「グラン・トリノ」
■作品基礎データ 「グラン・トリノ」 2008年 アメリカ映画 監督・主演:クリント・イーストウッド 脚本:ニック・シェンク 原案:デイブ・ジョハンソン 音楽:カイル・イーストウッド マイケル・スティーブンス |
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ウォルト・コワルスキー(クリント・イーストウッド)には、
自分だけの正義があった。
それに外れるものは、何もかも許せない頑固で偏狭な男だ。
妻の葬儀では、孫娘の露出過剰なファッションにキレ、
大勢の参列者は「会食に出すハムを食いに来ただけだ」と一刀両断。
説教が気に入らない新米神父には、「頭でっかちの童貞」と毒づく。
ふたりの息子たちは、式が済むと逃げるように帰って行った。
もっと、許せないことがある。
近隣に暮らす、ウォルトが偏見を隠さないアジア系の移民たちだ。
大人たちは家屋の手入れをせず、
若者たちはギャングを気取って異人種間の小競り合いを繰り返している。
彼らに罵声を浴びせる以外のウォルトの日常は、いたって退屈だ。
自宅を修繕し、芝生を刈り、愛犬デイジーに語りかけながらビールを飲み、
月に一度は床屋へ行く。
そんな彼の唯一の楽しみは、磨き上げた愛車〈グラン・トリノ〉を眺めること。
定年までフォードの自動車工を勤め上げたウォルトが、
1972年に自らステアリング・コラムを取り付けたヴィンテージ・カーだ。
その宝物を盗もうとする、命知らずの少年が現われる。
隣に住むモン族のタオだ。
学校にも行かず仕事もないタオは、
従兄のスパイダーに不良グループへ引き込まれ、車を盗めと命令される。
夜中にガレージに忍び込んだタオは、ウォルトにM-1ライフルを向けられて、逃げ出した。
ウォルトは、朝鮮戦争で使い込んだそのライフルを、
タオにヤキを入れに来たスパイダーたちにも突きつける。
彼は自宅の庭に侵入されて激怒しただけなのだが、
タオを不良たちから救う結果になるのだった。
翌日、タオの母と姉のスー、そして親戚までが、
花に植木、料理にお菓子とお礼を持って押しかけるが、ウォルトには迷惑なだけだった。
数日後、ウォルトはスーが黒人の二人組に絡まれているところを助けてやる。
朗らかで機転の利くスーとの会話は、ウォルト自身意外なことにじつに楽しいものだった。
また別の日、ウォルトはスーから自宅に招待される。
ビールに釣られて訪ねると、最初は気まずい空気が流れるが、
祈祷師に心の中をズバリ言い当てられ、女たちに美味しい料理を振る舞われ、
ウォルトは思わず
「どうにもならない身内より、ここの連中のほうが身近に思える」と呟く。
今度はスーと母親がウォルトを訪ね、
お詫びにタオを働かせてほしいと強引に頼みこむ。
渋々引き受けたウォルトとタオの不思議な交流が始まった。
近隣の家の修繕を命じられたタオは、労働の喜びに目覚めていく。
手本となる父親がいないタオにとって、ウォルトはまさに人生の師だ。
ウォルトもまた、生き生きと働くタオを見直し始める。
約束の日数が過ぎても、タオは何かとウォルトを手伝った。
タオに建設現場の仕事を世話し、自慢の工具を貸し与えるウォルト。
今やウォルトは、タオを一人前の男にするという人生の最後にふさわ相応しい仕事に、
生きる喜びを感じていた。
何もかもが順調に見えた時、スパイダーたちの嫌がらせが再燃する。
ウォルトが受けて立ったばかりに争いはさらに加速し、
ウォルトはタオと家族の命の危険さえ感じ始める。
タオとスーの未来を守るため、ウォルトがつけた決着とは……?
