「クイール」DVD脚本レビュー

「クイール」映画前売り券★映画基礎データー★
「クイール」
2003年 日本映画
監督 崔洋一    
原作 秋元良平 石黒謙吾
脚本 丸山昇一
出演 椎名桔平

               

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劇場公開時、子供ずれの親子はごっそりディズニーの熊のアニメーションに
行ってしまい、日本の犬映画「クイール」は癒しを求める成人男女だらけでした。
うーむ、松竹はこういう展開になるとは思わなかったろうなぁ。

東京のとある家で、5匹のラブラドール・レトリーバーの子犬が誕生しました。
中に一匹だけ、ひと目で見分けられる子犬がいた。
わきばらに鳥が羽を広げたような不思議なプチ模様があるその子犬に
「ジョナサン」と名付けます。
水戸レン(名取裕子)は、子犬たちを父犬と同じように盲導犬にしたいと願っ
ていた。
両親とも盲導犬でなければ難しいのだが、
レンに頼まれた訓練士の多和田悟(椎名桔平)は、
一匹だけならと渋々承知します。
多和田のアドバイスでレンは、いつもひと呼吸遅い、おっとりしたジョナサン
を選ぶ。
反応が早く感情表現が豊かな犬は盲導犬に向いていないのです

 レンや母犬と別れて抗議するように鳴くジョナサンを、
多和田はボランティアで子犬を育てるパピーウォーカーの元へと連れて行きま
す。
京都郊外に住む仁井勇(香川照之)と三都子(寺島しのぶ)の夫妻です。
多和田は夫妻に、何があっても絶対に叱らないでほしいとだけ言い置いていき
ます。
ジョナサンは“鳥の羽根”という意味の「クイール」という新しい名前をもら
います。

三都子のサンダルを振り回し、網戸を破り、いたずら盛りのクイールの大のお
気に入りは、
噛み付くと「ピー!」と鳴るクマのオモチャでした。
三都子は桜の樹や鳥、
ヘビにまで興味を示すクイールに一つ一つ説明してやるのでした。
パピーウォーカーが預かるのは1歳の誕生日まで。
最後の日、クイールとの長い散歩の途中、
公園のベンチで涙ぐむ三都子に口を開けて“笑いかける”クイール。
多和田の車の荷台に乗せられたクイールが仁井家を遠ざかっていきます。

 盲導犬訓練センターでの生活が始まります。
クイールは天真爛漫なマイペース振りを発揮、
他の犬たちが着々と段差や障害物を伝えることを覚えていく中、
クイールだけが取り残されていました。
たくさんの優秀な盲導犬を育て上げてきた多和田ですら諦めかけた時、
彼はクイールの特別な才能を発見します。
「ウェイト」と言われると実にのんびりそこに、何時間でも動かずにいるので
す。

クイールのパートナーが決定します。
「犬に引っ張られるくらいなら寝ていた方がまし」だと盲導犬を拒否していた
渡辺満(小林薫)です。
しかし、多和田の半ば強引な勧めでクイールと歩いたことがきっかけで、
自らクイールを希望します。
視覚障害者と犬との合宿による「共同訓練」が始まりますが、
犬とうまくコミュニケートできなくて、
つい杖を使ってしまう渡辺とクイールの呼吸はなかなか合いませんでした。

 妻・祺子(戸田恵子)と二人の子供の渡辺家にクイールが加わった日から、
渡辺の行動範囲はどんどん広がっていきました。
しかし、別れは思いもかけず早く訪れるのでした。

八十万部のベストセラー「盲導犬クイールの一生」を「月はどっちに出てい
る」の
崔洋一が監督し映画化されました。
うちのメーリングリストのオフ会で、崔監督の「刑務所の中」を見てみんなで
笑い転げました。
脚本は『野獣死すべし』(80)『いつかギラギラする日』(92)『傷だらけの
天使』(97)
『凶気の桜』(02)などハードボイルドもので鳴らす丸山昇一と、
『仄暗い水の底から』(02)『刑務所の中』(03)の中村義洋。
いかつい系の人たちが集まって、やさしい動物映画を撮ってます。
プロデューサーは「崔洋一のディズニー映画が見たい」と言って監督を口説い
たそうです。
あんたにファミリー映画が撮れるか?と謎かけをされて、
解いてみせると応えた監督は、やっぱり偉いんでしょう。

