「ディア・ドクター」
■作品基礎データ 「ディア・ドクター」 2009年 日本映画 原作・脚本・監督:西川美和 原案小説:西川美和「きのうの神さま」(ポプラ社刊)より |
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夏の終わり、山間の小さな村。
普段は平凡な日々が過ぎていくはずのこの村に、
異変が起こっていた。
診療所の医師・伊野(笑福亭鶴瓶)がいなくなってしまったのだ。
村人たちが不安がる中、
刑事の波多野(松重豊)と岡安(岩松了)が捜査に派遣されてくるが、
波多野は田舎暮らしに嫌気がさしてトンズラしただけでは、
と高をくくっている。
やがて見つかる、脱ぎ捨てられた伊野の白衣。
若い研修医の相馬(瑛太)は、
そのそばの田んぼを必死になって探し回っていた。
その約2ヶ月前。相馬は真っ赤なオープンカーを走らせていた。
東京の医大を卒業し、
都会から遠く離れた神和田村で研修をつとめることになったのだ。
ところが慣れない田舎道で事故を起こしてしまった相馬は、
気がつくと診療所のベッドの上。
目を覚ました相馬に、
白衣を着た関西弁の中年男が「伊野でございます」と微笑む。
これが伊野と相馬の出会いだった。
小さな診療所でひっきりなしに訪れる老人たちの診察をし、
連絡があれば夜中であっても往診に駆けつける。
独居老人の家を訪問して健康チェックもおこなう。
看護師の大竹(余貴美子)とふたりだけで、
村の健康を一手に引き受ける伊野。
村人たちは伊野を心から信頼し、
村長は無医村だったこの村に伊野を連れてきたことがなによりの自慢だ。
最初は都会とはあまりに違った生活に戸惑っていた相馬も、
伊野とともに診療をおこなう中で村に馴染んでいき、伊野に心酔していく。
そんなある日、
村に住む鳥飼かづ子(八千草薫)が倒れてしまった。
駆けつけた伊野は診察をすると、
暑さのせいだろうとあっさりと席を立つ。
ところがその夜、
伊野は相馬や大竹に知らせず、
ひとりだけでかづ子の家を訪ねた……。
監督デビュー作『蛇イチゴ』が高く評価され、
ロングランヒットを記録した『ゆれる』はカンヌ国際映画祭でも絶賛されるなど、
いま日本映画界で注目を集める若手映画監督・西川美和。
その待望の長編第3作『ディア・ドクター』が公開されました。
落語家であり、
タレントとして絶大な知名度を持つ笑福亭鶴瓶が、
芸歴37年にして初の映画主演を果たす。
共演は、都会育ちの研修医に『余命1ヶ月の花嫁』など
映画・ドラマで次々と話題作に出演する瑛太、
伊野に命を託す未亡人にベテラン・八千草薫、
伊野をサポートする看護師に余貴美子。
さらに製薬会社の営業マンに『ゆれる』に続き西川作品出演となる香川照之、
失踪した伊野の足跡を追う刑事に岩松了と松重豊ら、日本映画界屈指の演技派が揃った。
「ゆれる」の西川美和監督の
「ゆれる」以来の新作です。
受賞は逃しましたが西川さん直木賞の候補にもなったようです。
論評の中に「シリアス・コメディ」という言葉があって
なるほどと思いました。
“ブラック”というんではないですが、かなりシニカルな笑い、ですね。
偶然だけどNHKの朝番組で
西川監督が取材したという海辺の僻地の病院からの中継を見ました。
まだ30代半ばの女性監督、という存在自体、邦画界では珍しいのだけど、
地域の病院でも結構新しい設備を持ってるし、
大病院とのネットワークもある。
またそうでないと地域医療は成立しないのだと番組では語っていました。
生でも一度見てるんですよね。
「ユメ十夜」というオムニバス映画の一遍のメガホンを取っていて、
舞台挨拶を見てます。
年長の男性監督さんや出演者も来ていたので、
とりわけ地味。
映画監督というと声がでかくて、現場では独裁者という印象ですが、
どつとつと話す割と普通の女性という感じですね。
「ディア・ドクター」は監督が書かれた本が原作てす。
演出と著作とどっちが好きかという質問に、西川監督は
「映画の方は、体力がおちたら続けらんないでしょうね」
という意味のことを言ってます。
オリジナル脚本を書くのに一本、3年4年と時間がかかり、
その間は一人もくもくと原稿に向かったり、
ひとりで取材や調べものをしている。
スタッフと顔をあわせるのは、3年4年おきに数ヶ月だけなんだ
っていう話は、何となく不思議ですね。
私自身、企画書用のプロット書きなんかをやっていた時期があって、
