「空気人形」
■作品基礎データ 「空気人形」 2009年 日本映画 脚本・編集・監督:是枝裕和 原作:業田良家「ゴーダ哲学堂」 撮影監督:リー・ピンビン 出演:ペ・ドゥナ |
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『誰も知らない』『歩いても 歩いても』是枝裕和監督が9年間温めた最新作です。
主人公・空気人形を演じるのは、『リンダ リンダ リンダ』で
女子高生バンドのボーカル役を好演する等、
国境を越えて活躍中の韓国の人気実力派女優 ペ・ドゥナ。
撮影を、候孝賢や王家衛の作品で独特の世界観を映し出してきた国際派カメラマン
リー・ピンビンが担当。
原作は「自虐の唄」のゴーダ良家こと業田良家の短編集「ゴーダ哲学堂」
の一編「空気人形」です。
主演のペ・ドゥナのインタビューよりメイキングに関する部分を採録します。
ペ・ドゥナ
'79年、韓国生まれ。モデルとしてブレイク後、TVドラマ等を経て'99年、
韓国版『リング』で映画デビュー。初主演作『ほえる犬は噛まない』('00)では
青龍賞新人女優賞を獲得し、以後、実力派女優として国内外で活躍。
「生命は/その中に欠如を抱き/それを他者から満たしてもらうのだ」
(吉野弘「生命は」)
これは、是枝裕和監督の新作『空気人形』の中に登場する、詩の一節である。
映画の主題のひとつ、「人と人との多義的な関係性」を表したこの一篇の詩は、
等身大の“空気人形”を演じた主役のペ・ドゥナにも大きな示唆を与えたようだ。
「今回、出演を決めた理由はやはり“是枝監督と映画を撮ってみたかった”
からなんですが、いただいたシナリオも素晴らしかった。
特に作品全体を象徴している吉野さんの詩が心に響き、
いろいろとインスピレーションを得ることができました。
私の無意識の部分を刺激し、今まで気づかなかったことを気づかせてくれた詩で、
完成作は“残酷だけれども美しい映画”になったと思います」
韓国を代表する実力派。いや、世界がその動向を注目するアジアの逸材。
映画出演は、ポン・ジュノ監督の『グエムル/漢江の怪物』('06)以来となる。
突如として心を持った空気人形が“持ち主”(板尾創路)のもとを抜け出し、
さまざまな人々と出会い、レンタルビデオ店で働く青年(ARATA)に恋をする。
人形と人間、空気と空虚をめぐる物語。残酷だけれども美しい映画。
彼女はホン読み段階から涙し、撮影現場でもメイクの間、
ホンに目を通すたびに感情移入して泣く日々だった。
「私、もともと涙もろいほうなんですけど、この映画って本当に、
登場人物の感情が多面的に交叉しているんですよね。
何でもないセリフにも泣いてしまったことがあって、
たとえば、空き地で出会った老人(高橋昌也)とのエピソード。
熱を出した老人の頬に手の甲で触ると、
“昔から手の冷たい人は心がやさしいって言うんだよ”というセリフが返ってきて、
なぜだか胸の中にこみ上げてくるものがあったんですね」
心が痛くなるほど切ないラストに関しては「もう、死ぬかと思うくらい涙が出た」そう。
が、単に哀しいだけの作品ではない、と彼女は言う。
「この映画には何度か“キレイ”というセリフが出てくるんですが、是枝監督はそこに、
“美しい”という意味以上の何かを込めている気がしました。
すなわち人生、ツライことばかりのようだけど、でも、生きていく価値は
確かにあるんだって」
そう、“キレイ”とは、空気人形が最初に覚える言葉でもある。
本作は、女優ペ・ドゥナでなければ成立しない“キレイ”なシーンで埋め尽くされている。
ビデオ店でビニール製の体に穴が開き、しぼんでしまった後、
青年の息=空気で満たされていく場面しかり。
翌日、部屋で幸せそうに天井近くまでフワフワと昇ってゆく場面しかり。
エモーションを的確にモーションに変え、奇跡的なアクションを積み重ねていくという
意味で、ペ・ドゥナとは、現代最高の“アクション俳優”のひとりなのだ。
しかし、彼女は全く驕らない。
「CGはほとんど使わない撮影でしたからねえ。ビデオ店で息を吹き込まれるシーンも、
私が部屋で浮くシーンも、特殊効果のチームがすごく頑張ってくれたんですよ。
日本のアナログな撮影方法には『リンダ リンダ リンダ』('05)で慣れてはいましたが、
狭い部屋にレールを敷き、カメラとクレーンを同時に動かす技術には本当に
ビックリしました!」
空気人形を“演じよう”と意識したことはなかった
劇中のビデオ店にポスターが貼ってあったシネポエムの傑作『赤い風船』('56)に
倣うように、街を自由に漂う空気人形=ペ・ドゥナ。
彼女を通じて我々は、世界の諸相をもう一度体験していくわけである。
「私自身は、空気人形を“演じよう”と意識したことはなくて、心を持った後も、
赤ちゃんが初めて言葉を学ぶのと同じ感覚だと思っていました。
外に出て、東京散歩するところからは、自分の心を真っ白にし、目に新しいもの、
キラキラしているものに素直に反応するようにしました。
ひとりで船に乗り、隅田川を下るシーンは楽しかった。
全てが大切に愛おしく感じられ、“世界は自分と一緒にあるんだ!”という気持ちでした」
並々ならぬ感性。それは彼女自らカメラを手に、ロンドン、東京、ソウルを捉え、
エッセイも記した3冊の写真集でも知られるところ。その中の『ドゥナの東京遊び』('07)
