「ローズ・イン・タイドランド」
★映画基礎データー★「ローズ・イン・タイドランド」 2005年 アメリカ映画 監督 テリー・ギリアム 原作 ミッチ・カリン 「タイドランド」(金原瑞人訳、角川書店刊) 脚本 トニー・グリゾーニ 主演 ジョデル・フェルランド |
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「不思議の国のアリス」を読むのが大好きな10歳の少女、
ジェライザ=ローズ(ジョデル・フェルランド)。
彼女は学校には行っていない。
彼女の役目は、元ロックスターでジャンキーのパパ、
ノア(ジェフ・ブリッジス)の世話や
ママ(ジェニファー・ティリー)の足をマッサージしてあげること。
ママは「いつかいい思いをさせてあげる」と言うけど、
口先だけなのをローズは痛いほど分っている。
パパは昔を懐かしみ、ママを今でも"グンヒルド王妃"と呼んでいる。
ある日、ローズはいつものようにノアが麻薬で"バケーション”に入るお手伝いをした。
お気に入りの「ユトランド」の地図を前に、
サングラスをかけたまま夢の中を旅するパパは、
旅から戻ると寝ているローズを揺り起こし、
二千年以上も地底で眠り続ける"沼男"の話をするのだった。
その次の日、ママがオーバードース(麻薬の一度の大量摂取によるショック状態)
で死んでしまう。
ローズはノアとふたりでベッドの上のママを盛大に飾り立てると、とんずら…、
バスに乗ってユトランドを目指して旅に出た。
でも、本当の行き先はノアの故郷、テキサスだったのだけれど。
ローズのトランクには、
ママの形見のドレスとお気に入りのお友達
――頭だけのバービー人形たち―が入っている。
4人のお友達の名前はミスティーク、サテン・リップス、ベイビー・ブロンド、
そしてグリッター・ガール。
みんなそれぞれ違う性格で、
時にローズを励まし、いい話し相手になってくれる。
長いバス旅行の末に、
ローズはノアがテキサスに住むお祖母ちゃんのために建てた家に着くが、
あちこち壊れた古い家…というより廃屋なのにがっがり。
しかも、ノアは一息つくと"バケーション"に出てしまった。
家のまわりは見渡すかぎり金色の草原で、
その真ん中を1日1回だけ列車が通る線路があるだけ。
好奇心の強いローズはお気に入りのミスティークと一緒に探索に出ると、
焼けこげてひっくり返ったスクールバスを見つける。
そして、バスの中を舞っているホタルに
一匹ずつ名前をつけてはお友達になるのだった。
そこに黒ずくめの服を着た幽霊のような女(ジャネット・マクティア)が現れる。
ミスティークとふたりでこっそりその場を離れたローズは、
一目散に走って帰り、家の前で理解不能な言葉で話しかけるリスに出会う。
怖がるミスティークとサテン・リッブスを励ましながらリスを追いかけたローズは、
秘密の屋根裏部屋を発見。
そこで、ワードローブがどこまでも続く不思議なクローゼットに入り込み、
お祖母ちゃんの宝物を発見するのだった。
夜になって、お腹の空いたローズはパパに甘えるが、
ノアは"バケーション”から戻らない。
明くる日、ローズはパパの膝の上で目覚めた。
空腹と孤独に襲われた彼女はなんとか父の気を引こうとするが、
ノアはまったく反応しない。
しかたなく草原で遊んでいると、黒ずくめの服を着た幽霊女にまた遭遇する。
そこで言葉を交わしたローズは、彼女がまだ幽霊ではないことを知り、
家に帰って「幽霊女と友達になれるかも」とノアに報告。
次の日、彼女をつけたローズは、
家の中で幽霊女のデルと、彼女の弟ディケンズ(ブレンダン・フレッチャー)が
言い合う姿を覗き見る。
その様子をデルに見つかりそうになり急いで逃げるのだが、
本心は彼らのことをもっと知りたくて仕方がないのだった。
でも、その後すぐにウェットスーツ姿のディケンズに再会する。
彼は草原を海だと思い込んでいるのだ。
手術で頭にイナズマ型の傷をもつディケンズは、精神年齢が10歳で止まっている。
ローズはディケンズに、
秘密の屋根裏で見つけた金髪のウィッグを着けてお化粧を施したパパを紹介。
ローズはこの新しいお友達に夢中になり、
ディケンズに淡い恋心を抱き始める。
次の日、ローズが目覚めると家の中は水でいっぱい、草原は海と化していた。
彼女はディケンズの家まで草原を泳いで渡るが、そこでデルの秘密を目撃。
慌てて逃げる途中で親友のミスティークをうさぎ穴に落としてしまう。
ディケンズに助けを求めたローズはうさぎ穴の淵でミスティークの救出を試みるが、
そこに銃を構えたデルが登場。
ショックでローズもうさぎ穴に落ちてしまう。
本棚や食器棚が並ぶ穴の中を、深く深くゆっくりと落ちてゆくローズ。
彼女の後を追って、バービーたちもうさぎ穴の底ヘ……。
あらすじを読んでも、話が良くわかんないでしょう?
