「マッチポイント」

「マッチポイント」映画チラシ★映画基礎データー★
「マッチポイント」
2005年 イギリス映画
監督脚本 ウディ・アレン
出演 ジョナサン・リス・メイヤーズ
★鑑賞状況と客層・客の入り★
都内/日曜、お昼の回
ミニシアター系で1時間待ちでちょうど良い席に座れました。社会人男女の客層で、一般映画より平均年齢は高めですね。

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冒頭にテニスコートが現れ、
ネットに跳ね返って真上に飛び上がるテニスボールの
スローモーション。そこに主人公クリス
(ジョナサン・リス・メイヤーズ『ベルベット・ゴールドマイン』『M:i:3』)の
モノローグが被る。

男は人生の深遠を覗き"運に恵まれた"とつぶやく。
ただ、運に左右される人生は不安だ自分の力が及ばないからだ。
テニスの試合でボールがネット上に当たるその瞬間
ボールがどっちに落ちるか
──運良く向こうに落ちたら、勝ちこっちに落ちたら、負けだ。

ロンドン。
アイルランド人のクリスは英国の上流階級に憧れる野心家。
プロテニス・プレイヤーの道を諦め特別会員制テニスクラブでコーチの職に就くと、
すぐさま大金持ちのトムと親しくなる。
オペラの席でクリスに一目惚れしてしまったトムの妹・クロエは、
郊外の別荘で開かれる親族のパーティに彼を招待する。
クリスはそこでコロラド出身のアメリカ人、ノラ
(スカーレット・ヨハンソン『ロスト・イン・トランスレーション』『真珠の耳飾りの少女』)と出会う。
「なぜ、アメリカ美人が英国の上流社会に?」
「あなたって攻撃的なゲームをするのね」
「君は官能的な唇をしているね」
その挑発的な態度と魅惑的な容姿に惹かれてしまうクリス。
しかし、彼女はトムの婚約者だった。
クリスとクロエはロンドンに戻ると、サーチ・ギャラリーでのデートを楽しむ。
二人は結ばれ、付き合い始める。
テニスコーチの仕事に満足せず、「人生を賭ける仕事がしたい」と言う彼の思いを、
クロエは企業家の父・アレックに伝える。
彼を気に入っているアレックは、
母・エレノアの心配をよそに自分の会社の管理職を与える。
絶好のチャンスを手に入れ、万事が順調に進むクリス。
しかし、どんな時もノラのことが頭を離れない。
ある日クリスは偶然街でノラと出会い、彼女のオーディションに付き合う。
緊張して上手く演じられなかったと落ち込む彼女を飲みに誘うクリス。
酔っ払ったノラは、
英国上流社会の中で自分と同じ外国人というクリスに親近感を感じたのか、
少しずつ自分自身のことを話し始める。
女優としてなかなか道が開けないことや悲惨だった家庭環境のこと、
トムの母に認めてもらえないこと──。
そして、酔った勢いでいたずらにクリスを誘うのだった。
「私って、男が夢中になる特別な女なの。決して後悔させないわ」

ヒューイット家の別荘に再び招待されたクリス。
アレックは、彼を次期役員に考えていると告げる。
一方エレノアから女優を諦めるよう厳しい助言を受けたノラは、
怒りと哀しみを抑えられず、大雨の中に飛び出してしまう。
クリスはその様子に気付き、後を追い掛ける。
「一人にして」とクリスを追払うノラだったが
降り続く雨の中、二人は全てを忘れ体を求め合ってしまうのだった。

ロンドンに戻ると、
「酒の勢いだった」とノラはクリスに冷たく接する。
しかしクリスは、たった1回の関係でもあの激しく情熱的な情事を忘れることが出来ない。
そして偶然出会ったテニス時代の友人ヘンリーに漏らす。
「人生はまるでテニス上のボールだよ」と。

クロエの両親から義理の息子になることを薦められるクリスだが、
心はノラに奪われていた。
しかし、所詮はお互いに義理の姉弟になる関係と考え、クリスは結婚を決意する。
アレックが用意したテムズ川沿いの超高級マンションで
クリスとクロエは新婚生活を始める。
しかしトムから、ノラとはすでに破局し別の女性と結婚することを聞かされる。
急いでノラに連絡をするも電話は不通。
部屋も引き払った後で、行方は分からなくなっていた。