は、本作の予行演習であったのかも。
「以前、『東京遊び』を出したとき、“外国人から見たら東京って、
こんなふうに見えるんだ”という感想が多かったです。日本人の方々にとって
“写真に撮るほどのトコ?”と感じる場所ほど、私の目には興味深く映ったんですね。
東京はいろんな表情のある不思議な都市。今回の撮影現場……空気人形が生きようとした
町も良かったです。古い家並みと開発されていく地域が合わさっていて」
ロケ地に選ばれたのは東京の下町の中でも、空襲を受けず、戦前から焼け残った区域。
その地で、好きな男の息で満たされた空気人形は、死を覚悟しつつ1回限りの生を
全うしていく。心を持ったがために、誰かの“代用品”ではない人生を求めながら。
それは、空虚さと背中合わせの我々の日々と同じなのだが!?。
「もちろん、空気人形には、ツライこと、酷いことも待っていましたが、
たくさんのキレイなものと出会えたし、何より彼女は自分の意志を持てたわけです。
命も“1回限りでよい”と自らの意志で選択していった。とても儚い生涯に見えますけど、
私は本当に美しい人生だったなと思います。終盤、自分のことを作りあげた工場に訪れて、
オダギリ(ジョー)さん扮する生みの親、人形師と対話をするんですが、
“君が見た世界は哀しいものだけだった?”“美しい、キレイなものも……少しはあったか
な?”と訊かれて、そこで空気人形がコクリと頷くところは、
私の大好きなシーンでもあります」
“代用品”であるはずの空気人形が心を持ってしまう、という発想もすごいが、
さらにすごいことに、映画が進むにつれ、その空気人形に共感し、
思わず感情移入してしまいそうになる。
自分が空っぽであることを自覚している空気人形――。
演じたペ・ドゥナは言う
「この役はこの映画に出てくる全てのキャラクターの典型であり、彼らの思いを代弁して
いる」と。
そしてこう付け加える「私自身、この登場人物たちと同じような“虚しさ”、
“何かが抜けてしまった空っぽな感覚”を持っています」。
だが、そう答える彼女の顔はことのほか明るい。なぜ? その答えは…この映画の中に
あった――。
よちよち歩きをする赤ちゃんの気持ちで演じた“人形”
まずは、彼女が見せる人形の動きについて。
ペ・ドゥナは「人形であることにこだわらず演じた」とそのアプローチを明かしてくれた。
「是枝(裕和)監督からも『あまり“人形”に執着せずに、赤ん坊のような気持ちで、
少しずつ成長していくところを考えて』と言われまして、その通り、
赤ちゃんのよちよち歩きから始めました。初めて歩くときってどんな感じだろう? と
考えたとき、まず関節が思い通りには動かないだろうな、と。とはいえ、計算して動いた
わけではないので説明するのが難しいんですが…(苦笑)。
徐々に、徐々に自然な動きになるようにという意識で演じていました」。
彼女曰く「是枝監督は、このシーンが撮りたくてこの原作(漫画)を映画化した」
というのが、ARATAさん扮する純一が空気人形に息を吹き込むシーン。
監督は原作を含めこのシーンを“エロティック”と表現したが、
ペ・ドゥナもその言葉にうなずきつつ、こう語る。
「実際、原作を読んで監督がおっしゃることはよく分かりました。漫画であり、
決して直接的な描写ではないのに非常に官能的なんです。脚本の段階で、
素晴らしいシーンになるだろうな、と楽しみでした。
ただ、一度撮影に入ってしまえばそんなことよりも…(苦笑)、
考えることは『監督の指示に忠実に』ということと『心だけは人形のままで』ということ
でした」。
むしろ、彼女の心を占めていたのは“官能”とは対極とも言っていい感情だった。
「愛する人の前で空気が抜けていってしまう。実際、撮影しながら人形から空気が抜けて
いくのが見えるんです。足はフニャフニャでスカートはめくれ上がり惨めな姿になってい
きます。それを愛する人の前でさらす、ということで私自身、見ていて涙が流れそうに
なりました。“官能”なんて考える余裕もなく、ただ『見ないで!』という気持ちです。
そこで、純一が息を吹き込んでくれる。その瞬間は言葉で言い表せないほどの喜びで
満ちあふれ、全てを得たような気持ちになりました。私がそう感じたからこそ、
このシーンは監督が望んだエロティックな仕上がりになったのかも…やっぱり是枝監督は
凄い方ですね(笑)」。
さらに、このシーンの撮影に際してARATAさんが見せたこんな一面についても明かして
くれた。
「空気が抜けていくとき、私が横で涙を流しているのを見て、彼はそっと人形に近づいて、
まくれたスカートを直してくれました。そういった繊細な感覚の持ち主なんです。
撮影現場で、私が気を吹き込むような活気あふれる存在だとすると、彼は平穏と安心を
与えてくれる“お母さん”のような存在なんです(笑)、不思議ですけどね」。
それではもう一度、冒頭の問いに戻ろう。空気人形が、そして純一が自らを“空っぽ”と
評す気持ち、彼女はそれを「私もよく知っている気持ち」と言う。
「私がこの作品の脚本を読んで好きになったのは“共感”することができたから。
それは、東京だけでなく、大都市に暮らしていれば誰もが抱く感情であり、
一生懸命に働く人ほどそういう虚しさを感じるものなのかもしれません。
