「武士の家計簿」
■作品基礎データ 「武士の家計簿」 2010年 日本映画 監督:森田芳光 原作:磯田道史『武士の家計簿「加賀藩御算用者」の幕末維新』(新潮新書刊) 脚本:柏田道夫 出演:堺雅人 仲間由紀恵 |
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江戸時代後半。
御算用者(ごさんようもの:会計処理の専門家)として、
代々加賀藩の財政に携わってきた猪山家。
八代目の直之(堺雅人)は、生来の天才的な数学感覚もあって働きを認められ、
めきめきと頭角をあらわす。
これといった野心も持たず、与えられた職務を全うするべく、
ただひたすらそろばんを弾き、数字の帳尻を合わせる毎日。
その姿は、周囲の者が“そろばんバカ”と呼ぶほどだった。
そんな直之にある日、町同心・西永与三八(西村雅彦)を父に、
商家の娘を母にもつお駒(仲間由紀恵)との縁談がもちこまれる。
そろばんを手に
「これしか生きる術がない、不器用で出世もできそうもない…それでもいいか」
と問う直之。
「生きる術の中に、私も加えてください」と言うお駒。
こうして、直之は自らの家庭を築くのだった。
御蔵米の勘定役に任命された直之は、飢饉で苦しむ農民たちへのお救い米の量と、
定められていた供出量との数字が合わないことを不審に思い、
独自に調べはじめ、城の役人たちが、私腹を肥やしていることを知る。
米の横流し、経理の不正を知った直之は左遷を言い渡されてしまう。
しかし、一派の悪事が白日の下にさらされ人事が一新、左遷の取り止めに加え、
異例の昇進を言い渡される。
直之の昇進は名誉ながらも、身分が高くなるにつれ出費が増える、
という武家社会特有の構造からますます出費のかさむ猪山家。
すでに父・信之(中村雅俊)が、江戸詰でかさねた膨大な借金もある。
そんな折、息子の直吉が4歳になり開かれる“着袴の祝い”を目前に、
直之は家計が窮地に追い込まれていることを知る。
借金総額銀6000匁!!
嫡男を武士として内外に示す盛大なお披露目…それにはさらなる出費がかかる。
直之はお駒とともに知恵を絞り、
“絵鯛”を祝膳に欠かせない“鯛”の塩焼きに見立てるのだった。
祝いの席で困惑する親戚、縁者。
宴の後、責める父母の前で、直之は“家計立て直し計画”を宣言。
それは家財一式を処分、質素倹約をし、
膨大な借金の返済に充てるという苦渋の決断だった。
世間の目を気にする父、
愛用の品を手放したくないと駄々をこねる母・お常(松坂慶子)。
しかし、お家を潰す方が恥である!という直之の強い意志により、
家族は一丸となって借金を返済することを約束する。
こうして、猪山家の家計簿が直之の手で細かくつけられることになった。
近所の者や同僚などの好奇の目にさらされながらも、倹約生活を実行する猪山家の人々。
塗りの弁当箱は竹皮に、囲碁の碁石は貝殻に。
安く買い求めた一尾の鱈は、白子の酢醤油、昆布じめ、三杯汁にと幾種ものおかずに…。
質素倹約の知恵はそのまま勤めに生かされ、藩主・前田斉泰をも喜ばせることに。
「貧乏と思うと暗くなりますが、工夫だと思えば」
――厳しい暮らしの中で、とりわけお駒は、直之の一番の理解者として、
明るく献身的に家を切り盛りするのだった。
そんな生活の中、直之は直吉にも御算用者としての道を歩ませるべく、
4歳にして家計簿をつけるよう命じ、徹底的にそろばんを叩き込んでいく。
それは時に、お駒の目から見ても厳しすぎると思えるほどのものだった。
時は幕末。
父の英才教育のおかげもあって、父よりも早く11歳で算用場に見習いとして入り、
元服を済ませた直吉、改め成之(伊藤祐輝)は、
時代に取り残されまいと自らの進むべき道を模索していた。
しかし彼の目には、父の平時と変わらない泰然とした様子がもどかしく映り、
激しくぶつかるのだった。
父子の間の葛藤が解消されないまま、
攘夷の下、前田家嫡男・慶寧に従って京都へと向かった成之。
そこで彼は新政府軍の大村益次郎にそろばんの腕を見込まれ、
軍の会計職に就くことになる。
しかし、大村が暗殺され、共に殺された加賀者がいたという知らせが届き、
