「感染」DVD脚本レビュー
★映画基礎データー★「感染」 2004年 日本映画 監督脚本 落合正幸 出演 佐藤浩市 高嶋政伸 星野真理 |
劇場公開第一週の時の興行成績が二位で、世界公開も決まっている。
最近ホラーもノッて見てるのですが、
新しいホラーというと、携帯電話が鳴って恐怖体験に引き込まれる、
みたいなパターンが出来上がってしまってやや食傷気味。
「一応見とくか」くらいのつもりで見ましたが、
期待しなかった分、予想外に面白かったです。
でもどうかなぁ、わずかに知っていた予備知識どおりの話といえば言えないことは無く、
「シックス・センス」のようなあっと驚くどんでん返しがあるというわけでもありません。
「感染」は視覚的に怖がらせるタイプのホラーです。
同時上映としてセットで公開の「予言」が心理的な怖さを狙っているのと対照的。
見た目がキモイ。
緑色のドロドロしたもんが画面をだらだら流れ落ちていて、
音も凄いですよ。後ろへ行くほどドーン、ドーンって驚かせてくれる。
そんでもって、ところどころでドバドバっと血が流れる。
あ、いけない、これでショックシーンのほぼ九割が説明済み。笑
薬の供給も追いつかない劣悪な環境の古びた病院に、
奇怪な症状を患う急患が担ぎこまれる。
見たこともない状態にたじろぐ医師たちを尻目に、
赤井医師(佐野史郎)は“この患者の研究治療は病院の経営危機を救うチャンス”と
力説する。
「O-157や鳥インフルエンザと、近年世界を騒がす“ウィルスによる恐怖”をテーマに、
病院内にまん延する未知のウィルスと、逃げ場を失う人間たちの葛藤を描く。」と
公式サイトでは紹介されています。
『パラサイト・イヴ』や『催眠』の落合正幸が監督を務め、
演技派・佐藤浩市を主演に、高嶋政伸、星野真理、草村礼子、
佐野史郎ら豪華な実力派たちが競演。
外部から入り込んだ謎のウィルスはいつの間にか体を蝕んでいき、
観る者すべてを恐怖で包み込む…。
脚本原案に君塚良一がクレジットされています。
「踊る大捜査線」のひとです。「パラサイト・イヴ」も書いています。
(「パラサイト・イヴ」映画VS原作比較レビューは
http://www.cam.hi-ho.ne.jp/la-mer/pro-eve.htmlにあります。)
「感染」は今から13年前、オムニバス・TVドラマ
「世にも奇妙な物語・春の特別編」の一話「急患」を原案としています。
この時のライターが君塚氏で主演が佐野史郎、
そして演出がまだ映画を手がけたてことの無かった落合氏で、
「いつか“急患”を映画にしたいね」と話し合っていたのが、
奇しくもJホラーシアター第一弾として世に発表される運びとなったという話です。
星野真理さん、木村多江さん、真木よう子さんの看護士さんがいずれも
スタイル抜群の美人で、これなら私も入院したいです。注射は勘弁して欲しいけど。爆
映画では、
みどりのドロドロを撒き散らすけったいな急患が救急車で運び込まれるところより、
その前の部分の方が怖かったです。
“奇怪なウィルス”が万能すぎて、いささかしらけます。
それよりウィルスにきりきり舞いさせられる医師や看護婦サンたちの方が怖いです。
怖いのはいつだって“人間”です。
舞台になる救急総合病院は、えーと名無しのゴンベイでしたかね。
病院名が出てこなかったような。
かなりふるい病院で、バブルっぽく大改装しかけて資金切れで、
使いこなせる検査技師もいない最新検査機器を買い込んでは、
給料の不払いで介護士に九人も逃げられている。
(…看護婦さんとは、最近言わなくて、南果歩の婦長さんも師長さんと呼ばれてます。
師長さんっていう言い方は、軍隊っぽいですね。)
外科医の秋葉(佐藤浩市)と内科医の魚住(高嶋政伸)が疲れた顔して
映画の冒頭近くでひそひそ話をしています。
「院長とは×日前から連絡がつかない。
薬はもちろん、注射器、検査用備品もあと○セットしかない。」
停止寸前の病院というより、これでは大災害地に取り残された難破船状態です。
注意しなければならないセリフがこのあと出てきます。
魚住は病院の閉鎖を口にするのですが、
秋葉は「転院先の見つけられそうもない患者も多い。放り出せない」
ここには精神科(最近は心療内科などと呼んでますが)もあるのですよ。
金欲しさに、健康保険の点数稼ぎに院長が、
ぼけ老人もミイラ男ばりの包帯ぐるぐる巻きの救急患者も出鱈目に受け入れてしまって、
人間の廃棄処理場になってるのですね。
映画では、外来棟は工事が終わっているらしく小奇麗ですが、
入院棟の方は、小汚いままで各部屋は怪しい系の患者で満員御礼なっている。
でも辞められない、停止できない。
病院という小宇宙をディフォルメして描くと、こんな風になるわけです。