映画関係者というものは、
制作期間以外は企画書づくりとか、
その売込みとかに日々を費やすものだという意識を持っていたので、
どっちみち人中でしか仕事は成立しないものなんだ、
山にこもって修行僧侶のように暮らすわけには行かないんだと
思ってましたから。
もっとも西川監督の場合は、
原稿が行き詰まると、帰省して広島の実家に引き篭もってしまうそうですが。笑
「ゆれる」の時もそうでしたが、この監督の作品は
事件が終わったあとの後日談が長く、
実際の作品のテーマ、というか監督の思いと言うものは、
その後日談の尻尾のような部分に出てきてますね。
「ディア・ドクター」のエンディングは摩訶不思議なオチです。
改めて反芻すると、なかなか好きです。
通常のリアリティからすると変なんだけど、
これは結局、悪漢の話なのだから、
「どっこい生きている」みたいな感じで、
殺伐としたご時世に風穴開けるというのが愉快です。
声高にアジテートするのではなくて、
くすくす笑う事でね。
笑福亭鶴瓶のインタビューを再録します。
しょうふくてい・つるべ
'51年、大阪府生まれ。大学在学中、6代目笑福亭松鶴に弟子入り。
落語家ながら、同時にバラエティ番組の司会や役者としても活躍する。
2010年1月には『母べえ』に続き吉永小百合と再共演した『おとうと』
(山田洋次監督作)が公開予定。『ディア・ドクター』
「僕はずっとほんまもんになりたいと思って、やってきた。
この主人公と僕は、そういうところで重なってるんです。
西川さんは30代でほんまもんと偽者の違いをちゃんと考えて、
映画にしようと思ったわけでしょう。これに気づけるのはすごいことやね。
俺は58歳で、やっとやで」
主人公を演じる醍醐味は、
「僕がずーっと映ってること(笑)」。
「それに大きな役をすることになって、
はじめて監督と向き合ってしっかり話をしたのも、
いい経験でしたね。
ゲスト的な出演のときは、そんなことはしなかったですもん。
西川さんには最初、ラストの意味がわからなくて、
なんであのシーンが要るのって聞いたの。
そしたら手紙をいただいて、理解することができた。
ちゃんとオチがわかった上で、
あとはすべてを西川さんにあずけようっていう気持ちになりました」
鶴瓶と西川監督のインタビューを再録します。
PROFILE にしかわ・みわ
'74年、広島県生まれ。
是枝裕和監督のもとで映画制作を学び、'02年『蛇イチゴ』でデビュー。
'06年に発表した『ゆれる』は、同年の映画賞を総なめにする高い評価を得た。
本作はモントリオール映画祭に出品。
Q:まずは、完成した作品をご覧になった感想からお願いします。
鶴瓶:それがね、映画自体は素晴らしいと思うんだけど、
自分の演技が気になってしまって、落ち着いて観ていられないんですよ。
西川:鶴瓶師匠は、ほかの役者さんのシーンでばかり笑っていましたもんね。
鶴瓶:そう、自分以外のところは普通におもろいなぁと思うんだけどね。
でも、僕が信用している人たちは、
映画を観てすごく良かったって褒めてくれるんですよ。
ダメな作品だったら、
「あんなん出たらあかんで!」って正直に言ってくれる人たちなんでうれしいです。
西川:わたしは、そんな風に誰かに言ってもらえて、
初めて「ああ、良かった」って思うんですよね。
Q:主人公の伊野は、尊敬される医師であると同時にとんでもないうそつきという、
複雑なキャラクターでしたね。
西川:伊野は、目の前にいる人のために、
その人のいいようにしてあげてしまう性分なんですよ。
それは、善人であるとか良心とか愛とかで定義されるものではなくて、
人間の持っている本能の一つだと思っているんですけど、
実は鶴瓶師匠にもそういうところがあるんです。
師匠のお父さんも人を喜ばせるのがお好きだったんですよね。
鶴瓶:そう、うち昔は貧乏やったんですけど、
オヤジが町内会を仕切っていたんですよ。
町内のみんなを旅行に連れていってあげたくて、
うさんくさいバス会社に頼んだんですよ(笑)。
で、僕より一つ年上の子から、
「おっちゃん、この間はありがとう、楽しかったわ」って言われて、
また来年も連れていってあげなあかんなって張り切ったりして。
その顔がすごくうれしそうでね。
そんなオヤジを見て育っているから、僕も似ているんでしょうね。
Q:監督は、鶴瓶さんの資質を見込んで伊野の役をお願いしたんですか?