撮影には通常の劇映画の五倍のフィルムが使われたそうです。
『櫻の園』(90)『夢二』(91)『はつ恋』(00)『バトル・ロワイヤル2
【鎮魂歌】』(03)の藤澤順一が
撮影を担当してますが、アングルなどに凝ったりはせず、ごく地味に撮ってい
ます。
画面の騒々しい割には、セリフなどが聞き取りにくかったバトロアより見やす
かったです。

映画の掲示板を見ますと、以前に放送されたNHKのドラマ版と比べて物足り
ない、
としている書き込みが目立ちましたが、連続ドラマは全体で六時間余りの尺も
あり、
それと比較するのはかわいそうですが、
十二年に及ぶ盲導犬の一生を二時間弱で追いかけるのはあわただしく、
あっというまに死んでしまった、という印象はやはりあります。

それとディズニー映画のような意味での擬人化がされているわけではないの
で、
物言わぬ主人公(犬)のキャラクターを追いかけていく難しさはあります。
子供を相手にかつらをかぶせたり、家出させたりといろいろやってます。

メインのストーリーとはあまり関係がないのですが、
クイールが夢を見る場面というのがあって、
邦画界初(場合によっては世界初)の犬の夢の実写映像が出てくるのですが、
お気に入りのピーちゃんが、ピーピー鳴いて跳ねるというしろもの。
うーん、飼い犬は仲間ともはなれ人間の間で生涯を終えるのですから、
結構孤独なんじゃないかな、
自分が孤独なんだという自覚もないまま、生まれて死ぬのは幸福なのか不幸な
のか、
とラチもないことを考えました。

障害者が厳しい社会の壁にぶち当たったりというのが、
あんまり出てきません。
ラブラールレドリバーの血統犬に訓練を施しているのですから、
盲導犬そのものが大変高価なものです。
それにかかわる人たちというのは、
やはり金銭的なゆとりがあり、知的にも社会的にも中級以上のレベルで、
隣人たちにも恵まれている。
そんな環境がドラマの背景にあるので、
アップダウンの激しい運命は自然と回避されているようにも思われます。

それでも盲導犬訓練センターでの活動の様子など普段我々が知ることのない
世界に案内してくれる面白さがあります。
歩き回るコースなどは、自動車教習所を髣髴させてくれます。
渡辺さんが、夜、センターを抜け出して缶ビールを買いに行くくだりで、
私は缶に点字が入っているのがビールで、
入っていないのがジュースだということをはじめて知りました。

犬の命令が英単語を使用するというのは以前から知ってましたが、
盲人が使用する白い杖にも教習があるという話は初めて聞きました。
渡辺さんが「わずか八ヶ月で身に付けた」と威張るくだりがあるのですが、
それが本当に威張れる話なのかどうか、私には知識がありません。

実在の訓練センターでロケーションされてますので、
考証関係は万全を期しているものと考えていますが、
盲導犬は希望者数に犬がはるかに足りぬ状況なので、渡辺さんのように嫌がっ
ていた人が
犬を飼うのは不思議であり、また、雨ざらしの戸外で飼育されるのも本当か
な?
と思えなくもありません。
パピーウォーカーの夫婦は、子供のいる家庭が理想といわれますが、
仁井夫婦には子がなく、幼犬のクイールを猫かわいがり(犬ですが)して育て
てます。
このへんはどうなんですかね。
訓練センターは盲導犬を引き渡してしまえば、それでお仕舞いということでは
なしに、
あとで合同ハイキングなど開催して、盲人家庭の交流を促進しているあたりは
とても良い話だと感じました。

クイールを演じているラフィーという犬は、盲導犬候補として訓練を受けた犬
ですが、
朗らか過ぎる性格のため、キャリアチェンジ犬という、つまり、盲導犬候補か
ら外れる
こととなり、デモンストレーションの経験もないそうです。
朗らかな性格を気に入った崔監督が気に入ってキャスティングされたそうで
す。
なるほど喜怒哀楽のわかりやすい感じで、本物の盲導犬はもっとモノに動じぬ
ポーカーフェイスな物腰であったように思います。けれど映画的には
ラフィー君はとても良かったと思います。

終わってみれば、かなり普通の飼い犬の一生の話なのですが、
訓練士の多和田(椎名桔平)が「最高の普通」と評しているので、テーマ的に

これできちんと完結しています。


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