猪山家は不安に包まれる。
息子の身を案じ、京都へ向かおうとするお駒をなだめる直之。
堰を切ったように成之への想いを切々と訴えながら慟哭するお駒の姿は、
ただひたすらに子を思う母のそれであった。
直之は胸をつかれ、そんな彼女を抱きしめるのだった…。
原作は、武士の家計簿「金沢藩士猪山家文書」から
幕末の武士の生活を生き生きと読み解いた
第2回新潮ドキュメント賞を受賞した磯田道史著の歴史教養書
『武士の家計簿「加賀藩御算用者」の幕末維新』(新潮新書刊)。
監督は常に時代を様々な角度から切り取り、家族の在り方を描いてきた森田芳光。
そして見栄や建前を捨て実直に生きる主人公・猪山直之に
NHK大河ドラマ「篤姫」の魅力的な家定役で話題をさらい、
近年『南極料理人』『ゴールデンスランバー』など幅広い役柄で
次々と新たな顔を見せる演技派、堺雅人。
直之を支える献身的な賢妻・お駒に「功名が辻」の武将・山内一豊の妻・千代役で
芯の強い女性を見事に演じ、「TRICK」シリーズや「ごくせん」で
人気女優の地位を不動のものとした実力派、仲間由紀恵。
そして、松坂慶子、中村雅俊、草笛光子、西村雅彦ら。
「武士の家計簿」公開二日目に見ました。
入場料千円。
大黒屋で、九百円代のチケットを買って見ました。
地味な作品なので千円にしたのでしょうが、
なかなか良く描き込まれた作品で、これなら千八百円とってもおかしくないと思います。
昔、黒澤明監督が下級武士の一日を描く、と言う企画を考えたのだけど、
資料がさっぱり集まらなくて断念。
代わりに作られたのが「七人の侍」だった、と言う話を聞いた事があります。
世界のクロサワが諦めた企画が何故、実現したか?
この作品には原作があるのですが、小説ではなく研究書です。
加賀の家臣の家計簿が発見され、一家の暮らし向きを探る学術書が纏められ、
それを研究者が解説している。
森田監督はそこからドラマを創作している。
「ミステリーを読み解くように、どんな出来事が起こったか推理して行く」
過程であったと語っています。
映画としての風格を見せるのは、
このドラマが幕末から維新への三世代のドラマであると言う事。
息子夫婦が主人公です。
権力におもねず家庭を守り、と立派な妻であり夫ですが、
孫が成人して時代が変わると、その頑迷さが単に融通のきかなさに価値が落ちてしまう。
その残酷さが見せてくれました。
予告でも出て来る鯛の絵を持って、みんなが縁側を歩くシーン。
映画全体のイメージとしてとても巧みに出来ています。
堺雅人と仲間由紀恵のインタビューを採録します。
「直之は自分の仕事に淡々と向き合い、能力をことさらアピールしない。
覚悟を決めて信じた道を進む男というのは、凛々(りり)しくて格好いいですね。
また、直之にとってお駒の存在は大きかったと思います。
後ろに寄り添ってくれるだけで、その人の体温を感じて心強く思う、
そういう気持ちにさせてくれる人がいるというのは大事なことですよね」(堺)
「ほかの武士は躊躇(ちゅうちょ)してしまうようなことでも、直之は迷わず決断する人。
まじめすぎる、堅物すぎるという人もいるかもしれませんが、
家族のために意志を貫き通す姿はとても男らしいと思います。
お駒は直之に出会って、一緒に生きていくのはこの人だと確信したんです。
窮地に立たされても直之が引っ張ってくれたからこそ、
信じて頑張ることができたのだと思います」(仲間)
武士は出世するほど家計がひっ迫していた時代。
直之は借金返済のために、茶道具や江戸袖、弁当箱といった家財道具を売り払うべく、
得意のそろばんをはじく。
「そろばんは小学生のときに何回か習ったきりで、ほとんど知識はありませんでした。
今回、名人級の先生に教えていただいたのですが、
始めて40分くらいで“これは撮影までとても間に合わない!”と。
ズブの素人が、ピアニストを演じるようなものですからね。
先生とのレッスンは3回くらいしかなかったので、
ごまかし方を教わって、あとはひたすら自主練でした。
ピアノでいう4小節のメロディみたいなものをそろばんで3パターン用意して、