西川:最初は深く考えずに役をやってもらったんですけど、
偶然なのか、鶴瓶師匠も本能的に人に合わせてしまう要素を持っている方で。
撮影から1年近く経っていますが、
最近、師匠って伊野だったんだと思うことが増えました(笑)。
鶴瓶:僕は、演じた後からどんどん伊野になっているんですよ。
この作品に「そのうそは、罪ですか」っていうコピーがあるでしょ。
僕も監督のそばでうそをついたことがあるんです。
この間、スタッフのみんなと食事したとき、
店からごっついキャラのおばちゃんが出てきて、
「鶴瓶さん、カヨちゃんって知ってる?
すごくお世話になったんです!」って言うから「知ってるよー」って答えたんやけど、
実はまったく知らなかった。
西川:ええ!? すごく自然にお話していましたよね!
鶴瓶:僕をほかの芸人さんと間違えていたんでしょうね。
でも、おばちゃんに恥をかかさないように話を合わせていたんです。
このうそは罪じゃない。いいうそなんです。
西川:なるほど、そこで本当のことを言って何になるんだと。
鶴瓶:そうそう。まさに伊野なんですよ(笑)。
Q:『ゆれる』とは異なり、全編にユーモアが散りばめられた本作ですが、
この作風は監督が始めから意図されたものですか?
西川:最初からそうしようと思っていました。
『ゆれる』で評価されたことの反発もあったというか。
ああいったキツくて重い作品を作ってほしいという人もいると思いますけど、
それだけが映画ではないし。明るくて楽しいものも好きなんですよ。
鶴瓶:前半は本当に面白いよね。
言うたら笑いの連続みたいな。それがあるから後半のドラマが生きてくる。
西川:でも、師匠を前にして言うのも何ですが、
人を笑わせるのって難しいと思うんですよ。
前作は、テーマ的にも笑いの要素を入れるのが難しいからやらなかった。
今度はもっと楽しい映画が作りたかったんです。
Q:本当に、コミカルなシーンとシリアスな展開とのバランスが絶妙でした。
西川:『ディア・ドクター』もテーマ自体は重たいし、
病気や老いや死をどう受け止めるのかという話なので、
だからこそ楽しい装いにしないと観るのがイヤになってしまうかと。
でも、実際は俳優さんたちの力に頼ってしまう部分があって、
いくら華があってカッコいい役者さんでも、
おかし味のようなものが自然ににじみ出てくるようなタイプでなければ、
ちょっと難しいと思っていました。
そういう意味では、
前半は鶴瓶師匠が現場で演出されたといっても過言ではないですね。
鶴瓶:いや、僕もフリーの笑いはできますけど、
映画の笑いは難しいですよ。
決められた映像の中での笑いっていうのは、
間をちゃんと出さないとあかんから。
ほかの役者さんたちとの間合いっていうのはね、
一つでも外れるとダサいものになるんですよ。
西川:そうなんですよ!
だから、カメラの前では面白くても、
編集でカットのタイミングを間違えたらダメになってしまうし、
カメラの位置で台なしになることもありますよね。
今回は、わたしの演出というよりも、
鶴瓶師匠の芸人さんとして培われたユーモラスなしゃべり方やコミカルな動きに、
すごく助けられたと思っています。
Q:茨城県常陸太田市の撮影現場では、地元の方々の温かい協力があったそうですね?
鶴瓶:撮影に協力してくれた地元の皆さんを、
僕がしっかり掌握していましたから(笑)。
今でもお付き合いしている人もおります。
西川:鶴瓶師匠がすべての人にファンサービスをしてくれたんです。
鶴瓶:いい映画を作るためでもあるんですけど、
もともとサービスしちゃう性格なんで、
ちょうど良かったんじゃないですかね。
撮影中は、地元でコンビニをやっているご家族が、
僕らのために昼と夜それぞれ70食分の弁当を用意してくれたんです。
1日140個ですよ!あの店、僕らがいなくなって、
もぬけの殻になっているんじゃないですか(笑)?
Q:本作は8月に開催されるモントリオール世界映画祭に出品されますが、
お気持ちはいかがですか?
鶴瓶:とにかく楽しみです!
