「めぐりあう時間たち」DVD脚本レビュー
★映画基礎データー★「めぐりあう時間たち」 2003年 アメリカ映画 監督 スティーヴン・ダルドリー 脚本 出演 ニコール・キッドマン ジュリアン・ムーア メリル・ストリープ |
予備知識無しに見た「めぐりあう時間たち」。
はじめの一時間は誰と誰の何の話かわかんなくて眠気との戦い。
途中から、ははあ、なるほど、と仕組みがわかって。これは傑作か?
でも最後まで見ると、案外、テーマは普通だな、とちょっと拍子抜け。
ニコール・キッドマン、ジュリアン・ムーア、メリル・ストリープ
3大ハリウッド女優の共演文芸映画です。
劇場公開時はヤングからシニアまでの女性客で満員御礼でした。
最近、アクションとかSFXをウリにする映画ばっかしで、
しっとりと女性が楽しめる映画のなかったことへの反動でしょうか。
しかしですねー。ひところはやった「愛とーとーの日々」と言った癒し系ホームドラ
マを
想像してDVDを見ると痛い目を見ます。
映画の掲示板に「ただ泣きたい人が見に行ってもしかたが無い映画です」とありまし
て、
巧い事言うなあと感心しました。
ピュリッツァー賞とペン/フォークナー賞W受賞に輝く
マイケル・カニンガムのベストセラー『めぐりあう時間たち』を、
『リトル・ダンサー』のスティーヴン・ダルドリー監督が完全映画化してます。
まじめな純文学を深刻なタッチで映画化してます。
重度のうつ病患者同然(実際3人のうち一人は精神科医の治療を受けている)の
3ヒロインの人生苦悩の1日×3人分、という話です。
救いはなく、次々に死人続出。アンハッピー三連発でジ・エンド。
覚悟して見に行ってください。
くだらない話ではないです。三女優とも良いです。
特にですね、私はニコール・キッドマンはあんまし好きではなかったのですが、
さすがに本作の女流作家ヴァージニア・ウルフ役(アカデミー主演女優賞を受賞)は
とてもよかったです。
ミステリアスなプロットがウリになっています。
テーマを直接語らず、時代も場所も異なる三つのエピソードを展開するうちに、
隠れていたテーマが見えてくるという仕組みです。
見せ方としては、予備知識を入れて欲しくないような演出になっていますが、
どうですかね? 私自身は、ある程度
どういう仕組みなのか把握した上で見たほうが良いと思うのですよ。
でないと途中で寝ちゃいます。
この先書き進める上で仕組みにも触れるので、以下ねたばれ改行しときます。
ヴァージニア・ウルフの書いた「ダロウェイ夫人」をモティーフにしてます。
事件としては時を超えて企画される三つのパーティを巡るそれぞれの1日のドラマで
す。
一つは1923年ロンドン郊外、
「ダロウェイ夫人」執筆中の作家ヴァージニア・ウルフ(ニコール・キッドマン)が
姉とお茶を楽しむホームパーティの話。
一つは1951年ロサンジェルス、
「ダロウェイ夫人」を読む妊娠した主婦ローラ(ジュリアン・ムーア)が
夫のために考える誕生パーティの話。
そして現代、2001年ニューヨーク、
「ダロウェイ夫人」というあだな名前を持つ編集者クラリッサ(メリル・ストリー
プ)が、
エイズで死に行く友人の作家を祝福するために受賞パーティの企画に智恵をしぼる
話。
この3つが同時並行で描かれます。
よくあるフラッシュバックなどの演出が取られていないので、
時代を行ったり来たりする部分の繋ぎは、注意していないと判らなくなります。
「ダロウェイ夫人」については別に未見でも内容が理解できる様に構成されています
が、知っていれば余計理解の助けとなります。
『めぐりあう時間たち』のテーマについては、
公式サイトにも解説がありますが、その解説はかえって分かり難い…。
3人の女性が共有するのは何なのかでテーマが見える筈です。
それは生の不安。
自分が自分らしく生きることと、社会的役割とのギャップ。
死の影。そして、レズビアニズムと見ました。
再度のネタばれ改行です。
各エピソードとテーマへの関わりの私なりの解釈です。
憶測も含めて全部書きますので、DVD鑑賞済みの方向けの内容です。
分かりやすいのは主婦ローラ(ジュリアン・ムーア)の話です。
夫は平凡な勤め人ですが、それでも世界大戦の従軍経験者で、