パパもママ同様、薬中毒で頓死しているのですが、
ローズはパパの死体を椅子に横たえたまま、ひとり廃屋に暮らし続けるんですよね。
パパの死体はどんどん腐ってハエが家の中を飛び回りだす。
いよいよぐずぐずになりそうになったところで、
デルたちがやってきて、内蔵を引き出してミイラ作り(!)をはじめる。
ローズは飲まず食わずの筈だけど、結構元気です。
もともと洋画は日本のテレビドラマみたいにやたら飯を食べませんから、
この映画は食事の場面のない作品なんだと思っていたら、
デルやディケンズと関わりかなり立ってから、食料問題で彼女らともめていることが
わかる。
ローズの心象風景と時系列順の客観的事実の整理の仕方が、ギリアム流なので、
全体像が判りにくいです。
特に熱心なギリアム・ファンというわけでもない私にとっては、
2時間を切る117分の作品の96%くらいは見続けるのが苦痛でした。
全編が「不思議の国のアリス」のもじりである事は、よくある手で
特に魅力的とは言えないことですし、
フェチなものの見せ方ならティム・バートンの方が遥かにお洒落です。
謎っぽい思わせぶりの魅力ならデビット・フィンチの方が上だしねえ。
ところがラストの3分ほどで、鮮やかに逆転。
無意味な映像とエピソードの連続にしか見えなかった本編が見事に一体になって、
高度な作品であることがわかりました。
同監督の昔の作品「未来都市ブラジル」等は途中で傑作であることが見破れたのですが、
これは最後まで駄作か傑作か判らなかったです。
監督テリー・ギリアムは『未来世紀ブラジル』『12モンキーズ』などの
奇想天外な世界観がブラッド・ピットやジョニー・デップら多くの俳優たちに
支持されている人です。
2005年にはおよそ7年ぶりに制作する『ブラザーズ・グリム』を発表し、
復活しています。
その『ブラザーズ・グリム』のあいまにしっかり一本作っちゃった、というのが
この『ローズ・イン・タイドランド』です。
当人に言わせると『ブラザーズ・グリム』のような大きなバジェットは、
軍隊を動かすようなもので個人的にはあんまり楽しめるようなことではない、そうです。
そこで、ごく私的なフィルムとして『ローズ・イン・タイドランド』が生まれた。
本作は2005年9月のトロント映画祭で初披露され、
同月に開催されたスペインのサン・セバスチャン映画祭で
The FIPRESCI Jury賞を受賞しています。
主人公のジェライザ=ローズを演じ、
4体のバービー人形の声も担当したのは、
カナダ・バンクーバー出身のジョデル・フェルランド。
11歳にしてすでに26本ものテレビや映画に出演している
小さなべテラン子役です。そして12歳になった2006年、
『サイレント・ヒル』で娘のシャロン役で出ています。
どうも幽霊とかそんな役が多いらしく、当人はローズを
「普通の女の子を演じられて嬉しい」などと答えています。
どこが“普通”なんだかねえ。
ジェライザ=ローズの父親で、
元ロックスターのノアをジェフ・ブリッジズが演じています。
幽霊女デルにはロンドンの舞台で活躍するジャネット・マクティア、
デルの弟で精神年齢10歳のディケンズに
バンクーバー出身の若手俳優ブレンダン・フレッチャーが扮しています。
脚本はギリアムのオリジナルだと思っていたのですが、原作がちゃんとあります。
アメリカの若手人気作家ミッチ・カリンによる
「タイドランド」(金原瑞人訳、角川書店刊)を
『ラスペガスをやっつけろ』で共同脚本を務めたトニー・グリゾーニとともに
ギリアムが脚色しています。
原作のタイトルである”タイドランド”とは地理的には、
舞台となっているカナダのプレーリーのことのようです。
プレーリーは“カナダ中南部から米国中央部に分布する,樹木のない平坦な大草原”
のことですが、
辞書には”タイドランド”は“干潟”を表し、
一方では“境界線”という意味も持っていると書かれています。
つまりジェライザ=ローズの幻想(=海。廃屋のある草原をローズは大洋に見立てている。)
と、現実(=大地。丘の向こうでは大型の土木建設機械が地面を掘り起こしている。)
との境界線となる場所が”タイドランド”なのです。
実際に映画はカナダのプレーリー、
