「隠し剣 鬼ノ爪」DVD脚本レビュー

「隠し剣 鬼の爪」映画チラシ★映画基礎データー★
「隠し剣 鬼ノ爪」
2004年 日本映画
原作 藤沢周平
監督 山田洋次
脚本 山田洋次 朝間義隆
出演 永瀬正敏

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時は幕末。
東北の小藩である海坂藩の平侍、片桐宗蔵(永瀬正敏)は、
母の生前に奉公に来ていた百姓の娘きえ(松たか子)と、3年ぶりに町で偶然再会する。
宗蔵は、伊勢屋という大きな油問屋に嫁いで幸せに暮らしているとばかり思っていた
きえの、痩せて寂しげな姿に胸を痛める。
数ヵ月後、きえが病で伏せっていると聞いた宗蔵は伊勢屋に乗り込み、
強引にきえを連れ帰る。
平侍である宗蔵の貧しい暮らしが、回復したきえの笑顔で明るい毎日に戻った時、
宗蔵は家老(緒形拳)に呼び出され、狭間弥市郎(小澤征悦)のことを尋ねられる。
海坂藩江戸屋敷で発覚した謀反の
首謀者の一人である狭間弥市郎と宗蔵は、
かつて藩の剣術指南役だった戸田寛斎(田中泯)の門下生だった。
戸田はなぜか、一番腕の立つ弥市郎ではなく、宗蔵に秘剣“鬼の爪”を伝授していた。
まもなく弥市郎は脱走、宗蔵は家老から
弥市郎を斬るように命じられるのだが……。

藤沢周平の「隠し剣」シリーズの中の「隠し剣 鬼ノ爪」と、
男女の密やかな愛を描いた「雪明かり」。
二つの短編をもとに山田洋次監督と朝間義隆が
脚本を書き下ろしていますが、
ストーリー、人物関係が「たそがれ清兵衛」によく似ています。
(「たそがれ清兵衛」紹介はhttp://www.cam.hi-ho.ne.jp/la-mer/Pic-tasei.htmlにあります。)
似ている…というより、まるでコピーしたようです。
映画の掲示板では、その二番煎じを攻撃する書き込みもかなりみられます。
私は「オリジナリティは乏しいが、映画として非難されるほど不出来な作品とは思えず、
むしろ前作で出来なかった、やりそこねたことを新作のなかで実現しているのかな?」
と解釈しているのですが。

永瀬正敏 = 真田広之
松たか子 = 宮沢りえ
吉岡秀隆 = 吹越満 
小澤征悦 = 田中泯

と書いてしまえば人物設定をほぼ語り切ったことになってしまいます。
おまけで
小林稔侍 = 小林稔侍
清兵衛では嫌味な上司でしたが、隠し剣でもやっぱり嫌味な上司を演じてます。
物語としてはどちらも
下級武士の悲哀があって、秘めたる恋があって、
上意討ちで嫌々決闘を強いられるのがクライマックスになってます。
本当のところ二匹目のどしょうを狙ってのことか、
同じストーリーでハッピーエンド版が作りたかったのか、
いったいどちらか? 製作者たちは手がかりとなる情報を出していないので、
正確には不明です。
私自身は、主人公の年齢を下げることで、
嫌々ながらも家族のために体制の中で生きていかねばならない清兵衛とは違う
生き様を選択することの可能性を主人公に与え
明日の希望をみるという別のラストを描きたくて作った作品と解釈しています。

制作費は「たそがれ」の1.5倍くらいはかかっていそうですし、
キャストは豪華、百人からのエキストラを動員した屋外ロケもあります。
海坂藩のモデルは山形県庄内だそうですが、ロケは庄内だけでなく、
姫路城、彦根城などでも行われているようです。
劇場公開のとき、映画館に「庄内ロケマップ」というパンフが置いてありました。
観光誘致の印刷物でしょうが、
大林監督ものの尾道ロケより広範囲で庄内ロケは行われているようですので、
実際見学するとなると車なしでは無理ですね。
「たそがれ」では清兵衛の家と向こう三軒分のオープンセットのみが
作られたようですが、「鬼の爪」では宗蔵の家、きえの嫁ぎ先の商家が
京都撮影所内にオープンセットが作られています。
あとは宗蔵の親友で、妹、志乃(田畑智子)の島田左門(吉岡秀隆)もたぶん同じでしょう。
(この点で正確な情報がありましたらお知らせください)