戦線でもローラとの生活を夢見て戦い、無事帰還しいまは妻と子の静かな生活に
満足しています。
しかし、ローラの方はすっかり冷めており、「私の人生って一体何?」と考え、
「ダロウェイ夫人」を読みふけっています。
戦後の保守的な時代背景もあり、
夫が妻と子を心底愛していることは疑いの余地も無いことですので、
ローラは内心の鬱屈を口に出す事もはばかられ、自殺願望に苦しんでいます。
幼い一人息子だけが、母親の異変を本能的に感じ取っています。
とっつき難いのが、
女流作家ヴァージニア・ウルフの話。
ニコール・キッドマンはつけ鼻をして演じてます。
シリアスドラまで特殊メイクとは珍しい趣向ですが、役づくり上必要だったのでしょ
う。
ヴァージニアはうつ病の診断を受けており、養生のためロンドン郊外で
夫婦ともども生活していますが、家事一切は保守的な田舎の家政婦任せで彼女は
新作「ダロウェイ夫人」の構想にすっかり埋没してます。
夫は編集者なのですが、妻の為に田舎暮らしも辞さぬ人で、
この時代の男としてはよほど彼女のために献身しており、
芸術家気質のヴァージニアに振り回されています。
発作的に家を飛び出し、駅で興奮して「ロンドンに帰りたい」と叫ぶ妻に
「わかった戻ろう」。
しかし、ヴァージニアの方も夫の思いが伝わらぬでは無いらしく、
「このままではあなたの人生を台無しにする」と入水自殺(!)。
ローラの話とクラリッサの話は、
ヴァージニアが検討中の「ダロウェイ夫人」のプロットと内容的に重なる部分に
挟み込まれるような位置付けとなっていす。
戦後女性と現代女性の苦悩は既に「ダロウェイ夫人」の中で予言されたものだと言う
解釈なのか?
ヴァージニアが姉とディープキスする場面はなんだか唐突。
ヴァージニア・ウルフがレズビアンであったとこは知られていますが、
研究家によれば、それは片親の異なる兄に性的な悪戯を受けた事が原因らしく、
それを信ずるなら同性愛と言うより異性嫌悪ということになります。
直接、精神病の原因や入水自殺の理由とは画面上からは判断されず、
ローラのキスシーン同様、演出の意図が掴み難かったです。
2001年ニューヨークの編集者クラリッサ(メリル・ストリープ)は、
他の2人に比べればよほど自由意志のままに生きています。
女の恋人と共に暮らし、人口授精で娘がいます。
エイズで死に行く友人の作家リチャード(エド・ハリス)を祝福するために
受賞パーティの準備をしています。
リチャードの昔の恋人ルイス(ジェフ・ダニエルズ)が訪ねてきて彼女を驚かせます
が、
「彼の変わり果てた姿に心の準備をしてほしい」と忠告します。
ルイスは三人で昔訪れた場所に行ってきたと語ります。
若く健康で、明日はもっと幸せになれると信じていたあの頃。
ルイスの追憶に、ふいに泣き崩れるクラリッサ。
リチャードは、クラリッサの目の前で投身自殺してしまうのですが、
実は彼はローラの息子であった事が、
年老いたローラ自身がクラリッサを訪ねてきて分かります。
ローラは51年でのエピソードでは自殺を思いとどまっていますが、
第2子を出産後、家出してカナダで生活していた事を打ち明けます。
本人はそれを「後悔していない」と語っていますが、
息子の精神的成長に著しい打撃を与えた事は明白で、
ローラの放蕩のツケをクラリッサが払わされていることになります。
ヴァージニア・ウルフと
ローラ、クラリッサは他人ですが、ローラとクラリッサはリチャードを介して
繋がりがあります。
また既に述べたとおりローラとクラリッサは
ヴァージニア・ウルフの小説「ダロウェイ夫人」の登場人物達の様にも見え、
テーマ的にも合わせ鏡のような存在です。
本作はアメリカで2002年の年末に公開され、
絶賛を浴びてナショナル・ボード・オブ・レヴュウ最優秀作品賞を皮切りに
たくさんの賞を獲得。
今年に入ってゴールデン・グローブ賞ドラマ部門最優秀作品賞と
最優秀主演女優賞をW受賞、
そして第75回アカデミー賞において、主要9部門にノミネートされ、
ニコール・キッドマンが最優秀主演女優賞を獲得しています。
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