人間関係の中で、虚無感…どこか“抜けて”しまったような空っぽな感覚にさらされる。
私自身も常にそうした感情は抱えています。だからこそ、仕事をすることでそういった
部分を満たしていくものだと考えているんです。この映画で人形を演じてよかったな、
と思うのは、全ての登場人物を象徴するこの人形が、心を持ち、愛する人に息を
吹き込まれた後の生き方にあります。
純粋にやりたいことをやって、愛する人を愛せるだけ愛する。彼女がそうすることで、
虚しさが満たされたものに変わっていくのを私も感じることができました。
もし、自分を空っぽだと感じている人が、この映画を観て何か温かさを感じてくれたなら
ば、私は誇らしく思います」。
穏やかな笑みを湛え、真摯にそう語る彼女の言葉は、
確かに“空虚さ”を埋める強いエネルギーにあふれていた。
是枝裕和監督のインタビューです。
是枝裕和(これえだ・ひろかず)
1962年、東京生まれ。87年に早稲田大学第一文学部文芸学科卒業後、
テレビマンユニオンに参加。主にドキュメンタリー番組を演出、現在に至る。
主なテレビ作品に、水俣病担当者だった環境庁の高級官僚の自殺を追った「しかし…」(91)、
一頭の仔牛とこども達の3年間の成長をみつめた
「もう一つの教育~伊那小学校春組の記録~」(91)、
前向性健忘症の男性とその家族の記録「記憶が失われた時…」(96)などがある。
初監督映画「幻の光」(95)が、
第52回ヴェネツィア国際映画祭で金のオゼッラ賞等を受賞。
また、監督4作目の「誰も知らない」(04)では、
カンヌ国際映画祭にて映画祭史上最年少の最優秀男優賞(柳楽優弥)を
受賞したことでも話題に。
「花よりもなほ」(06)では初の時代劇に挑戦。
08年には、自身の実体験を反映させたホームドラマ「歩いても 歩いても」、
初のドキュメンタリー映画『大丈夫であるように-Cocco終らない旅』を発表した。
監督から見たペ・ドゥナ。
身体能力的に言うと一流のアスリートみたいな人。
「彼女の映画は最初に『子猫をお願い』、次に『ほえる犬は噛まない』を観て、
すぐにファンになりました。いわゆる美人ではないんですが、表情が魅力的で、
人を惹きつけてやまない。加えてコメディセンスもよく、間の取り方が上手くって、
硬軟問わず、演技に余韻を残すことができる。
今回、人間になった空気人形の多彩な感情表現を、彼女なら国籍を越えて伝えてくれる
んじゃないかとお願いしました。想像以上にフォトジェニックな方で、
前半はもっとCGを使って人形っぽくしようと考えていたんだけど、
メイド服を着るカメラテストの段階で、できるだけ彼女にやってもらおうと大幅に
プランが変わりました。もっと彼女を見ていたいな、と僕自身が純粋に思ったので。
全身が受容体になっていて、物事に感応する能力が高く、喩えるならば一流の
アスリートみたい。撮影中はモニターを一切見ないんですけど、
彼女には“自分が今、画面にどう写っているか”がハッキリ見えている。
現場では僕は何もしなかったに等しいですよ。
グラウンドに出たら好きに任せてもいい名選手でしたから。
荒唐無稽な設定を受け入れ、世界に向き合い、役を生ききってくれました。
映画を詩に近づけたい気持ちはありましたが、今は彼女の存在自体が“詩”のような
気がしています」
――まずは、原作『ゴーダ哲学堂 空気人形』との出会いを教えてください
「もともと業田さんの『自虐の詩』を読んでいて、その感動があったから
“あ、新作が出た”と思って、書店でたまたま手に取ったんですよね。
その中に収録されている『空気人形』という章は、コマ割りが完全に“映画にしてくれ”
と言ってたんですよ。釘にひっかけてしぼんで、好きな男の人に息を吹き込まれて、
だんだん膨らんでいくっていう描写が。
自分の映画の中では、あまりストレートにセックスを描くつもりはなかったんだけど、
これならビニールが膨らんでいく様子と息の音だけで、官能的なシーンになるかも
しれないと思ったんです。だから、読んですぐにプロットにして、
『空気人形』っていうタイトルも付けて。それが2000年かな。2001年には、
プロットをARATA君に渡しているので」
――では、最初から純一役にはARATAさんを想定されていたんですね
「そうですね。あの役はARATA君だと思ってました。そのときのものと、
出来上がった脚本はだいぶ違いますけどね。
最初書いたプロットは、A4の紙に4、5枚のざっくりしたもので、ARATA君にしか
見せていないんですよね。ちょうどその時期、“自分がやりたいものを全部表に出して
みよう”と思って、短いプロットを8本ぐらい書き出しました。
その中に『歩いても 歩いても』や『花よりもなほ』の元になったものもあるし、
『空気人形』もあって。
ただ、すぐ『誰も知らない』の製作に入っちゃったんで、少し寝かせつつ、
2005年ぐらいにちょっと膨らませたものを書いて。その時点で、
ぺ・ドゥナにオファーしました。彼女、かわいかったでしょ?」
――それはもう! 瞬きをしないのにもびっくりしました。あんなことができるんですね
「普通はできないでしょ(笑)。僕も大丈夫かなと思ったんだけど、本人がもう必死で
“いや、人形だから瞬きはしない”って言ってね」
――20ページの原作を、どうやって膨らませていったんですか?
