「スウィング・ガールズ」DVD脚本レビュー
★映画基礎データー★「スウィング・ガールズ」 2004年 日本映画 監督脚本 矢口史靖 出演 上野樹里 |
東北の片田舎を舞台にジャズの魅力に惹かれた女子高生がバンドを結成し、
紆余曲折を経て突き進む、爽やかな青春“ジャズ”物語「スウィング・ガールズ」。
『ウォーターボーイズ』の矢口史靖が監督を務め、
出演者本人による迫力ある演奏や、
“ムーンライトセレナーデ”などの劇中を彩るスタンダードナンバーは聞きごたえがあります。
うだるように暑い、夏休みのある日。
東北地方の片田舎にある山河高校では、
高校野球予選の応援に行くため、ブラスバンド部員が次々とバスに乗り込んでいる。
教室ではやる気ゼロ落ちこぼれの女子13人が数学の補習授業中。
その中の一人・鈴木友子(上野樹里)は部員たちを乗せて球場へと向かうバスを、
教室の窓から羨ましげに眺めていると、先ほどまでバスが停まっていた場所に、
弁当屋がやってくる。
どうやら部員たちに届けるはずのお弁当が渡せなかった様子。
この後も配達が立て込んでいるために困っている様子。
友子はワル知恵を働かす。
「先生、みんなきっと困ってますよ。あたしら、届けに行った方がよくないですかー?」
こうして補習を逃れ、
お弁当運びを口実に球場に向かうことになった13人の女子高生たち。
開放感いっぱいで、部員用のお弁当をつまみ食いするわ、
居眠りをして目的地を乗り越すわの大騒ぎをするが結局、
炎天下の中を徒歩で球場に行くという、お気楽でない結果に。
おまけに、長時間直射日光を受けたお弁当によって、
ブラスバンド部員たちは応援の途中で、
次々と腹痛を起こして入院することになってしまう。
野球部はなんとか次の試合へ勝ち進む。
が、試合を盛り上げる吹奏楽部員たちは依然として回復せず。
唯一、お弁当を食べられてしまったために難を逃れた中村拓雄(平岡祐太)は、
渋々「即席ブラスバンド」を結成しようと試みる。
だが、編成に必要な25人は集まらず、
参加したメンバーといえば、またもや補習をサボるために集まった13人と、
ちょっと変わった女子3人の計16人、
拓雄を入れてもたったの17人だ。
意気消沈の拓雄だったが、
ビッグバンドジャズだったら17人でも演奏可能なことに気付く。
トランペットやサックスなどの楽器が即席メンバーに貸し出され、
猛特訓がはじまった。
最初は音を出すのも一苦労だった女子たちも、
徐々にメロディーを奏ではじめ、どうにか『A列車で行こう』を演奏できるように。
補習サボりの口実だったブラバン参加が、いつしか楽しみに変わっていった。
ところが、試合を明日に控え、本家吹奏楽部のメンバーたちが復帰する。
「心配かけてごめんね。もう大丈夫。あとはこっちに任せて」
即席チームの女子たちは、あえなく楽器を取上げられて愕然。
学校を出た途端,号泣してしまう。
そして、2学期―。
いつもと同じ、普通の生活に戻った彼女たちだったが、
どうしても みんなで演奏した楽しさが忘れられない。
でも、吹奏楽部に入部するのも気がひける。
「しょうがない、あたしらでビッグバンドやろう!」
女子ビッグバンドの結成を友子らはもくろむが
楽器はないし、練習場所もない。
前途多難なガールズに、ビッグバンドジャズへの道のりは遠い。
「『ウォーターボーイズ』の二番煎じでしょ?」と大真面目に映画の掲示板へ
書き込む輩の多さに吹き出しました。
まったくその通りだよ、君たち。
これは正々堂々たる二番煎じムービーなのだっ。
二番煎じでなくして、
フジテレビや電通が矢口某に制作費を振舞い、一年以上の制作時間を提供する
はずが無いではないですか。
で、要は二番煎じをどこまで面白く見せるか、だ。
そこに矢口監督他スタッフの創意工夫のあとを見るべし、楽しむべし、ですよ。
「スウィングガールズ」というのは、映画のタイトルだが、
同時に友子達のバンド名でもある。
「ウォーターボーイズ」に川越の高校の水泳部のモデルがあったように、本作にも
兵庫県立高砂高校ジャズバンド部というモデルがあったようで、
映画の完成御礼と宣伝をかねて、
同高校が毎年行っているチャリティコンサートに今年、矢口監督がゲストとして訪問しています。
男の子にシンクロやらせて意外性が絵になるなら、
女の子に何をさせたらよいか?
