「マスター・アンド・コマンダー」DVD脚本レビュー
★映画基礎データー★「マスター・アンド・コマンダー」 2003年 アメリカ映画 監督脚本 ピーター・ウィアー 出演 ラッセル・クロウ |
1805年──
ラッキー・ジャックの異名を持つ名艦長ジャック・オーブリー(ラッセル・クロウ)
のフリゲート艦サプライズ号は、
ナポレオン率いるフランス軍の私掠船アケロン号を
拿捕するという、危険極まりない命令を受け、南米大陸沖を南下中だった。
霧の中から突然のアケロン号が大砲を撃ち掛けサプライズ号は手ひどい打撃を受け、
弱冠12歳の士官候補生ブレイクニー(マックス・パーキス)は、片腕を失う。
最初の遭遇で手ひどい打撃を受けたサプライズ号の士官達は、
イギリスへの帰還を進言するが、
艦長ジャックは、洋上で艦を修理しながらの追撃を命ずるのだった。
攻撃力で圧倒的な優位に立つアケロン号と、荒れ狂う大海原を相手に、
サプライズ号の戦いは始まったばかりだった。
「マスター・アンド・コマンダー」の予告編を見ますと、
ラッセル・クロウの艦長が少年たちばかりのイギリス軍艦を指揮して
フランスの軍艦相手に大戦争!
―している映画に見えまずが、
実際には大人の乗組員が大半で少年兵たちはパラパラいる程度。
看板に偽りありですが、
じゃあつまんない映画かというと、アカデミー賞十部門ノミネートだけあって、
それなりに面白い作品でした。(受賞は撮影と音響効果の二つだけですが)
1970年に執筆が開始された「オーブリー&マチュリン」シリーズ全20巻
のうち、第10巻の「ザ・ファー・サイド・オブ・ザ・ワールド」の映画化です。
これは副題にクレジットされてます。
日本では『英国海軍の雄 ジャック・オーブリー』シリーズとして、
ハヤカワ文庫から第3巻まで既刊
(『新鋭艦長、戦乱の海へ』『勅任艦長への航海』『特命航海、嵐のインド洋』)
されており、今後も続刊予定。
本作品の原作となった「ザ・ファー・サイド・オブ・ザ・ワールド」は、
『南太平洋、波瀾の追撃戦』のタイトルで1月に刊行されてます。
映画の掲示板に「話の途中から始まって、途中で終わっている」と
書き込みをする人がいましたが、
これはそのとおりで、シリーズものの途中を抜き出して映画化してます。
ただし、原作ではイギリス対アメリカの戦いを時代を十年ほど移して、
イギリス対フランスに変えてます。
「パイレーツ・オブ・カリヴィアン」の軽快なのりと対照的に
重厚な艦船生活を『いまを生きる』『トゥルーマン・ショー』の
ピーター・ウィアー監督はかなり緻密に描いています。
フリゲート艦というのは3本マストで400〜800トン、
大砲20〜28門程度の軍艦をいい、現代の海軍で言う駆逐艦から巡洋艦に相当する
長距離航海に耐えうる主力戦闘艦を指します。
敵のアケロン号は私掠船(しりゃくせん)と設定されていますが、
これは敵軍国籍の商船などの海賊略奪を目的とした武装民間船のことで、
帆船時代には、国家公認の海賊がおったのですね。
ドラマ後半、ガラパゴス諸島を基地とするイギリスの捕鯨船団を付け狙うアケロン号を
サプライズ号がだまし討ちにかけるというのがクライマックスです。
女っけのない代わりに、活躍するのが少年たちです。
乗務員が全員子供ばかりに見える予告編はいけませんが、
当時のイギリス艦船には実際に12歳の士官候補生ブレイクニーや彼の親友であ
るカラミー(マックス・ベニッツ)の2人のように主に名家の出身である若者
が士官候補生として乗船していて、艦長の監督の下、私立学校のように書物を
使って勉学に励んだようです。
対照的なのが、“パウダー(火薬)・モンキー”と呼ばれる少年たちです。
セリフのある子は劇中に登場していませんが、小間使いとして砲員に火薬を渡
すために甲板をせわしなく動き回る姿が画面上確認されます。
彼らの多くは孤児であり、中にはわずか8歳の子供もいたと記録されています。
当時の孤児たちを取り巻く環境は劣悪で、例え苛酷な戦闘に巻き込まれようと
も、戦艦は地上生活よりはるかに良い人生を送れる機会を彼らに与えるものだ
ったと言われます。
「ビューティフル・マインド」で、
クロウ演じるジョン・ナッシュ・Jrの架空のルームメイトを好演したポール・
ベタニーが、
オーブリーの戦友で船医のスティーヴン・マチュリンにキャスティングされて
います。
この人物だけが、サプライズ号の艦内で現代的な思考を持ち合わせた男で、
他にも航海士や船匠(船大工)など各セクションの士官、船員たちが
ぞろぞろ登場するのですが、少年たちよりさっぱり印象に残りません。
映画は大洋を航行中のサプライズ号の甲板からはじまり、ラストもまた甲板から
空に舞い上がるカメラで終わっており、
にぎわう港に寄港する場面などはありません。
途中、ガラパゴス諸島へ上陸しますが、
ガラパゴスで劇場公開映画が撮影されたのは本策が史上初だそうです。
全編のほとんどが限られた艦内のドラマになり、
敵船側の人物描写もラストの決戦以外なく、
他に敵も味方も出てきませんので、
海洋映画でありながら「Uボート」のような厳しい閉塞感に支配される
映画に仕上がっています。
それでいてホーン岬まわりの大嵐や、渇水など
風任せ自然頼りの過酷な航海の上に
敵味方の駆け引きなどがあり、
よほどタフでないと軍艦乗りは勤まらんな、と思います。
だまし討ちは当たり前で、男侠の有無は味方同士の間の話のようです。
ストレートな葛藤ですので、あんまり奥深いものはありませんし、
くどくど悩んでいては船ごと難破してしまいそうです。
“見れば分かる”映画で、逆に言うとあまり文章で論ずるところのない映画で
はあります。
ユニバーサル映画と20世紀フォックスの合同制作で、映画の冒頭
両者の社名ロゴが連続して現れるところが如何にも大作映画っぽくて盛り上げ
ています。
トップページ(映画の日特選、小説と脚本の比較レビュー)に戻る。