「さっき話した、人形が息を吹き込まれるシーンを中心に、“心を持った人形が、
どうやって純一のいるビデオ屋にたどり着くのか”という前の時間と、
空気はだんだん抜けていくから“彼女がどういうふうに老いていくのか”という
後の時間を考えて、時間軸を引き伸ばしました。
原作の後半に、見開きで泣いている女の人の顔がばーっと並ぶシーンがあるんですけど、
それを見て“原作者は、この人形の空虚感と、現代人の空虚や孤独を重ねようとしている
な”と思ったんです。時間軸は縦に伸ばしたから、じゃあ次は人形が住んでいる街の中に、
虚無や孤独を抱えている人たちを描いていこうと。例えば、“人形は老いを受け入れていく
けれど、それなら老いを受け入れない人を隣りに置いてみようか”とかね。
そうやって、今度は横に空間的な広がりを作っていくと、
90分ぐらいにはなるんじゃないかなと考えました」
――人形が周りの人間にどう影響していくか、ということですか?
「直接影響はしないんですけどね、ばらばらなので。全部がばらばらで、
夢の中でだけみんながワンカットでつながるから」
――どうして“ばらばら”にこだわったんですか?
「今はみんながばらばらだから。以前、仙台で『誰も知らない』の上映会をやったとき、
そこへ来ていた学校の先生が“あなたのお話と近い世界観の詩があるので送ります”って
いうお手紙をくれたんです。それが、映画の中にも出て来る、吉野弘さんの
『生命(いのち)は』っていう詩でね。上映会では全然『空気人形』の話はしなかったん
だけど、読んでみたら“これは空気人形の話だな”と思って、そのまま詩を劇中に出す
ことにしたんです。
命というものはある欠落を持って生れてきていて、だけどそれはネガティブなもの
ではなく、他者とつながっていくきっかけになるものだと捉える。
それはすごく豊かな考え方だけど、なかなかできないじゃないですか。
でも、人形が人と触れ合って経験するのは、まさにそういうことだと思ったんです。
自分の空虚を、他者の息で満たしてもらうっていう。
大体みんな、自分の空虚は自分で癒そうとするでしょう。それで失敗する。
だから、人形の周辺にいる人たちは、みんな“他者に自分の空虚を開かず、
人とつながらない、つながることを怖れている人たち”にしました。
彼らと対比することで、人形が経験したことが、いかに豊かなのかを際立たせられると
思って」
――舞台は東京のはずなのに、過疎地のような不思議な場所ですよね
「人がばらばらに生きている場所としての東京、っていうのをやろうと思ったんですよね」
――東京なのに、幻想的な感じすら受けました
「それはカメラもあると思うよ。(撮影監督の)リー・ピンピンさんには、
“人も風景も情感豊かに撮りたい”という話はしていて。だから、自分たちが日常で
見ている東京とは、ちょっと違う切り取り方をしているのは間違いないし。
僕は団地で育ったんですけど、今自分が育った団地へ行くと、もう子供が誰もいなくて、
お年寄りがぽつんぽつんと住んでいる。古くなった団地って、
ゴーストタウン化してるでしょう。築40年の団地に、夜になるとぽつ、ぽつ、ぽつって
灯りが点いて、その中に人形も周りの人間たちも住んでいて。
その暗~い団地の奥に煌々と輝く高層マンションが見える、
っていう場所を想定していたんです。最初は。
その過程で見つかったのが、今回の撮影場所だったんですね。
奥が月島の高層マンションで、手前がまばらに地上げが終わっていて、
空き地に立体駐車場ができているんだけど、バブルが弾けちゃったからビルが
建たないもんで、もう錆びついちゃって自転車置き場になっているわけです。
置き去りにされている感じがするけど、ノスタルジックではない。ちょっと変な絵だなと。
それを見て、“うわ、いいなー”って。この絵の中にみんながばらばらっと
住んでいるのが不思議だし、この場所だったら人形が動き出しても納得できるかなぁと
思いました。加えて、今撮っておかないとなくなっちゃいそうだな、っていうのも
ありましたね」
――孤独を抱えた登場人物たちの中で、人形師役のオダギリジョーさんだけが、
現実を超越した人物に思えました。監督の中で、この人形師はどういう存在なんですか?
