「ペイチェック」DVD脚本レビュー
★映画基礎データー★「ペイチェック」 2003年 アメリカ映画 監督 ジョン・ウー 原作 フィリップ・K・ディック 出演 ベン・アフレック ユマ・サーマン |
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「ペイチェック」についてコミニティの参加者のひとりが
「じゅうぶんにそこそこ楽しめました」という感想を投稿していたのには、
笑わしていただきましたが、見終わって、妙に納得しました。
あれは確かに「じゅうぶん」に「そこそこ」楽しい映画です。
情報化が一段と進んだ近未来社会。
フリーのコンピュータ・エンジニア、マイケル・ジェニングス(ベン・アフレック「アルマゲドン」)は、
ハイテク企業の開発部門を渡り歩き、機密保持のため、
報酬と引き替えに開発期間中の記憶を抹消するという手続きを繰り返してい
た。
今回の仕事はオールコム社の極秘プロジェクト。
同社が用意したのは100億の報酬、その代償は3年間の記憶。
だがプロジェクト終了後、
ジェニングスが受け取ったのは19個のガラクタが入った封筒だけだった。
ディックの短編「報酬」をジョン・ウーが監督してます。
ディックはうちのサイトの原作比較レビューでもおなじみの作家であります。
「ブレード・ランナー」http://www.cam.hi-ho.ne.jp/la-mer/pro-brr.html原作と映画の比較レビュー
「トータルリコール」http://www.cam.hi-ho.ne.jp/la-mer/pro-tore.html原作と映画の比較レビュー
「マイノリティ・リポート」http://www.cam.hi-ho.ne.jp/la-mer/pro-myno.html原作と映画の比較レビュー
書評のサイトなどを覗くと、「本物」「偽者」にこだわり、
一貫したテーマとして描き続けた作家だそうで、
キャラクターや文章力より、SF的なアイディアを尊重していたようです。
映画化された上の三篇も、(発表された時代を思えば、)とてもぶっ飛んだア
イディアをストーリーにしてます。
「本物」「偽者」って何なんでしょう。
人間そっくりのアンドロイドとか、真実にしか見えない偽りの記憶とか、
うーむ、煎じ詰めればアイデンティティの混乱、崩壊のピンチに立たされる主人公たちと、
要約するのは間違ってるんでしょうか?
冒頭で主人公、マイケルがハイテク企業の新発売の3Dモニターを改造し、
ライバルモニター会社に売りつけるエピソードが出てきます。
モニター会社の開発努力を安直にパクルわけですが、
買い取った会社はその事実を隠すため、
商品ごとマイケルの記憶も買い取ります。
頭に電極をつないで、記憶を消して証拠隠滅し、
自社製品として売り出す。
露骨にアンダーグラウンドな取引であることが分かります。
マイケルの前歴は紹介されませんが、能力はあっても日のあたる場所の歩けない、
コピー専門のインチキ開発者です。
そのマイケルのところに、三年分の記憶消去を含む大口契約の仕事が回ってくる。
記憶消去はこれまで2、3ヶ月がリミットで、
「人生の一部」の切り売りになるような長期契約に彼もためらいますが、
一度の契約で「引退出来る」とそそのかされて契約してしまいます。
で案の定、契約完了後に報酬が消えてなくなるトラブルに遭遇する。
やってることがやってることだけに、観客はあんまり同情できません。
「言わんことではない」です。
記憶を消すシーンで、脳のスキャン画面が出てきて、
レーザーのようなもので記憶細胞の一個一個の記憶をモニターに映し出すんですね。
で、契約分の期間分の脳細胞を数だけレーザーで、ジュジュジューーーッと焼
き殺している。
やりすぎると頭が馬鹿になるどころか、廃人になりそうです。
(実際脳の温度が上昇して脳死を起こしはぐります。)
どれだけテクノロジーが進んでいるのか知りませんが、
(映画の画面を細かくチェックしていくと大体
2004年から2007年ころの時代と分かるそうです。これはほぼ現代の話なのです。)
私なら大金を積まれても御免こうむります。
主人公にとって、金って何なんでしょうか?