セーラー服の女の子たちがでかいサックスやトロンボーンをひっしこいて演奏する姿は、
とてもかわゆい。
まず、絵になる、ということは映画企画を練る上で一番真っ先に
考えねばならないことです。
絵のモデルを掴んだところで、どんなドラマにするかと次へ進めるわけだが、
ここで彼女らを高校生のオチこぼれにしたわけですね、懲りもせずに。
映画の冒頭から、彼女らが吹奏楽部をお払い箱にされてしまうまでの
一気呵成の展開は見ていて痛快でしたが、“女の子”という性に頼った脚本の書き込みは
ほとんど見受けられませんでした。
弁当担いでぐだぐだ田舎道を行くくだりなんて、糞ガキの群れ以外の何者でもない。
私は当初、この子達は中学生かと思ってた。
女子中学生と女子高校生とどう違うのよって改めて質問されると答えに困るのですが、
だっていろいろ違うでしょうに。
屈託の無さが、イコール色気の無さになってしまっているんだな。
もっとも17人も女の子が出てきて、一人ひとり色気を出していたら、
2時間以内で話は終わらなくなってしまうでしょうけど。笑
オチこぼれ、と書きましたが、
当人らの自覚は乏しく、劇中でもあまり触れられることはありません。
「ウォーター・ボーイズ」の男の子たちは、オチこぼれであることに
一人ひとりがひどくこだわり、若いくせに黄昏た雰囲気を漂わせているところが
彼らのキャラクターの特徴になっていましたが、女の子たちにそんなかげりは
微塵も無いのですね。
セリフはダイアローグのみで
モノローグは一切無く、女の子たちが自らの内面を口にする場面はありません。
ただし、記号的な意味で「ガールズ」より一度リタイアし、
途中で戻ってくる女の子たちが「ギャル」の典型として描写されます。
過剰な化粧をし、享楽的な彼女らは、友子達の自主バンドが迷走し始めると、
あっけなく見限り、友子ら「ガールズ」が紆余曲折を経て軌道に乗り出すと、
自分たちの身に付けたブランド物を叩き売って楽器を購入し、「ガールズ」に帰参します。
「ガールズ」立ち上げ時の五人組のは以下の編成です。(前が役名で後ろがキャスト名)
鈴木友子(テナーサックス):上野樹里
斉藤良江(トランペット):貫地谷しほり (カンジヤシホリ)
関口香織(トロンボーン):本仮屋ユイカ (モトカリヤユイカ)
田中直美(ドラム):豊島由佳梨 (トヨシマユカリ)
中村拓雄(ピアノ):平岡祐太
ストーリーの中核を担うビッグバンド『スウィングガールズ』を演ずる
17名については、
03年1月より半年に及ぶ長期オーディションを行い、
1000名以上の候補の中から度重なる審査を経て、
監督のイメージする「田舎の女子高生」にぴたりと合うキャスティングを
実現しています。
主役のトラブルメーカー・鈴木友子役には「笑う大天使」の上野樹里。
その相手役、気の弱い男子生徒中村拓雄役に
03年度ジュノンスーパーボーイコンテストでグランプリを獲得した平岡祐太。
脇を固める芸達者な俳優陣には、竹中直人が数学教師・小澤忠彦役、
JAZZを教える音楽教室の先生に
日本のJAZZトロンボーンのトッププレイヤーでもある谷啓と、
ガールズを応援する音楽教師・伊丹弥生役に白石美帆、
友子の両親役に小日向文世、渡辺えり子らが出演していますが、
結局彼らはほとんどが設定上必要なだけで、
通行人程度の出番しかない人たちが大半で、
キャラクターが立っているのは、竹中直人と白石美帆くらいです。
その分、無名の女の子たちが縦横無尽に活躍しています。
予告編の冒頭が、
質屋の店頭のぼろサックスに見とれてショーウィンドーに顔面強打する
友子のアップから始まっていますが、
バンドの楽器って高いんですねぇ。
サックスひとつが三十万から四十万ですってぇ!?