二度とノラには会えないのか。
落ち込むクリスは職場でも家でも苛立ちを隠せない。
そんなある日、クロエとの待ち合わせをしたテートモダンで、
偶然にもノラとの再会を果たす。
一度はアメリカへ帰りロンドンに戻ってきたばかりだと言う。
嫌がる彼女から無理やり電話番号を聞き出すクリス。
そして二人の密会が始まった。
官能的なノラとの情事におぼれていくクリス。
妊娠に躍起になる妻と、魅惑的な愛人との二重生活。
そんな中、順調だったはずのクリスの歯車は少しずつ狂い始める。

日陰の身が我慢できないノラは、クリスに不満を激しくぶつけ出す。
しかしクリスはせっかく手に入れた上流階級の生活や仕事を捨てることも、
クロエへの"愛"とは違うノラへの"愛欲"も諦めることができないでいた。
攻め寄るノラの気持ちをごまかしながら
生活や仕事の合間をぬって会い続けるクリスに、
突然、ノラは自分が妊娠したと告げる。
堕ろすか、産むか。
激しく言い争う二人。
ノラは子供を産んで二人で育てると言って譲らない。
妻との離婚話を毎日先送りにし結論を出さないクリスに、怒り狂うノラ。
ついには会社まで押し掛けて来る。
「クロエに暴露してやる!」。
一方、クリスはクロエからも浮気を疑われ始めていた。
ノラか、クロエか。
追い詰められたクリスは、ついに究極の選択を迫られる。

全てが上手くいっていたはずなのに…嘘で粉飾されたクリスの人生は破綻をきたす。
逃げ道を失ったクリスは、ある計画を思いつく。
大型の取引に成功した日、クリスは「仕事終わりに会いに行く」とノラに電話をする。
素直に喜ぶノラ。
テニスバッグを抱えアパートへ向かうクリス。
バッグには別荘から無断で持ち出した猟銃を潜めていた。
隣りに住むイーストビー夫人を騙して部屋に入り込み、躊躇いもなく銃を放つ。
強盗に見せかけるべく金品を手当たり次第にポケットに詰め込む。
息を潜めノラの帰宅を待つクリス。
何も知らずに帰宅したノラにクリスは引き金を引いた──。

罪悪感に涙し震える自分を押さえながら、
クリスはクロエとの待ち合わせ場所へと急ぐ。
翌朝、新聞でノラの死を知って驚くクロエに同調するクリス。
記事は、盗み目当てで老夫人を殺した犯人に偶然遭遇したノラが殺された、
と報じていた。

クロエの妊娠が発覚、クリスとクロエの安定した生活が始まろうとする矢先、
クリスに警察から電話が入る。
ノラ殺害に関する事情聴取の依頼だ。
クリスは証拠の隠滅の為、イーストビー夫人から奪った金品を川へ投げ捨てる。
しかし最後に放り投げた指輪は、柵の上に当たって弾み、
川には落ちず手前に転がり落ちてしまう。 

2005年第58回カンヌ国際映画祭で、
コンペティションの作品を押さえマスコミの話題をさらった作品です。
生まれ育ったニューヨークを舞台にした作品づくりにこだわり続けてきたアレンが、
36作目にして初めて舞台をロンドンに移し撮影した意欲作でもあります。
2006年第63回ゴールデン・グローブ賞4部門ノミネート、
2006年第78回アカデミー賞脚本賞ノミネート。

今回も類にもれず小説や戯曲、詩、絵画などの引用がさりげなくちりばめられ、
皮肉と警句を見事にふんだんに振りまいています。
ここいら辺は監督の教養の高さにこちらの知的好奇心を満足させられ、
いつもながら堪能させられます。