「父親。(「ある視点部門」に出品された)カンヌ国際映画祭へ行ったときにね、
“あの人形師は神なのか?”って聞かれたんだけど、それは違うなと思って。
人形に対して明快に“君が存在する意味は”って語ったら神だろうと思うけど、
逆に励まされちゃったりもしているから。だから神ではなくて、強いていうなら父親かな
という話をしました。でも、父権とは違う父性だから、“母性的な父性”という捉え方も
あると思います。
僕が何で人形師を“母”じゃなくて“父”だと思ったかというと、戻ってきた人形を
抱きしめるのではなく、背中を押してまた現実の世界へ戻してあげるから。
それは父の行為だなと。彼自身も人形の存在に関する答えを持っていないけど、
“答えが出ない”っていうのは大事なことなんですよね。
劇中にも登場する、人形を作っている工場を見学したときは衝撃でした。
実際に人形を作っている方にお話を聞いたんだけど、人形が回収されて戻ってきたときに
“あぁこの子は愛されたな”“この子はあまり幸せじゃなかったな”っていうのは
顔を見ればわかる、それは多分この子たちに心があるからだと考えてます、って
言っていて。その話がとてもよかったんです。自分が作ったものを、そういうふうに
見られるのは素敵だなって。だから、オダギリ君のセリフは、ほとんどそこで聞いた話な
んですね」
――そもそも、なぜ空気人形は心を持ったんだと思いますか?
「劇中でオダギリ君が言った通りなんだけど、それはわからないですね。
人間がどうやって心を持ったのかもわからないから……。いや、これは難しいですよね。
ちょっと一言では言えないな。この人形は、どの時点で心を持ったと思いますか?」
――私はそのまま“瞬きをしたところからじゃないか”と思っていたのですが、
改めて聞かれてみると、もっと前からだったのかもしれないと思います。
最初に膨らんだときから、心はあったのもかもしれない。
監督はどう考えていらっしゃるんですか?
「それは……観た人それぞれが違うポイントを思うはずだし、そう思われるように作って
いるつもりです。だから、僕の答えはなくてもいいですよね(笑)。こうやって話をするの
も面白いですし。
ただ、人形自身は、記憶であり他者でありを、自分の中ではっきり感じたときに
“心を持ったこと”を確認するんだよね。そこは、すごくはっきり出したかった。
もし心というものがあるとすれば、もともと自分の中にあるものではなく、
他者と出会って芽生えたもの。そういうふうに、世界と触れないと心は生れないのでは
ないか、と考えながら作っていきました」
ARATAと監督の対談を再録します。
ARATA/1974年生まれ、東京都出身。是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』で
映画デビュー、初主演を務めた。その他、若松孝二監督作『実録・連合赤軍 あさま山荘へ
の道程』(08)、蜷川幸雄監督作『蛇にピアス』(08)、堤幸彦監督作『20世紀少年 1~3』
(08~09)などに出演。岩松了演出の舞台『マレーヒルの幻影』
(2009年12月5日~27日、下北沢本多劇場にて)にも出演。
──カンヌ国際映画祭「ある視点部門」に出品されて、お二人も映画祭に出席され、
上映時にはスタンディングオベーションで迎えられましたが、カンヌでの高い評判に
ついての感想は?
是枝裕和:人形が主人公なので、もっとサブカル的な見方をされてしまうかと思っていた
のですが、それを乗り越えた上で、現代の都市生活者の孤独について描いた映画なのだと
受け止めてくれる人が多く、ホッとしました。それから、国境と文化を越え、
主演のペ・ドゥナのキュートさチャーミングさが伝わったので良かったな、と。
僕が独りよがりで良いと思っていただけじゃないんだということが分かり、ホッとしま
した(笑)。
──監督は元々、ペ・ドゥナさんのファンだったそうですが、撮影中に「なんてチャーミ
ングなんだ!」と痛感したのは、どんな部分ですか?
是枝:何から何までですね(笑)。監督が主演女優をこんなに褒めてどうなんだと思われる
かもしれませんが、べた褒めしてもウソにならないくらい、現場でもみんなから愛されて
いました。
──これまで、ファンだったからキャスティングした俳優さんはいますか?
