「エンジェル」
■作品基礎データ 「エンジェル」 2007年 イギリス映画 監督:フランソワ・オゾン 原作:エリザベス・テイラー 脚本:フランソワ・オゾン 出演:ロモーラ・ガライ |
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1900年代初頭のイギリス。
16歳のエンジェル・デヴェレル(ロモーラ・ガライ)にとって、
人生はままならないものだった。
私は、由緒正しい貴族の娘として生まれているはずだった。
そう信じる彼女は、たくさんの使用人に囲まれ、美しいドレスをまとい、
優雅にハープを奏でる自分の姿をたやすく想像することができた。
しかし、現実のエンジェルは、
ノーリーの下町で、亡き父が遺した食料品店を経営する母と共に、
細々と暮らしている下層中流階級の少女にすぎないのだ。
幼いころから、彼女は、
近くの豪邸〈パラダイス〉で暮らすことを夢見てきたが、
実際に伯母から持ち込まれたのは、豪邸〈パラダイス〉の使用人になる話だった。
そんなエンジェルが、
唯一思い通りの人生を生きられる場所──それは、
自身の夢想から紡ぎ出される物語の世界だった。
あふれんばかりの想像力に加え、
類い希な文才にも恵まれていたエンジェルは、
しばしば学校へ行くことも忘れ、夢中で物語を書き綴った。
女流作家として成功をおさめることで、本来の貴族の生活が手に入ると信じて。
チャンスはまもなく訪れた。
「レディ・イレニア」の原稿を送った出版社から、
採用の手紙が送られてきたのだ。
さっそくエンジェルは、
発行人のセオ・ギルブライト(サム・ニール)に会うためロンドンへ出向いていった。
経験豊富な編集者でもあるギルブライトは、
エンジェルのあまりの若さに驚くと同時に、
彼女が経験やリサーチに頼らず、
空想によってすべての物語を書き上げていることに少なからず衝撃を受けた。
実際、「レディ・イレニア」の中には、
シャンパンを栓抜きで開けるようなリサーチ不足の描写もあったが、
それを間違いだと指摘するギルブライトの意見を、
エンジェルは聞き入れようとしなかった。
「単語1つ、コンマ1つ、変えません」
そう言い放ち、ギルブライトのオフィスを飛び出すエンジェル。
仕方なくその後を追ったギルブライトは、
エンジェルの小説を、何ひとつ手を加えず出版することに同意する。
いっぽう、
ギルブライトの妻のハーマイオニー(シャーロット・ランプリング)は、
夕食に招いたエンジェルに「想像力だけの未熟な描写が多い」と苦言を呈すが、
自分の作品に絶対的な自信を持つエンジェルは、
ハーマイオニーの軽蔑的な視線を真正面からはね返した。
出版された「レディ・イレニア」は
舞台劇化されるほどのベストセラーになり、エンジェルは文学賞を受賞。
勢いに乗った彼女は次々と新作を発表し、
たちまち人気作家の仲間入りを果たした。
そしてついに、
持ち主が破産したことから売りに出ていた豪邸〈パラダイス〉を、
購入することができた。
さっそく母と共に憧れの屋敷に移り住むエンジェル。
心から望み続けることで夢を現実に変えた彼女は、
骨董品の高価な家具で埋め尽くされた部屋でますます執筆に励んだ。
そんなエンジェルの元を、
ある日、ノーリー卿の姪のノラ・ハウ=ネヴィンソン
(ルーシー・ラッセル)が訪ねてくる。
エンジェルの小説の崇拝者であるノラは、
個人秘書としてエンジェルに仕えたいと申し出た。
エンジェルは、ノラの弟で画家のエスメ(マイケル・ファスベンダー)に
興味を持っていたことから、ノラを雇うことに決めた。
後日、エスメのアトリエを訪ねたエンジェルは、彼に肖像画を依頼。
画家とモデルとして過ごす時間の中で、恋心を高まらせていく。
そんなある日、エンジェルの母が亡くなった。
取材に訪れた地元紙の記者に対し、
母が英国有数のピアニストだったと語るエンジェル。
もちろん、それは彼女の願望にすぎなかったが、
強く信じれば過去さえも塗り替えられると、いまのエンジェルは信じていた。
新作小説「ヴェネチアの想い」の出版記念パーティが、
ロンドンで行われた日。
深紅のドレスに身を包んだエンジェルは、
自分からエスメに結婚を申し込んだ。
「出会ったときからずっと愛しているの。死ぬまで愛し続けるわ」。
熱いプロポーズの言葉でエスメを押し切り、
結婚を承諾させたエンジェルは、ハネムーンから戻ったあと、
〈パラダイス〉にしつらえた新しいアトリエを夫にプレゼントする。
こうして始まったエンジェルとエスメの新婚生活。
しかし、幸せはそう長く続かなかった。
英国が第一次世界大戦に参戦した直後に、
エスメが志願して軍隊に入隊したのだ。
髪を振り乱し、半狂乱になって夫を行かせまいとするエンジェルだったが、
祖国のために戦いたいというエスメの決意は固かった。
姉のノラにエンジェルの世話を頼むと、エスメは〈パラダイス〉を後にした。
「その扉を出て行くなら、もう二度と開けないわ!」
というエンジェルの怒声を背に浴びながら。
辛い出来事はそれだけではすまなかった。
エスメの出征後に起きた流産の悲劇。
エンジェルは、エスメに何も知らせず、たったひとりで悲しみを乗り越えようとした。
そんな彼女のもとに、
戦場で負傷し、脚を失ったエスメが戻って来るという知らせが届く。