私はこれは外来と入院と別棟になっているかと思っていたら、
劇場販売の作品パンフレットに平面図があって、同じ建物の一階、二階という設定です。
特に二階部分は後半の主要舞台となり、美術は夜の闇を前提に作りこんでいると
落合監督はインタビューに答えています。
天井部の配管は露出して、赤と青に塗り分けられている。
これは動脈静脈のイメージですね。
夜勤シーンで、光が廊下の奥から一方向に差すようになると、
手前に大きく闇が出来て、
下から人物を見上げるようなカットでは特に深く影が出るようになる。
それと一見気がつきにくいのですが、
柱がキュビズムを意識したデザインになっていて抑圧感が出るよう工夫されています。
日活撮影所のステージに二つのフロアのセットが組まれ、撮影されています。
デコレーションを変えて地下室や3階部分に見せています。
病院の外観はロケされていますが、
役者が表に出る場面がありません。完全な密室ドラマです。
「世にも奇妙なー」の美術プロデューサー本田氏と美術デザイナー荒川氏が映画より分業化された
テレビのスタッフを使ってナカナカの仕事をしています。
予算や時間の都合もあるんでしょうが、「感染」ではCGやVFXより、
特殊メイクの方が前に出ています。
三池監督作品などでも活躍の松井祐一氏が、
特殊造形とメイク担当でみどりのどろどろと格闘してますが、
設定上どろどろは溶けた筋肉ということになっていて、
準備では実際に豚肉とバナナ、メリケン粉をジューサーでシェイクしたものなどを
テストしたそうです。
夏でもないのにものすごい臭いで使い物にならなかったとか。
想像しただけで吐きそうな。汗。
あれはシーンによっていろいろに見えるように
濃度やねばり、色合いなど演出されているそうで、
間違っても「美味しそうに見えないよう」注意したようです。
VFXは例えば、鏡に映った影が、本来の人間の移動のスピードとずれて見える等の
地味な迷宮効果を狙った場面ですとか、錯乱した看護師が自分の腕に注射器を突き立てる場面の
注射針がCGであとから書き添えたものだったりと言う、
本当に分かりにくい場面で使われています。
松本肇氏「ビッグX」吉澤久一氏「日本エフェクトセンター」が担当して全部で
14カットほど使われているとのことですが、まず判りません。
それがウリになってる視覚効果と、目立ってはいけない特殊効果の二つがあるのですね。
撮影には、フィルムでなくて24Pというハイビジョンのデジカメが使われていますが、
面白いエピソードは、佐野史郎だけが本当の白衣で、
あとの医師や看護士の白衣は撮影時にはグレーなど
3、4種類の色つきの白衣で撮られていたそうです。
全体のカラー調整のためにこうなったようですが、
そういえば佐野史郎の白衣だけが不自然に光り輝いて見えて不気味でした。
佐藤浩市さんは「フィルムの一発勝負のよさが好きなんだけど」と前置きしつつも、
テレビ出身でいわゆる映画畑の演出とはこだわりどころの異なる落合監督との仕事を
楽しんでいたようです。
映画の掲示板を見ますと、
視覚的な怖さとウィルスの猛威を叩いて、「くだらん映画だ」と怒っている人が
結構います。
ま、それはそうです。
エピソードも無駄が多いし、夢オチとも誤解されるラストでもあるし。
体裁的には、O-157や鳥インフルエンザに象徴されるバイオ恐怖映画のように
見えてしまうところからこういった叩かれ方をするのでしょうが、
本当のテーマはもう一つ別のところにあるんだと考えた方が、
この映画を楽しめます。
それは………、患者が医者が怖いのと同様に、お医者さんだって患者が怖いということです。
手術で外科医がメスを腹の中に置き忘れられてしまうかもしれない。
点滴で看護婦が薬を間違えるかもしれない。
食後の薬は、隣のベットの奴と取り違えていたりはしないか。
患者は先生やナースが差し出す聴診器や注射針を恐れている。
検査を受けると、死の告知が待ってるのではないかと怖がっている。
白衣を着た奴に目の前に立たれるとぞっとする。
ネガテッブなイメージで病院と病院スタッフを患者の側から見るとこんな風に見えます。
しかし逆の立場ということを考える人はあんまりいない。
病院スタッフは「ナースのお仕事」のようにお気楽に暮らしているか、
「ER」のように献身的に闘っているか、どっちかのイメージしか持っていない。
医者というのは医学の限界に涙するとこはあっても、
目の前で苦しむ患者に気後れするということはないのだと、どこかでタカをくくっている。
高い報酬と立派な肩書きを与えているのだから、
死や老いや肉体の苦痛といったものを一切、背負う義務があるのだと決めてかかっている。
そういう面倒なもののすべてを病院という閉鎖社会に閉じ込めて、
私たちは知らぬ振りをしてやいないか?