劇中ではそれを組み合わせています」(堺)
「そうだったんですね! すごくなめらかな手さばきに見えました。
去年の末、京都の撮影所で寒いなか、こたつに入りながらパチパチ練習していましたね(笑)」
(仲間)
「そうですよ、NHKの紅白歌合戦を見ながら。そうしたら、
妻(仲間)が司会をやっていて(笑)。びっくりしますよね」(堺)
森田監督は、
これまでの時代劇になかった新しい視点で武士の生活を描くことにこだわった。
一尾の魚を有効活用し、美味しそうにお膳を囲む姿、
手書きの碁盤と貝殻で囲碁に熱中する姿など、
当時の武士一家の知恵と愛情にあふれた暮らしぶりが、
ユーモアを交えて映し出されている。
「撮影中は直之のことばかり考えて集中していたけれど、
初めて試写をみたときに、“ああ、これは家族の映画なんだな”ということを感じました。
淡々としたなかにある温かさ、距離感みたいなものが、森田監督ならではの味。
すごくステキだなと思いました。
あと、個人的には監督から“あまり笑顔を見せないでください”と言われましたね。
重要な演出だったのに、つい先日までコロッと忘れていたんですけど、
確かに今回の僕は笑顔が少なめになっていますよ」(堺)
「私はテレビのお仕事だと“もっとびっくりしてください”とか、
感情を大げさに表現するよう要求されることがありますが、
森田監督には“意識して表情に出さなくても、
気持ちというものは結構伝わるものだから大丈夫です”と言っていただきました。
監督のその言葉があったからこそ、
直之を一歩下がって支えるお駒という女性を演じることができたのだと思います」(仲間)
今年の流行語大賞候補になった「断捨離(だんしゃり)」という言葉は、
不要なモノとの関係を断ち、身辺をシンプル化するという概念だが、
同作のなかには、まさにそのお手本となる質素ながらも満ち足りた生活の
ヒントがちりばめられている。
「僕は“断捨離”男子ですよ。倹約と聞くと、ケチケチした話だと思いがちですよね。
でも、この映画にはそれを楽しむ女性たちがいて、温かく見守る人たちがいて、
みんな格好をつけることはできなくても、生きること自体を楽しんでいる。
形がどうであれ、前向きに生きる人の姿は気持ちがいいものだなと思いますね」(堺)
「直之の家族は借金を抱えて、仕方なく家財を売り払うわけですが、今の私たちは
節約よりその一歩手前の、当たり前のきちんとした生活に建て直すところから
始めないといけないような気がします。
私もずっと仕事をしていると、毎日掃除機をかけるわけではないので、
気が付くといろいろなモノがたまっていると思いました。
だから、節約ももちろん大事ですが、まずは普通のきちんとした生活をしなさいと、
この映画に教えられたような気がします」(仲間)
「撮影中も“私、片付けようかしら”ってきれいにしていましたもんね」(堺)
「頑張って片付けて、必要なモノとそうでないモノを選別して」(仲間)
「“断捨離”した?」(堺)
「“断捨離”しました(笑)」(仲間)
Q:実在した武士の家計簿から浮かび上がった家族のドラマに、
大きなロマンと感動を覚えました。
堺:僕は撮影の前に新書を読んだのですが、日々の献立から葬式に至るまでの費用が
全部書かれていて、数字の持つ力にすごく感動したんです。
もちろん完成した作品を観たらほっこりと心が温まるものになっていて、
家計簿のデータとは違う作品が出来上がったのだなという新たな感動と、
参加できたことの喜びを感じました。
仲間: そんな堺さんには申し訳ないのですが、わたしは新書を読んでおりません(笑)。
堺: 本当に面白いんだよ! 読んでほしいなあ(笑)。
仲間: 台本を読むので精いっぱいでした(笑)。
でも、本当にステキな作品になったと思います。
あのテンポ感や空気は、映画でなければ味わえないような気がするんです。
ゆるやかだけれど、そこに生きている人たちの時間や、家族の温かさがしっかりと
描かれていて、映画っていいなと改めて思いました。
Q:一緒に年を重ねていく夫婦を演じるために、お互いが意識し合ったことや、
相談されたことはありますか?