この作品は「リプリー」に似ている以前に、
モンゴメリー・クリフト、エリザベス・テイラー主演、
ジョージ・スティーヴンズ監督作の往年の名作『陽のあたる場所』
と同じ世界を描こうとしているのではないかと思います。
(トム・リプリーはディッキーを心から愛し、彼自身になりたかったのであって、
踏み台にしたかったのではなかったのだろうと思う。
「太陽がいっぱい」とはその点、決定的に異なる。)

イギリス上流階級、というものがどの程度、現代社会で魅力的な位置づけを
持っているのかは、日本にいる我々にはいまひとつわかりにくいのですが、
アイルランド出身の主人公クリスは、
世間知らずのお嬢様、クロエに気に入られたのを良いことに、
逆玉でまじめに立身出世を目指しちゃいます。
クリス役のジョナサン・リス・メイヤーズの略歴を調べてびっくり。
“幼い頃に両親に捨てられたため孤児院で育つ。
院を出た16歳の時にプールバーでたむろしているところを
タレント・エージェントに見出される。
しかし「草原とボタン」のオーディションには落ち、
「マン・オブ・ノー・インポータンス」のほんの小さな役が映画デビューとなった。
だが「マイケル・コリンズ」で主人公を暗殺する少年役を獲得、
一気に注目され、アメリカにも進出。
「ベルベット・ゴールドマイン」では歌声も披露し実力をアピールした。“
この通りなら、まさにクリスを地で行く人生を歩いてきたことになります。
計画的に事を運んでいるようでいて、ひどく捨てばちに見えたり、
計算高いようでいて、馬鹿丸出しなところがあったりと、
クリスと言う男はとらまえどころの無い人物で、
そのとらまえどころの無さが彼の魅力と言うことでしたら、
ジョナサン・リス・メイヤーズはこの上ない適役であったといえるでしょう。
スコットランド・ヤードの刑事達も決して無能ではありませんが、
このクリスのよく言えば変幻自在、悪く言えば場当たり的な犯行と証言、
証拠隠しに翻弄されてしまい、
きわどいところをすり抜けていく様子が、
ヒッチコック等に代表される往年のクラッシックサスペンスを髣髴させつつも、
軽く身をかわす軽やかさで私達観客を楽しませています。
オープニングで登場する、ネットの真上で跳ねるボールをラストであんなふうに使うとは、
恐れ入りました。
あれは単にミステリーのオチと言うより、皮肉なウディ・アレンの人生観さえ垣間見させ、
唸りました。

今回ウディ・アレンは、旧知のスタッフの協力を得ると同時に、
そのスタッフのほとんどを優秀な英国在住スタッフで固めています。
衣装には『プルーフ・オブ・マイ・ライフ』のジル・テイラー、
撮影は『エリザベス』『アバウト・ア・ボーイ』のレミ・アデファラシン、
美術は『アバウト・ア・ボーイ』のジム・クレイ。
ロンドンスタッフの活躍により、深みある映像を作り出すことに成功しています。

クロエ・ヒューイット・ウィルトンには当初はケイト・ウィンスレット
(『エターナル・サンシャイン(2004) 』『タイタニック (1997)』)が配役されていたが、
家族と過ごす時間を増やしたいという理由で降板しています。
ノラに食われる役なのであんまり魅力を感じなかったんでしょうね。
 『 マッチポイント』は、ウディ・アレン作品で上映時間が最長(124分)の映画でもあります。

他の脇役の配役も紹介しておきます。
ノラのフィアンセで大富豪の息子トム・ヒューイットを演じるのは
『チェイシングリバティ』に次いで2作目となるマシュー・グード。
クリスの妻にしてトムの妹、クロエ・ヒューイット・ウィルトンには
『Dear フランキー』のエミリー・モーティマー。
そして、トムとクロエの父親、大富豪のアレックス・ヒューイットには
『25時』『アダプテーション』の名優ブライアン・コックスです。

ウディ・アレン映画と言えば
スクリーンいっぱいに響き渡るジャズやスタンダード・ナンバーの調べ。
しかし本作を魅力的に飾り付けたのは、オペラの名曲たちでした。
伝説のテノール歌手、エンリコ・カルーソーの演奏を中心とした、
ヴェルディやロッシーニなど時代を超えて愛されるオペラのスタンダード・ナンバーを
要所要所で使っています。



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