「麦の穂をゆらす風」
★映画基礎データー★「麦の穂をゆらす風」 2006年 イギリス/アイルランド/ドイツ/イタリア/スペイン映画 監督 ケン・ローチ 脚本 ポール・ラヴァーティ 出演 キリアン・マーフィ |
mixi(ミクシー)「独身社会人映画ファンコミュニティ」に入ろう!
アイルランド、1920年。
長きにわたるイギリスの支配のもとで、
アイルランドの人々の暮しは苦しいものだった。
富と繁栄は、イギリス人の支配階級や、
イギリスに協力的な一部のアイルランドの富裕層に限られていた。
飢饅、立ち退き、貧困が市井の人々の宿命だった。
彼らはアイルランド独自の言葉(ゲール語)を話すことを禁じられ、
ハーリングなど独自のスポーツを楽しむことさえ禁じられていた。
そんな中、アイルランド独立を求める人々の叫びは大きくなるが、
その動きを封じようとイギリスから冷酷な武装警察隊
"ブラック・アンド・タンズ"が送り込まれた。
アイルランド南部の町、コーク。
医師を志す青年デミアンは、ロンドンの病院での仕事が決まり、
アイルランドを離れようとしている。
故郷を離れる前に、デミアンたち若者は皆でハ一リングを楽しむ。
デミアンはゲームのあと、
両親を早くに亡くした彼にとって家族のような存在のペギー家に別れの挨拶のため訪れた。そこへブラック・アンド・タンズがあらわれる。
デミアンたちがハーリングをやったことを咎め、
厳しく屈辱的な尋問を始めたのだ。
若者たちの中、ペギーの17歳になる孫ミホールは、
”マイケル”という英語名を名乗ろうとしなかった。
そして彼は、アイルランド名を言ったばかりに、
ブラック・アンド・タンズの暴行を受け、殺されてしまう。
ミホールの葬儀の日。
村の女性が「麦の穂をゆらす風」を歌って若者の死を悼んだ。
イギリスへの抵抗、そしてアイルランド独立のために、
若者たちは武器をとって戦うことを話し合う。
かつて神学校に通っていたデミアンの兄テディは、
そんな若者たちのリーダー的な存在だ。
しかしデミアンは、
イギリス軍の強大な武力の前に何ができるのかと疑問を投げかける。
そんなデミアンに、ミホールの姉シネードは落胆を隠そうとしなかった。
デミアンがロンドンへ出発する日。
駅で見た光景が、彼の気持ちを変える。
イギリス兵氏を列車に乗せることを、
駅員、運転士、車掌が拒否。
彼らは兵士に手酷い暴力を受けるが、断固として態度を変えず、
兵士たちに乗車をあきらめさせたのだ。
デミアンは、医師になる道を捨て、
兄テディとともにアイルランド独立をめざす戦いに身を投じる。
これまで暴力にはまったく縁のない生活をおくり、
人の命を助ける医者になりたいと願っていたデミアン。
そんなデミアンが、銃を手に敵の命を奪うようになるまで、
たいして時間はかからなかった。
戦いは悲惨だった。
敵も味方も命を失う。
裏切りもある。
しかし村の人々は彼らの戦いを助け、
シネードもまたその闘争に加わり、彼らの戦いを支えた。
デミアンは、長く独立への戦いをつづけている男ダンに出会う。
彼は、あの日見た、列車の運転士だった。
デミアンはダンから、
この戦いがアイルランドの貧しい人々を救うためのものであるべきだということを学ぶ。
戦いは日に日に激しくなり、シネードとペギーらが暮らす家が焼き討ちにあう。
しかし、独立をめざす激しいゲリラ戦は各地でイギリス軍を苦しめ、
ついにイギリスは停戦を申し入れ、戦いは終結する。
ようやく自由と平和を手にする時が来たと喜ぶデミアンたち。
アイルランドの音楽とダンスで、村の人々が自由を祝ったその夜、
デミアンとシネードは初めて結ばれた。
だがデミアンたちの喜びはつかの間だった。
イギリス軍は撤退し、イギリスとアイルランドは講和条約を結んだが、
その内容はアイルランドを完全な自由にするものではなかったのだ。
ケン・ローチ監督のことは、
不勉強でほとんど知りません。
ワールド・プレミアとなった06年5月18日ノカンヌ映画祭での初上映。
映画が終ると、客席のスタンディング・オベーションは10分以上もつづき、
そして、コンペティション部門で、グランプリに相当するパルムドール賞を
受賞しています。
独立戦争から内戦にいたる1920年代の初期のアイルランド紛争の話です。
本作のタイトルは、
レジスタンス活動に身を投じる青年の悲劇を歌った
アイリッシュ・トラッド(伝統歌)の名曲、
「麦の穂をゆらす風(大麦を揺らす風)」から取られているのだそうです。
「二人の絆を断ち切るつらい言葉は、なかなか口にできなかった/
しかし外国の鎖に縛られることは、もっとつらい屈辱」、
この歌詞に歌われた悲劇、この映画に描かれた悲しみは、今も世界のどこかで繰り返されていることはいうまでもないことです。
この作品と前後して「トリスタンとイゾルデ」を見ています。
そちらは、さらに時代を1000年遡って、
イギリスがアイルランドに支配を受けていた時代の悲恋モノです。
ですから、「麦の穂をゆらす風」がどれほど悲惨な話であろうが、
“だって反対だった時代もあったじゃん”と思えてしまって、
アイルランドにばっかり肩入れする気にはなれなかったです。
ケン・ローチ監督は、
「この映画は英国とアイルランドの間の歴史を語るだけでなく、
占領軍に支配された植民地が独立を求める、
世界中で起きている戦いの物語であり、
独立への戦いと同時に、
その後にどのような社会を築くのかがいかに重要かを語っている」と
インタビューで述べています。
また、カンヌ映画祭では、
「私は、この映画が、英国がその帝国主義的な過去から歩み出す、
小さな一歩になってくれることを願う。」とも言っており、
英語人映画監督でありながら、反英国的な発言を繰り返しています。
オリバー・ストーンみたいな人が、
イギリスにもいるってことでしょうか?