堺:特に相談はしなかったですね。逆に、細かい打ち合わせがなくても違和感なく
夫婦としていられたところが良かったんじゃないですかね。
今から思えば、僕は仲間さんにずっと見とれていたような気がします(笑)。
白無垢(むく)姿は本当にキレイだったし、節目で見せる嫁としての顔や母親の表情が、
かわいいなとか、芯が強そうだなとか…
…ある意味、ずっとポ~ッとしていたんでしょうね(笑)。
仲間:ありがとうございます(笑)。わたしは、だんな様について行く妻を演じたので、
長い月日を過ごした夫婦の空気感を醸し出すために、
動くスピードやセリフのテンポを堺さんに合わせていくように意識していました。
Q:主人公の直之が、刀ではなくそろばんを握る武士・御算用者というのが新鮮でした。
堺:御算用者は現代の経理係で、江戸時代の官僚部署を支えた仕事でもあったんです。
これは原作の受け売りなんですけど、数学の能力というのは、
あまり遺伝しないものらしいんですね。
だから、御算用者の家では養子を取ることが多くて、
当時は町人などの中からそろばんの能力を持っていた人たちが武家に入っていった
そうなんです。
仲間: そうなんですか!
堺:明治になって身分制度が崩壊しましたけど、実は江戸時代から、
御算用者のような技術者たちが崩していったという側面もあったみたいなんです。
そういった歴史としての面白さもありましたね。
Q:堺さんは、直之がどんな気持ちで算術に取り組んでいたと解釈しましたか?
堺:気持ちはあまり関係ないんですよね。自分が何をしたいかではなく、
何ができるかという価値観で動いていたと思うんです。
だから、自分というものを考えたこともなかった江戸時代の直之と、
明治時代になって考えるようになった息子の成之、二人の摩擦が後半の面白いところ
だと思います。
演技としては、直之の仕事に対するプライドや熱意が、ひとごとではない気がしましたね。
Q:新婚初夜でもそろばんを放さない直之の描写も面白かったです。
仲間さんが演じたお駒は、彼のどこに惹(ひ)かれたのだと思いますか?
仲間:もちろん、結婚した日の夜に、そろばんをカチャカチャされたら驚きますよね!
「わたしを見ないでそろばん?」みたいな(笑)。でも、直之さんらしいじゃないですか。
真っすぐな彼をステキだと思うお駒の気持ちには共感しましたし、
映画を観ていただければ、お駒が直之を好きになっていく様子がよくわかると思います。
Q:松坂慶子さん、中村雅俊さんが演じた直之の両親や、
草苗光子さんが演じたおばばさまもとても魅力的でしたね。
堺:そう、家族が本当に良かったんですよ! 5人で食事をするシーンを撮り終えた後に、
みんなが一斉に話し出したんですけど、実は全然かみ合っていなかったんです。
でも、なんとなく会話になっていて、「なんか楽しいー! この家族イケル!」って
思いましたね(笑)。
仲間:本当に楽しかったです。京都撮影所で撮影したのが冬だったので、
大きな缶に炭を入れて暖をとっていました。そうしたら、中村さんがどこからともなく
網を持ち出して、いろいろなものを焼いてくださるんですよ(笑)。
堺: 餅だのイカだの、いろいろ焼いていたよね(笑)。父が張り切ってイカを焼いたから、
撮影所の外がイカ臭い(笑)。
仲間:しかも、たくさん焼いてみんなに「食べろ!」って言って回るんです。
もう、「お父さんいいよ!」という感じで(笑)。あと、お父さんが亡くなるシーンが
あるんですけど、中村さんは死人メイクが気に入ってしまって、
わたしたちが悲しんでいる撮影の合間に、いろいろな方たちと記念写真を撮って
楽しんでいらっしゃいました(笑)。
Q:そんな中村さんのように、お二人もリアルな老けメイクを楽しんだのでは?
堺:僕も自分の老け顔が面白くて、写真を撮っちゃいました(笑)。
仲間さんも写真を撮っていたけど、撮る瞬間にどんよりした目をしたり、
芝居が入っていたよね(笑)。
仲間: 自分の顔なのにいつもと違うので、何かしたくなってしまうんですよね(笑)。
Q:借金返済のために倹約生活を送った直之とお駒から、影響を受けたことはありますか?
仲間:わたしは、モノを減らすことを実践しました。家に引っ越しのダンボールが
残っていたので、要らないモノは全部処分しよう! と思って(笑)。
バッグも靴もほとんど整理したので、すごくシンプルでステキな生活が送れるように
なりました。
堺: そういえば、モノを減らす大作戦をするって言っていたよね!
仲間: シンプル生活っていいですよー(笑)。堺さんは、本がたくさんありそうですけど、
増えてしまったらどうするんですか?
堺:僕は、図書館に寄贈するんです。捨てるのも使用するのも、図書館の判断に任せますね。
でも、本当に本が多くて、いつも考えているんですよ。本棚も買わなきゃ…・・・って、
何の話をしているんでしょうね(笑)。仲間さんのようないい話はないです(笑)。
Q:では、激動の時代を家族で乗り越えた猪山家の物語から、
お二人が改めて感じたこととは?
