「姑獲鳥の夏」DVD脚本レビュー
★映画基礎データー★「姑獲鳥の夏」 2005年 日本映画 監督 実相寺昭雄 原作 京極夏彦 脚本 猪爪慎一 出演 堤真一 |
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“姑獲鳥”とかいて“うぶめ”と読ませます。
出産で死んだ女の無念から生まれるという妖怪の名だそうです。
京極夏彦はデビュー作「姑獲鳥の夏」で、
いきなり40万部を超えるベストセラーをかっ飛ばしています。
これまでの男性ミステリーファンのみならず学生やOLにファン開拓が出来たからです。
その後、映画にもなった「嗤う伊右衛門」では泉鏡花賞を受賞。
長編を発表するたび直木賞、山本周五郎賞、日本推理作家協会賞などを次々受賞、いまや絶大な人気を誇る巨匠です。
同じ主人公で書かれた“京極堂シリーズ”と呼ばれる全8作で、
総計400万部を超える売り上げを記録しています。
そのデビュー作が映画化されました。
「20ヵ月もの間、子供を身ごもっていることが、出来ると思うかい?」
昭和20年代末の東京、夏。事件は、小説家の関口巽(永瀬正敏)が、古本屋の店主、
京極堂こと中禅寺秋彦(堤真一)に投げかけた、奇妙な質問で幕を開けた。
関口は、 哲学、宗教、物理、民俗学などあらゆる知識を身につけた友人、京極堂を
何かと頼りにしていた。
巧みな弁舌で必ず論破されると知りながら、気が付くと今日も古本屋へ
と続く眩暈坂を上って来たのだ。
「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君。」
京極堂は、関口の異常な質問に落ち着き払って答える。
雑誌「稀譚月報」の編集者である京極堂の妹、敦子(田中麗奈)が、
生活のために雑文もこなす関口に取材を依頼した怪しげな噂とは、
雑司ヶ谷の鬼子母神近くにある大病院、久遠寺医院の娘、梗子(原田知世)が
妊娠20ヶ月を迎えたという話だった。
おまけに梗子の夫が、1年半前に医院の密室から忽然と消え、
以来ずっと行方不明だというのだ。
京極堂は、失踪した夫が旧制高校の一級先輩の牧朗だと気付き、胸騒ぎを覚える。
そして、共通の友人である私立探偵、榎木津礼二郎(阿部寛)に相談するよう促す。
神保町にある榎木津の探偵事務所に向かう関口の足は重かった。
関口は、凡人の理解を超えた彼の言動に、いつも振り回されていたのだ。
大財閥の御曹司である榎木津は、他人の記憶が見えるという不思議な能力を持っていた。
榎木津の事務所でコトは急速に進展する。
久遠寺梗子の姉・涼子(原田知世・二役)が牧朗の行方を捜してほしいと依頼に来たのだ。
関口は、涼子の儚げな美しさにひと目で心を奪われ、彼女を助けたいと願う。
榎木津と関口は敦子を伴って、久遠寺医院を訪れる。院長の嘉親(すまけい)と
妻の菊乃(いしだあゆみ)、住み込みの医療助手の内藤、
そして涼子に迎えられ、榎木津と関口は、梗子が閉じこもっている書庫に案内される。
扉が開いた瞬間、榎木津は「薄気味の悪い......まるで......」と言ったきり、
こらえきれずに床に崩折れる。
中に踏み込んだ関口が見たものは......。
怪奇事件に挑むのは、“捜査”ではなく“憑物落とし”で謎を解決する、
京極堂こと中禅寺秋彦。
彼は、持ち込まれる不思議で怪奇な“事件”に“妖怪”の名前と姿を与え、
それを“祓う”ことによって、解決するという独自の捜査方法を取る。
――んーっ、分かりにくいですね。
私は熱心な“京極堂シリーズ”の読者ではないので、
知っているのはこの「姑獲鳥の夏」位ですが、
古書の大家、京極堂さんはその博学振りを駆使して、けったいな病院事件を
「姑獲鳥の呪い」と命名して、
安部晴明ゆかりの武蔵清明神社の神主という隠された肩書きを使って、
ものものしく陰陽師のアイテムを事件現場に持ち込んで、
加持祈祷の儀式とともに真相を究明しちゃう、というストーリー展開です。
金田一耕介シリーズと「陰陽師」をミックスしたような雰囲気ですが、
京極堂さんは超能力者ではなくて、
豊かな学識とハッタリズムで事件を解決するのですね。
どうやら心理学的にも深いところを突いているらしく、
結構効くのですね、彼の“捜査方法”は。
