「花とアリス」映画製作裏話

「花とアリス」映画版チラシ★映画基礎データー★
「花とアリス 」
2003年 日本映画
監督脚本 岩井俊二
出演 蒼井優 鈴木杏

               

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「花とアリス」については
うちのメーリングリストの過去ログで03年の8月、10月に投稿があったので、
ネットで調べたところ、この作品がお菓子の「KITKAT」を作っている
ネフレがネットで配信するショートフィルムの製作を岩井俊二監督に依頼したと
ころから
この映画の製作が始まっているということが分かりました。

バブルの頃、世の中にあぶれている金で
公開の見込みのないような映画がたくさん作られた時期がありました。
(私の友人たちのうち手先の器用な奴はこの時期に業界に潜り込んだ。)
大半のフィルムは日の目を見ることもなく消えていったのですが、
いまはネット配信という手段があって、
ショートフィルムでもちゃんと公開可能なので、
バブル・フィルムのような無残なことにならずに世の中に作品が出て行けるよ
うになったです。

岩井監督は、「ARITA」というショートフィルムを既に撮っていたのですが、
ショートフィルムを連続して繋ぎ公開していくシステムそのものには魅力を感じず、
あくまで「最終的に映画になるのなら」メガホンを取るということで引き受け
られたそうです。
三章立てのショートフィルムの一章目が完成したころより映画の構想がまとめられ、
第二章は03年7月、第三章は03年10月に公開される予定でした。
03年5月から[『花とアリス/特別編』DVD付きKitKat]が期間限定発売され
ています。
撮影は03年1月から9月にかけて飛び飛びで行われ、
年内で編集作業が行われたようです。

※ ショートフィルム/花とアリス第一章「花の恋」(16分 03年3月公開)
あらすじ

ズンズンと先をゆくアリス(蒼井優)を追いかける花(鈴木杏)。
吐く息も白いこの日の朝、アリスが花を家まで迎えに行ったのには、あるワケがあった。
普段下車する学校のある駅を乗り過ごしてゆく二人。
アリスに導かれるままに花は、とある駅で下車。そこから小さな恋がはじまろうとしていた。

デジタルカメラをうまく使って、予算の低減を図りながら手持ちカメラの機動
力をプラスの方向に生かして、思春期の淡い一目惚れ、仲の良い友だちとの
ひととき、お気に入りの形になるまでマフラーを巻き直す姿など、何気ない日常
風景をサラリと描いていて、心地よいくドラマをスタートさせています。
第一章はそのまま映画版「花とアリス」の冒頭に使用されています。
駅名に配されたマンガ家の名前「石の森駅」など、遊び心もあって楽しいので
すが、設定ではこのとき花とアリスは中学生ということになっています。
 二章、三章は同時に撮影が進行し、高校に進学したふたりのはなしになります。

予定よりも物語の要素と面白さが膨らんだため、第2章「花の嵐」が
2部構成(『秘密』『乱舞』)となり第二章『秘密』は7月から、『乱舞』は8月か
ら配信され、第三章「花とアリス」は当初予定とおり03年10月に公開されています。
作品そのもののクオリティの高さと「キットカット」との連携がうまく行ってか、
映画のネット配信としては破格の配信数160万件(03年8月の古いデータ)
という記録を打ち立てています。

この作品は、美少女ふたり(鈴木杏をそう呼ぶのはいささか語弊があるかもし
れないけど、
蒼井優の方はまちがいなくそう呼べる。)をならべて、バレーシーンなどを入れて、
数年周期でやってくる「少女ブーム」をうまく演出したもののように思えますが、
なかなかどうして、そこは天下の岩井俊二監督、
隅々までクールに演出され、恋愛ものとしても青春ものとしても、
問題なくハイスコアをあげられる内容となっています。

田舎の通学電車で見かけた男子生徒をウオッチングすべく遠征する花とアリス。
アリスは制服姿の白人高校生が一目で気に入ったようですが、
花には、ただの木偶のボーにしか見えません。一緒にいる男の子、宮本先輩
(郭智博)
の方が気に入ります。
ふたりしてカメラを向けるところで劇場内爆笑。
とくにアリスは大砲のような望遠レンズの付いた一眼レフを構えるので笑えます。

この作品はコメディとして演出されているので劇場内は笑いが絶えることがありません。
ストーリーは三角関係のラブストーリーで、
映像は“甘く切ない青春モノのファンタジー”、
そしてテーマは。“生”に対する希望と信頼の物語です。
前作「リリイ・シュシュのすべて」でイタイ青春ドラマを撮った岩井監督ですが、
本作はその正反対の手法でテーマに切り込んでいるように感じました。
「リリイ・シュシュ」の郭智博、蒼井優が出演しているのは、
単なる偶然ではないでしょう。

宮本先輩と付き合いたい一心で、
花は「実は先輩は記憶喪失なんだ」というとんでもないホラ話をでっち上げます。
こんな2秒と持ちそうもないウソをどうやら先輩は信じてしまい、
病院へ通ったりしています。
(主治医の精神科のドクター役でテリー伊藤が出てます。)
同じ高校に通って、同じ落語部の押しかけ部員になって高座名
“荒家ピュンピュン丸子”を名乗ります。
宮本君は鉄腕アトム世代ということに強引にされてしまっているようで、
クライマックスの学園祭のところでは、
アトムのコスプレした男の子がうろついたり、教室の窓の外に巨大な
アトムのバルーンが浮かんでいたりしてます。
いくらなんでも郭くんたちがその世代のわけはないので、
監督の趣味以外のなにものでもないはずですが。
そういえば、花と先輩のふたりがデートで見ているアニメが「ホルスの大冒険」。
これは「ルパン」以前の東映動画時代の宮崎、高畑両監督の代表作ですが、
やっぱり今の十代の若い子達の知っている筈もない名作アニメです。

