「ロング・エンゲージメント」DVD脚本レビュー

「ロング・エンゲージメント」映画チラシ★映画基礎データー★
「ロング・エンゲージメント」
2004年 アメリカ/フランス映画
原作 セバスチャン・ジャプリゾ
監督 ジャン=ピエール・ジュネ
脚本 ジャン=ピエール・ジュネ ギョーム・ローラン
出演 オドレイ・トトゥ ギャスパー・ウリエル

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『 ロング・エンゲージメント』の英語題A VERY LONG ENGAGEMENT
は直訳「非常に長い婚約」で、フランス語の原題
「 Un Long Dimanche de Fiancailles 」は
「長い婚約の日曜日/婚約式の長い日曜日」という意味になります。
ヒロインは『アメリ (2001)』のオドレイ・トトゥ。
『 ロング・エンゲージメント 』は制作費 $50,000,000
$1=¥ 110 換算で 55 億円)だそうですが、
ワーナーブラザースが35%出資しているのでアメリカ国籍の作品です。
フランス語の作品ですが、フランス政府の助成金は受けていません。

『 ロング・エンゲージメント 』は、
セバスチャン・ジャプリゾのフランス語同題の小説
「長い日曜日Un Long Dimanche de Fiancailles 」(東京創元社刊/[訳]田部武光])を
原作にしています。
『ロング・エンゲージメント 』のスタッフも出演者も、
監督・脚本ジャン=ピエール・ジュネや主役オドレイ・トトゥを始め、
大半が 『アメリ (2001) 』に関わっている人たちです。

第1次世界大戦の末期、
フランス軍の兵士たちは“ソンムの戦い”で壮絶な戦闘を繰り返していた。
前線に従軍していたフランス兵―
売春婦のひも、機械工、農夫、大工、それに漁師の五人は
戦線から逃れたくて、
各自、自分の手を拳銃で撃って負傷兵になるつもりだった。  
しかし、かれらの試みはいずれも発覚、
五人は脱走を図ったかどで軍法会議にかけられ有罪になった。

彼らは銃殺刑ではなく、後ろ手で縛られ、
無人地帯の塹壕、通称ビンゴ・クレピュスキュル
Bingo Crepuscule (直訳:たそがれのビンゴ)に放り込まれるという処罰を受ける。
これはドイツ兵に射殺されることを意味する。

刑の執行は1917 年 1 月。
そして各遺族には、五人は単に戦死したのだと軍は公告した。  

それから二年半が経過し、
1919 年 8 月、マチルド(オドレイ・トトゥ)は死期の近いある男性から手紙を受け取る。
それには、マチルドの婚約者を見かけたと記してあった。
彼女はダニエル・エスペランサ軍曹という男性に会いに入院先の病院を訪れた。
彼はマチルドに、五人が処刑された方法を語り、
更に、五人の写真と最後の手紙を入れた包みまで渡してくれた。
売春婦のひも、機械工、農夫、大工、それに漁師の五人、
そのうち漁師のマネク(ガスパール・ウリエル)はマチルドと婚約していた。

マチルドは手紙を何度も読み返していくうちに、
公告された処刑の事実と辻褄が合わない点を見出し、
マネクは生存しているのではないかと推測するようになる。
マチルドはパリに出かけて彼女の両親の遺産を管理する弁護士の協力を取り付け、
軍の記録書庫を訪ねて秘密文章を盗み見、推測は確信に変わるのだった。
マネクはどこにいるのか?
マチルドは里親を説得して真実を突き止めようと奮闘する。
ところが、マチルドの行く先々で関係者が殺されていく。
いったい誰の仕業か?
魔の手がマネクに届く前にマチルドは再会できるのか?

“ソンムの戦い”とは、第1次世界大戦中、1916 年、英・仏軍とドイツ軍が
フランスのソンム川流域で行った戦いのことです。
フランスは 40 個師団、イギリスは 20個師団を投入した戦闘で、
英・仏軍の戦死者は 63 万人にも上ったと記録されています。
このソンムの戦いは強固な塹壕を掘って戦ったのでも有名らしいです。

予告編ではオドレイ・トトゥと相手役ガスパール・ウリエルのラブシーンが
どんどん出てくるので、戦争を背景にしたラブストーリーのような印象
(たとえば「きみに読む物語」の前半部分のような)
を受けますが、本作品はむしろ戦争と軍隊の欺瞞を暴く推理ロマンです。
最初、そのテーマが掴めず、
土砂降りの戦場で陰気な五人衆の哀れな処刑の様子が延々と映されるので退屈し、
オドレイ・トトゥが画面に登場するまでの30分までに居眠りしてしまい、
2度見る羽目になりました。
推理ロマンなのだと分かって見た2回目は複雑でありながらどこか伝奇的なストーリー、
俳優たちの名演、ジャン=ピエール・ジュネの凝った映像演出で堪能できました。
いつもありがちなことですが、
配給会社の売らんかな主義の宣伝で、作品のテーマを勘違いしたことが仇となりました。
しっかし、まあ、日本では
「“アメリ”のスタッフ、キャストが再結集した泣ける純愛映画です」
と宣伝したほうが手っ取り早くアピールすることが出来るんでしょうね。
「全フランスが泣いた。ハリウッドが泣いた。全世界が泣いた。」
みたいな。笑