エスメのすべてを許し、2人で再出発しようと心に誓うエンジェル。
だが、彼女の行く手には、皮肉な運命が待ち受けていた。
『8人の女たち』や、『スイミング・プール』など、
女性を主人公にしたお洒落でゴージャスな作品で、
世界の映画ファンを魅了してきたフランソワ・オゾン監督。
そのオゾンが、製作費25億円をかけて、
英国の女流作家エリザベス・テイラーの小説を映画化。
(女優のエリザベス・テイラーとは同名異人。)
1900年代初頭のイギリスを舞台に、
憧れのセレブの座を手に入れた女流作家の栄光と凋落の人生の物語を、
30〜50年代のハリウッド映画にオマージュを捧げた
艶やかなテクニカラー調のヴィジュアルにのせて描いています。
クラスメイトや担任教師の侮蔑、家族の無理解もなんのその、
“夢見る少女の馬鹿力”で文壇デビューし、
ペン1本で稼いだ金で豪邸を買い、
好みの男には自分からプロポーズする。
つねに人生の主導権を握った生き方を貫く“自己チュウ”“自分大好き”エンジェル。
強く願えば夢は叶うと信じる彼女にとって、
現実を書き換える自分の嘘は、夢の実現と同一線上にあります。
しかし、夢の実現に向かってまっしぐらに突き進む彼女は、
そのいっぽうで、苛酷な現実と向き合うことができず、
自身が作り上げたファンタジーの世界に逃避してしまう弱さも持っています。
そんなエンジェルの「複雑性を探求してみたかった」とオゾン監督は語っています。
ヴィクトリア朝のロマンス小説を執筆するエンジェルの
懐古趣味的な世界観と呼応するように、
美術、照明、色彩などのヴィジュアルは、
ダグラス・サークの監督作に代表されるハリウッド黄金時代の女性映画を参考に、
こだわりぬいて設計されているそうです。
とりわけ目を見張るのが、30着にのぼるエンジェルの衣装です。
デザインを手がけたのは、『8人の女たち』をはじめ
9作でオゾンと組んでいるパスカリーヌ・シャヴァンヌ。
シルク、ベルベット、レース、サテンなどを贅沢に使ったエンジェルのドレスの何点かは、
映画の背景となる当時の素材をそのまま使用。
エンジェルなら当然そうしただろうと思われるとおり、
仕立てはパリの仕立屋の手に委ねられています。
「マリーアントワネット」が物量で見せるコスプレ映画なら
「エンジェル」はセンスの高さで見せるコスプレ映画です。
ロマンス小説作家の旗手であるエンジェルはそのファッションも、
徹頭徹尾“ロマンス小説”しているのですが、
立身出世に従いどんどん豪華絢爛になる前半に対し、
戦争や結婚生活の破綻に引きずられ、
作家としても失速する後半は、
そのゴテゴテっぷりが時代から取り残され、
魔女のようにグロテスクに見えてくるのが怖いです。
ヒロインのエンジェルを演ずるのは、
ケネス・ブラナーやウディ・アレンの監督作にも出ている新人のロモーラ・ガライ。
16歳から44歳にいたるまで多様に変化していくエンジェルの〈女の一生〉を、
特殊メイクの力を借りることなく力演し、
オゾン監督をして「決して飽きることなく、愚痴ることもなく、熱い心を保ち続けた」と、
感嘆させました。
エンジェルを発掘する出版社の発行人に扮するのは、
『ピアノ・レッスン』のサム・ニール。
エンジェルに対する感情を軽蔑から畏敬へと変化させていく発行人の妻ハーマイオニー
(ハリーポッターの友達でなくて、
イギリスに普通に存在する女性の名だとは知りませんでしたが)
を演じるのは、
『まぼろし』『スイミング・プール』のシャーロット・ランプリング。
ま、このハーマイオニーの目線が作者、というか監督の醒めた目線なのでしょうね。
エンジェルを崇拝して仕える個人秘書のノラには、
エリック・ロメール監督の『グレースと公爵』で高い評価を得たルーシー・ラッセル。
こちらはハーマイオニーとは逆にエンジェルの崇拝者になってしまった人です。
ノラの弟で、エンジェルの夫となる画家のエスメには、
『300〈スリーハンドレッド〉』でステリオスを演じたマイケル・ファスベンダーが
起用されています。
美男子ですが芸術家気質で皮肉っぽく、
どう考えてもエンジェルとは上手く行きそうもなく、
案の定、トラブルの元凶になります。
それでもエンジェルは彼を溺愛していて、
それが一層、2人を苦しめることになるのですから困ったものです。
都内のミニシアター系で見たのですが、劇場は女性で一杯でした。
ですが、アベックはほとんどいなく、女同士で「わかるわかる」と頷き合う、
“彼氏には見せられない”映画です。
“自分が大好き”な“わたしちゃん”は原作では
かなりこっぴどく描かれているようですが、そこが女性に優しいオゾン監督。
彼女の駄目さ加減も含めて魅力ある“永遠の少女”の創作に成功しています。
映画も面白かったですが、
かりに舞台でやってもこれはかなり面白かったでしょうね。
でもあくまでスクリーンの中か舞台の上の人であってほしいもの。
自分の家族や親戚にこういう人がいたら、やっぱり大変…
以下はネタバレとなるのでmixi独身映画ファンコミュニティ
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にて「エンジェル」の頁をご覧下さい。
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