって歌われる劇中歌の旋律を無伴奏四部合唱に編曲したのがこの曲である。夕やけの美に異国情緒が交じり合うこの曲は隠れた名曲である。

からたちの花(北原白秋・詩 1925年)

 作曲者の代表的な歌曲。本人が「私の曲のうちでも、この曲ほど日本語を生かしているものは少ない」と語るほど、詩に内在する日本語の美しさがそのまま旋律として表れている。幼少の折に枳殻の垣根に囲まれた工場で重労働をしていた耕筰は、白秋の詩の内に自分の幼時を見つめてこの曲を歌いだした。

この道(北原白秋・詩 1927年)

 童謡百曲集の第47曲。白秋の童謡集『月と胡桃』でも「からたちの花」と「この道」は並んで収められている。ヨナ抜き音階を基調に経過音をつかった「ああ、そうだよ」のノスタルジックな旋律は、懐かしき思い出と純真な童心を聞くものに甦らせる。


−第42回フェアウェルコンサートプログラムより−



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