「フライ,ダディ,フライ」映画製作裏話
★映画基礎データー★「フライ,ダディ,フライ」 2005年 日本映画 監督 成島出 脚本 金城一紀 出演 岡田准一 堤真一 |
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筑紫哲也のニュース番組で、シーズンごとの映画特集があってその中で、
筑紫さんがほめていた作品です。
劇場で予告編を見たときは悪乗りアクション映画のように見えましたので、
映画館で見るどころかテレビでやっても見ないだろうと思ってましたが、
週間興行成績のベスト5くらいに入っていたこともあって、劇場公開時に見に行きました。
予想外に面白かったです。
高校生・朴舜臣(パク スンシン 岡田准一)が
おっさん・鈴木一(スズキ ハジメ 堤真一)と出会ったのは、夏休みの前日、終業式の日。
おっさんは、自分の娘、遙を傷つけた石原(須藤元気)がいる高校に包丁を持って乗り込んだ!
・・・はずだった。
校門前「石原を出せぇ!!」の声もむなしく、その高校の生徒・スンシンに一発でのされ、
気絶してしまう。
そして、目を覚ましたおっさんは乗り込む高校を間違えたことを知る。
おっさんが自分の情けなさにうちのめされながら事情を話していく・・・。
話を聞いた、スンシンの仲間たち“ゾンビーズ”は、石原に一泡吹かせるある計画を思い付く。
ひと夏、おっさんを特訓して、石原と対決させるのだ!
鈴木さんの教育係はスンシン。
こうして、高校生たちとおっさんの奇妙な夏休みがはじまった。
映画館は岡田准一くんのファンらしい女の子でいっぱいでした。
制作時期は岡田君はTBSテレビ「タイガー&ドラゴン」と
堤さんはフジテレビ「恋におちたら」他に映画「ローレライ」と“京極堂”のみっつとも
被っていたんじゃないかな。
しかも内容があれでしょ、最初から最後まで“身体を鍛えまくる映画”。笑
掛け持ちは結構きつかったと思いますね。
ハリウッドスターのように高いギャラとって、ひとつの映画に半年以上も専念できる
訳じゃない日本の俳優さんたちの心意気あってこんな映画が出来るんだなぁ。
岡田君は原作の熱烈なファンだったそうで、つねづね「脇役でも良いから出たい」といっていたそうです。
で主役に抜擢されるとジムに通って半年身体作りをした。
原作のコミック版で登場する朴舜臣はでかい男なので
本来自分の役ではないと思っていたそうで、
そのイメージのギャップを埋めるのに懸命だったとか。
それなりの答えは出してますので、スクリーンで彼の勇姿を見てやってください。
堤さんがもとジャパン・アクション・クラブの出身とは迂闊にも知りませんでした。
だめだめなランニングの演技でかえって体調崩したとか、いろいろ語ってます。
敵役の石原を演じていた須藤元気は出番が初めと終わりだけですが、
そのあこぎな感じは堂々たるものです。こいつが“へたれ”だとドラマが成立しなくなる。
もともと格闘技家らしいですね。
それでもってストリート系のモデルとしても活躍している。
ふーん、あまり邦画界では見かけないタイプですね。でも個性的で面白いですよ。
デビュー作『GO』で第123回直木賞を受賞した金城一紀が脚本を書いてます。
前の方で“原作”という言葉を使っていますが、
東映のプロデューサーの依頼でオリジナル脚本を書き下ろしたのが始まりで、
いま、原作本として発刊されているものは、
映画化までの二年間に脚本から書き下ろされたノヴェライゼーションです。
さらにそれがコミック化されて人気を取ったといいます。
『GO』の映画版がいろいろな賞をとって、その関連イベントに出た金城一紀は、
小説には無い観客のダイレクトな反応を見て、是非オリジナルを作りたいと感じたそうです。
もともと「スターウォーズ 帝国の逆襲」のような、へなちょこが修行して強くなる
“修行もの”が好きで、中年リーマンが高校生に身体を鍛えられて戦う、
というのはどうだろう?
と話したところ。「それ面白いんじゃないですか」とプロデューサーがノッてくれたので、
実際の脚本執筆になったとか。
スンシンの特訓は、走らせ、木に登らせ、階段を駆け上がらせるシンプルなもの。
走れない、登れない、上がれない鈴木さん。
それでも、次の日も次の日もやってくる鈴木さん。
鈴木さんの本気にスンシンもやる気になってきた。
そしてまた、年齢も環境も違う2人の特訓の日々が続いていく。
弱音も特訓もどんどんどんどん繰り返され、少しづつ近づいていく2人。
走れるようになり、階段も上がれるようになり、木にも登れるようになり、
スンシンと笑いあうようになった。
特訓が終わりに近づいていく・・・。
そして、決戦の日を迎えた。
石原の高校に乗り込むゾンビーズたち、決戦の舞台は始業式の校庭、
不適に笑う石原、覚悟を決めた鈴木さん、緊張と興奮が最高潮に達したとき、
決戦のゴングが鳴ったーー。
「飛べ、おっさん、飛べ!!」
鈴木さんのお宅というのが郊外の新興住宅街のなかの建売住宅のひとつですが、
これがショートケーキみたいにかわいいです。
駅傍のバスストップまで帰宅すると丸まっちい軽自動車に乗って、
そこそこ美人の奥さんがダンナを迎えに来る。
車にはパジャマ姿のかわいいわが娘がいてニコニコ「おとーさん、お帰り」なんて言ってくれる。
独身社会人の私らにゃ手の届かぬ生活です。
勤め先の玩具メーカーでは部下に「部長は間近」なんて言われて、
「そんなことあるか」とやに下がっている。
ちいさくまとまって幸せな日々は、娘が暴漢に襲われたことで台無しにされる。
暗い救急病棟の病室で包帯ぐるぐる巻きでベッドに寝かされている娘が泣き声で
「お父さん」と差し出す手を「なんて馬鹿な」と振り払ってしまう。
娘は凍り付いて、以後、口を利かなくなってしまう。
お父さんは、事態を受け止められなくて動転してうめいたのだけど、
これが娘を抱きしめて一緒に泣いたりしてれば、また事態は変わったかもです。
どんなところに落とし穴があるか判ったものでは在りません。
鈴木さんは無用心に穴に落ちてしまった娘を嘆くのですが、
同時にその嘆きによって自分自身が墜落してしまったことに気が付かない。
いたるところに口を開けている人生の穴すべてをよけて暮らすことは出来ないです。
病室に引きこもってしまった娘に引き込まれるように妻まで様子がおかしくなり出す。
家庭崩壊。
知らない高校の教頭が病院の廊下に現れ、鈴木さんは
「娘さんの下半身にはいかなる被害も無い」とレイプではないことを仄めかされる。
娘が友達とカラオケボックスで歌っていると、勝手に入ってきたヤンキーたちが
「一緒に歌おう」とマイクを掴む。
抗って伸ばした手がたまたまヤンキーの頬を叩いてしまった。
ヤンキー石原はキレて娘に馬乗りになってタコ殴りする。
石原はボクシングのインターハイ・チャンピオンだ。
返り血を浴びて赤く染まる拳で殴るっ! 殴るっ! 殴るっ!