イーストウッドは「もう俳優業は控えよう」と考えていたと言う。
そんな時、これがデビュー作の新人、ニック・シェンクの脚本を読み、
「私を思い浮かべて書いたのではないかと思うような男だ」と深く共感、
監督・主演を決めたのだと言う。
ラオス、ベトナム、タイなどアジア各地に居住し、
厳しい歴史を歩んできたモン族の真の姿を伝えるため、
イーストウッドは実際のモン族の人々を起用した。
撮影監督は、これが7作目のイーストウッド作品となるトム・スターン。
美術は、『硫黄島からの手紙』『チェンジリング』に続くジェイムズ・J・ムラカミ。
衣装は、20年以上にわたってイーストウッド作品に関わってきたデボラ・ホッパー。
音楽は、『ミスティック・リバー』以降の作品を手がける、
イーストウッドの実子カイル・イーストウッドと、マイケル・スティーブンス。
心に染みわたる主題歌は、
英国のジャズシンガー、ジェイミー・カラムとドン・ランナーの演奏。
「グラン・トリノ」見ました。
イーストウッドの作品で一番興行成績が良いそうですね。
「ミリオンダラー・ベイビー」「硫黄島からの手紙」どころか、
「ダーティハリー」シリーズもひっくるめてのヒットなら、それは凄い事で。
なんか物凄くお金かかってない作品ですが、
言うべきことをいい、見せるべきものを見せ、
しっかり笑わせ、しっかり泣かせ、ついでにイーストウッドが歌まで聴けるという
おまけ付きの力作でした。
外人のお客さんが劇場にいて、
イーストウッドが人種差別発言をする度に爆笑してましたが、
戸田奈津子先生の翻訳はお上品で、
こっちは大笑いというとこまではいかなかったですね。
本当に面白いところ知り損ねたようで、
そういうの悔しいなぁ。
若い神父さんもいいし、マイノリティの少年少女たちも
みんな素晴らしい演技をしています。
スーとタオの姉弟を含むなんたら族役の人たちは、
本当になんたら族の人たちらしいけど、
イーストウッド監督はうまいこと使ってます。
「グラン・トリノ」というのは古いアメ車の名で、
主人公はこれを磨いて眺めるのが至福のときという入れ込みようです。
本人がハンドルを握る場面は無かったと思うけど、
アメリカ人の車への、古きよき時代への思いを強く感じました。
クリント・イーストウッド監督の実子で「グラン・トリノ」の音楽を
担当したカイル・イーストウッドのインタビューを再録します。
音楽担当者のインタビュー珍しいし、ましてや実子というのはちょっとない
貴重なものです。
■Kyle Eastwood 1968年5月19日、米サンタモニカ生まれ。
バニー・ブルネルにベースを師事し、98年、「フロム・ゼア・トゥ・ヒア」でデビュー。
2004年のアルバム「パリス・ブルー」の収録曲「ソルフェリーノ」を
父のクリントが気に入り、映画「ミリオンダラー・ベイビー」(04年)で使用した。
ほかに手がけた映画音楽は「ミスティック・リバー」(03年)、
「硫黄島からの手紙」(06年)など。最新アルバムは「メトロポリタン」。
ちょうど今、父クリント(78)が代表作「ダーティ・ハリー」(1971年)に出演したころの年齢だ。
カイル・イーストウッド、41歳。
ジャズミュージシャンとして足場を固めたカイルは、
映画道を究めた父の最新監督・主演作「グラン・トリノ」で映画音楽を担当した。
親の七光だけでは生み出せないセンスと実力を発揮し、観客の耳を楽しませている。
「父のことでよく質問されるのはかまわないけど、やっぱり自分の仕事・音楽をいつも一番に考えるようにしているよ」
クリント演じる頑固な老人ウォルトが、
隣に越してきたアジア系移民一家の少年タオと出会うことで、
これまでの偏見に満ちた人生を変えていく。クリントの人生哲学がにじみでた作品だ。
「父がここ10~15年間に作ってきた中でも最高といえる映画が、
今になって生まれたことがすごい。実際の父と近い部分が出ていて興味深いしね」。
主人公の話し方やちょっとした仕草が、ふだんの父と重なるらしい。
「ウォルトほど不満たらたらで気難しいじいさんではないけどね(笑)」
父の映画にはこれまでも「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年)や
「硫黄島からの手紙」(06年)などで映画音楽にかかわってきた。
今作で最も気をつけたことは、「セリフが多い作品だから、
音楽をどこに入れるか注意深く選ばなくてはいけなかった」。
タオ少年がウォルトの愛車グラン・トリノを盗もうとしたおわびに、
近所の家の修理を手伝う場面が「珍しくセリフのないシーン」で、
会心の音入れができたという。