サスカチュワン州の州都レジャイナや Qu'Appelle River Valley で撮影されています。
心象世界と現実を行ったり来たりする映画は昨今流行のようで、
枚挙に暇がありませんが、
私の目にはローズの幻想がかなり強引で、
たとえば四体の人形たちは、頭のまんま出てきて、
ローズは指サックのように指にはめていて、セリフだけが被る。
身体が出てくることは無いですね。
幻想を特撮や豪華なセットなどで見せるやり方をギリアムはとろうとしない。
見ようによっては酷く画面がチープだし、
ひっくり返ったスクールバスは、ひっくり返ったバスのまま出てくる。
子供は確かに、ああいったものを秘密基地に見立てて潜り込んで遊んでますね。
ラストから逆算して考えれば、
こうした子供の空想力の強引さと、一歩はなれて大人の目線から見たときのかっこ悪さの
両方を同時に見せようという試みのようですが、
これはとってもリスキーな演出で、ギリアム以外はあんまりしたがらないです。
特撮は、あることはある。
部屋の中が海底になったり、
ミイラになったパパの腹の中を人形の頭が羽を生やして飛び回ったりと。
そこいらあたりは当然ローズの夢想の筈ですが、
スクールバスのシーンなどとの演出上の整合性(というかテンポ)が
取られてないようなギリアム流なので、
唐突にデジタル場面に行っちゃうように見えるんですよ。
(調子っぱずれの演奏を聞かされているようで苦痛だった。)
見ていていちばん辛かったのは、
この話はいったいどこにたどり着くのか終盤に入っても
さっぱり見当が付かなかったということ。
ローズはまったく孤独だし、そこで自己完結してしまっている。
エピソードはいろいろ出てくるのだけれど、
いずれもどこにもたどり着けそうに無い。
デルとパパとの隠れた繋がり等が後半出てきますが、
じゃあ、デルとローズが家族になって暮らすかというと、
一度はそれらしくなりかけて破綻してます。
ディケンズを「夫だ」と言い出したりしますが、
この子は夫婦が何なのか判ってないし、
キスで子供が出来ちゃうとか、なんかこうセックスに話が行きそうになる。
尻切れんトンボなのだけど。発展性が無くていやらしいっぽいだけ。
ローズは、親が死んでも、田舎暮らしになっても、変わらない、変われない。
つまり成長しない。成長できない。
では何の為の保護者の死か? 何の為の旅か?
そして最後の夜が、予告もなしにやってきます。
ねたバレ改行です。
轟音が草原の夜に轟き、ローズが驚き彷徨い出ると、天を焦がす紅蓮の炎が。
1日1回だけ列車が通る線路で脱線事故が起き、
車両が草原にばらばらに投げ出されて炎上しているのだ。
ローズが歩み寄ると、そこは乗客たちの阿鼻叫喚地獄で物凄い有様。
残骸の下敷きになって、痛い、怖い、と叫ぶ者。
水をくれ、血が止まらない、と呆然とうろつき歩く者。
妻がいない、消防車はどこだ、医者を呼べ、と怒鳴りながら走り回っている者。
ローズはその中で、迷子の乗客だと思われてしまう。
「かわいそうに、怖かったでしょう?」
スーツ姿の婦人が、哀れんでローズを抱き寄せる。
ローズはされるままになっているのですが、その顔にカメラが寄って、
月明かりに照らされた目元がぬらりと光って暗転して映画は終わる。
ローズは泣いていたのでしょうか?
凄いですね。
もしかしたら列車事故のほうが現実で、
廃屋での暮らし全部がローズの夢だったのでは?
と思わしめるようなオチです。
死の直前に人生全部が走馬灯のように思い出されるとも言う、
その回想がこの映画だったのではないか?
だからローズは成長しないし、時間と空間の袋小路の中で
あっちへ行ったり、こっちへ行ったりするばかりなんだ。
そんなことはなくて、死んだパパもデルもディケンズもちゃんと存在していて、
でもローズは婦人に拾われて、死んだも同然だった時間が終わって、
新しい人生を大人になるべく歩みだすのかもしれない。
どっちの可能性もあり、そのどちらでもないかもしれない、
深いラストシーンでした。
”タイドランド”は、この世とあの世の境目にある“干潟”なんでしょう。
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