「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君。」
というのが決め台詞で、“呪い”の裏にある“真相”をしっかり見抜いてしまう。
要するに頭の良い人なんですね。
古本屋の店主、陰陽師・安部晴明ゆかりの神社の神主、
そして憑物落としという3つの顔を持ち、クールな容貌に、
あらゆる教養に通じる知性をたたえる京極堂を演じるのは、「フライ、ダディ、フライ」の堤真一。
京極堂の友人で小説家の関口巽には永瀬正敏。
狂言回しですが、最初に犯人のワナに落ちる人でもあります。
京極堂に負けるとも劣らない人気キャラクター、大財閥の御曹司で、
他人の記憶が見えるという不思議な能力を持つ私立探偵・榎木津礼二郎には、「トリック」の阿部寛。
榎木津の幼馴染で直情型の刑事・木場修太郎には、宮迫博之。
京極堂の妹、敦子には、田中麗奈。
原田知世が、事件の鍵を握る院長の二人娘(姉妹)に二役で挑んでいます。
涼子の母・菊乃には、いしだあゆみ。
その他、すまけい、清水美砂、篠原涼子、恵俊彰、寺島進、松尾スズキなど。
なかなかの豪華キャストです。
監督は、「帝都物語」「ウルトラQ ザ・ムービー」「D坂の殺人事件」の実相寺昭雄。
実相寺監督の十八番、魚眼レンズで覗いたような人の顔のディフォルメ、
わざとセリフをしゃべる人物を画面の端っこに置いたりするような画面構成等は
この作品でも健在です。
京極堂が座敷に座り込んで延々と古書のうんちくなどを語る部分が出てきます。
普通、映画ではこうした動きの無いシーンは極力削られる運命ですが、
かなり長々と見せていて、作品の世界観をつくる一助になっています。
そういえば、「ウルトラQ ザ・ムービー」でも浦島伝説をかなりねちっこく
語ってました。
原作を従ったというより、もともと実相寺監督、こういうのが好きなんでしょうね。
原作を知らずに見ていて混乱するのが、
私立探偵・榎木津礼二郎の“他人の記憶が見えるという不思議な能力”。
演出上の一般的な回想場面やカットバックシーンと
この探偵の超能力で見える過去の記憶の映像がごっちゃになって
話の前後の繋がりが分からなくなってしまうのです。
説明不十分で分かりにくい映画だなぁ、という素朴な感想が
映画の掲示板でかなり書き込まれており、この作品の一般的な評価になっているようです。
告白しますと、私はこの映画を続けて二度見ました。
二度見ると複雑に入り組んだ人物設定や姑獲鳥そのものにまつわるうんちく話、
事件には直接関わらないものの京極道シリーズの人気キャラクターのサービス場面など、
とってもとっても良く分かり、
不親切どころかサービス過剰な演出であると知りました。
しかしながら時間の芸術である映画は本来、一度見てすべて納得できるよう
感動できるように作るのが本来の姿です。
二度見なければ分からないというのは後日のDVDの販売を見越した上での
演出ではないか。
情報過剰で押し捲るのはハリウッドでも「マトリックス」以降あたり前に使われる
手法の一つになりましたが、
スクリーンの大画面向けに画面構成されていながら、
シナリオがリピーター向きというのはなんだか居心地悪いです。
その頃、榎木津の幼馴染で、戦時中は軍隊で関口の部下だった刑事、
木場修太郎(宮迫博之)もまた、久遠寺医院の怪に関わっていた。
元看護婦、戸田澄江の謎の死を追っていた木場は、
新生児が連続して消えていたことを知る。医院側は死産だと主張したが、
父親の一人が、久遠寺の娘が赤ん坊をさらって殺したと澄江から聞き出していた。
さらに木場は、久遠寺家は他人に死んだ子供を憑かせて呪い殺す"オショボ憑きの筋"
だという証言を得る。
20ヵ月の妊娠、密室からの失踪、新生児連続誘拐、憑物筋の呪い......。
調べれば調べるほど、新たな謎が出現する。
しかも捜査する側の関口が、自分は昔から涼子を知っていて、
この事件の当事者の一人であるという不可解な感覚に襲われる。
「京極堂、頼む。久遠寺家の呪いを解いてくれ!」
京極堂のもう一つの顔、それは "憑物落とし"。
黒装束で久遠寺医院に降り立った京極堂は、涼子に告げる。
「この館に巣食っている妖怪、姑獲鳥を退治しに参りました。」
姑獲鳥の呪いだというのか?