仲間:家族や大切な人がいることこそが、一番の幸せなのだと感じました。
苦しいことがあったとしても、皆と一緒なら分かち合えるし、乗り越えられると思います。
そんな掛け替えのない幸せを、皆さんにも感じていただけたらいいですね。
堺:いろんな世代の方が、それぞれの人生経験に照らし合わせて楽しむことができる
物語だと思います。
若い方だったら、息子の成之の生き方に感情移入できるかもしれませんし、
僕らのような30代後半の人なら、仕事や家族への責任というものを感じつつ観るのもいい。
もっと年配の方が観ると、現代がなくしつつあるものを思い出すかもしれません。
いろんな世代の方のご意見をお聞きしたいですね。
森田監督のインタビューを採録します。
1950年生まれ。東京都出身。
日本大学芸術学部放送学科在学中から映画を撮り始め、
『の・ようなもの』(1981年)でデビュー。1983年の『家族ゲーム』では
日本アカデミー賞優秀作品賞、優秀監督賞、優秀脚本賞を受賞したほか、多くの映画賞を受賞した。
主な作品に『それから』(1986年)、『(ハル)』(1997年)、『失楽園』(1998年)、『阿修羅のごとく』(2004年)などがある
――まずは製作の経緯からお聞かせください。
森田「2年前、原正人プロデューサーから映画化の話を聞いたのがきっかけです。
今で言う財務省というか、そういうところで働いて城の会計を司る『御算用者』という肩書きと、
主人公とその家族の生活が時代によって変化していくところが時代劇としては面白い視点だなと思い、
引き受けました」
――今回の映像化に際して、監督のこだわりはどの部分だったのでしょう。
森田「僕の場合、興味を持つのはやはり人間なんです。
この作品で言えば、人は貧乏な時にどう対応するのか、城と家での立場はどう違うのか、
夫婦関係、親子関係……そういうものに対して目がいきますよね。
そして、どんな局面になっても自分を失わずに明るく生きていく人が僕は好きなんですよ。
ですから、どの作品でもそれを芯として主人公を描きたいんです」
――そのこだわりが表現されている象徴的なシーンはどの場面ですか?
森田「直之(堺雅人)が自分の家が借金を抱えていることを知って、家財道具をほとんど売り払いますよね。
あのシーンはあまり悲劇的にならずに、逆に楽しいくらいにした方が見てる側も気持ちがいいと思うんですよ。
あそこでは、たとえ物理的にモノが無くなっても、精神的に無くならなければ、人間、大丈夫なんだ、ということを言いたいんです。
そういった前向きさを表現するところに、僕が映画を撮る意味があると思いますから」
――時代劇ということで、いつ主人公が刀を抜くのか待ち構えてましたが、
結局、最後までその機会はありませんでした。
森田「直之は弱いですからね~(笑)。
でも、だからこそ面白いですよね。
時代劇というと必ず強い人が出てきて暴れ回るけど、
僕は『椿三十郎』(2007年)という典型的なものを撮っているので、違う視点が欲しかったというのはあるかもしれない。
その意味で『武士の家計簿』はコロンブスの卵的な作品と言えるでしょうね」
――主人公の直之を演じた堺雅人さん、その妻・駒役の仲間由紀恵さんに監督からはどんな演技指導をされましたか?
森田「堺さんって、ニュートラルな表情が上手いじゃないですか。
ただ、厳しい場面では厳しく、表情にバリエーションをつけるようにお願いしました。
仲間くんは女優としてトリッキーな役どころは確立しているんだけど、
意外とノーマルな役のイメージが固まっていない印象があったので、それを出したかった。
彼女は見事に応えてくれましたね」……
――直之の父・信之(中村雅俊)と母・常(松坂慶子)もいい味を出してました。
森田「僕の中では堺さんと仲間さんの夫婦に対し、先輩夫婦として中村雅俊さんと
松坂慶子さんがいる、という相似形にしたかったんです。
ですから二組を対比しながら見るとまた違った味わいがあると思いますね。
世代交代と言うと大げさだけど、年齢を重ねたからこそ演じられる役って
やっぱりあるんですよ。
信之と常に関しては非常にほんわかとした、一度頂点に立った人間のやわらかさを
出したかったので、そこは中村さんと松坂さんにキチンと伝えましたし、
見事に演じていただきました」
――時代の変化と並行した「世代交代」も作品の軸だと思います。
森田「あの頃、確かに時代は劇的に変わりましたけど、
この物語は時代を変えた人間の話ではありません。にもかかわらず、
時代の変化の影響を少なからず受けているし、
親子の確執があるところが自分でも面白いと思います。
幼い頃から父に厳しくそろばんや論語などを教わってきた息子が、
新しく到来する明治の時代に活躍できたのは、父の教育があってこそなんですよね。
その意味では、直之の息子である成之(伊藤祐輝)と大村益次郎(嶋田久作)が向い合って
語り合うシーンはかなり思い入れを込めて撮りました」
――そのほかに監督の中で印象深いシーンやエピソードはありますか?
