「マッハ!」DVD脚本レビュー
★映画基礎データー★「マッハ!」 2003年 タイ映画 監督 プラッチャヤー・ピンゲーオ 脚本 スパチャイ・シティアンポーンパン 出演 トニー・ジャー |
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映画『 マッハ! (2003) ONG-BAK / ONG BAK: MUAY THAI WARRIOR』の
主役トニー・ジャーはスタントマンから俳優に転換した人です。
この作品の予告でも、
「CGは使いません!ワイヤーは使いません!」
と謳っている通りリアル・ヒット(真似でなくて本物の殴り合い)がウリの
格闘技アクション映画です。
共演のドン・ファーガソンは『ツインズ・エフェクト (2003) 』、
デヴィッド・イズマローンとエリック・マーカス・シュッツは
『ベリー・オブ・ザ・ビースト (原題) (2003) 』にも出演していますが、
ほとんどだれも知りませんよね?
『 マッハ!』の国際英語タイトル
『 ONG-BAK MUAY THAI WARRIOR (オン・バック ムエタイ戦士) 』の
「オン・バック」とは、タイの仏教徒の村の信仰の象徴である仏像のこと。
その首が盗まれ、不幸に度々見舞われるようになった村人達を、
一人のムエタイ戦士が取り戻そうと奔走する。
だから「オン・バック ムエタイ戦士」という意味の題がついているのです。
「ムエタイ」とはタイの国技に相当する神聖なスポーツ、格闘技です。
タイの貧村 Nong Pradu から、大切な仏像オン・バックの頭部が盗まれた。
以前村にいたことのあるドン(Petchtai Wongkamlao )という男が犯人で、
仏頭をバンコクに持っていったという事はすぐに判明した。
ムエタイの武術を密かに身につけていた村の青年ティン(トニー・ジャー)は、
それを取り返すためにバンコクに旅立つ。
ティンは村出身のジョージ(ペットターイ・ウォンカムラオ)を頼って
バンコクに上京するが、ジョージはムエ(プマワーリー・ヨートガモン)とい
う不良娘と
いんちきカード賭博で金を稼ぐ小悪党に成り下がっていた。
ティンはジョージの尻を叩いてドンのもとに案内させる。
ドンは泥棒であり、ギャンブラーであり、麻薬取引とも関係しており、
バンコクの犯罪王コム・タン(スチャオ・ポンウィライ)の手下でもある。
ドンはティンを無視するが、ティンが
ムエタイの地下クラブでティンが大暴れをしたことで、
ティンはバンコクの犯罪王コム・タンにも目を付けられる。
この男は車椅子に座り、電気発声器を使っている。
彼は古代の値打ちある宝物収集の好みがあって、
タイのマフィアのような地下組織の親玉だ。
コム・タンは盗みものの貴重な宝物を網に入れて、
チャオプラヤ川(メナム川)に沈めて隠している。
コム・タンは洞窟内では巨大な仏像の頭部を部下達に彫らせていて、
実はドンから取上げた仏頭も彼の手元にコレクションされていた。
というわけで村から持ち去られた仏頭を取り返すべく奮闘するティンと、
ドンと黒幕のコム・タン、
そしてコム・タンがティンを倒すべく繰り出す格闘技のプロたちとの
怒涛の戦いが繰り広げられます。
話の中心になるのが主人公ティンの駆使するムエタイという格闘技です。
タイの伝統的な格闘技であり、国技である。とされていますが、
タイ式ボクシングのことです。
ムエタイの試合の形式は、四角いリング上でグローブを装着し、
殴ったり蹴ったりする競技であるから、
「キックボクシング」や「K1」に似ているが、
ムエタイにはそれらでは禁止されている攻撃
ひじで脳天をぶっ叩く、後頭部を足で蹴る、掴んで投げる等など…
が多く見られます。
もともと、キックボクシングは、
日本のプロモーターが、ムエタイを日本に紹介した際にルールを
若干変更して興行したのが始まりです。
さらに、ムエタイで重要とされる儀式や作法を取り除いて、
日本のオリジナルとしてアレンジしたものが現代のキックボクシングになりました。
そのキックボクシング創設時に、国民的ヒーローとして名を馳せたのが沢村忠、
「キックの鬼」です。
沢村忠の苦労話は「キックの鬼」という連続テレビアニメーションになっているので
ご存知の人もいるかもしれません。
ムエタイの歴史は定かではありませんが、一説では、