普通の女子高生に手の届く金額ではなく
友子は自宅のパソコンや妹のゲーム機器を無断で中古品店に売り飛ばすわ、
それでも足りなくてスーパーでバイトを始める姿が
ユーモラスに描かれています。
バイトでどじを踏みまくり、スーパーをくびにされた「ガールズ」が
イノシシ退治で報奨金をせしめるのは
ファンタジーですが、ギャルたちの帰参は時間と空間の跳躍だとわたしは思っています。
四苦八苦して手に入れた楽器を使いこなした友子たちが、
スーパーの店頭でデモンストレーションを演奏していると、
ギャルたちが楽器を手にして駆けつけ、
ビックバントに編成しなおされてそのままボリュームのある演奏に突入する。
当然、ギャルたちも友子ら同様練習の苦労があったはずですが、
ここではエピソードの重複を避けて、一気にビックバンドを登場させてしまっている。
もちろんこれもファンタジーターと解釈しても差し障りはありませんが、
特撮を用いない省略と誇張の演出と見ていいんじゃないでしょうか?
いずれにせよ、五人のバンドがぶわっと音の厚みが出来てビックな演奏に
飛躍する場面はカタルシスがあります。
映画では「ガールズ」たち当人の演奏が使われ、吹き替えは行われていません。
オーディション終了後の五月より彼女らの演奏練習が始められたようですが、
ジャズはもちろん楽器そのものを手にするのも初めての子がほとんどで、
水曜と日曜をお休みとして、それ以外の毎日、練習が行われ
それはクランクイン後も続けられたそうです。
現役の高校生も多く含むスウィングガールズの練習は放課後の時間帯。
こうした日々の練習に加えて、 2 度の合宿。
6 月には河口湖畔で、 7 月には撮影場所となる山形県米沢に乗り込んでの
合宿が行われています。
映画は03年7月25日にクランクインし、
山形県米沢市周辺で約40日にわたり第一次撮影が行われています。
冒頭からビックバンド誕生までのパートですね。
夏休みを利用したこの撮影には、
多くの米沢市民がボランティアでエキストラ出演をしています。
映画のクライマックスからエンディングまでの雪に覆われた冬シーン撮影のため
04年2月に撮影を再開し、無事25日にオールクランクアップ。
4月末に完成しています。
彼女らがしゃべっているのがよく“山形弁”と紹介されるのですが、
地元の方々に言わせるとあれは“米沢弁”だそうです。
東京出身の私には、どこがどのように違うのかは知る由もありません。
竹中直人の数学教師小澤先生が、
白石美帆の音楽教師伊丹先生が好きで、
趣味のジャズのレコードをいつの間にか
音楽室に持ち込んでいるというのが可愛いです。
出てくる男性たちは、元気印の女の子、女性たちをまぶしげに見つめている。
彼女らに恋焦がれて、適当にあしらわれている。笑
「ガールズ」の中に「シーラカンス」という名のバンドあがりの
つっぱり少女ふたりがいて
「うちらは音さえ出せればいいんだよっ」ってベースギターなんかを
かき鳴らしている。
「シーラカンスは解散した」とふたりは言い張っていますが、
相方の男の兄弟二人に言い寄られて嫌気がさした、というのが真相のようで、
中古の楽器をせしめて、その修繕が必要になった「ガールズ」達が
手伝わせようと兄弟のジャンク屋に出かけると、
兄弟が「新曲を聞いてくれ」と二人にせがみます。
で、ここで兄弟デュオが「あずさ二号」の狩人よろしくハモって
「号泣してもいいですかぁぁっ♪」と歌うくだりは悲鳴をあげるほど可笑しい。
実のところ、ビックバンド運営に必要なもろもろのノウハウは