マイケルの仕事の友人たちは彼が記憶の切り売りをしていることも知っていて、
部屋に戻ると「やあ、お帰り。ソックス(大リーグチームの名)は負けたぞ」などという
カードが置かれています。
19のアイテムを目の前に、
愕然とするマイケルを見てまず私が考えたことは、
依頼人に報酬を巻き上げられて、その巻き上げられたという記憶を消されたのではないか、
ということでした。
契約をチキンと履行するかどうか、まるごと相手に委ねてしまう訳ですからね。
まあ、そこまでやってしまうと完全にSFではなくなってしまうので、
報酬を放棄してアイテムを残したのは、あくまでマイケル自身ということでドラマは
進行します。
三年の間に何があったのか?
そこがマイケルの興味となるのですが、
FBIが追いかけてきてすぐさま逃亡者になります。
政府の研究を持ち出してヤバイ仕事をさせられていたようです。
オールコム社の重役ジミー・レスリック(アーロン・エッカート)は、
FBIにマイケルを殺させるつもりが、彼が逃げ出したので、
自前の殺し屋に追わせて殺そうとします。
アーロン・エッカートは「エリン・ブロコビッチ」にも出ていたそうですが、
どんな役だったか記憶にないです。知ってる方、教えて下さい。
スーツで七三に髪を分けているマイケルが逃げる姿は、
ウー監督の話では、ヒッチコックの「北北西に進路をとれ」のイメージだそうです。
「サイコ」などからもとった場面もあるそうで、全体として古いサスペンスの
逃亡劇のスタイルをとっているとか。
記憶が三年分抜け落ちて、逃げ回るのだけれども、マイケルという男は自分自
身の人格を疑ったりはしていません。
「自分に裏切られた」と思って動揺しないところが、一番SF離れしてます。
ディックは乾いた文章を書く人ですので、文学的にぐちぐち悩んだりはせぬはずですが、
原作ではそこいら辺の自己同一性への懐疑がテーマになると思うのですが、
違うんでしょうか?
「トータルリコール」のシュワちゃんは結構、へこんでいたけどなぁ。
で、昔の自分に背を向けて、あらたな仲間とともに戦うところでの話のテーマ
が前面に出てくるのだけれども、
そういうテーマへの展開の部分を、「ペイチェック」では
女との恋愛の部分に封じ込めてしまっている。
レイチェル・ポーター(ユマ・サーマン「キル・ビル」)は同じオールコム社
の研究者で植物博士らしい。
三年の間にふたりは愛し合う仲になっていた、
というのをマイケルがプライベート・ビデオを見せられて納得してしまう。
「わるかった」などといって、レイチェルを抱きしめる。
うーん、ビデオひとつで納得してしまえるものなんでしょうか?
すぐさま、ぶちゅーっとやってますが、なかなかワイルドな男だな。
にせレイチェルが現れて、記憶のないマイケルが騙されそうになるんですが、
ひとことで嘘を見抜いてしまう。
スピーディーさを強調する演出上、ぱっと分からないと困るのでしょうが。
生身の人間離れしてます。
ロケは人件費の安いカナダ、バンクーバー市内で行われたそうです。
むかし私も仕事で行ったことのある土地ですが、なかなかこぎれいな町です。
たべものはあんまり美味くなかったけれど…。
ここをバイクで走り回ってのアクションは、ミッション・インポッシブル2をさらに
進化させた風でかっちょいい。
ベン・アフレックは
「ウー監督の踊るようなアクションは、長廻しのワンショットの
撮影になるので、事前に殺陣の流れをすべて覚えなくてはならないので大変」
とインタビューに答えてます。
なるほどあのパイロ(火薬)アクションは演ずる側からすれば、
そういう話になるわけだ。それはたいへんだな。
後半に行くほど、ドラマがなくなってアクションを如何にスタイリッシュに見せるかが、
演出のテーマとなっているように見えます。
ねたばれ改行です。
未来を見るマシンが出てきて、自分の断末魔を見てしまうのですが、
あんまり「運命と戦っている」感じがしません。
戦って勝機を切り開くところで、ドアの向こうからぱっと鳩が(でたっ!)
飛び出すんですが、運命に勝った、というインパクトが思ったより低いんですね。
少し前の部分のアクションが長くてしつこすぎるためかもしれません。
あとでちゃっかり百億を取り戻すというおまけつきですが。
金銭では換えられない勝利がある、とした方がドラマ的には感動できるんです
けどね。
さらっとラッキー、ハッピーって喜んでしまうので、軽いやつらに見えます。
重たい話は「ウインドトーカーズ」でやったからもう良いや、ということでしょうか。
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