「一緒に書いた曲もあるし、かなり父のアイデアが入っていた。
どのシーンを選ぶか決まってからは、好きなようにやらせてもらえましたね」
幼いころから、ジャズ好きの父にサンフランシスコ近郊の
モントレー・ジャズフェスティバルに連れて行かれるなど、音楽に囲まれて育った。
82年に「センチメンタル・アドベンチャー」で父と共演し、
一時は南カリフォルニア大学で映画を学んだ。
だが「音楽こそ自分の進む道」と休学。
以来、ベーシストとして音楽活動に専念し、
伝統的なジャズからR&Bやポップスまで幅広く取り入れている。
現在はパリ暮らしで、
「ヨーロッパ公演が多いし、パリをベースに活動する方がやりやすい。
日本のように耳の肥えた客が多いよ」。
4枚目のアルバム「メトロポリタン」をリリースしたばかりで、
6月には東京でライブを行う。
「自分が誇りに思える曲を作れば、聞いてくださる人も気にいってくれるんじゃないかな。
わりと自分に厳しいほうなので、つい悪いところを見つけてしまうけどね」。
音楽スタンスは、流行を追わず自分が撮りたいものを撮り続ける父の姿勢に
近いものがある。
偉大な父から受けた影響は「仕事に対する情熱」だ。
「きっと体が動かなくなるまで、父は仕事をするだろうね。
ハードワークの素晴らしさを学んだよ」
クリント・イーストウッド監督自身が語っているように『グラン・トリノ』
は先に脚本があって、あとからイーストウッド監督主演が決まった。
イーストウッド監督が惚れぬいたというその物語のスピリットとは?
脚本家ニック・シェンクのインタビューを再録します。
ニック・シェンク(Nick Schenk)
ミネソタ州出身。90年代後半から俳優・脚本家・プロデューサーとして
テレビドラマ数本に参加。
初めて採用になった劇場用長編脚本『グラン・トリノ』が
クリント・イーストウッド監督の目に留まり、監督自身の主演によって映画化された。
現在は次回作となるワーナー作品を執筆中。
Q 『グラン・トリノ』は、ニック・シェンクさんにとって、
初めての劇場用長編映画の脚本ですね?
「そうなるね。以前にも書いたことはあったけど、製作されたのはこれが初めて」
Q それがいきなりイーストウッド監督によって映画化されたわけですが、いきさつは?
「製作総指揮のジェネット・カーンとアダム・リッチマンが脚本を気に入って、
映画化するオプション権を獲得したんだ。
彼らがいろいろなプロデューサーに売り込んだ結果、最終的にクリントの手にわたった。
クリントは週末の間に脚本を読んで、すぐに『よし、やろう』と言ってくれたんだ。
本当にラッキーだったと思うよ」
イーストウッド監督を即決させたものは何だったのか?
物語には、2つの社会的背景がある。
ひとつは朝鮮戦争、もうひとつはヴェトナム戦争後にアメリカに移住したモン族
(ミャオ族とも呼ばれる。英語ではHmongまたはMongと表記する。
同じくモン族と呼ばれ、Monと表記される民族とは別)だ。
イーストウッド扮する主人公は朝鮮戦争からの帰還兵で、フォードの工場で勤め上げた、
頑固で偏見に満ちた老人ウォルト・コワルスキー。
若い世代や近所の移民たちに苛立っている。
妻にも先立たれ、孤独で閉ざされたコワルスキーの心を思いがけず動かしたのは、
大切にしていた1972年製のフォード車"グラン・トリノ"を盗もうとした
モン族の少年だった......。
Q このストーリーを書こうと思ったきっかけは?
「(故郷の)ミネソタ州の酒屋で働いていたときに、
主人公と同じような戦争帰還兵にたくさん会ったんだ。
彼らから戦争の話や帰還してからの話をたくさん聞いていた。
このタイプをよく知っていたから、
彼らのいろいろな部分を組み合わせてコワルスキーを生み出した。
それから、工場の仕事をしていたときに、何カ月もの間、
多くのモン族のファミリーと一緒に働いたこともあったんだ。
だからモン族のこともよく知っていた。この2つを合体させて出来上がった話なんだ」
同じアジア人でも、日本人の多くはモン族にあまりなじみが無いかもしれない。
ヴェトナム戦争時、アメリカ政府はモン族の一部を雇い、共産主義革命勢力と戦わせた。
アメリカがヴェトナムから撤退した後のラオスは共産主義化し、
アメリカ側についていたモン族の多くは「裏切り者」として殺害されるか、
難民となるしか道がなかった。
この結果、アメリカ政府が難民を受け入れたという経緯がある。
現在では2世、3世を含めて約20万人がアメリカで暮らしているという。
Q 実際に(映画の舞台である)ミシガン州デトロイトにはモン族が多く住んでいる?