「感染」は最前線に取り残された現場の人たちからの告発、
という風に見ることは出来ないかと思うのです。
ねたばれ改行です。
「せんせい、いたいよう」
「せんせい、いたいよう」
得体の知れない急患が救急車で担ぎこまれる前に、
手術室で医療事故がおきる。
で初めにどう反応したかというと、医者も看護士も両方とも「自分のミスだった」
と言い出して譲らないのですね。
テレビドラマのように闇雲に罪を逃れようとする不届き者はいませんが、
しかし、行き場の無い入院患者達を放り出せないとか、
いろんな事情が絡まって、義務感から届出ことが出来なくなってしまう。
いやいや隠蔽工作をするんですが、
死体を暖めて死亡時刻と体内に入った劇物の分解促進を図ろうと、
物置に手術台ごとかつぎ込む。
周りを赤外線で取り囲むと、温まって包帯がずるむけになってく。
本来善人だった人たちが、
自己保身ばかりとは言いがたいところから、
不正に手を染めるところが怖いです。
いやいや仕事を終えて、
ぐったりして物置からでてくると、
救急口に急患をのせたストレッチャーが放置されている。
驚愕の秋葉。
佐藤浩市に、高嶋政伸、佐野史郎のドクター3人トリオでテンション高い
心理戦を見せてくれます。見ものですよぉ。
新人看護士の安積まどか(星野真理)が仕事がとろくて、
同じ年の先輩、桐野優子(真木よう子)にいびられるとか、
先輩の岸田外科医(モロ師岡)に「お前は人が縫いたいだけなんだよ」と罵倒される
平田外科医(山崎樹範)が、控室に入り浸って
周りの状況にお構い無しに縫合の練習をし続けるところとか、
医師や介護士間のいじめの話も出てきます。
一番怖いのが、精神科の鏡の老婆ですね。
病棟内を徘徊していて、鏡の中に語りかけている。
中園精神科医(羽田美智子)の分析では、
死んだ家族に向かって語りかけているそうですが、
ドラマが進行するにしたがって、
なぞの急患とか、医療事故で死んだ包帯の男とか、
そのたもろもろの人物と語り合っているようで、えも言われずキモイ。
急患の正体はモダンホラーらしく世界を閉じこんでくれたので、
私としては好きな方ですが、
夢を通して人の意識から意識へと感染するウィルス、というのは
観念的であれだけのドラマでは検証不十分です。
死や老い、病というものは誰でも怖い。
でもその忌むべきものすべてを病院に押し付けてしまって、
世の中に存在しないものかのように振舞おうとするとこに、
とんでもない無理があって、
この「感染」が告発すべき社会性があると思います。
例えばボランティアなどで、病院で入院されている人たちと対話したり、
本を読んだり散歩に付き合ったりというのがあるそうです。
そうして、怪我も病も人生の一断面であり、
老いも死も人生の当然ある季節なのだと理解して、
病院をもっと社会に開かれた場所にしていかない限り、
善意の医療スタッフが孤立してしまうという恐怖から逃れられないです。
専門知識や経験をつんだ医師や看護士だって、そりゃ人間ですから、
間違いはある。
でも間違いが許されない、という自己矛盾が本当の恐怖なのですね。
目前のベットに横たわる患者さんに怨みのまなざしで、
こういわれてあなたはひとりで耐えられますか?
「せんせい、いたいよう」
「せんせい、いたいよう」
「せんせい、いたいよう」