スコータイ時代(1238年〜1318年)にタイ国がまだ、シャムという国名であった頃、
すなわち隣国ビルマ(現ミャンマー)との戦争を繰り返していた頃、
軍人の格闘術や護身術のために開発されていたものが、起源であるとも言われています。
当時は、近代的なグローブがないため、
拳にはグローブの代わりに紐を巻いて闘う“ムエカチュアク”という形式が
とられていました。
映画の中で主人公ティンが紐を巻いて用心棒のサミンと闘うシーンがありますが、
まさにそれが“ムエカチュアク”です。
現代でも“ムエカチュアク”は、ミャンマーでは行われ、
タイ国の国境周辺でも、ときおり興行されているそうです。
ラタナコンシン時代に入り、ラマ三世の御世にムエタイの重要な文献が書かれた。
タムラーモエ(古式ムエタイ)と呼ばれ、ムエタイの動作を絵で表現した、
現代に残る最も古い教科書です。
全部で46の形があり、“メーマイ(よく使用する技)”、
“ルークマイ(隠し技)”と区分されて呼ばれ
“メーマイ”は23の絵の中に12の形があり、
“ルークマイ”は21の絵の中に12の形が著されています。
近代のように、グローブが装着されて行われるようになったのは、
1929年であり、ここ70数年の間に素手の技術から
グローブの技術への変化があったといえます。
これによって、素手であったときの「つかむ」「投げる」「急所を突く」等といった、
映画の中で繰り広げられる奥技は、
本当にムエタイの伝承の中に存在しているものではあるが、
現在のムエタイのルールではほとんど見ることができなくなってしまっています。
このようなムエタイは、タイ国の独特な宗教と社会構造を背景に発達したものです。
「マッハ」では金銭や名誉、社会正義や個人的な野望とも無縁な、仏頭を取り
戻すという
純然たる宗教的動機により若い主人公は命がけで戦っています。
このようなドラマがどうして現代に成立するのでしょうか?
タイ国の宗教は、南方上座部仏教と呼ばれ、国民の95%が信仰しています。
仏教への信仰心は厚く仏法僧への尊敬は非常に深いものがあります。
タイ国での寺院は、タイの学校教育の役割を果たしており、
僧侶は教師の役割を担ってきました。
そのため、僧侶は指導者、カリスマ的な存在であり、
現代でも国民の尊敬を集めるような高僧が多く存在します。
そしてムエタイは、戦時に開発された後、
平和の時代に寺院で伝承されてきました。
ムエタイは僧侶によって寺院で少年教育の手段として使用されてきたほか、
村祭りや仏教行事で試合が行われるなど、
さまざまな形で仏教と絡み合いながら伝承されています。
村社会で宗教とともに生き延びたムエタイ。
しかし、それはムエタイの「陽」の部分です。「陰」の部分を支えるのが
タイ独特の社会構造です。
タイは貧富の差が激しい国で、映画の中に登場する、
ムエタイ賭博に大金を賭けて楽しむ大金持ちの商人もいれば、
日銭暮らしの貧乏ムエタイ選手も多く実在しています。
発展途上国であるタイは、都市と地方の地域格差がたいへん大きく、
こういった背景から、貧しい農家に育った少年が、
ムエタイ選手となってバンコクで立身出世するストーリーは数えきれないそうです。
ムエタイの世界で名を馳せた選手の中には、
一試合でタイのサラリーマンの年収ほど稼ぐ選手が珍しくないともいわれます。
このような社会背景を持つムエタイは、広くタイ社会に浸透し、多くのヒー
ローを生み、今日もタイのどこかで過激なムエタイが繰り広げられているのです。
予告編を見ると、タイの貧しい映画人がなけなしの金をかき集めて、
体力と根性勝負で作った自主制作的映画のような印象を受けてしまいますが、
劇中ではバンコク名物トゥクトゥク(三輪タクシー)のカーチェイスで、二十
台近いタクシーを全部クラッシュさせたり、海中の仏像倉庫とか、ラストの大
発掘現場の乱闘とか、
かなりの物量をつぎ込んでいてアクション映画としては大作の部類ではないで
しょうか。
俳優たちが“垢抜けない”と聞いていたので、
よほどレベルが低いかと思ったが、悪役達は白人の車椅子男から中国系、
格闘技家のなかにイシイだかシライシだかいう名前の黒の詰襟を着た日系人までおり、
賑々しいし、トニー・ジャーやヒロインのプマワーリー・ヨートガモンは
根っからのタイ人なので確かに濃い目だが、
韓国系ともきっぱりと違うアジアの若手二枚目俳優だと思います。