「デトロイトにもたくさん住んでいるけど、
(モン族コミュニティが多く存在する)ミネソタ州、ウィスコンシン州、
カリフォルニア州ほどではないね。僕の脚本も初めはミネソタの設定だったんだ」
Q イーストウッド監督とは脚本に関してたくさん話し合いましたか?
「いや、クリントは脚本にほとんど手を入れなかった。
それどころか『このままひと言も変えないでやろう』と言ってくれて、
スタジオに対してもこれを強く主張してくれたんだ。
だから彼と脚本について話す必要はほとんどなかった。
結局、ミネソタから(自動車産業の街でフォード本社にも近い)デトロイトへと
設定を変えたのと、コワルスキーが出兵していた戦争を変更しただけ。
初めは第2次大戦からの帰還兵の役だったんだけど、クリントの年齢には合わない。
大戦に参加した方の多くはもう亡くなっているからね。
しかも、クリント自身が朝鮮戦争の真っ最中に陸軍に召集されているし、
実は僕の父も朝鮮で戦ったんだ。
どの戦争も同じメンタリティを背負っているから、
クリントは主人公のキャラクターに何か強い思いを感じたんだろう。
今でも監督が脚本に手を入れたがらなかったのは本当にラッキーだったと思っているよ。
ハリウッドではなかなかあることじゃないからね(笑)。いや、もう無いんじゃないかな。
実は今も、ある脚本の11回目の改訂を担当しているところなんだ(笑)」
脚本を読んだイーストウッド監督が強く感じた「何か」が、
映画からにじみ出ているような気がする。
若い頃から"筋の通った"タフガイを演じ続けてきた俳優は、
年老いた男の"決着のつけ方"を探していたのではないか?
そんな役を待っていたからこそ、脚本を読んで即座に出演を決めたのかもしれない。
Q ストーリーの8割は、あえて型にはまったように"お決まり"の進行を見せますが、
これが驚きのエンディングをさらに引き立てているように思います。
これは狙い通りですか?
「そうなんだ。撮影も脚本の通りに進められた。
ハッとするようなエンディングになったと思うよ」
Q 脚本家として、物語の"ハート"はどこに置いていたのでしょう?
「これは"つぐない"の物語なんだ。
明らかなエピソードとしては見せていないけど、主人公は朝鮮戦争で、
人間として悪い行いをしたと思っている。
硬い殻に覆われた心の奥で、実は贖罪(しょくざい)を必要としていたんだ。
戦争に参加した人々すべてが同じような気持ちを持っていると思う。
軍人の気高い意志が彼を行動に駆り立てたんだよ」
Q 最後に興味本位の質問を2つ。
映画の冒頭からイーストウッド演じる主人公は、無礼な若い世代などに苛立って
「グルルルル......」と、わざと大げさにうなります。
これは脚本にあったことでしょうか? それとも監督の演出?
「脚本にも2、3カ所はあったけど、イーストウッドが増やしたんだ。
彼はうなりまくっていたね(笑)」
Q もうひとつ。主人公は昼間からすごいピッチでビールを飲み続けますね。
「彼はもう人のことも自分のこともどうでもいいと思っているんだ。
煙草も吸いまくるだろう?