こういう寸借のためらいも無い他人の暴力に晒されたことも無いだろう娘はさぞかし
怖かったろうなと思います。
「石原は大臣の息子」だそうで、
「本人も痛く反省しているから」と教頭は分厚い札束の入った封筒をすすぎさんに握らせた上、
当の石原にかたちばかり頭を下げさせる。
本人はへらへら笑って、腹にもない謝罪の言葉をしゃべる。
どうやら乱暴狼藉は茶飯事で、その都度、親の権力と金でかたをつけているらしい。
石原は他人も世の中も頭からなめてしまっている。
理不尽な暴力に、鈴木さんは暴力であがないを求めようとする。
なくしてしまった娘、遙との繋がり、信頼関係というのは、理屈では取り返せない。
鈴木さんはそう感じてしまったのですね。
感情レベルの話です。口先だけでは無理、行動で示さねば。
ただ、行動のありようが陳腐だった。
刃物を抜いて暴れてしまい、人違いの在日の高校生にのされてしまう。
「だったらおもう存分、石原をぶちのめしていただこうじゃないですか」
鈴木さんに加勢する“ゾンビーズ”というのは、
金城一紀のほかの作品にも登場する悪がき連中です。
コーチ役の舜臣(スンシン)が在日というんで、差別だとかいろいろ映画の掲示板に
書かれています。
在日韓国人に関する事情が、舜臣(スンシン)を武術に走らせたことは事実です。
かつて理不尽な暴力に屈っしざるを得なかった過去が、
舜臣(スンシン)を暴力肯定の生き様に走らせる。
それは悲しいことなんだけど。
この作品は、鍛えることでそれまでの己を越えようとする爽快さ、
言葉を越えるコミュニケーションの清々しさと、
暴力の非道が混在した不思議な魅力に満ちた作品です。
ひいひい言いながらも、どこまでも着いてくる鈴木さんに舜臣(スンシン)の方が、
音を上げてしまう。
「どうする、おっさん本気だぞ?」
かけのネタにして、小遣い稼ぎをする気でいた“ゾンビーズ”らも舜臣(スンシン)と
ともに鈴木さんを本気で応援しようという気になる。
そして鈴木さんの奮闘は、“ゾンビーズ”らによって、
密かに娘、遙や奥さんにも伝えられる。
そして娘も病室でいつしかお父さんに期待を抱くようになる。
ちょっと良いエピソードがあってね。
勤め帰り、奥さんの迎えの車は来なくなって、
バスで他のサラリーマンたちと一緒に帰るようになるんですが、
スニーカーに履き替えてバスの後を走るようになる。
走る姿はとんどんさまになってきて、バスと競り合うほどになる。
バスに乗っていた他のサラリーマン達が駅伝の話なんぞを始めて盛り上がってしまう。
挙句、窓を開いてやんやの応援。
で、とうとう鈴木さんが勝ってしまうと喝采を贈るんですね。
サラリーマン達は当然背後の事情なんか知らないんだけど、
ただ走る、ひたすら走る鈴木さんに感動してしまう。
鈴木さんが舜臣(スンシン)に訓練初日に登らされて手も足も出なかった樹木に
とうとう登ってしまう日が来る。
そして木の上でふたりして夕焼けを眺める。
「おっさん、早く強くなってくれ。…強くなって俺を守ってくれ」
思いもかけぬ言葉でした。
誰も守ってくれないから、たった一人ぼっちだったから、自分で強くなるしかなかった。
決戦の日、舜臣(スンシン)は
ゾンビーズが高校を襲って強引にでっち上げた決戦場で、
鈴木さんが石原を目の前にしてあえて言うんですね。
「戦わないことこそ本当の勇気だ」
うなづき、笑みさえ浮かべて死地へと赴く鈴木さん。
その結果、鈴木さんやその家族、そして舜臣(スンシン)が得たものは何だったのか。
一口で言ってしまえるものかも知れないし、
言葉には出来ないものかもしれない。
物理的な勝敗より、その思いこそ、この作品の値打ちです。
映画が終わって場内が明るくなった時、私は思っても見ない感情に突き動かされました。
実は私は感動していたのです。
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