セバスチャン・ジャプリゾの小説
「長い日曜日Un Long Dimanche de Fiancailles 」は91年秋の発表され
ベストセラーとなりました。
フランス五大文学賞のひとつアンテラリエ賞を受賞しています。
ジャン=ピエール・ジュネ監督は当初より映画化を熱望していたそうですが、
いかにせん当時はやっとこ「デリカテッセン」を発表したばかりの無名の新人。
劇中で第一次大戦の“ソンムの戦い”を再現せねばならないなど、
巨大なバジェットとなることが見込まれる本作の映画化は手の届かぬ夢でした。
映画化権利がハリウッドに買い上げられると知ると、
未練を断って自作「アメリ」の準備にかかり、
ハリウッドに呼ばれて「エイリアン4」の監督・脚本
を引き受けることになります。

セバスチャン・ジャプリゾは脚本家としても活躍しており、
チャールズ・ブロンソンを一躍メジャーにした
ルネ・クレイマン監督の「雨の訪問者」。
アラン・ドロンとチャールズ・ブロンソンの「さらば友よ」。
自らの原作を脚色した「殺意の夏」でセザール賞の脚本賞を受賞しています。

ペンネーム“セバスチャン・ジャプリゾ”は本名、
ジャン=バチスト・ロッジのアナグラムなのだそうです。
さすがミステリー作家ですね。
本名では17才の時に処女小説を発表、
その後J.D.サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」のフランス語訳をしたり、
映画監督として76年に「続・個人教授」を演出するなど、
多才振りを発揮しています。
セバスチャン・ジャプリゾ名義では99年に「クリクリのいた夏」の脚本を
担当しています。

「アメリ」の世界的な成功で、ジャン=ピエール・ジュネ監督は、
「長い日曜日」の映画化を自分の手に引き寄せます。
本作品の脚色は、
ジャン=ピエール・ジュネ監督と『ピエロの赤い鼻 (2003) 』の脚本でも知られる
ギョーム・ローランの共同作業で進められています。
原作はマチルドが事件の関係者とやり取りする手紙によって大半が語られるようですが、
書簡の本文部分を美しいイメージショットで見せ、
マチルドを積極的に歩き回らせて手紙を書いた人たちと出会わせ、
ドラマにしています。
出会った人たちの記憶順にエピソードが語られるわけですから、
時間軸どおりに話が進行するわけではなく、一般的な倒置法などとも違う作劇術です。

また一方で、何者かが事件の関係者の殺害を始め、
被害者の数はどんどん増えていきます。
真相を探る上で貴重なキーパーソンを握る人物が、ある日突然、惨殺されてしまう。
マチルドの捜査は一人死ぬたびにさらなる迂回路を探す羽目になります。
誰が?何故?
殺人鬼の殺意はマチルド当人へも向けられるのでしょうか?
時間軸を行ったりきたりする過去話
(いえ、五人の死刑衆たちの関係者はフランス全土に散らばっており、
マチルドは各地の事情に巻き込まれるという地理的な広がりもあるのです)
だけでなく、現在進行形の謎の殺人鬼と
マチルドの捜査合戦も展開します。

この作品は何点くらいのストーリーボードが描かれたのでしょうか?
ジュネ監督は相変わらず空間の切り方が上手いですね。
走る列車の空撮とか、マチルドとマネクの灯台の見せ方とか、
戦場でマネクがアルバトロスという名のドイツ軍の戦闘機を手りゅう弾で
落っことす場面があるんですが、
地上の塹壕のそこから空中の飛行機に手りゅう弾が命中して爆発するくだりを
同じショットで見せている。凄いですよ、あれ。

美術の感覚もいつもながら不思議で、
飛行船の倉庫の中に野戦病院があって、そこが空襲されて浮かび上がった飛行船が
天井に突き刺さった不発弾に触れて爆発する。
非現実でファンタジックな悪夢っぽいアクション場面がある。
混乱期のパリ市街でオドレイ・トトゥの目の前に、突如、
ジョディ・フォスターが現れる。
エロディという証人の一人なのですが、
まったく出演していることが宣伝されておらず、
私も最初、良く似た人がいるな、と思ってました。
ノン・クレジットとも言われてますが、
エンディングのキャストにはちゃんとジョディ・フォスターの名が出てきますので、
俗に言うカメオではないですね。
オドレイ・トトゥはジョディ・フォスターと共演できて感激のようです。
彼女のフランス語は私より上手いとも言ってました。

マネク役のガスパール・ウリエルというのはイイ男ですね。
『ジェヴォーダンの獣(2001)』『かげろう(2003)』に出ているまだキャリアも浅い
新人ですが、本当に魅力があります。
どんどん主演の話があるようですが、
よほどへまをしない限り確実に売れっ子になるでしょうね。
「アメリ」で一番の収穫がオドレイ・トトゥを見つけたことなら、
「ロング・エンゲージメント』の収穫は
ガスパール・ウリエルをメジャーにしたということですね。


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