もう先は長くないと思っているし、長く生きたいとも思ってない。
あと、僕自身もビールが好きでね(笑)。お気に入りはアサヒスーパードライだよ(笑)。
あれはグレイトなビールだ!」
インタビューのとりはなんといってもクリント・イーストウッドです。
クリント・イーストウッド
『許されざる者』('92)で主演・監督・製作にあたり、
ゴールデングローブ賞の監督賞を獲得。米アカデミー賞では作品賞と監督賞に輝いた。
最近では、アンジェリーナ・ジョリーを主演に迎えた『チェンジリング』('08)で
監督と製作を兼任し、カンヌ国際映画祭で特別賞を受賞した。
本作に続いては、アパルトヘイト後の南アフリカを舞台にした大作
『ヒューマン・ファクター』(原題・'10年公開予定)でマット・デイモンと
モーガン・フリーマンを主演に迎え、監督と製作にあたる予定。
「彼こそ“レジェンド”と呼ばれるに値する尊敬すべき人」
アンジェリーナ・ジョリーは『チェンジリング』で組んだクリント・イーストウッドを
そう称した。
当年とって78歳。50年代から役者を始め、『ダーティハリー』シリーズで地位を築き、
70年代から監督業にも進出。
オスカー監督賞を2度受賞し、今やハリウッドを代表する存在となった。
普通なら隠居して当然の年齢にもかかわらず、その仕事は衰えることなく精力的。
しかも、作品の完成度は回を重ねるごとに高くなっているようにも見える。
「もうこの歳だ。正直、監督と主演を兼ねるというのはシンドイ(笑)。
普通なら大好きな監督のほうを選ぶのだが、
このコワルスキーというじいさんは私が演じてもいいキャラクターだった。
ならば両方をやるしかないか、とね」
妻に先立たれ、息子たちにも心を閉ざしている偏屈じいさんコワルスキー。
隣りに引っ越してきたアジア系(タイの少数民族モン族)の家族のことも
最初は気に入らないが、その気弱な息子が不良にそそのかされて
'72年製の彼の愛車“グラン・トリノ”を盗みに入ったことで事態は一変する。
「コワルスキーが変わるんだ。
偏見と固定概念に凝り固まり、心に大きなトラウマを抱え、
家族とも教会とも断絶していたじいさんが、
少年とその家族との交流を通して大きく変わる。
私がもっとも惹かれたのはその部分だった。
晩年を迎えたじいさんに学ぶ機会が訪れ、それを受け入れるところなんだ」
とはいえ、コワルスキーも父親のいない少年を一人前にすべく教育する。
窮地に陥った彼の姉を助けようともする。
その頼もしい姿は、
今までイーストウッドが演じてきたキャラクターの集大成のようにも見える。
「集大成だとは思わないが、確かにこれまで演じたキャラクターと似た要素はあるだろう。
そもそも私は、変人が何かをきっかけに新しいことに気づき、
精神面でも変化するという物語を好む。
映画が始まったときと終わったとき、主人公に何の変化もないのはつまらない」
もうひとつ、気になるのはオスカー作品賞&監督賞の『許されざる者』あたりから
頻繁に覗くようになった“贖罪”という要素。本作でもそれは大きな意味を持っている。
「意識して選んでいるわけではないが、
“贖罪”というテーマを選ぶ傾向にあるのは認めよう。
そこには素晴らしいドラマがあるからだよ。
平凡な人生を送り、そのままこの世から消えてしまうよりも、何かに気づき、
さらに誰かに、あるいは社会に貢献するというのは
素晴らしいドラマを生んでくれるからね」
その“素晴らしいドラマ”はつまり現在のイーストウッドの存在そのものでもある。
78歳を迎えた今でも“何かを学び”、映画ファンという“誰か”の心を満たし、
その作品は間違いなく“社会に貢献している”。
「いやあ、そういう風には考えたことはないよ(笑)。
私がもっとも大切にしているのは、自分が感じたままにストーリーを伝えることだ。
昔、ジェームズ・キャグニー(『白熱』等で知られる往年のギャンスター)に
演技の秘訣を聞いたとき、彼はこう答えたよ。
“ただそこに立って、真実を語るだけだ”とね。極めて簡単だが真理だと思う。
それは監督についても言えることで、ある映画の方向性が決まったら、
それに従ってやってみるだけ。
なぜそっちを選んだのかは深く考えない。そのほうが絶対上手くいく。
自分の心の声に耳を澄ますんだ」
だからなのだろう、すべての答えが自然体。質問に対し気張ることも否定することもない。
そしてまた、その佇まいも極めて自然体。意外なことに威圧感などまるでないのだ。