是枝:嫌いでキャスティングした人はいません(笑)。でも、ファンだからキャスティング
しましたって、あんまり自慢して言うことでもないかと……(苦笑)。ただ、彼女はカンヌ
でも大人気でしたね。
ARATA:彼女は、とてもプロ意識が高い女優さん。それからユーモアのセンスもある。
神経質になるようなシーンの撮影時に、さらっとしたユーモアを言えるところも魅力的で
すよね。
──お二人が一緒にお仕事されるのは、『ワンダフルライフ』(98)『DISTANCE』(01)
に続き今回で3度目ということですが、お互いの魅力について教えてください。
ARATA:是枝監督の現場に最初に参加させてもらったのは10年前になりますが
(注:『ワンダフルライフ』で主演)、今回、この作品に参加して、監督の進化をすごく
感じました。現場での存在感の大きさというか……。新たなステージに立っていると
感じました。
是枝:もったいない(笑)。ARATA君は、僕の作品ではいつも、クールだったり
空虚だったり物静かだったりする役が多いんですけど、こう見えて実際は熱い男なんです
よ。
ARATA:メラメラしてます(笑)。
是枝:そんな役柄と実際とのギャップも面白いのですが、次は、(彼に)今までとは違う
タイプの役を書いてみようかと思っています。ずっと一緒でべったりというのは気持ち
悪いので(笑)、時折ARATAくんと仕事ができたらと思っています。お互いに、ある種の
緊張感を持ちながら、成長を確かめ合える相手として(笑)。
──プライベートでも会ったりするんですか?
ARATA:時々、食事をしたりしますね。
是枝:ARATA君は、プライベートではすごくアクティブなんです。皆既日食を見に行った
り、山に行ったり海に行ったり。格闘技も見に行くしね。僕は全部をテレビですますので、
ARATA君が直接行動しているのを目の当たりにすると、いかに自分がアクティブでない
暮らしをしているかに気づかされる……いかんですね(笑)。
──お二人とも、とても映画に愛を持っていると感じるのですが、具体的に、映画にどん
な思いを抱いているか語っていただけるでしょうか。
ARATA:「映画の現場は、何時間待たされても待っていられる」という(共演した)寺島進
さんの言葉にすごく共感したんですけど、待てば待つほど、いい映像、いいシチュエーシ
ョンになっていくのが見えるな、と。時間を惜しまずに作るというこだわりが、
とても気持ちよくて楽しい。スピード勝負ではなく、参加している人たちの愛情のかけ方
や作り込み方を見ていて、映画の現場っていいな、と思いますね。
是枝:映画を愛しているかどうかは分からないですね(笑)、映画の現場は好きですけど。
ただ、「映画って何だろう」という関心は強く持っていて、いつも撮りながら、「映画って
こういうことなんだろうか?」「こういうことが可能なんだろうか?」と問いかけ続けてい
ます。それを愛と呼ぶならば愛なんでしょうけど。
──この作品の見どころについて教えてください。
ARATA:セリフにならない「行間」が、すごく多い作品。その間(ま)が、この作品をよ
り深くしています。見た人たちには、そんな間を、それぞれで埋めてもらえるといいな、
と。見終わった後には必ず、心を潤す何かを感じてもらえると思います。
是枝:見どころはいろいろあるんですけど……岩松了さんが演じるレンタルビデオ店店長
のイヤらしいところとか(笑)。
ペ・ドゥナさんという韓国の女優さんが演じる人形が主人公なんですけど、自分の中に
孤独だったり空虚さだったりを感じている人々を描いた作品です。初めて正面からラブス
トーリーを描いてみました。……泣けます(笑)。ただ悲しいだけではなくて、見終わると、
清々しさも含めた複雑な感情がわき上がるんじゃないかと思います。
是枝裕和監督&ペ・ドゥナ インタビュー
それぞれが「空気人形」に寄せた思いとは?
――是枝監督はデビュー作「幻の光」以来の原作ものになりましたが、映画化までの経緯
を教えてください。
是枝:「原作の『空気人形が、抜けてしまった空気を自分の好きな人に吹き込まれて満たさ
れる』というシーンが非常に官能的で、ぜひ映画にしたいというところからスタートしま
した。他人の息で満たされる、つまり空虚感は自分だけでは埋められない。もっと言うと、
自分の中に感じる他人の息が『心』なのだという哲学的な問いも感じましたね。また、息
という映画的なモチーフを介してセックスが描けるのも魅力的で、その前後の人形の感情
をオリジナルでどのぐらい作れるか?というのが勝負でした」
ぺ・ドゥナ:「あのシーンは、監督の思い入れも深かったので、表には出さなかったけどと
ても緊張しました。監督のためにも本当にいいシーンを撮りたいと思いました」
是枝:「監督としては『逃げない』というのもテーマでした。裸もそうだし、主人公が空気
人形であることによって起きる感情の振り幅が大事。オブラートに包んでしまうと、普通
の人形でいいじゃんって話になる。感情を押し殺す人間との対比も際立たせたかったので、
空気人形の感情にはリミッターをかけたくなかったんです」
――撮影に入る前には、本読みに相当時間をかけたそうですね。
是枝:「説明することで台本を咀嚼できたし、ペ・ドゥナさんも人形としてのプロセスを掴
んだと思います。誤解がまったくなかったので、安心して撮影ができました。ここまでブ
レがないのはちょっとショックなぐらい。逆に言うと、彼女が『ここはどういう気持ちな
のか?』と悩んで聞いてきたシーンがふたつあって、とりあえず撮影はしましたが、全体
の流れを見ると彼女の指摘通り、違和感があったので本編には残していません」
ぺ・ドゥナ:「私は理性より心で動くタイプ。台本を読むときにも、まず頭の中で自分なり
の映画を撮ってみるんです。演技するときは、すでにその人物の『心』になっているので、
おかしいなと思う部分に関しては直感が働きました」
――撮影中に知った、お互いの素顔を暴露してください。
ぺ・ドゥナ:「(監督に向かって日本語で)ダイジョウブデス?」
是枝:「お先にどうぞ。聞いてから考えるよ(笑)」
ぺ・ドゥナ:「監督は海外の映画祭にも招かれていて、世界的に注目されている巨匠なのに、
『映画祭に行く目的は、おいしいものを食べることだよ』って言ってました(笑)」
是枝:「ペ・ドゥナはお芋とピーナッツクリームが大好き。すごく普通な感じでいいと思い
ます」
ぺ・ドゥナ:「ウフフ(笑)。監督は常に周りを観察していますよね。私も俳優として、
どんな監督に対しても、何らかのインスピレーションを提供できたら光栄だと思っていま
すが、監督はそんなところまでちゃんと見ていたんですね(笑)」
――この出会いは、お2人にとってどんなものですか?