まんまと先輩を自分の部屋に連れ込むことに成功する花ですが、
パソコンの隠し撮りのデジカメの画像を見られてしまい、問い詰められて苦し紛れに、
元彼女アリスにストーカーされて脅されていた先輩を自分が助けて、
ふたりの恋が始まったのだのだ、と輪をかけてバカバカしいうそをつきます。
かくして、強引に花の恋に巻き込まれてしまったアリスは、
“先輩の元彼女”を演ずる羽目になります。

岩井監督はこの話を民話、「泣いた赤鬼」だとインタビューで応えています。
友達が作りたい一心で人間に好かれようとあれこれ知恵を絞る赤鬼の姿が、
花にダブルのですね。
花のやっていることは“女の子のわががま”“十代の独善”そのものですが、
コメディという手法で、虚構のなかの現実としてきちんと成立しており、
学園ドラマの中でリアリティを持たせてフィルムの中で着地させています。

うそから出たまこと。アリスは元彼女として宮本に接するうちに
先輩が好きになってしまいます。そして宮本も彼女が気に入ってしまうのです。
アリスの先輩への思いに、別れて暮らす父親の姿がオーバーラップします。
彼女の先輩に対する言葉やしぐさの端々に、対等の異性にではなく、
兄や父に甘えるような様子が見え隠れしています。
アリスは年の離れた夫婦の娘で、相田翔子演ずる若いママは、
街でボーイフレンドと一緒のところでアリスと鉢合わせしても、
「お隣のお嬢さんよ」としれっと彼女を紹介してます。

別にこの母娘は不仲というわけではなく、自分のおしゃれに余念がなくとも、
部屋の中は散らかし放題という恋多き母親を娘があきれながらも面倒見ている
関係です。
「(いい年して)結婚に繋がらない恋愛をするんじゃないの」と説教しつつ
料理を作ったり、風呂場を掃除しています。

ええと、そろそろねたバレ改行にしておいたほうが、よさそうです。






宮本先輩は、花にしぶとくつきまとわれ、支配的に振舞われても
「なめくじの夢を見る」というくらいです。
「ふりかえると、なめくじは君(花)なんだ」というのは相当の悪口ですが、
逆に雨の中で泡だらけの手で花につかまれてしまい、
「ぅわぁぁぁっ」と叫びそうな顔になる。場内爆笑。

先輩は女の子ふたりのおもちゃになっているようにみえますが、
クライマックスで高座に立とうとする花の浴衣の帯をうしろから締めてあげながら
彼女を諭すくだりで、
きちんと彼女の気持ちを受け止めているところがわかり、
むしろ静かな懐の豊かさのある少年であることが分かります。
一切がっさいのウソがばれて、アリスとの友情も先輩への恋も全部をあきらめて
爆泣きしている彼女を傷つけぬよう送り出すところはあっぱれです。
こういう父性的な大きさのある男がおってこそ、
女の子たちものびのびと馬鹿がやっていられるというものです。

砂浜の三人デートで三角関係の友情が破綻しかけます。
このときのトランプマジックの見せ方が絶妙なのですが、
互いの本心が分かってしまい、抜き差しならぬ状況で花とアリスが爆発し、
ふたりは砂の上を転げ回る大乱闘になります。
けんかの仕方がまた傑作で、腹を殴るとか、足を蹴るとかいうでなしに、
ふたりして相手の顔面に攻撃をかけるのですね。
指でひっぱりあってすごい顔になる。いや、なかなかの見モノではありました。笑
かえりのバスの中で、花とアリスは泣きぬれた子犬のように、
両脇から先輩の腕の下に鼻をつっこむようにして眠り込んでしまいます。
この三角関係にはオチがつかないのではないかと見ていますと、
ラストまでに意外ときっちりと決着がついてますね。
映像的にも美しく、哀切ある名場面となっています。
岩井監督は同じインタビューで「花とアリス」は「泣いた赤鬼」で
同時に「道成寺」だとも答えています。
ひとつまちがえば花とアリスの恋は「道成寺」のとおりに
とんでもなく悲しい(あるいは惨めで滑稽な)
はなしになってしまったかもしれないのです。
果てしないギャグと裏腹に、
その悲喜劇性が“見れば分かる”ように演出されている点も、
この作品の優れたところです。

はじめ私は、アリスが芸能プロダクションにスカウトされるくだりを
余分じゃないかと思ってました。
が、パンフレットなどを読みますと、ショートフィルムのエピソードを思いつくヒントが、
蒼井優がグラビア誌の紙面で撮ったショートドラマ風のページに中にあり、
その中で、原宿でスカウトされた女の子を既に蒼井優が演じています。
ですから、はじめにアリスのこの設定があって、
逆算して花のはなしが作られているようです。

別の世界の別の話のようにつづくアリスの売れないタレント活動ですが、
中段のクライマックスでうまいこと盛り上がって、
「花とアリス」全編のフィナーレを形成しています。

途中でバレースタジオで花とアリスと仲間たちが写真撮影をする場面があります。
ファンタジーとしてはこの上なく美しい場面ですが、美少女趣味が前に出すぎていて、
人により辟易しそうです。
これが学園祭の写真展にうまく繋がっていて、大喧嘩した花がアリスに歩み寄
るドラマへの伏線になっているとは思いませんでした。
「花とアリス」は一見、画面全体に無駄なモノであふれかえっているように見えて、
実際にはほとんど遊びも無駄もなく実に計算が行き届いた作品です。

音楽は、私は気に入ったのですが、
映画の掲示板で「べたべたと気持ちが悪い」という書き込みがありました。
通常の劇映画より、主観的で画面との距離の近い音楽が目立ったため、
そのように感じた人もいるようです。

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