森田「ロケ地である金沢市で、地元のエキストラのみなさんにご協力いただいた一揆の
シーンは印象深かったです。ストーリーの都合上、
短い時間の映像でキッチリと見せなければいけなかったのですが、
みなさんとても頑張ってくれました。結局、芝居って『気持ち』なんですよね。
野球の応援と同じで、数や量よりも『気持ち』が見る人を高揚させる。
暗い夜の撮影で顔もほとんど見えなかったですけど、
あのシーンは撮っていてしびれましたね」
――ところで、監督自身は家計簿をつけてますか
森田「そんなもの怖くてつけられませんよ(笑)。競馬、パチンコ、麻雀……僕の場合、
支出のほとんどをギャンブルが占めてますから」
――失礼ですが、今年、還暦を迎え、監督の中で何か心境の変化はございますか?
森田「全然変わらないです。むしろ『還暦』って言葉を口にするのが怖いですよ。
つい最近まで『若手監督』って呼ばれてたのに(笑)。極端な話、駆け出しの頃と
気持ちはまったく変わってないですよ」
――監督にとっての創作意欲の源泉、ならびに原動力を教えて下さい。
森田「ルーティンワークは絶対に嫌ですね。
誰でも出来るようなことをただやるのは嫌です。何かをやるからには常に新しい
コンセプトが欲しい。それが出来なくなったらいつでも辞める気構えはあります。
言葉は悪いけど、いつまでも『あのジジイ、何であんなに若いんだ』って
言われるような監督になりたいんですよ。『間宮兄弟』だって50代で撮っています。
年齢なんて関係なく新しいことにどんどんチャレンジしていきたいですね」
――監督ほどのキャリアを重ねながら、改めてそう言い切れるのって素晴しいと思います。
森田「僕の場合、デビューが特殊でしたから。8mmからいきなり劇映画でしょう。
『監督修行をしないでデビューする映画監督が最近多いですが、どう思いますか?』って
よく取材で聞かれるんだけど、僕がそうだから答えようがないんですよね」
――話は変わりますが、最近、気になるコトやモノは?
森田「iPadかな。発売当時マスコミがけっこう騒いだけど、あれ、訳分からなくて
買った人が今どうしてるのかなって興味ありますよね。
今ごろ悩んでると思いますよ(笑)。みんなこぞって『すごい!』って報道してましたけど、
実際には説明書があるわけでもないし、iTunesがなければ、いや、そもそもパソコンが
なければどう使うんだって話じゃないですか。
一応、僕も持って楽しく使ってますけど、そこらへんのこと知らないで買った人、
絶対にいますよね(笑)」
――しかしながら、新しい技術やツールの登場はこれからクリエイターを目指す人に
とっては大きな追い風となると思います。
森田「それはすごく実感します。映像に関しては昔に比べて確実に動画媒体が
増えましたよね。ただ、それなのになぜ若い人がもっと出てこないんだろうとは思います。
ネットにブログ映画館みたいなものを作って、そこで自分が撮った動画を流す
だけでもいいじゃないですか。100万円もかければ充分いい映像作品は撮れますから。
もし、それが成功したら映画業界はあ然とするでしょうね。
僕はこれから先、そういった新しいことを実現する才能を持ったクリエイターがもっと
出て来ると思うんですよ。世の中には絶対すごいヤツがいますから」
このように、とても60歳とは思えない若々しさでインタビューに答えてくれた森田監督。
良い意味で巨匠然としていない、いつまでも変わらない瑞々しさこそが森田監督の魅力
であり、それが監督の数多くの作品にも前向きなメッセージとして込められているのでは
ないだろうか。
以下はネタバレとなるのでmixi独身映画ファンコミュニティ
http://mixi.jp/view_community.pl?id=1299114
にて「武士の家計簿」の頁をご覧下さい。
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