「パルムドールは彼の演技あってこそ」と、
ケン・ローチ監督に言わしめたのが主演のキリアン・マーフィー。
ダニー・ボイル監督『28日後…』の主演、
『バットマン・ビギンズ』での敵役ジョナサン・クレイン、
そして、前作『プルートで朝食を』での女装青年“キトゥン”で、
すでにスター俳優として注目されるマーフィーは、
映画の舞台であるアイルランド南部のコーク出身だそうです。
台詞のアクセントひとつにもこだわり、
キャストはコーク出身者でと考えていたローチ監督は、
マーフィーがコーク出身とは知らず、マーフィーは自らオーディションを志願、
この役をかち取っています。
戦いの痛みに心を傷つけながらも祖国の自由をなにより願う青年を見事に演じ、
惜しくも受賞は逃しましたが、カンヌでは最優秀男優賞を本命視されていました。
撮影は、90年の『リフラフ』以来、ローチ組常連のバリー・エイクロイド。
一見殺風景にも見えるアイルランドのランドスケープと
20年代当時のランプに浮かび上がる室内を、美しく力強くカメラに収めています。
ケン・ローチが最初にアイルランド史に興味を持ったのは
75年のBBCドラマ「Days of Hope」の頃で、
その脚本家ジム・アレンが書いた、
第一次世界大戦に志願したのにフランスで戦う代わりに
アイルランドに送られてしまうひとりの兵士の物語を通じてだったといいます。
そしてアレンが亡くなる前の99年頃に構想していた「Stolen Republic」という、
ジェームズ・コノリーに関する物語を発端として、本作は生まれました。
実際に企画が動き始めてからは脚本のポール・ラヴァティが様々な文献に当たり、
そこから考え出した物語の世界にどっぷりと浸かり、
さらにそこに様々な選択、疑問、可能性を提起しています。
それを彼とケン・ローチで詳細に分析し、
その後皆でのディスカッションに持ち込み推敲を重ねたようです。
本作品では、1920年という時代設定や、
アイルランド史という論議の多いテーマを扱った都合上、
前調査に膨大な時間がかかっています。
また今回もローチは、多くの地元の人々をスクリーンに登場させています。
コーク在住または出身の役者をはじめ、
学校や教会など様々な場所で、何度も彼らと面接を行ったといいます。
これまで幾度も思いがけない状況で役者を見つけ出す経験をして
「会ってみなくちゃわからない」という考えのローチは、
理想的人材を捜すために時間を惜しまず何人とでも会おうとしました。
結局遊撃隊のキャストを決めるだけでもまるまる4カ月もかかったようですが、
その中で交わされたリアルな会話が、物語に反映されることもありました。
出演者も色々なテーマについて、
自分たちの個人的な体験を語るチャンスを得てとても喜んでいたといいます。
1920年代とは変わり果てた現代のアイルランドで、
近代的でペンキ塗りされた感じをいかに映像に入れないようにするかが課題で、
それらを全部塗りなおして、撮影が終わると全部元の色に戻さねばなりませんでした。
またコークには海に近く雨が良く降るせいで、
何もかもがある種の苔に覆われているため、
こうしたコークの地味な風景と当時使われていた色を
いかに再現するが課題となりました。
またアイルランドの気候は、雲が多く湿気が強いため光が弱く、
それが撮影にも大きく影響します。
今回の撮影中も大体雨が降って湿気が強く、
ある程度日照のある時でも強い日差しがあった事は一度もなかったといいます。
こうした条件が逆に上手く作用して、
全編を通して一貫したムードを醸し出すことが出来ました。
照明については、この時代には電灯がなかったので、
できる限り忠実にランプ全てをガス灯のようにする工夫がされています。
自然な柔らかい光は、
セットで使われた色彩や衣装のデザインと上手くブレンドして、
素晴らしい雰囲気になっています。
ドラマのテーマ同様、派手さ、華やかさはありませんが、
よく気配りされた絵づくりがなされています。
見ていて心躍るような話ではありませんが、
近代ヨーロッパ史をよく理解する上で、あるいは現在の欧州人の
精神世界を理解する上で見ておいて損のない作品だと思います。
トップページ(映画メイキング、小説と脚本の比較レビュー)に戻る。