「交渉人 真下正義」DVD脚本レビュー
★映画基礎データー★「交渉人 真下正義」 2005年 日本映画 監督 本広克行 脚本 十川誠志 出演 ユースケ・サンタマリア |
「踊る大捜査線 THE MOVIE2」を企画・製作する過程で、
亀山プロデューサーは、「踊る」シリーズのキャラクター、
一人一人に焦点をあてた “スピンオフ・ムービー”があっても良いと考え、
これに本広監督、脚本の君塚も賛同し、
そこで白羽の矢がたったのが、ユースケ・サンタマリア扮する“真下正義”でした。
2004年7月に劇場公開された「踊る大捜査線 THE MOVIE2」は、
興収173.5億、動員1260万人という、
邦画実写歴代1位に輝くヒットを記録したため、
その姉妹編であるスピン・オフ企画も一気に実現の運びとなり、
「交渉人 真下正義」「容疑者 室井慎次」の2作品が相次いで制作公開されています。
第一弾「交渉人 真下正義」では、
「OD2」で、ロス市警で研修を受けた警視庁第1号の交渉人として
事件解決に挑んだ真下正義が、
所轄ではなく、本店・警視庁を舞台に、
首都・東京を恐怖に陥れる犯罪に
敢然と挑むというストーリーです。
「台場連続殺人事件」から1年後の04年12月24日、
雪乃(水野美紀)とデートの約束をしていた警視庁交渉課準備室課長の真下は、
突然、室井管理官(柳葉敏郎)から呼び出される。
東京の地下鉄の最新鋭実験車両1両が何者かに乗っ取られたのだ。
乗降客200万人の命が、
爆走するたった1両の車両によって危険にさらされる中、
犯人が、交渉の窓口として指名してきたのが真下だった……。
05年5月封切ということが決まっていながら、
舞台を04年のイブに持ってくるというのが不思議であります。
近未来に設定を置くのではなく、近過去。
“近過去”という言葉はありませんが、
“実はあったかもしれない昨日”というのは不思議な発想です。
東京の地下鉄が騒動の舞台ですが、これが実在の東京メトロではなくて、
TTR“東京トランスポーテーション・レールウェイ”
という架空の地下鉄会社に置き換えられています。
首都圏に住んでいる人は知っている通り、
国の首都圏地下鉄事業を行っていた帝都高速度交通営団は、
既に完全民営化され、東京メトロと組織換えしています。
予告編でも見られる重装備の狙撃隊が駅のホームから線路へ
なだれを打って飛び降りていく戦闘場面や、路線内でのガンファイト
客車内で乗客が将棋倒しになるパニックシーン、
ダイヤが乱れて超混雑状況に陥る駅構内の群集シーンなど、
おおよそこれまでの邦画では見たことも無ければ想像も出来なかったような
場面が次々登場します。
実際には大阪、神戸の地下鉄で
終電後の深夜から早朝の時間帯に構内撮影が行われたようです。
地上部分は東京メトロの諸施設が使われているようですが。
つい先日、JR西日本の尼崎で大きな事故が起こったことを考え合わせれば、
よくぞ無事封切られたものだとも言えますが、
架空の鉄道会社の架空の路線内を
SFチックな外見をした未来の実験列車が暴走する、
という仮想現実のような世界を舞台にした活劇だったからこそ、
上映中止&延期の憂き目に会わずに済んだのかもしれません。
実験車両“クモ”が最初に姿を現すのが“東陽町”駅そばです。
渋谷とか、品川とかの全国メジャーの駅でなくて、
東京ローカルの東陽町。
都民以外は名前も知らないような町でしょうが、
ここには陸運支局があって、車の免許の発行手続きのために
多くの都民が一度は通った場所です。
地下鉄マップで見れば、船橋より内側にある東京の東の入り口です。
ここにドラマの起点を置くとはなかなか渋い設定です。
ちなみにクモを見守る犯人の偽装車はこの時、秋葉原の電気街の裏路地に潜んでいる。
真下正義も犯人もどちらもオタクというVSオタク映画なのでアキバなのです。
東陽町は東西線の駅のひとつですが、
劇中では東陽線と呼ばれ架空の路線ということになってます。
更にドラマを追いかけますと、
都内では
東陽線、渋谷線、八重洲線、目黒線、代々木線、桜田門線、九段下線、白金線という
架空の八路線が
TTRの下で運行されていることになっている。
実験車両クモE4-600は
バッテリーを搭載した自走式で、
搭載コンピューターの制御システムで車輪の幅を変えて、