時代が幕末で、武士を頂点とする支配体制、身分制度もほどなく終わりを告げることは、
「たそがれ」では娘に扮した岸恵子のナレーションによりもっぱら語られていましたが、
「鬼の爪」では藩の西洋式軍事教練が登場し、江戸からやってきた先生が、
宗蔵ら平侍の教育に四苦八苦するが、エンディングではそれなりに颯爽たる鉄砲隊の
行進が登場するなど、メインのドラマとはかかわりないのですが、
野外の大砲砲撃訓練場面など予算をかけたロケが行われています。
足軽鉄砲隊が手にした新型小銃がクライマックスの上意射ちで不意を突く登場をします。
山田監督や松竹の予算配分の考え方が
ハリウッド式と異なるのでこうなったのだと思いますが、
個人的にはメインのドラマそのものに予算を投入した方が良かったのではないかと思うのですが。

松たか子のキャスティングも掲示板でかなり叩かれていたようですが、
長編映画に華のある女優の起用は当然で、
それ自体は叩かれるような性格のものではないでしょう。
さすがにきえが病気でふせっている場面は、
松たか子の顔が正面からカメラに映らないよう必死に逃げてましたが。
健康美そのものですものねえ、たか子さん。笑
(たばこは止めた方がよいけどね。)

戸田寛斎の田中泯が良かったです。
「たそがれ」で最後に真田さんと対決する役をやってましたが、
今回は剣術の先生。
現役引退しているようですが、しっかり足腰は鍛えているらしく、
宗蔵が訪ねていくと、準備運動してやおらふたりで稽古にかかります。
稽古の場面はとても緊張感があったし、実際、戸田先生強そうだったしで、
お気に入りの場面です。
田中泯さんは田舎暮らしで無農薬野菜を作って暮らしたりしている
孤高の前衛舞踏家のように聞いていますが、
日本では面白いタイプの芸能人ですね。タレントでなくて本当の“芸能”人。

本番の上意討ちは、どうしても永瀬さんは真田さんには見劣りしますが、
まあ、ドラマ上はあれはスマートな決闘である必要は無く、
むしろ泥臭い乱闘の方がふさわしいような気もしますので、
あれはあれでよろしいんじゃないでしょうか?

緒形拳さん、悪役で、楽しそうでしたねえ。笑
ただ、利己主義そのものの上役をあっけらかんと造形するというのは、
脚本上はどんなもんだろうと考えなくも無いです。
別に家老を弁護するようなしくみはいらないんですが、
単純に「こいつが悪い」にしてしまうとドラマに深みを求めようがなくなります。
緒形さんはよくある悪代官風な憎憎しげな演技を避け、
役者としてのスタンツでパターン化の回避に努めている様子は見て取れますが。

ドラマの途中で、嫁さんの来ない宗蔵がお袋さんの法事で
親戚のおじさん(田中邦衛)にいびられてます。
「だから封建時代って嫌なんだよ」と、“負け犬”である
私はひとりゴチたのですが。
ねたバレ改行です。




「隠し剣」が家老や狭間が誤解しているような流麗な秘技ではなく、
たんなる卑怯なだまし討ち剣法だったというのは、
脚本的にも合理性がありますが、
「鬼の爪」はがっかりでした。突然「必殺!」になってしまうんだもの。
TVの“梅按”で鳴らした緒形さんが、針でブスリと言うのはジョークに見えかねません。
わざとやったキャスティングなのでしょうか?
新式銃で闇討ちではあんまりですが、
なにか別の技に置き換えた方が私は良かったと思うのですがね。

映画の掲示板で決定的なのがありました。
“時代の流れのゴタゴタなんてどうでもいいや。僕にはキエがいるんだもん。って、
ちょっと主人公のくせに甘えてないか?
最後にキエが「ごめんなさい」すれば、それはそれでキツ〜い映画になったでしょうが。“
笑えましたね。
この書き込みがこの映画の正当な総括評価とは言いがたいかもしれませんが、
宗蔵が武士に見切りをつけて、きえをさそって蝦夷に向かうラストは、
希望を明日に託すもの、であると同時に、
現実逃避だろう、という批判からはやはり逃れられませんから。


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