中村くんをはじめ、こうした男性キャラたちが持っていることが多いのですが、
(竹中直人の役回りがわからん、という映画の掲示板の書き込みがありましたが、
高校教師の彼が「ガールズ」を指導しているという看板を掲げることで、
彼女らがクラブ活動としてバンド活動を続ける口実なっているはずです。
「ウオーター・ボーイズ」の男の子たちは、お墨付きを得られぬばかりに
プールの使用等でとことん苦労させられます。「ガールズ」たちも当初、
練習場所が無くてカラオケボックスに忍び込み、叩き出されたりはしていますが)
男の子、男性たちは自ら夢見る力を失ってしまっているために、
「ガールズ」達のように主体的に振舞うことができません。
でも女の子たちと反目するというのでなくて、
彼女らとともに一緒に夢を見ている感じがあって、
作品世界の構築の柱となっています。
中村と友子は互いが必要不可欠なのですが、恋人関係にはなりません。
それでも河をはさんでふたりがキーボードとサックスで互いを呼び合うように
演奏する場面は中盤のクライマックスとも言うべき名場面で、
好いた惚れたに縛られることなく共に同じ夢を追いかける若い男女の新しい関係を
イメージさせます。
クライマックスについて、ねたバレ改行です。
「ウォーター・ボーイズ」が学園祭での上演というクライマックスがあることは、
映画の比較的早い時点で明らかとなっています。
男の子たちは、そのゴール目指して悪戦苦闘する。
途中何度も挫折しそうになって、最後に学園祭がある。
「スウィング・ガールズ」はこれが逆で、友子らはとにかく楽器を演奏するのが
楽しくて、独りより仲間と一緒の方が楽しくて、
さらに誰かに聞いてもらいたくなって、
聞いてもらうからには喝采を浴びたくて、
と次々に目標が高くなっていきます。
どこがゴールになるのか、友子たちには全然分かっていない。
そこが良いですね。
「ウォーター・ボーイズ」
学園祭での成功は、オチこぼれからの脱出を意味し、
“男の子”たちの上昇志向を裏付けるものです。
あえて女子の世界であるシンクロに挑むということは、
より高いリスクを背負っての一発逆転の意図を感じる。
(そんなことない、という意見もあると思いますが。
主人公はともかく、男の子たちはひとりひとり違った背景、事情を抱えて、
プールサイドに立っていることは脚本上も明らかです。
動機付けにおいて彼らは一枚板ではないのです。)
友子たち女の子には、周囲を見返してやろうという動機付けがもともと無い。
サックス吹いたって、別に男の子や先生、親たちを見返してやりたいなんて
考えてない。
自分が好きだからやる。
とにかくどんどん走って、走って、自分たちの納得いくように、
やりたいことを貫くというのが、“いまどきの女の子”の良さという風に見えました。
ストーリー的に二番煎じに見えながら、
テーマにおいては正反対の方向性を描いている。
これは面白いです。
地域の音楽祭出場を目指しながら、友子自身のちょんぼで出場権を
失くしたーーのではなくて、手に入れ損ねてしまう
くだりは大笑いしました。
ですから、バスが駆けつけてやっぱり音楽祭に間に合ってしまうラストは、
いささかがっかり。
スポットライトは確かに絵になるのですが、
彼女らが栄光を目指しているように見えてはアカンと思うのですね。
せめて演奏しきったところで幕となるだけ救いでしたが、
あれで表彰式でもやられては目も当てられません。
手前の雪の中の電車で演奏してお終いというのはやっぱり悲しいし、
そういうことから離れたところで、
なにかクライマックスが作れた方が良かったです。