「コーヒー&シガレッツ」DVD脚本レビュー
★映画基礎データー★「コーヒー&シガレッツ」 2003年 アメリカ映画 監督脚本 ジム・ジャームッシュ 出演 ロベルト・ベニーニ |
映画『 コーヒー&シガレッツ』は『ミステリー・トレイン』
『ナイト・オン・ザ・プラネット』『デッドマン』の
ジム・ジャームッシュが監督・共同脚本・共同編集の三役を務めているモノクロ映画です。
ジム・ジャームッシュの最新作『コーヒー&シガレッツ』は、
18 年間もかけて撮り進められた作品です。
コーヒーを飲みながら、タバコを吸いながら、
様々な登場人物たちが、どうでも良さそうで、良くない、
でもひとくせある会話を繰りひろげて行きます。
日本でも多くのファンを持つジム・ジャームッシュ作品が公開されるのは5年振り。
かねてより、密かな話題となっていた本作は、
ジャームッシュが
アメリカの人気テレビ番組「サタデー・ナイト・ライブ」から依頼されて撮った
ロベルト・ベニーニとスティーヴン・ライト出演の
『コーヒー&シガレッツ/変な出会い(1986)』から始まっています。
カメラの前で
若き日のロベルト・ベニーニ(『ライフ・イズ・ビューティフル (1998)
』)と
スティーヴン・ライトの二人に、コーヒーを飲み、タバコをくわえさせて座らせて
即興会話をしてもらう。
二人は俳優として夢に関してと、歯科医に行くことについて語り合うのですが、
それは早送りだったり‘不条理’だったり文字通り台本の無い会話です。
二人は過多のカフェインとニコチンで、イライラしてくるまで喋ってます。
これが「変な出会い」(‘Strange To Meet You直訳:お会いできて妙です)’
なのですが。
『 コーヒー&シガレッツ』は“短編オムニバス”と紹介されることが
多いようですが、より正確にはひとつひとつが“ビネット”
(vignette =本のとびら・章頭・章尾などの飾り模様、
輪郭をぼかした絵画[写真]、人物寸描、スケッチ)と表現される
各 6 〜 12 分の起承転結にとらわれない
全部で11 のエピソードで成り立っている“掌篇集”です。
89年に撮影された本編の2話目に収録されている「双子」は、
映画監督スパイク・リーの妹ジョイ・リー、
弟サンキ・リーが双子の役で登場し、
実は双子だったというエルヴィス・プレスリーの話をするという内容に
スティーヴ・ブシェミ(『ファーゴ (1996)』『ビッグ・フィッシュ (2003)
』)を
ウェイター役で起用しているのですが、
『コーヒー&シガレッツ/メンフィス版』として各地の映画祭で好評を博し、
続く本編3話目92年に撮影された『コーヒー&シガレッツ/カリフォルニアのどこかで』では、
93年カンヌ映画祭の短編部門でパルム・ドールに輝いています。
…というわけで、各エピソードは初発表もまたバラバラで、
今回の公開でようやく集大成されるわけです。
11本のショートストーリーはそれぞれ、
登場人物や撮影された時期・場所は異なっているものの、
『ナイト・オン・ザ・プラネット』などで試みられた、
各エピソードを連結するジャームッシュ独特の仕掛けが随所に見受けられます。
「カリフォルニアのどこかで」でトム・ウェイツが語る
音楽と医学との深い関係についてのエピソードは、
03年に撮影された「幻覚」でウータン・クランのRZAへと受け継がれるなど、
時空を越えてひとつのエピソードが共有されています。
その「幻覚」ではソフィア・コッポラ監督作『ロスト・イン・トランスレーション』の
ビル・マーレイが本人役で、
しかも内緒でウェイターをやっているというへんてこな役で登場しています。
GZA とRZAはビル・マーレイが何故ウェイターになっているのか不思議がるのですが、
「幻覚に違いない」と変な納得の仕方をしてしまいます。
幕切れでビル・マーレイのうがいをする音が聞こえるくだりは笑えます。
彼らの多くは、自分自身を演じているのですが、
あくまでもストーリーはフィクションで、
それぞれの性格や出演作によって役作りが行われたといいます。
新しいデジタル合成技術も使われているようで、
ケイト・ブランシェット(『ヴェロニカ・ゲリン (2003)』
『ロード・オブ・ザ・リング』三部作等)が報道陣から逃れてコーヒーブレイクする
しているときに嫉ましげな従妹と会うというエピソードでは、
ケイト・ブランシェットが本人と従妹の同時二役を演じ、
テーブルを囲んで口論しています。
『コーヒー&シガレッツ』の各エピソードは
おおよそ撮影順に並んでいるようです。
『スパイダーマン2』でドクター・オクトパスを演じ、
強烈な印象を残したアルフレッド・モリナは、
同じ俳優であるスティーヴ・クーガン(『80デイズ (2004)』)に、
自分達は血縁で遠い従兄弟なのだよと言い出すのですが、
スティーヴは無名俳優の戯言と受け付けないでいると、
有名監督から電話がかかってきて態度を急変させるのですが、
逆に愛想をつかされてしまいます。
オムニバスのラストでは、
ビル・ライスとテイラー・ミードが仕事の休憩時間にコーヒーを飲んで
タバコを吸って雑談するというエピソードでシメになっています。
これが最新の撮影で、2003 年に撮ったものらしいです。
最初のエピソードは脚本なしの即興会話でカメラを回していましたが、
後ろの方へくるときちんとした脚本が用意されに、それにしたがって撮影されたようです。
本来でしたら、これは作品手法の方向転換ですのでテーマを崩しかねないのですが、
「コーヒー&シガレッツ 』に限ってはむしろ作品の完成度を上げていると評されているようです。
全編モノクロで撮影されていますが、中にはどうしてモノクロなのか必然性を
感じられなくも無いエピソードもありますが、
ラストのエピソードは、
老人ふたりが耳に手をかざすとモノクロームの画面にマーラーの美しい旋律
が轟くというムーディーなもので、あっぱれな出来の良さです。
テレビサイズから始まったエピソードが、
大画面のドルビーサウンドにまで広がったところで幕というオチですね。
メディアの運用としても興味深いですし、
人生の苦かったり辛かったりする教訓のそのまた上澄みのような
部分でテーマを語っており、ひとことで言い表せるようなものではないところが魅力です。
よく「見る人を選ぶ作品」などと評することがありますが、
実際には流血や暴力などの過剰描写に耐えられるかどうか、
カルト系で作中で語られる理論に付いていけるかで、
「見る人を選ぶ」作品になってしまっているものが多いようですが、
『コーヒー&シガレッツ』は過激な描写はまったく無く、
カルト映画のように小難しいことを言っているわけでもありませんが、
何気ない描写の中にテレビとも演劇とも違う、映画でしか描けない
世界を語っている「見る人を選ぶ」作品です。
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