ロケかと思いましたが画面に登場する建物類は、撮影所内に建てられたオープンセットが
ほとんどだそうです。
田中麗奈は作品のペットのようなキャラクターですから、撮影の時も
コスプレを楽しんでお気楽だったようですが、
一人二役の原田知世は逆にクランクイン前は夜も眠れぬほど不安だったとか。
病院の姉妹が嘘っぽいと作品世界が成立しませんからね。
それでいて非日常的、非現実的な人たちですから、演じていて息が抜けなかった
ことでしょう。
彼女をスクリーンで見るのは随分久しぶりです。相応に歳を食っているはずですが、
あんまり印象の変わらない人ですね。
女優としては得なのかもしれないですが。
どうですかね、これが現代劇だとはっきり歳が出たりして。笑
主役の堤さん、探偵の阿部さんはインタビューで、それぞれ作り込みの必要な人物だし、
作品世界自体作りこまねば成立しないので、撮影はさぞや長丁場に…、と覚悟して望んだそうですが、
意外や早撮りで、二ヶ月の撮影予定にきっちり収まったとか。
終電前帰宅が当たり前の映画撮影現場で、街の勤め人と同じ通勤ラッシュ時間帯にスタッフも帰宅できるほどで、
それが痛快でもあったという話です。
美術の池田仙克は「ウルトラセブン」で宇宙人デザインなどからこの世界に入った人で、
実相寺監督とは当時から付き合いのある盟友です。
(あらためて当時のプロフィルをあたると実相寺監督はあくまでTBSの演出部のディレクターとして
円谷プロに出向監督していたようですね。)
今回はセットで行く、というのは当初からの監督との申し合わせ事項だったようです。
それは眩暈坂にも現れています。
準備段階では各地に坂を探して歩いたようでもありますが、
作品の冒頭とエンディングに登場し、
全編を象徴するこの坂をライティングも含めて緻密に演出していこうということで、
勾配をつけた土の坂が調布の日活スタジオから徒歩十五分の神代植物公園内に、
主要な舞台となる久遠寺医院などとともに建設されました。
劇中で関口巽(永瀬正敏)がよろめきながら月明かりの下の眩暈坂を下ってゆくところがありますが、
陰陽師の五星が赤く光っていながら、スポットライトが関口の真上から当たってている。
これは室内セットじゃないかと思うほど作りこまれた場面です。
古本屋、京極堂は池田さんは、代々神主だった家が、一部洋館風に改造されたもの、
というアイディアを持っていたようですが、
実際にラフスケッチを描いてみると、これがまったくさまにならず、
自ら没に。
江戸川乱歩が蔵を買い取って書斎にしていたなどの故事から、
京都の蔵と住居を渡り廊下でつないだスタイルの住まいで行くことに決め、
(このスタイルの家は、京都オフで私も実際に見ています。)
2階の吹き抜けのある京極堂の誕生となったわけです。
書棚の本の並べ方などは、神田神保町の古本屋街に通って研究したといいます。
書庫は一本ものの立派な梁がインパクトかありますが、
実はこれ、装飾しなおしで、関口の住まいにとしても撮影されてるんですよね。笑
ダチュラは原作では病院の中庭に咲いてるんですが、
映画では温室ですね。その違いがクライマツクスにどんな風に生かされてるかは、
ネタばれになっちゃうので、是非、皆さんで確認してください。
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