レール幅の違う線路にも乗り入れられるフリーゲージトレイン(軌間可変電車)
というこれまた凝った設定になっています。
撮影は04年の11月、
都内のクリスマス風景のロケーションを経て、
新宿コンサートホールから人物の撮影が開始されています。
つまりクライマックスからですね。
警視庁の大階段などでの細かな撮影を経て
東宝の撮影所内第七ステージに美術スタッフが1カ月かけて建設した
広大な地下鉄総合司令室のセットで、
本格的なドラマ部の撮影に入っています。
総合司令室の主、片岡総合指令長役の國村隼が良いです。
無愛想に構えてユースケ・サンタマリアと喧嘩している。
犯人が最後まで姿を見せない構成なので、
分かりやすい敵役がいないとドラマが面白くない。
この人は車両運行ダイヤが危機に瀕すると本気で怒り出して、
ユースケ・サンタマリアに掴みかからんばかりになります。
「あんたと犯人の知恵比べに俺たち巻き込まれたって言うのか!?」
真下はそのロジックに巻き込まれないように
「ぼくは犯人とは違います」となるたけ平静に言うのですが、
指令の迫力に飲まれ気味です。
演出上もそれでよいのです。
宣伝では盛んに挨拶や雑誌取材などに登場する小泉孝太郎は、
OD2以来、真下の部下になったという設定のようですが、
まるでドラマの進行に貢献していません。
はっきり言って通行人同然で、
“いないとおかしいが、いても出番が無い“だけです。
他にも数名の部下たちが登場し、
脚本では情報収集やデータ解析など細々と役割分担されているようですが、
ほとんど印象に残りません。
國村隼の指令は管理職のはずですが、
映画では現場職です。
実験車両に運行システムがダウンしかけて、
各路線上の運行車両がとうとうATO(自動列車運転装置Automatic
Train Operation)
を切って手動運転で事態を乗り切らざるを得なくなると、
引退した“線引き屋”を呼んで、最敬礼して助けを請うています。
現場に敬意を払うというのは、
「踊る」の従来路線です。
“事件は会議室で起きるんぢゃない”のです。
そこで登場する金田龍之介ふんする熊沢という線引き屋が、
言ってみれば『踊る』本編のいかりや長介の“和久さん”と同じ役回りです。
“線引き屋”というのは
事故発生などの緊急時に臨時のダイヤグラム(列車運行図表)を書き上げる人の俗称
ということになっています。
少なくとも、この映画の世界では、定年退職したベテランが呼び寄せられているので、
線引き屋という職務自体、システム化の中で失われた職種という事になっているようです。
クリスマスでただでさえ余裕のないダイヤから、
クモの襲撃から車両を守る運行の余裕をひねり出すべく
悪戦苦闘します。
が、見た目は司令室の真ん中の応接セットに陣取り、延々とグラフを書いているので、
セリフを注意して聞いていないと何をしているのか分かりません。
熊沢は“ダンパ”の俗称で呼ばれる留置線
(緊急避難と車庫がわりに設けられた線路。
乗客の乗り降りや貨物の積み下ろし以外の目的で使われる。
各鉄道会社によって俗称が違い、TTR ではダンバと呼んでいる。)や
路線図に乗っていない“脇線”と呼ばれる線路を使って、
運行列車を逃がしています。
司令室の密室劇と地下鉄路線内のアクション場面、
地上の捜査の様子がうまく構成されているため、
見てみてさほど混乱や停滞を感じることなく映画を楽しめたのは
監督の力量によるところが大ですね。
この作品ではハリウッドの向こうを張って四班編成で撮影に望んだそうです。
ドラマの中で時間や場所を限定したように見せて、
その実、全国ロケや空撮、ミニチュアやCG特撮、デジタル合成、
大量のエキストラ動員など
ふんだんに資本投下をやるというのは、
新しい邦画制作のスタイルとして今後流行ってほしいものです。
見ていて“惜しかったな”と思ったのが、
地下鉄で事件が起きているのをマスコミが報道するタイミング。
報道管制が敷かれているというのは、早い場面で分かるのですが、
「最後まで管制を敷きっぱなしには出来ない」ということも早い時点から
明らかなことで、いつダムが決壊するか、が中盤の見せ場となるはずですが、
あまりはっきりしないうちにテレビが中継を始めてしまう。
雪乃さんがコンサートホールにいて報道を知らないのですが、
やっぱりここが見せ場のひとつになることは違いない。
