「LOVERS」映画製作裏話

「LOVERS」映画チラシ★映画基礎データー★
「LOVERS」
2004年 中国映画
監督 チャン・イーモウ
脚本 チャン・イーモウ ワン・ビン
出演 アンディ・ラウ チャン・ツィイー
    金城武          

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アテネ五輪の閉会式で、大会旗を受け取った北京側の
「ウェルカム北京」の演出を受け持ったのが、
「LOVERS」のチャン・イーモウだと聞いています。
前作「HERO」からこっち、色華やかな演出家ということになっているらしいです。

唐の大中13年、
凡庸な皇帝と政治の腐敗から各地に叛乱勢力が台頭。
その最大勢力「飛刀門」討伐の命を受けた県の捕吏・劉(アンディ・ラウ)
は、
前頭目の娘と目される盲目の踊り子・小妹(チャン・ツィイー)を捕える。
口を割らない小妹に対し、
劉は同僚の捕吏で武芸の達人である金(金城武)とともに、ある計略を謀る。
それは身分を偽った金が小妹を救い出し、
その信頼を得て飛刀門の拠点に潜入するというものだった。
目論見通り、小妹は金との逃避行を開始。
劉も金と密通しながら2人の後を追う。
だが3人の行く手には、
それぞれの思惑と愛憎が絡む宿命の物語が待ち構えていた…。

「唐の大中13年」というのは
9世紀、西暦859 年のことで、
中国は唐の時代、玄宗皇帝の治世ですが、
皇帝の悪政に反乱する不満分子たちが地下組織を作っていた時代とされています。
その組織の名が、この映画の
英語タイトルになっている「House of Flying Daggers 」です。
漢字に逆翻訳すると「飛劍之家」又は「飛刀門」となります。
因みに、原題の「十面埋伏(Shimian mai fuと音読する)」とは
英語サイトでは「 Ambushed From Ten Directions 」と説明されていて、
「十方向から待伏せされる」というほどの意味であります。
  美男美女三人の騙し騙されの逃避行のドラマですので邦題は
『LOVERS』“愛”“愛する者達”。分かりやすいタイトルですねぇ、
笑。

主要人物が三人きりで、「HERO」と比べてもずっと小ぶりの話ですが、
「「HERO」をさらにスケールを増して」という風に宣伝されていますので、
この作品を見た大抵の人は、一杯食わされたような気になってしまいます。
なまじ大作作りにせずに、こじんまりと製作されたほうが
深みのある作品になったかもしれませんが、
チャン・イーモウ監督は、湯水のごとく労力と人力をつぎ込み大作に仕立てて
います。

盲人を演じるに当たって、チャン・ツィイーは撮影開始前に二ヶ月間、
実際に盲目の少女と共に暮らして役作りしたそうです。
その人は12 歳の時、脳腫瘍の為に視力を奪われたそうで、
目が見えないという感覚を初めて分かったと
チャン・ツィイーはインタビューで答えています。
彼女が演ずる小妹という舞姫が牡丹坊という娼館で踊ってみせ、
踊りつつ劉と切り結ぶくだりが冒頭の見せ場になっています。
チャン・ツィイーはもともとプロの舞踏家として訓練を受けてきた人ですの
で、
3ヶ月程度の特訓でカメラの前に立ったようですが、
ついうっかり微笑んでしまってNGを食らったそうです。
本人には自覚が無かったそうですが、
カメラ目線でにっこりされてはNGでしょう。
踊りはもともと目線の所作でキメをつくるそうで、
長年の訓練が逆にあだとなって、自覚の無いままに微笑んでいたようです。
盲目の踊り子、という設定で
どうやって打目だしをするかで難儀したとか。

一方、金城武は乗馬にてこずらされたそうです。
アクション映画にいくらでも出ているような気がしますが、
馬に乗る場面がある映画は初めてだったそうです。
チャン・イーモウに配役の指名をうけて感激したそうで、
なんとしても役をものにしたかったのでしょう。努力のほどは画面で確認でき
ます。

クランクイン後の製作日程はおおむね以下の通りです。

2003.9−11  ウクライナ・ロケ 屋外シーン、序盤の荒野の戦闘、
クライマックスからエンディング部分撮影
2003.11−12 北京のスタジオでセット撮影 牡丹坊、牢獄場面等
2003.12  反乱軍の黒幕役のアニタ・ムイ死去。脚本を変更し撮影続行
2003.12−2004.1 四川省で中盤の竹林の戦いをロケ。撮影終了
2004.1−3 編集、主題歌録音等を経て完成。

2004.5月にカンヌ映画祭で披露され、7月に世界公開されています。

初稿脚本では、金は県の知事の息子、
小妹が踊るのは王宮という設定だったそうですが、
改稿されるたびに、三人の身分が下がって、
金は地方の無名役人(警察官?)、小妹は娼婦の館で踊ることに。
完成された映画で、金が金持ちのぼんぼん風だったり、
娼婦の館にしちゃ踊りの伴奏がえらい豪華だったりするのは、
もとの原稿を引きずっているためのようです。
ワリを食ったのは衣装のワダ・エミ氏。
当時の衣類は身分の高い人のことしか現代に伝わっておらず、
庶民の服装に関する資料は残っていないそうです。
金と劉の役人の服装も創作で、分かりやすいように背中に「捕」の刺繍が入れ
てある。爆

クライマックスのウクライナ・ロケで、三人の最後の対決の場面で
いきなり猛吹雪になりますが、これはロケ中に偶然、
季節はずれの秋の猛吹雪に襲われ、
ロケ地が積雪に覆われてしまっていやおう無しに、
あのような状況になってしまったそうです。
脚本上は紅葉美しい原野で戦うはずで、はじめは脚本通りに撮影を進めていた
ものが、
乱戦の真っ最中に白銀の世界に。
これも天の采配と思い直してチャン・イーモウ監督以下ロケ隊は
クライマックス部分の撮影を続行したとのことです。

「HERO」は始皇帝の時代で、中国にとっても黎明期、
武人が個人の幸せより天下の大儀を語ってかっこよかったのに対し、
『LOVERS』は逆に国家があきらかに衰退の道をたどっていった退廃時代
の話で、
金が劇中で述べている通り
「決戦となれば、我ら武人は無名の駒となって散り行く運命」と
あきらめが前に出てしまっていて、
天下の理想を夢見るより個人の愛を求めた方がましという時代です。

テーマが「HERO」と『LOVERS』では、
正反対になってしまっている訳ですが、
武侠ものでありながら、自分が幸せになりたい人たちが、
互いに斬り合いをするストーリー展開になってしまっているため、
華やかなワイヤーアクションも、
この手のアクションシークエンスとしてはこれ以上は望みようも無いほどの
完成の域に達していると言えそうでありながら、
結局何のための剣の腕前かよくわからなくなってしまっています。

ラブストーリーを前面に押し出し、
濡れ場と活劇が交互に出てくる演出プランも
単調で途中でだれて不自然に感じられます。
「HERO」より地味な衣装やロケ地の選定にもかかわらず、
人工的な印象の強い作品になっています。
“如何なる映画もショーである”と解釈すれば、
これはこれで楽しく美しいショーであることには違いなのですが。



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