是枝:「撮影監督のリー・ピンビンさんもそうですが、奇跡的なタイミングで、稀有な出会
い方ができた。何かがちょっとずれると、全然違う作品になったと思います」
ぺ・ドゥナ:「以前の自分だったら、出演を躊躇していたかもしれない。でも、俳優として
の準備ができ、これをやっても自信がもてるかなと思っていたちょうどその時に、お会い
できたような気がします。まさに運命的な出会いですね」
最後はペ・ドゥナ、是枝裕和監督、板尾創路のトリプルインタビューです。
Q:空気人形を演じる主演女優として、ペ・ドゥナさんを起用した経緯を教えてください。
是枝監督:
ペ・ドゥナさんの出演2作品を手掛けているポン・ジュノ監督に、釜山国際映画祭でお会
いしたとき、「次はどんな作品を撮るんですか?」と聞かれて、今回の企画についてペ・ド
ゥナさんに声を掛けようと思っているんだけど……と相談したんです。するとポン・ジュ
ノ監督が「彼女なら作品に興味を持つかもしれない」と言ってくれて、じゃあ思い切って
オファーしてみようと。最初はダメモトな部分もありましたけど、今回の設定なら片言の
日本語でスタートできるし、何より以前からいい女優さんだと思っていたので、出演して
もらえることになり、とてもうれしかったですね。
Q:空気人形を演じる上で、大切にした点を教えてください。
ペ・ドゥナ:
外見面はあまり気にしなかったですね。演じるということは、俳優の内面にあるものが
おのずと表面に出てくることだと思うからです。どんな役柄であれ、たとえそれが空気人
形であっても、キャラクターに成り切ることに集中しようと思いましたね。
Q:具体的にはどのようにアプローチしましたか?
ペ・ドゥナ:
大切にしたのは、彼女が心に目覚めた人形だという点ですね。まるで子どものような純粋
な気持ちでいろいろなことを受け止め、反応していこうと。ですから、今回はいつものよ
うに自分の中で100パーセント、キャラクターを作り上げた上で、そのうちの20パーセン
トくらいを演技として表に出そうと。その加減が難しかったですね。
Q:監督からはどんな指示を出したんですか?
是枝監督:
撮影前に5時間くらいかけて、本(台本)読みをやって、人形が味わう感情を追体験して
もらいました。途中、悲しいシーンのところで、ペ・ドゥナさんが涙を流していて……。
ペ・ドゥナ: (恥ずかしそうな表情で)そうでしたね。
是枝監督:
人形は心に目覚めて、子どものように外の世界に触れて、いいことも、つらいことも含め
て、普通の人間が数十年かけて経験することを短いスパンで、ものすごく凝縮した形で経
験する。つまり、人形を演じるのではなく、人間の成長のプロセスを演じるんだと。
そのことを説明し、ペ・ドゥナさんもしっかり理解してくれたから、そこから先はお互い
ブレがなかったですね。
Q:今回板尾さんは、空気人形を所有し、愛するという難しい役どころでした。演じた秀雄
はどんな男だと思いましたか?
板尾:
人とうまく付き合えないタイプで、でもすごくロマンチストで、女性に対して過度に純粋
さを求めてしまう。その究極が人形への愛だと。でも、どうなんですかね……。
カンヌ映画祭に行ったとき、取材で海外の記者さんから「秀雄のことを幸せだと思うか」
とよく聞かれたんですよ。僕自身は決して不幸せではないと思いますけどね。
Q:演じる上で注意した点は?
板尾:
秀雄の愛情表現って、誰に迷惑かけているわけでもないし、演じるときも変な抵抗感はな
しにしようと。いわゆる変態チックな演技にならないように意識しましたね。
Q:撮影中、ペ・ドゥナさんと板尾さんの間で、どんな会話のやり取りがあったんですか?