個人的には西の操車場でクモが逃げ込んだ通勤電車と接触事故を起こして、
大量の負傷者が続々と救急隊員によって運び出されるあたりが良いのですが。
映画ではこの“脇線”が極秘扱いになっていて、
“政治家の緊急脱出や軍事目的など、様々な用途から作られたもの”
ということなになっていますが、
現実にはそれほど大げさに秘密扱いされておらず、
連絡線、短絡線、留置線の一部、渡り線などと呼ばれ、イベント列車が走る際などの
オリジナル運行に活用されています。
イベント列車というのはたとえば、
鉄道の日のドリームエキスプレス、埼玉高速鉄道の鉄道フェスティバルトレイン、
年末年始のイベント(カウントダウン、新春ライナー浅草号・荻窪号)、
東京湾大華火祭開催に伴う直通臨時列車、
車両撮影会メトロ大集合!(千代田ワープ号、南北スイッチバック号)等がそうです
04年の東京湾大華火祭開催では、
フアンタジー号↓
東急目黒線から南北線を通り市ヶ谷駅で有楽町線へスイッチバック、
それから急行運転(永田町、有楽町、月島、豊洲、新木場に停車)。
ドラゴン号↓
小田急唐木田から千代田線を通り霞ヶ関駅で有楽町線へ脇線で移動、
それから急行運転(有楽町、月島、豊洲、新木場に停車)。
といった風に通常路線以外の運行が行われました。
ネットで調べたところ、確認されている脇線は
赤坂見附駅の溜池山王側の脇線 (銀座線→丸ノ内線への一方通行移動用)
霞ヶ関駅−桜田門駅の脇線 (千代田線と有楽町線の移動用)
市ヶ谷駅構内の脇線 (有楽町線と南北線の移動用)
その他、
日比谷線ー半蔵門線間の移動や、
日比谷線、半蔵門線、南北線が東急線内で繋がっていたりと、
いろいろあります。
地下鉄は地上の鉄道網よりよほど金食い虫です。
映画に出てくるようなクモの巣状の脇線は不経済の極みで、
あれほどの規模のものを作られる道理もありませんが、限られた車両
(と運転手)を有効活用するため脇線が作られたのです。
世界観がかなり作りこまれているのに対して、
真下正義本人の交渉術に見せ場が無いのが弱点です。
ストップ・ウォッチを手にして、
相手を挑発して、話の途中で電話を切ったりして見せますが、
どうも交渉そのものでドラマの流れを引っ張って行くほどの
力強さが感じられない。
これは熱血しない真下正義のキャラクターによるものかもしれませんが、
先行するハリウッド映画で、
ケヴィン・スペイシーやサミュエル・L・ジャクソン、
デンゼル・ワシントンといったあくの強い名優たちが
ゴリゴリと交渉する映画が幾らでもあるので、
どうしても損をしています。
ねたばれ改行です。
そして真下本人が
最後の決断を「カンだ」とあとで言い切ってしまうのもまずいですね。
これは本音を韜晦するセリフかと思っていたのですが、
別の人物に「それが仕事の醍醐味だ」といわせてしまっているので、
言葉通り、“理屈より最後は直感”なんでしょう。
それでは
捜査技術としての交渉術を自己否定してしまっています。
“論理を超えた人間性で勝負”、
というのはドラマチックのはずですが、
それ以前の序盤の部分で十分な議論の積み上げが見られないので、
主人公が突如、キレて感情的に振舞いだしたように見えなくも無いです。
実際に建設中の都営13号線を劇中で地下鉄14号線と呼ばざるを得なかったのも、
ちょびっと惜しいですね。14号より13号の方がより不気味でしいたのにね。
テンポよく見せているので細かい矛盾、突っ込みどころは
笑い飛ばして見ることが出来ます。
よく見ればディスプレイ上に登場する検索エンジン画面もオリジナルですね。
あそこでヤフーやグーグルが出てきたら引いてしまいますけど。
ラストで犯人を正体不明にしてしまったのも、
はじめは「あらら」と思いましたが、
ホールの外で真下を誘うように徐行しながら車が走り、
音楽が高まったところで空撮に切り替わり、ズトン!
という見せ方がうまかったので、全編を都市伝説として見ることが出来ました。
東京という都市は映画として成立しにくい、という意味のことを
ハリウッドかどこかの監督かが昔言ったことがあるように記憶しています。
「OD2」で、お台場にこだわって映画が作られたように、
地下鉄にこだわって東京を見せるというのはなかなか面白いと思いますね。
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