モントリオールという街も楽しみだし、
映画祭自体も楽しみだし、役者としていくから芸をする必要もないしね(笑)。
西川:賞が取れるかどうかなんてどうでもいいんです(笑)。
映画って国境を越えやすいですよね。
わたしもいろんな外国映画を観てきたし、
どこの国の人が観てもわかるように工夫して工夫して映画を撮っているんです。
だから、モントリオールのような大きな映画祭で紹介してもらって、
一人でも多くの人に観てもらえるのを楽しみにしています。
西川美和が語る鶴瓶の魅力
彼が持っている資質なしでは表現できなかった
村の人々に慕われながらも、秘密を抱えて失踪してしまう医師、伊野。
西川美和監督は、脚本段階ではイメージする役者すらいなかったと語る。
「伊野は液体のようにヌルヌルした、つかみ所のない人間。
自分というものがなく、周囲の期待に合わせてどんどん変わってしまう。
だからこそ、この役を誰にお願いするかは非常に悩みました。
笑福亭鶴瓶師匠というまったく逆の個性が来るという発想は、
ある意味冒険であり、私自身にとってもとても新鮮なものでしたね」
カメラを通して鶴瓶が演じる伊野を観たとき、
「まるで自分のない男が写っている」ことに、驚かされたという。
伊野の持つ、ちょっと笑ってしまうような弱さ。
そしておかしさと哀しさが混じった独特の空気は、
もともと師匠が持っておられる資質なしでは、表現できなかったと思います」
兄弟の愛憎劇を痛々しいまでに描いた「ゆれる」は、
実際に見た夢を脚本に書き起こしたという。
新作の着想は3年前に見た新聞記事がきっかけだ。
「四国の僻地(へきち)で白タク運転手が逮捕され、
お年寄りが病院に通えなくなったという内容。
僻地医療に興味を持ち取材を始めました。
見捨てられた辺境の地で成り立つ正義とは
何なのかを探りたかったのです」
村の診療所でただ一人の医師、伊野(笑福亭鶴瓶(しょうふくていつるべ))は
村民から絶大な信頼を得ていた。
研修医として赴任した相馬(瑛太(えいた))も
真摯(しんし)な彼の姿勢に惹(ひ)かれるが…。
静岡、三重県の診療所に泊まり込み現状を調査、
医師や看護師など複数の医療関係者らを約1年かけて取材した。
「医療をテーマにするからにはウソはつけない。
医療ドラマは多いが、“僻地で働く素晴らしい医師、温かい村民”
という構図ではくくれない現実を描きたかった」と説明する。
僻地医療の課題を浮き彫りにするとともに、
「医者の資格、資質とは何なのか?」と職業論にまで踏み込む。
そこには「ゆれる」以後、
「映画監督という大それたポジションにいる自分への違和感、
居心地の悪さが膨らんでいった事実もあるんです」と明かす。
当時、世を騒がせた食品偽装事件にも影響を受けたという。
「なぜ誰も偽物を見抜けなかったのか。
その事実への反省はなく、人々はただ騒ぐだけだったのではないか」。
偽物と本物を見極める題材として、
国家資格が必要な医師を主人公にしたが、
政治家やスター俳優なども選択肢として検討したという。
「小説を書くことは、自分自身を探るための作業といったらいいでしょうか。
監督、脚本家というそれぞれの役割に影響を与えあっています。
可能な限りすべて続けたいですね」
映画「ディア・ドクター」の原案小説「きのうの神さま」出版を記念し、
東京・渋谷の「TOWER BOOKS」で
2009年5月28日に行われた是枝裕和監督
(新作「空気人形」が9月公開)とのトークイベントより再録します。
西川監督は笑福亭鶴瓶の起用が、
是枝監督のアイデアだったことを明かした。
師弟関係にある2人のやりとりは次の通り。
西川 キャスティングに悩んだ末、(是枝)監督のところに行って雑談しているとき、
名前を挙げてもらったんですよね。覚えてます?
是枝 覚えてます。
西川 なんでいいと思ったんですか?
適当ですよね、きっと(約120人の来場者から笑い)。
是枝 なんか理屈はつけたな。
西川 そのとき2人で一致したのは、お年寄りに好かれそうだということ。
脚本は標準語で書いたんですけど大阪弁でやってもらったし、
化学変化が日々起こり、ライブを撮っている感じが…
以下はネタバレとなるのでmixi独身映画ファンコミュニティ
http://mixi.jp/view_community.pl?id=1299114
にて『ディア・ドクター』の頁をご覧下さい。
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