ペ・ドゥナ: 板尾さんとは、あまり話をしてないですね。
是枝監督: 僕もほとんどしゃべっていない!
板尾:
僕自身、初対面の人とコミュニケーション取るのは得意ではないので。それと今回の役柄
は「人間対人形」という側面と、心に目覚めた人形と初めて出会うシーンのインパクトが
大事だと思っていたので、ペ・ドゥナさんのことは撮影中、極力無視していました(笑)。
これは本当に申し訳ないと思っていますよ。韓国から来てくれた女優さんですし、本当は
迎える側として、もっとコミュニケーションを取るべきだったんですけど。
ペ・ドゥナ:
わたしも板尾さんのお気遣いは感じていました。今回は人形を相手にするわけですから、
そういう心構えだったんだと思っていました。
Q:板尾さんから見た、ペ・ドゥナさんの魅力を教えてください。
板尾:
いわゆる韓国の女優さんというイメージとは違いますよね。どこにでもいそうな感じがす
るけど、声やしぐさ、そして表情といった演技からにじみ出るかわいらしさがあって。
それにすごくきれいに見える瞬間があると思えば、すごくこっけいに見えるときもある。
コメディーセンスもあるんでしょうね。とにかく不思議な魅力を持った女優さんだと思い
ます。
Q:お二人とも是枝監督とのお仕事は初めてでしたね。ズバリ、どんな監督ですか?
ペ・ドゥナ:
今までお仕事した監督さんの中でも最高といえる監督さんです。是枝監督が持っている哲
学や想像力、人生観などすべてにおいて素晴らしいですし、人格的にも完ぺきで、100パー
セント信頼できる存在でした。俳優というのは常に監督を意識せざるを得ないんですね。
「今の演技は満足してもらえたか」とか。そういう部分も是枝監督は、しっかり見守って
くれました。
板尾:
脚本に沿っていくだけじゃなく、現場の空気感で自然と生まれるものをくみ取ってくれる
方だったので、僕自身もすごく楽しくて、伸び伸びと演技ができました。具体的に「ああ
してほしい、こうしてほしい」というのは一切ありませんでしたし。
Q:逆に監督から、お二人との仕事を振り返っていただけますか?
是枝監督:
ペ・ドゥナさんの演技には、常に驚かされましたね。とにかく耳がいいからさ。僕自身、
役者は耳が一番大切だと思っていて、その空間をちゃんと生きるためには、相手の言葉
(セリフ)を聞く能力が優れていないといけない。今回、彼女は聞くという行為を通して
日本語のニュアンスをしっかり理解し、言葉にならない「……」という語尾まで見事に
感情として表現してくれた。こうなると、もはや言葉の壁はなくなりますよ。
Q:先ほど、現場では板尾さんとあまり話をしなかったとおっしゃっていましたが……。
是枝監督:
「今日は、ほとんど言葉交わさなかった」ということは結構あったかな。もちろん雰囲気
が悪いわけじゃなくて。それが板尾さんの自然なんだろうし、秀雄という役柄の理解がと
にかく深くて的確だったので、あまり会話のやり取りが必要なかった。板尾さんはね、
本番にスッと台本にない何かをしてくれるんですよ。例えば、空気人形をお風呂に入れる
シーンで、板尾さんは人形の肩にさっとお湯をかけてあげるんです。冷えないように。
台本ではこうした動きの指示は一切してないんですけど、この行為一つ取っても、秀雄の
優しさと切なさが表れている。板尾さんのアドリブに的外れなものはまったくなかったし、
板尾さんの方から「今のどうでした?」と聞いてくることもない。これはね、ものすごく
刺激的なコミュニケーションでしたよ。
Q:ご覧になった作品の感想はいかがでしたか?
板尾:
本当に詩的で、映画というよりはストーリー性がある写真集みたいですよね。ゆっくり
1ページずつめくっていける。そんな雰囲気の映画だと思います。物語の一番の核になって
いるのは、人間の持っている空虚感。人との対峙(たいじ)が大きなテーマなのかなと思
いますね。
ペ・ドゥナ:
わたしが今まで出演した映画の中で、一番きれいに撮っていただけたと思います!
この映画を通して、皆さんとご一緒できたことを、とても幸せに思っています。照れくさ
いですけどね(笑)。
是枝監督:
そう言っていただけると、本当にうれしいですね。僕自身、監督をしていて日々幸せでし
た。非常に優秀なスタッフとキャストが集まった、クリエーティブな現場だったから、
僕が書いたセリフを俳優さんがどう表現してくれるのか、世界観をカメラマン
(今作では台湾生まれの国際派カメラマン、リー・ピンビンが撮影を担当)がどう解釈し
てくれるのか……お互い「負けられない」と緊張し続けながら、でもその緊張感や大変さ
が作り手にとって…
以下はネタバレとなるのでmixi独身映画ファンコミュニティ
http://mixi.jp/view_community.pl?id=1299114
にて『空気人形』の頁をご覧下さい。
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