Zigeunermelodien op.55

作詩:A.Heyduk

作曲:A.Dvorak

編曲:福永陽一郎


指揮:上村哲朗(学生指揮者)

ピアノ:坂爪あや子



1.Mein Lied ertoent
  (我が歌 ひびけ)

2.Ei, wie mein Triangel
  (きけよトライアングル)

3.Rings ist der Wald
  (森はしずかに)

4.Als die alte Mutter
  (わが母の教えたまいし歌)

7.Darf des Falken Schwinge
  (鷹は自由に)


※特殊文字の表示は不可能なため、実際とは異なる綴りのものが含まれています。



 この歌曲集「ジプシーの歌」は、1880年の冬、ドヴォルジャーク39歳のときに作曲された。ドヴォルジャークは、これまでも歌曲を多数書いているが、この歌曲集は、後の歌曲創作の項点ともいうべき作品である、歌詞はボヘミアの抒情詩人アドルフ・へイドゥークの同名の詩集から選ばれた7篇である。これらの詩はジプシーの愛する音楽・自由・自然への参加ともいうべき形をとり、遠い昔からジプシーが守り続けてきた何物にも束縛されず、また音楽に満ちた生活を歌い上げている。おそらく自由こそ何物にも代えられない大切なものとするこの精神がドヴォルジャークの心をとらえたのだろう。
 「ジプシーの歌」はドヴォルジャークの作風を凝縮させた作品だと言えるだろう。ドヴォルジャークは、言うまでもなくスメタナとともにチェコ国民音楽を築いた人であり、また19世紀中頃ヨーロッパに起こった民族主義運動の中でも重要な人物であった。彼の音楽の特徴は、何と言ってもこんこんと湧き出す泉の水のような無限の美しい旋律、民族音楽の資源からの豊富な利用である。
 ジプシーの音楽は、漂泊民族の特徴である舞踏を好む性格上、舞曲が多く、それも奔放で情熱に満ちた音楽である。彼らにとって音楽は流浪生活の唯一の慰めであり、感情の赴くままに歌い、踊り、楽器を演奏する。そして演奏する楽器はヴァイオリン、ツィンバロン(弦を小型のハンマーで叩いて音を出す楽器)、タンバリン、カスタネット、アコーディオンなど比較的簡素な楽器である。
 そして、ドヴォルジャークはこのツィンバロンやトライアングルなどの効果をピアノ伴奏部に用いており、この歌曲集の民族色豊かな性格を形作る上で重要な役割を果していると言えよう。また全体的に舞曲風の曲が多いが、これにはジプシー音楽のみならず、チェコの民族舞踊のリズムも織り込まれている。ジプシー的なものとチェコ的なものとを見事に融合させた結果生まれたのが、野性味あふれるこの歌曲集である。
 ドヴォルジャークはボヘミアをこよなく愛していたが、チェク語の原詩ではなくヘイドゥーク自身のドイツ語訳に作曲した。その理由については、ドイツ語の歌曲の方が一般に広く普及しやすいし、楽譜もよく売れる等、様々な理由が考えられる。またこの歌曲集がボヘミア出身で、当時ウィーンで活躍していた宮廷歌手グスタフ・ヴァルターに捧げられたこととも関連があるのかもしれない。
 この歌曲集はもともとドイツ語に作曲されたものであるが、最近では原詩どおりチェク語で歌われることも多い。ところで、ドイツ語の歌詞は2種類存在する。1つはへイドゥーク自身が訳したもの。もう一つは1955年にプラハで改訂版が出版された際、ブロニスラフ・ヴェレックによって手が加えられたもの。本日は改定前のドイツ語版で演奏する。


−曲目解説−

1.我が歌 ひびけ

 歌曲集の冒頭を祢る力強い歌で、自然の中で営まれるジプシーの生活の何時如何なる時も歌があると哀愁を漂わせ歌い上げる。歌詞の中の「プスタ」とはハンガリーの草原のことである。

2.きけよトライアングル

 ジプシーのダンスを思わせる曲。ピアノはトライアングルの響きを暗示する。奔放で明るい歌だが、それは死に対する恐れを振り払おうとするためである。

3.森はしずかに

 前の曲と打って変わって静かな感傷的な曲でブラームスの影響が見られる曲。暗い森の中で一人悲しみに耐える心を歌う、ロマン派的な曲。

4.わが母の教えたまいし歌

 ドヴォルジャークの歌曲の中でも最も有名な曲である。この詩はドヴォルジャークの感情に強く訴えたと言われる。ピアノの8分の6拍子に対し、4分の2拍子で歌われるメランコリックな雰囲気をもつ曲。

7.鷹は自由に

 自由の精神を歌う曲で自然の中での生活の素晴らしさを高らかに歌い上げる。曲集の終曲にふさわしいスケールの大きな歌である。「タトラ」とはスロヴァキアに広がる山地の名である。


−第42回フェアウェルコンサートプログラムより−



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