「英雄 HERO」映画製作裏話
★映画基礎データー★「英雄 HERO」 2002年 中国映画 監督 チャン・イーモウ 脚本 チャン・イーモウ リー・フェン 出演 ジェット・リー トニー・レオン マギー・チャン チャン・ツィイー |
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北京の当メーリングリスト参加者が「群集が劇場を幾重にも取り巻いていて、映画見るどころか、映画館に入ることも出来ない」と愚痴っていた超絶ヒット作「英雄 HERO」です。
アジア圏各国でヒット記録を作り、
ベルリン映画祭で特別賞とったチャン・イーモウ監督作品です。
始皇帝の暗殺が題材ですが、「始皇帝暗殺」という作品がチェン・カイコーによって98年に映画化されており、中国映画人を引き付ける題材のようです。
「始皇帝暗殺」が史実を基にしているのに対して、こちらの方は、
唐の詩人、李白の詩「侠客行」をヒントに創作されたもののようです。
他所のMLで「戦争したがるどこかの国の大統領や自爆テロを聖戦だと信じている若者たち、大儀と自己犠牲を、そういった方向でしか理解できない人たちに、この東洋の知恵を
知って欲しい」と論ずる人がいました。
予告を見た限りでは「グリーンディスティニー」の豪華版といった印象でしたが、
さらに大きなところにテーマを持って行ったようです。
とにかく映像の美しさと、舞踊るような剣劇の激しさにストーリーなんぞわかんなくてもうっとり見とれる映像美が素晴らしかったです。
(逆に香港の映画館では、くるくる旋回しながら舞い飛ぶ殺陣に笑い声もあったというので、画面の大嘘にノレるかどうかで、作品の評価は百八十度変わってしまいそうですが。
長空役のダニー・イェンは、同じマーシャルアーツの無名役ジェット・リーとの戦いの場面の撮影で数針縫う怪我をしてます。笑ってはさすがに可哀想ですが。)
これがアジア各国でヒットしたというのは理解できます。
ある意味、現代と同じ無秩序混沌たる時代に、
無名の民草から、強大無比の独裁者にいたるまでおよそ人間ならば理解できるはずの、"道理"というのはある筈だ、という信念のドラマです。
その道理によって、天下世界宇宙の秩序の回復は可能である、と。
シンプルなテーマを力づよく訴える。
論理の明快さとともに表現の多彩さ、美しさは、
西洋的退廃の美学とは別の流れのものです。
信念は美しく、秩序は美しく、英雄は美しい。
私個人は、「退廃もカオスも文化のうち」という考えの持ち主ですので、
この「HERO」のテーマを手放しで賞賛するものではありません。
悪逆非道もドラマの持って行きようによっては、
「文化だねぇ」と丸呑みにしてしまいます。
別に実生活で実践しようって訳じゃありませんから。
芸術、文学、映画は常識、倫理の範疇ではもともと収まれきらんものです。
武道の話でありながら、ストーリーは時間軸を行ったり来たりと、
「羅生門」式に展開していきます。
秦王(のちの始皇帝 チェン・ダオミン)が恐れる天下無双の三人の刺客、
殘劍(トニー・レオン)、飛雪(マギー・チャン)、長空(ダニー・イェン)。
その刺客をたった一人で倒したと証言する無名の若者。
果たして、自ら「無名(ウーミン リー・リンチェイ=ジェット・リー)」と名乗り、御前に拝謁した若者の言葉は事実なのか!?
貧しく文化も無ければ人はすさんでゆくしかない。
己の生命以外、何も持たぬ"無名"は、
自分は貧しく名も無き者ゆえ修行に励んだ、と大王(始皇帝への尊称)に挨拶しています。
武侠もの、という言葉は日本の明治時代の冒険小説家、押川春浪(「海底軍艦」の原作者!)によって作られたとする説が有力だそうです。
若者が山にこもって修業し、山をおりて復讐を果たすといった物語が多い様ですが、
黒装束の"無名"には、もっと何か胸に期するものがあるようで、謎めいています。
甘粛省 敦煌から二百キロ、海抜三千メートルを超える当金山で撮影は、
クランクインしてます。昼夜の気温差が激しくスタッフは高山病の危険にもさらされていたとか。
さらにスタッフは現地で"鬼魔城"とも呼ばれる雅丹の砂漠地帯で、
秦軍に扮した人民解放軍の野戦場面などが撮影されています。
内モンゴルにある胡楊林の林での撮影シーンには、ロケ地にスタッフを派遣し、
紅葉の様子を逐一ビデオに撮って報告させ、
完璧に紅葉するやいなや撮影隊はロケ地に急行すると、落ち葉を色分けし、
階級に分けて同時に3、4台のカメラを回したといいます。
四川省(しせん Sichuan )南西部の秘境の地、
九寨溝( Jiu Zhai Gou = Nine Villages Valley
)の矢竹海( Jian Zhu Hai = Arrow Bamboo
Sea / Cold Arrow Lake )の湖で無名と殘劍が飛雪を祀るために戦うシーンがロケーションされています。
九賽溝は 1992 年にユネスコ世界自然遺産 UNESCO
WORLD HERITAGE に登録された場所で、九賽溝という名は、溝(峡谷)にある九つのチベット族の古い寨(村)に由来するといいます。
矢竹海というのは、ジャイアントパンダの好物である唯一の竹の種類である矢竹、別名、冷矢竹(
Gelidocalamus fangianus )と中国モミの木に囲まれているから、そういう名称らしいのですが。
エメラルドグリーンの湖面が鏡の様に山のみどりを映すのは、昼前のわずか2時間。
撮影班は、ワイヤーアクションのあるこの場面の収録に実に20日を掛けたそうです。
また秦王の居城 秦宮殿は『始皇帝暗殺』撮影のために建てられた華東地区 浙江省(チョーチャン
Heng Dian, China )の浙江スタジオ(オリエント・ハリウッド
Orient Hollywood )にある大規模なセットの内部をそっくり改装し使われています。
歴史的検証の上の春秋時代(B.C. 771 - B.C.
221 )と秦帝国 (B.C. 221 - B.C. 206 )の建築様式だそうです。
ちょっとネタばれ改行です。
衣装の和田エミは、
作品の各パートを5色の色に分けて
衣装作りをしており、赤だけでも五十二色が用意されたそうです。
神秘・死を表す【黒】
激情と嫉妬を表す【赤】
ロマンを表す【藍色】
回想を表す【緑】
真実を表す【白】
なのですが、
羅生門式に繰返される回想シーンで、
その意味合いの相違により、
人物は全員が赤、藍、緑、白の衣装をつけて登場しています。
黒は無名の色で、同時に秦のイメージカラーで、
これだけが全編を通して出てきます。
はじめからこのような色分けによるシーンの撮影が構想されていたわけでなく、
和田さんと相談の上、採用されたアイディアの様です。
実際、赤と白は準備段階では、
逆の場面で使用されるはずのものが、
直前で入れ替わり、
赤の場面を増やすため、
ナイトシーンが増えたという話です。
無名のジェット・リーのみならず、
端役で登場のチャン・ツィイーを含む全部の登場人物が
ヒーローであろうと思います。
脚本に異議アリと映画の掲示板に書き込みをした人たちも、
贅を尽くした撮影には脱帽のようです。
映画らしい画面作りがなされた作品です。
是非、劇場の大画面で堪能してください。
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