そこで、彼自身、今まで演じた役で自分にもっとも近いキャラクターは誰と思うかと
尋ねると、これまた意外な言葉が返ってきた。
「私はそこまで自己分析するタイプじゃないので、わからないなあ。
どの役にも惹かれる部分があるから演じたわけだし……でも妻はいつも
『マディソン郡の橋』のキャラクターが近いと言うんだよ。
からかっているだけかもしれないがね(笑)」
「グラン・トリノ」は、
今年79歳になるイーストウッド最後の監督・主演作と噂される作品。
74歳の時に出演した「ミリオンダラー・ベイビー」(04)の時にも
「カメラの前に出るのは、これが最後になる」と語っていたが、
本作で再びカメラの前に立ったのはどういった理由なのだろうか。
「このウォルト・コワルスキーというキャラクターは、私と同じぐらいの年齢だし、
同じような性格だからかな。
でも私はあそこまで気難しくはないし、あのキャラクターほど、
物事に対して否定的でもないよ(笑)。
でもどこかで、自分にも同じような感情がたくさんあることに気づいてもらえると思う。
とにかくウォルトは誰とも何のかかわりも持ちたくないし、
自分と違うタイプの人間を特に嫌がるんだ。
そこがこのキャラクターの面白いところで、
彼はものすごく偏見に凝り固まった人間なんだが、
さまざまな人との関係を通して、そこから抜け出していくんだよ」
「ウォルトは、自分の街から文化が消えていった様子にとても心をかき乱されている。
大事な家族を失い、成長した子供たちとは仲が良くない。
そして、近所の変化も気に入らないんだ。
彼はミシガン・デトロイト近郊で育った。
おそらく彼と同じように、自動車産業に従事する人がたくさんいたはずだ。
また、彼のようなポーランド系アメリカ人の比率がかなり高い。
だから、慣れ親しんだ街が(アジア系移民によって)様変わりしていく様子を見ると、
彼は気が滅入っていくわけだ」
そんなウォルトの閉ざされた心を開いていくのが、
彼の隣に越してきたアジア系モン族のロー一家。
「ハートブレイク・リッジ/勝利の戦場」で、
海兵隊の訓練を通じてアフロアメリカンやヒスパニック系の若者との異人種交流を
描いたように、本作でも再び異人種との諍いと交流を描いている。
「脚本のニック・シェンクが、以前働いていた工場にモン族の人たちが大勢いたんだ。
そこで彼はモン族の人たちと知り合いになり、
移民である彼らを映画で採り上げるのはいい方法だと思ったわけだ。
だからほかの民族文化を描いても良かったのかもしれない。
だが、私はモン族の人たちがとても好きで、彼らをとても尊敬している。
それに、彼らがこのプロジェクトに見せた熱意に対しても深い敬意を抱いているんだ。
だって、『いや、映画なんかにかかわりたくない』とあっさり断ることもできたんだからね。
でも自分たち民族を映画で描きたいと思うほど興味を持たれたことを
彼らはうれしく思ったんじゃないかな。
彼らはラオス、タイ、ベトナムの高地に住んでいた農耕民族で、
たぶん朝鮮半島や中国にもいると思う。
だが、彼らはそういう場所を離れ、ある意味、独立した"国民"のようになった。
皮肉なことでもあるね。
というのは、そういう(移民の)若い世代は民族の言語を覚えないことが多い。
だが、この映画では若者全員が英語とモン語の両方が話せる。
だから、彼らはアメリカの中でさえ、一族の中で言葉を受け継いでいるんだ」
本作でも"贖罪"は描かれるが、
それ以上に、「センチメンタル・アドベンチャー」「ハートブレイク・リッジ」
「ルーキー」同様、次世代を意識した"伝承"の映画でもある。
しかも、その伝承には、血の繋がりよりも精神性を重視するイーストウッド独自の
姿勢が反映されている。
「映画の中で、ウォルトのセリフに、
『俺は、甘やかされた、性根の腐った我が子よりも、この人たちともっと共通点がある』
というのがある。結局はそういうことだ。
大きな点をひとつあげると、彼の子供たちは離れたところで好きなことをやっており、
孫たちはじいさんが死ねば何を相続できるかということにしか関心がない。
そこに…
以下はネタバレとなるのでmixi独身映画ファンコミュニティ
http://mixi.jp/view_community.pl?id=1299114
にて『グラン・トリノ』の頁をご覧下さい。
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